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緊急事態発生

 城に到着した。馬車で登城するのは久し振りだ。何時もは転移で行っている。

 城内に入り、暫くの間借りる部屋で荷物を下ろした直後、腹に響くような大音量でそれは響いた。

「え? 警報音?」

 国境沿いの防衛を担当する辺境伯から『他国からの武力行使を吹っ掛けられた』時に城に逸早く知らせる警報音。

 それが今、鳴り響いた。

 何処の国だ?

 隣接国を思い浮かべた瞬間、国王の侍従長がドアを蹴り破る勢いで開けてやって来た。

「何処の国?」

「先程、コンスタンス帝国より、宣戦布告が……!」

「陛下は今何処に?」

「執務室です」

 短い質疑応答で、大体の事が判った。

 何処から情報が漏れたかは不明だが、キャンベル家の国家転覆計画が失敗しそうと判断した隣国が攻めて来たのか。

 昨日の今日で武力行使か。感心出来ないが、情報の共有速度が速い。

 荷物を道具入れに仕舞い、息の上がった侍従長を置き去りにして、城内を駆ける。普段なら走る事はないが、今は緊急事態。

 王の執務室のドアをノックせずに開けて入ると、顔色の悪い王と軍部重鎮達がいた。

 帝国から宣戦布告を受けたと聞いたと言い、ドアを閉めて近付くと難しい顔をした総騎士団長が戦況の説明をしてくれた。

 

 ・帝国とファルコナー辺境伯家は既に交戦開始。投入戦力が多い帝国に押されている。

 ・転移陣を使い騎士団を援軍として既に投入しているが、膠着状態に持ち込めるか怪しい。


 そして、気になっていた情報の漏洩元は――着の身着のままで幽閉された王妃だった。先刻、死体となった状態で発見されたらしい。

「幽閉した王妃は自害していた」

 何処か達観したような顔で王は短くそう言った。

 自害した王妃を調べた結果、自害する事で遠方に状況を知らせる特殊な魔法と、幽閉された時に自害を実行する暗示魔法が王妃に掛けられていた。

 つまり、昨日王妃を幽閉した時点で帝国に計画の失敗の報告が行くようになっていたと言う事か。

 ふと疑問が浮かんだのでその場で尋ねる。

 疑問は王妃の死体発見時刻が遅過ぎる点だ。

 幽閉された時点で自害するように暗示が掛けられていたとしても、だ。王妃が幽閉されてから既に丸一日が経過している。食事を運び込む時とかに王妃の安否確認(別名、何かやらかしていないかのチェック)をしないのか。昨日の時点で自害をしていたのなら、夕食が手付かずのまま残される筈だし。

 国王も似た疑問を抱き、幽閉先の離宮の警備兵に確認を取り、宮廷魔術師に調査させた結果、疑問の答えを得たそうだ。

 幽閉されたら、暗示が掛かりやすくなる魔法が発動――この魔法が発動すると計画失敗が帝国に知らされるようになっていた――し、一日経過してから、改めて自害する暗示魔法が発動すると言う、遅滞発動の魔法が取り入れられていた。

 遅れて発動するのなら、発見が遅くなっても不思議ではない。

「王妃に関しては、現在宰相がキャンベル家を問い詰めておる。国家転覆を計画した家の処罰は、この戦を乗り切らねば出来ん」

 王に質問を切り上げられ、次の指示がやって来る。

 指示と言っても、最前線に向かうだけ。これが初めてではない。やる事は分かっている。

 王に一言言ってから、王城と辺境伯領を繋ぐ転移陣に向かった。



 転移陣を使用して戦場の要たる砦に降り立ち、戦況の想像以上の悪さを見て口元が引き攣った。

 ――ぶっちゃけると、撤退戦に変わっていた。

 もう陥落したのかよと、突っ込んではいけない。

 少し先に派遣された騎士団と一緒に救助活動を行うが、いかんせん、負傷者の数が多過ぎた。広域回復魔法を使っても一回で全員を治し終えるのは難しい程に。

 戦域の範囲が広すぎる事が原因だが、それだけ敵兵の数も多いと言う事。

 帝国は数で押し切るつもりなのかと、相手の戦術について思うが、これらの事について考えるのは軍部の仕事。自分が今成すべき事は負傷兵の治療。

 撤退戦が完了したあとも黙々と治療を行って行き、治癒活動の終わりは深夜近くにまで及んだ。

 兵の治療を終えた事を報告し、仮眠部屋を借りて夜明けまで休む。時間にして四時間程度だが、戦時下で眠れるだけマシだ。

 治療担当としている自分の場合、何時叩き起こされるか分からないので、直ぐに毛布を被って眠った。

 ――次に目を覚ました時には空が白み始めていた。

 顔を洗ってから、作戦指令室に顔を出す。軍部の重鎮が幾人かおり、ファルコナー辺境伯と共に作戦を練っていた。

 彼らの副官に当たる面々に挨拶をし、戦況の再確認を行う。

 到着時点で発生していた負傷兵は昨日の内に全員治した。追加で何人か増えていると思ったが、意外にも戦況は一時休止状態。国境沿いの砦を何ヶ所か放棄し、現在地の防衛を固めて、奪還に向けた準備を始めるそうだ。

 辺境伯を含めた軍部の重鎮達が『あーでもない、こーでもない』と議論している。仲間割れや功績の奪い合いに発展していないだけ良いが、気になる事が有る。

 今回の防衛戦の原因は自分だと糾弾されると思っていたが、一瞥一つ貰わない。

 吊し上げを受ける事を覚悟はしていたがどうなっているんだろう?

 休憩時間に重鎮の一人捕まえて訊ねて見る。意外な事に怒りの矛先は、売国計画を立てていたキャンベル家に向かっていた。自分はキャンベル家の奸計を暴いただけで、この状況を引き起こしたのは王家と言う認識だったのだ。

 意外だった。何と言うか、肩透かしを食らった気分だ。槍玉に挙げられないだけマシと言う事にして置こう。

 防衛戦の展開位置を確認するが、自分は治療担当。間違っても攻撃担当として前線には出ない。前線に出るのは、撤退戦か、あとがない時だろうが、これに関して今は考えない。考えるのは重鎮達の仕事だ。

 自分の配置は前線近くの救護陣の一つ。負傷し運ばれて来る兵の手当をし、再び戦場に送り返すのが仕事。

 重鎮達に挨拶をして配置に向かった。

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