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帝城へ侵入、破壊工作と暗殺

 作りはしたが、使う場面のなさから宝物庫に入れっぱなしだった『遠隔操作式爆砕金属符(他称カード型爆弾)』を忍び込んだ帝城のあちこちにばら撒く。一枚が厚さ三センチの名刺サイズの黒く艶のない金属板で、爆発すると半径五メートルに渡って半熔けになった高温の金属片を撒き散らす。爆発は鋼鉄製の盾であっても、厚さが十センチ以下なら貫通する凶悪な威力だ。

 一度に大量に作れる優れものだが、金属片を散らす事から対人戦で使う場面は少なく、魔物戦であっても使用するには周囲に気を使う必要が有る。その為、お蔵入り状態だった。

 それを今夜、全て使い切るつもりでばら撒いている。

 最後の一枚を壁に貼り付け、帝城が見下ろせる高さにまで魔法で浮き上がる。今夜は厚い雲に覆われて月が出ていないので、浮き上がる分には見つからない。魔法が感知されない当たり、警備がザルに思える。今回に限ってはありがたいが。

 手元の発動させるスイッチのボタンを押し込む。

 

 瞬間、帝城から火が吹いた。


 連続して起きる爆発音に怒号と悲鳴が上がる。流石に城内には仕掛けられなかったが、外壁にだけでも十分な結果を齎している。

 負傷と恐怖の悲鳴が聞こえて来るが、今は無視する。

 この金属符を使う場面がなかった最大の理由は『半熔けの金属片を撒き散らす』点に存在する。

 熔けた金属を人間が浴びると、当然火傷を負う。熔けた金属片が可燃物に触れれば燃え上がる。

 使用した金属符の材料は鉄や鋼ではない。とある世界で手に入れた鉱石を使用している。融点は三百度と低いが、変わった特性を持つ。その特性は『熔けると周囲の酸素を取り込んで更に高温になる』と言うもので、最大で二千度にまで上昇する。鉄の融点が約千五百度なので、鉄が熔ける温度だ。

 爆弾として使うには残虐性が高過ぎると言われた金属符は、危惧された通りの結果を齎している。

 時間にして数分も経っていないが、帝城全体が炎に包まれた。

「さて、殺るとしましょうか」

 仕上げに入ろう。

 魔法でコンスタンス帝国の皇帝を探す。帝城敷地内のあちこちで、数多のものが燃え上がり、黒焦げに炭化した死体が転がる、灼熱地獄の如き様相を呈していた。生存者はほぼいないと確信出来る状態だが、魔法で帝城を隈なく捜索すると生存者が見つかった。しかも、地下通路を通っているのか、帝城から逃げるように移動している。移動方角を考えるに、首都から脱出を図っているのだろう。

 先回りし、首都郊外にて生存者を迎える。

「っ!?」

 やって来たのは護衛兵と思しき五人の兵に囲まれた肥えた初老の男。その男が、総騎士団長から教えて貰った皇帝である事を示すゴテゴテとした儀礼剣を大事そうに持っている。

「やぁ、あんたがコンスタンス帝国の皇帝?」

「だ、誰だ貴様!?」

「アメリア・パーソンズって名乗れば解る?」

「!!」

 流石に隣国の第一王子の婚約者だった令嬢の名前は知っていたか。男と護衛兵の顔が絶望に染まる。

「あんたが皇帝で間違いないのね」

 一歩踏み出すと、護衛兵が抜剣し、男を陛下と呼んで下がるように進言する。

「城に火を放ったのは貴様か」 

「ええ、そうよ」

 肯定すると初老の男――皇帝はガタガタと震えながらも声を張り上げた。

「何故だ、何故っ」

「何故って、人の国を滅茶苦茶にしておいて、分からないの?」

 首を傾げて問い返せば、皇帝は絶句して、その場に尻餅を着いた。

 逃亡しないのなら放置で良い。総騎士団長から借りて来た、セレスト王国の国章が柄頭に彫り込まれたブロードソードに似た細剣を鞘から抜いた。

 一息に間合いを詰めて、護衛兵の一人の喉を貫く。骨に当たって切っ先が痛んでは困るので、骨を避けて斜めに突く。素早く引き抜き、時間差による連携攻撃を仕掛けて来た二人の護衛兵と向き合う。一人目は鞘を使った足払いを仕掛けると、横っ飛びに回避する。邪魔な壁がなくなった。間合いを詰めて二人目の頸動脈当たりを切る。剣を振り回した反動で血振りをしながら半回転し、一人目の攻撃を弾き、首を切る。

 残った二人は、皇帝を両脇から抱え、引き摺って逃走を図っていた。皇帝が重いんだろうね。ヨタヨタと走っているが距離は稼げていない。少し走ると簡単に追い付いた。護衛の癖に鎧の類を身に着けていない二人は背後から其々首と胸を刺して仕留める。皇帝は無様に転がった。

 時間にして三分も経過していない。

 最後に皇帝が残った。未だに儀礼剣を抱えて震え上がっている。

 命乞いの言葉は聞きたくない。皇帝の喉を突き、次に胸に剣を突き立て――皇帝を殺した。

 数多の国を侵略して滅ぼした国の王にしては、余りにも呆気ない最期だ。

 胸に剣を突き立てたまま氷漬けにして、首都の広場に放置しよう。



 そして、翌朝。建物の屋根から広場を見下ろす。焼け焦げた帝城が良く見える広場には多くの住民が集まっていた。皆、絶望と恐怖を顔に浮かべている。

 帝城火事の消火活動の騒動に紛れて、広場に氷漬けにした皇帝を放置した。朝になって最初に見つけた住人が悲鳴を上げ、悲鳴を聞き付けてやって来た住民も悲鳴を上げる連鎖が起き、広場では混乱が起きている。

 今の時季は日本の春の終わり頃と変わらない気温なので、少し放置しておけば氷は融けるだろう。剣の柄頭にセレスト王国の国章が入っている。侵略の報復と取られるだろうが、セレスト王国自体が空中分解しそうな状態なのだ。残党の誰かがやったと判断されるだろう。

 皇帝が持っていた儀礼剣は回収した。

 目的達成の証拠として、前線で生き残っている誰かに渡せばいい。

 そう思い、屋根の上で空間転移魔法を使い前線に戻った。

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