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トラブルの元は招かないに限る

 微かなドアの開閉音が耳に届き、書類から顔を上げる。やって来たのは外務大臣(父親の役職を引き継いだ息子)だった。表情を見るに良い知らせは聞けないか。

 その予感は当たった。外務大臣からの報告を聞き頭痛がして来た。

 報告によると、コンスタンス帝国は事実上瓦解し、首都とその周囲を治める自治都市となった。これに伴い大量の自治区が誕生――とはならなかった。

 な・ぜ・か、挙ってセレスト大公国の庇護下に入る事を希望して来た。これには外務大臣も困惑を隠せない。

 国土が広がって、人口が増え、税収が上がって、益々国が豊かになる――そんな事はない。

 正直に言って利点は無い。国土が広いと今度は統治が難しくなるし、他国からも狙われやすくなる。ついでに言うと、コンスタンス帝国の治安は頗る悪い。出稼ぎと称して質の悪い移民が大量に来られても迷惑だ。見捨てるのかとか、そんな事を言われても困る状況だ。

 何しろ、受け入れる側のセレスト大公国もごたごたしていて、移民の受け入れが出来るような状態では無い。

 新国王は十日前に決まったばかりで、国の上層部の人間もコンスタンス帝国が原因の政変で全員が死亡。碌な引継ぎもない状態で皆仕事に当たっている。

 そこに編入を希望されても困る。捌き切れるか怪しいし、どさくさに紛れてのもしもの事を考えると、受け入れられない。

 政変前に臣籍降下となり、運良く生き延びたエリオットを呼び戻そうと言う動きも在ったが。流石に馬鹿をやらかした元第一王子を呼び戻すのは外聞が悪い。既にただの伯爵となり、王都から追放されている。

『婚約を解消出来次第、国から去る』と明言していた自分ですら、王位を狙って婚約解消騒動を引き起こしたのではと言われている。秘匿されていた遺言が公表されて、国内唯一の『公爵家より上の爵位持ち』だからと、議会の決定で王位を押し付けられたのに。

 自分を陥れたい連中は未だに陰口を叩いているが、全員リストアップされて高位貴族に名前が広められているのでそいつらの将来は暗い。

「どうなさいますか?」

「どうもこうも、受け入れられる訳ないでしょう。こっちもごたついてるのよ? どうしてもって言うなら最低でも三年は待って貰わないと」

「その年数が待てるのでしょうか?」

「待てないなら他の国に打診するでしょう? そもそも、ウチに打診する理由が分からないわね。国土が広がっても統治が難しくなるだけだし、国境沿い警備の追加人員を何処から捻出するのよ。出稼ぎの移民が大量に流れ込むのは見えてるし、領民のいない領地を持った貴族が増えても意味は無い。それに、国を豊かにするのなら、労働力の平民を増やした方が良い。生産業に従事しているのは平民であって貴族ではない。管理業務しか出来ない貴族を増やして利点が有るのなら教えて欲しい」

「それは、そうですが」

「ごたつきを理由に全て却下。受けれて空中分解したら元も子もない」

 国境沿い辺りなら受け入れると思われていたのか、外務大臣は意外そうな顔をした。

 書類から顔を上げて話を聞いていた宰相にも話しを振る。

「現状で受け入れられないのは事実です。他国に打診して貰うか、待って貰うかの二択でしょう」

「国土が広がった事で攻め込まれたくもないしね」

 宰相の意見を確認してから、外務大臣を見る。

「大量に仕事を割り振るようで悪いけど、お願いね。……ああ、そうだ。支援要請で済むのなら、ある程度纏めてから教えて」

「分かりました」

 一礼して退出する外務大臣を見送り、侍従を呼んでお茶を入れて貰う。

「支援要請は本気で行うつもりですか?」

 お茶を飲んで一息ついていると、宰相から問いかけが飛んで来た。

「いや。領土を拡張するとなると、辺境伯達と話し合いをしないとだからする気はないよ」

「では……」

 宰相の言葉を遮って続きを言う。

「支援要請の話を振って『領主でいたいが為に後ろ盾が欲しい』のか否か。あるいは『取り入りを狙っている』のか否か。その程度は解るかと思って」

「後の火種になるか否かを見極めると言う事ですか?」

「ん~、そこまでは考えていないけど、領地が隣り合う貴族同士で手を組んで一つの自治区になるところが一つもないって変な話しだなぁって、思ったの」

「……言われていると確かに変ですね。いがみ合うような領地の割り振りが行われていたのでしょうか」

「それは調べないと分からないけど、今その余裕はないね」

 宰相との会話を切り上げて書類仕事に戻る。

 日が暮れるまで仕事をしたが、途中で書類が増えた。

 今日の夜食に温かいポタージュスープをリクエストしようと、心に誓った。



 それから、一ヶ月と言う時間が経過した。

 書類はほんの少し減ったが、夜遅くまで仕事をしても終わらない。人手不足を理由に、令嬢(希望者)を文官に登用して仕事を進める。

 そうそう。外務大臣経由で聞いた話しによると、併合を希望していた元帝国領の貴族達は支援の話を出すと、その殆どが『自治区認可と緊急時の騎士団派遣』を求めるものに変わったそうだ。嫌な予測が当たったと、宰相と思わず顔を見合わせて外務大臣に首を傾げさせてしまった。当然ながら断った。

 また、子息の将来を考えてこちらの騎士団に入隊させて欲しいと言う話も出た。

 これに関しては入隊試験を受けさせれば良いので総騎士団長に丸投げした。試験結果から問題の有無を考えるのは自分じゃないからね。

 不思議な事に、食糧支援系の話は今のところは無い。財政支援系は幾つか在ったが、無駄そうな個所を指摘したら取り下げになった。

 国内の落ち着きが漸く見えて来たのは、更に半年後。

 狸爺共は妙な動きを見せない。フラグを立てるようだが、このままでいて欲しい。

 文官になった令嬢達は想像以上に有能だった。男性文官顔負けの仕事っぷりで、最近は男女で張り合っているらしい。また、彼女達のお蔭で狸爺共が野心を引っ込めてくれた。年には勝てないと言う事か、文官令嬢の一人が狸爺の孫だからか。真実は闇の中だ。

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