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新たな厄介ネタ

 翌日。近衛騎士団長から昨晩の報告を受けた。突然の報告に一緒に聞いていた宰相は、カパッと、口を開けて動きを止めた。

「――尋問で得た情報は以上です」

「反大公派の何時もの嫌がらせか。飽きないものかしらね。文句は強行した議会に言って欲しいわ」

「飽きるか否か云々以前の問題でしょう!」 

 再起動を果たした宰相が机を拳で叩いて一喝する。宰相の一喝に、近衛騎士団長が申し訳なさそうな顔をする。

「宰相、落ち着きなさいよ」

「落ち着け!? 暗殺者に何度も命を狙われている立場だと言うのに、何故そんな事が言えるのです!?」

「実害がないもの。近衛よりも先に対処しちゃう私にも問題が有るって事でしょう?」

「それはそうですが、我が国の近衛騎士の質が疑われるのです!」

「あー、それは確かにそうか……」

『自力で対処出来るから暗殺者を送っても無駄だよ』アピールのつもりだったが、そっちの問題が浮上しちゃうのか。

「ん~、最近送り込まれる回数が多いのは、近衛騎士団の評価を下げる為か?」

「それも有るでしょうが、一番の目的は近衛騎士団長の罷免かと」

「頭を入れ替えてどうするのよ? 私の行動範囲と時間の調査かしら?」

「それは違うのではないでしょうか。陛下が何時も夜遅くまで執務を行っている事は広く知られておりますし」

「狙われるのは私だけで、宰相や他の大臣達は一度も狙われていないってのが一番分からないのよね」

 あーだこーだと、議論をしても分からないものは分からない。答えが出ないまま打ち切りとなった。

 しかし、数日後の早朝、意外なところから理由が判明した。



「――以上になります」

「ご苦労様」

 報告して下がった諜報局所属部署の一つ()()諜報部のトップを宰相と一緒に見送り、ため息を吐く。

「まさか、でしたな」

「そうね。まさか反大公派が、コンスタンス帝国の残党と手を組んでいたとはねぇ」

 老害共か、狸爺共が動いているのかと思えば、滅びた国の残党が見つかった。流石に皇族(隠し子含む)の生き残りは見つかっていない。残党と言っても、皇室に忠誠を誓う複数の公爵家を中心とした一派だ。総戦力の規模はウチの国の騎士団の半分程度。先手を打たないとちょっとヤバそう。

「証拠を早急に揃えて、纏めて処分しましょう」

「賛同したいけど、手を組んだ理由を調べてからでも良くない? 元第一王子を祭り上げそうだし」

「それでも、泳がせるのは危険です」

「そこまで言うのなら、宰相に一任する事になるけど、い・い・の?」

「……この状況ではそうするしかないでしょう。陛下でなければ決裁出来ない書類がまだ多いです」

「そうだったね。あ、総騎士団長と近衛騎士団長の二人と相談してから決めてね」

「解っています」

 また宰相の仕事を増やしてしまった。何時か過労で倒れそうな仕事量だが、宰相の目は据わっていた。見つけた獲物を狩る気満々だ。

 ここで、疲労回復効果を持つ魔法を『宰相』に掛けてはいけない。

 以前、一度だけその魔法を宰相に掛けたら、奇妙なテンションで三日三晩も仕事を続けていた。その後何度か『もう一度あの魔法を掛けて欲しい』と懇願された。治癒魔法の中毒者を生み出す訳には行かないので、再三再四要求されても却下した。

 代わりに疲労軽減効果を付与したブレスレット型の魔法具を送った。ブレスレットを受け取った宰相の狂喜振りは凄かった。これ以外の感想は無い。

 幾つかの仕事を終わらせると、宰相は執務室から出た。早速打ち合わせに向かったのだろう。気が早いと思うけど、丸投げしたのは自分なので、何も言えん。

 無言でせっせと書類を捌いて行く。予算の見積もりが甘い書類に却下を出し、余り議論していない事が丸判りの事業申請書類を却下し、別の申請書には質問事項を書き纏めた紙を添付して送り返す。

 王妃のせいで自分は妃教育を受けていない。それが広く知れ渡っているので、自分を甘く見た書類が山のように存在する。過去の経験が無ければ詰んでいたが、時に宰相と相談して決裁をし続けていたら、馬鹿げた書類の数は自然と減った。代わりに、自分を試すような書類が届くようになった。

 どいつもこいつも、女の自分を見下している。

 反大公派が良い例だ。あいつらは『女を国のトップに据えては他国に舐められるから、どうせ据えるのなら男にしろ』と主張している。自分も好きでやっている訳では無い。議会で話し合った結果だ。

 主張するのは良いけど、暗殺者をしつこく送り込むのはアウトだ。足を引っ張るしか能が無い、理解力の無い連中は本当に迷惑だ。


 一ヶ月後。

 宰相と騎士団長達の頑張りで、反大公派と組んでいたコンスタンス帝国の残党は一人残らず捕縛し終えた。反大公派も漸く潰えた。

 自分に終了の報告を上げた時の宰相は、目の下に濃い隈を作っていた。

「ふふふ。尋問が楽しくて、筋肉しかない騎士を好きなだけ殴って……ふふ、ふふふ」

「こらこら。正気に戻りなさい」

 不気味な笑い声を上げる宰相は、正視出来なかった。治癒魔法を掛けて正気に戻し、ついでに騎士団長達と一緒に疲労軽減の魔法も掛ける。

 正気に戻った宰相は喜色満面の笑みを浮かべているが、室内にいた全員は見て見ぬ振りをした。仕事中毒者にも程が有る。

 試合に勝って勝負に負けたような気分になった。


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