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「君は持病を抱えているの?」


一度、彼に聞かれたことがある。僕はその質問に返事をしなかった。彼の顔さえも見ずに。

 あのとき彼は、どんな顔で僕を見ていたんだろう。どんな気持ちで、あんなことを尋ねたんだろう。僕のことを同類の仲間だと思っていたのだろうか。期待していたのだろうか。それとも彼はあのとき、自分の秘密を僕に打ち明けようとしていたのだろうか。

 あのとき、僕に尋ねた彼の声は震えていた。僕はどうしてあのとき、彼を拒絶したのだろう。


 僕が彼と一緒にいたのは、二年にも満たない短い時間だった。学生寮で暮らす二度目の冬。冷たい風が学生寮の窓を叩き、薄らと地面に雪が積もったあの日、彼はその生涯に自らの手で幕を下ろした。

 けれど彼はその短い時間で、僕に色々なものを遺していった。彼は僕の人生を、大きく変えてしまったのだ。


 彼の病は、冬になると悪化するらしい。誰から聞いたわけでもないけれど、同じ部屋で毎日を過ごしていれば分かる。彼の準備する手が止まる日が増え、ベッドから起き上がることさえままならない日もあった。僕はその度に寝巻き姿で医務室に欠席連絡をしに行って、そのまま彼と一緒に学校を休んだ。制服に着替える前に彼の様子を観察するのが日課になった。一緒に過ごすことがぐんと増えた。それでも、僕たちの関係は変わらなかった。

 ベッドで苦しそうに浅い呼吸を繰り返す彼と、ただベッドで暇を持て余す僕。きっと正しい僕の対応は、医務室から先生を連れてくることだったんだろう。彼の容体は、寮室の安い二段ベッドで寝ているだけではもうどうにもならないところまできていた。ルームメイトが僕じゃなかったらとっくに先生を呼びに行くか運ぶかしていただろう。僕は一度もそんなことしなかったけど。

 医務室の先生は僕の言い分を一応は信じてくれていたから、僕と彼の欠席理由は全て僕が申告したとおりになっていた。彼も欠席理由はルームメイトの看病だと友人たちに常日頃話していたから、友人たちは最期まで彼の病を知らないままだ。

 先生は、僕の往診と称して毎日のように僕たちの寮室に顔を出していた。先生が彼の看病をしている間、僕はベッドの上段で寝たふりを貫き通し、具合が悪くて朦朧としていたから彼のことは知らないと言い切った。

 多分、先生にくらいは正直に全部言ってしまっても良かったような気がする。けど既に散々仮病じゃないと言い続けた手前、もう僕は今更訂正なんてできなくなっていた。ベッドの中は正直退屈だったし、途中からは普通に本を読んでいたりしたけど、それでも仮病だとは認めなかった。


 そんな僕たちの歪でおかしな関係は、寮生活二年目の冬まで続いた。

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