1話 異世界召喚
「飲み物でも買いに行くか……」
俺の名前は【今野新太】夏休み中の大学生だ。趣味はゲームにアニメ鑑賞、平凡の権化とも言えるほど何も特徴のない男だ。
「暑い……」
セミの声でかき消されそうなほど小さな声でつぶやく、ここは田舎で、少しばかり歩かないとコンビニがない。
のんびり歩いていると、急に俺の周りが光り出す。
「な、なんだ……うっ!」
周りの光はどんどん強くなり、俺を光でのみこんだ。
目を開くと、先程までいた場所と違う所にいた。俺は困惑しながら辺りを見回すと、黒いローブに身を包んだ男性が立っていた。
「せ、成功した……!」
「あ、あの……」
声をかけると、その男性が祈りをささげるように土下座をしてくる。
「勇者様、どうか、どうか、この国をお助けください」
俺は目の前で起きてることが理解できず、立ち尽くしていた。すると、男性が体を起こし、口を開く。
「現在この国はたくさんのドラゴンに襲われています。なので私はこの状況を打破するべく、禁忌の魔法である召喚魔法を使い、勇者様を召喚しました」
「な、なるほど……?」
俺は首をかしげながら話を聞く。
「俺は何をすればいいんですか?」
「勇者様には、元凶である、ドラゴンの王を討伐してほしいのです。そのドラゴンは、漆黒の巨体に青色の目をし、人間の言葉を喋る恐ろしいドラゴンです」
俺はとんでもないことに巻き込まれたようだ。しかし、ゲームの世界に憧れていた俺はどこかワクワクしていた。
「それが終わったら俺は現実の世界に帰れるんですか?」
「……はい、帰れると思います」
「(今、目を逸らしたな……)」
俺はため息をし、言った。
「わかりました。やります……」
「ああ、ありがたきお言葉、こ、こちら……武器です。お受け取りください」
そう言って、俺は短めの片手剣を受け取った。
「(これでドラゴンを討伐!? ウソでしょ!?)」
「よろしくお願いしま────」
「ドオオオオオオオオオンンンン」
突如、轟音が鳴り響く。俺の目の前は、大きな影で覆われた。
「勇者様……ゆ、ゆ、勇者様……! ドラ、ド、ドラゴンでええええええ」
「いやいやいやいやいやいやデカすぎる!!!!!」
目の前には、一軒家と同じ大きさ程の青いドラゴンが、翼を大きく広げこちらを見ていた。俺は、人生で初めて死というものを感じた。体は震え、異様な寒気がする。俺は震える手で剣を握るが、防衛本能が危険信号を出す。
「グオオオオオオオオウウウウ」
ドラゴンが大きな巨体を動かし、突進してくる。こんなのに当たったらひとたまりもない、いったいどうなってしまうんだ。痛いんだろうな。と思っていると、ふと考える。
「なんか、遅くない?」
そう、相手の動きがすごく遅いのだ。まるでスローモーションのように遅い。
「これなら……いけるかも……」
俺は震える手を抑え、ゆっくりとドラゴンに近づく。
そして、剣をドラゴンの頭に向かって刺す。
「ギイイイイイヤヤオオオオン」
ドラゴンは甲高い悲鳴を上げ、退く。
「勇者様! 言い忘れてましたが、召喚の際1つのステータスを極限まで上げる魔法を唱えておきましたので、なにかしらが強くなっていると思います!」
「(な、なにかしらって……でも、敵がこんなに遅く見えるのは俺の能力かなにかなのか……? というか、この剣……すごくないか? ドラゴンの鱗を容易く貫通したぞ……)」
ドラゴンは前足で思い切りひっかいてくる。しかし、その攻撃も俺にはスローモーションに見えた。攻撃をやすやすとかわし、前足を切りつける。
「(すごい……これが勇者様の力……! これなら、勝てる!)」
すると、ドラゴンが高く飛び、深く息を吸った。異様な空気が漂い、俺は生唾を飲む。
「ああ……勇者様……ブレスが……きます……」
「ブレス……?」
「ドラゴンがドラゴンである理由、その存在を他者に自覚させる絶対的な力、全てを破壊し、全てをのみこむ力、それがブレスです……もう……終わりだ……」
「(どうそればいいんだ……空を飛んでるドラゴンに攻撃なんて……俺って空飛べるのかな……)」
「よっ」
俺はジャンプをすると、ドラゴンのいる位置まで高く飛んだ。ドラゴンは驚いた表情で、俺の方に顔を向ける。
「と、飛べた……!? ……よいしょっっ!!」
俺は剣を強くドラゴンの頭に突き刺す。するとドラゴンは甲高い悲鳴を上げながら、上空にブレスを吐いた。その威力は凄まじく、肌が焼けるような熱さだった。
「ひ、ひえ……これに当たったらひとたまりもないな……」
ドラゴンは、ブレスを吐き終わると同時に地上へと落ちていく。それに続いて、俺も地上へ落ちていく。
「やばいやばいやばいやばい落ちる落ちる落ちる落ちる」
「勇者様! ──水の精霊よ、汝の力を示し、他の者を救う力を我に……! ウォーターボール!」
そう男性が言うと、俺の体は水に包まれ、落下の衝撃を和らげた。
「ドグオオオオオオオンンン」
ドラゴンは落下し、鈍い音をたてる。俺はゆっくりドラゴンの方に近づき、剣を構える。
「グオオオオオ」
ドラゴンは雄たけびをあげると、突進してくる。先程より強く速い攻撃だ。木々をなぎ倒し、俺の方に向かってくる。俺は剣を構え、ボソボソと唱える。
「くらえ……高速斬り」
ダサい技名とともに、ゆっくりと近づいてくるドラゴンの足を切り裂く。ドラゴンは何が起こったのかわからない表情で倒れ込む。そして、最後の力を振り絞るかのように体を起こし、口を大きく開ける。
「勇者様! ブレスが──」
俺はドラゴンの頭に剣を突き刺し、ドラゴンの命を絶つ。ドラゴンは弱々しい声をあげ、倒れ込む。
「グウオオン…………」
「ごめん」
「……勇者様、お疲れさまでした」
俺は生物の命を絶つという初めての行為に、複雑な感情を抱く。そして、覚悟する。
「俺は、これからどうすればいいんですか?」
「……! まずは、ここから近くにある街【ニルノクス】に行ってもらいます。そこにある、冒険者ギルドで冒険者になってもらいます」
「(本当にゲームみたいだな……いったいこの世界は、なんなんだ)」
「勇者様、街までは私がお見送りします」
「えっと……」
「あ、大変申し遅れました。私はグージーと申します。以後お見知りおきを」
「グージーさんはこれからどうするんですか?」
「……そうですね、家にでも帰ってのんびり寝ようと思います」
グージーさんはニコッと笑い言った。
「さ! 行きましょう! 勇者様」
「は、はい」
俺は、この世界でやっていけるのだろうか、不安しかないが、頑張るしかないな。
俺は知らなかった。この始まりが、俺の人生を大きく変えることを。
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