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「あなた、どうして仮病なんて使ったの?」

「仮病じゃありません。」

「質問を変えましょう。あなたはどうして彼を一緒に休ませているの?」

「看病してもらうためです。」

「でもあなたは、人と関わるのが嫌いでしょう?」


確かにそうだ。僕は人と関わるのが好きじゃない。というか嫌いだ。ひとりでいるほうがずっと楽だし。

 どうして僕は、彼を助けているんだろう。気まぐれ?一時の気の迷い?僕に干渉しない彼のことは確かにいいやつだと思っている。けどだからって、今までの僕なら助けなかった。お節介焼くようなタイプじゃなかった。こんな気の迷いのようなお節介の結果が、ガタイのいい坊主頭の粘着と溢れんばかりの好奇の目では割に合わない。

 けれどあの日、初めて仮病で学校を休んだあの日、僕は確かにこう思った。


 彼を助けたい。


 考えても、どうしてだかは分からない。それは今までに持ったことのない感情だった。僕はこの気持ちを知らない。分からない。どうして僕は彼のためにこんなことをしている?こんな不利益を被ってまで。分からない。全く分からない。分からないのは、気持ち悪い。


「どうして僕は、こんなことをしているんですか。」


誰かに聞いたところで答えなんて出ない、聞く意味のない問いが吐き気を堪える口から飛び出す。


「彼のことは好き?」


保健医の先生が問うたことに何の意味があるのか。僕にはちっとも分からなかった。


 誰かを好き嫌いの物差しで見るのは合理的だと思えない。個人に依存した物差しで測れるものになど意味はない。だって人によって物差が違っていたら、どう頑張っても答えは一意に定まらないし、答えが出たとしてもそれは簡単に揺らぐような不確定なものだろうから。


「誰かを助けたい、役に立ちたいっていう思いは、少なからず相手への好意の上に成り立つものだと私は思うのだけど。」


そうじゃない手助けだってきっとたくさん存在する。義務感、偽善心を満たす為、見返りの為…。きっと好意によるそれは何よりも割合が少なくて、そんなもので人助けをするのは聖人くらいなものだろう。

 僕は聖人じゃない。だからこれは好意じゃない。けれど僕に義務感はない。誰にも頼まれはしなかったし。当然、偽善心もない。彼に見返りも求めていない。求めているならもうとっくに何かしているはずだ。なのに僕は何も求めないどころか、そういったことを考えもしなかった。

 ではなぜ?


「私ね、嬉しいの。あなたが誰かに興味を持ってくれたことが。初めてでしょう?」


僕には、先生が笑った理由さえも理解できない。分からない。それが凄く恐ろしくて、気持ち悪い。


 先生は僕に、一度だって医務室から出て行けなんて言わなかった。何かを深く尋ねることもなく、ただ僕をそこに置いてくれた。

 それは物珍しさの視線でつつかれ放題の教室よりも息苦しくなくて、僕は気づけばほとんどの時間を学生寮の医務室で過ごすことに費やしていた。教師はときどき僕を連れ戻せないかとやってきたけれど、クラスメイトは彼と坊主頭を含めてひとりも来なかった。あそこは、居心地のいい場所だった。

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