表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/23

番外編(後編) U-18世界野球大会


 俺と一心はフロリダにある、日本チームがいる宿泊所へ到着した。


 空港に到着したのは真夜中で、そこから更にスタッフの人が運転するバンに揺られてようやくである。


 「朝日が目にキツイ……」


 空が白んじてきて、朝日が差し始めていた。


 時差ボケを気にして、いつ寝ればいいのかよくわからなかったので寝不足だ。

 飛行機や車の席では熟睡なんてできないし。


 「来たぜアメリカ!!ってはしゃぎたいけど、先ずはベッドで横になりたいな」


 ワクワクで来た一心も眠そうだ。


 スタッフの人に案内され、とりあえず俺たちの寝床になる部屋へ向かっていると、前方の芝のグラウンドで柔軟をしている坊主頭の集団がいた。


 あれがU-18日本代表か?早朝だからか皆、暗い顔してるな

 と思って見ていたら、一人がこちらに気づいた。

 そして、ワラワラと皆がこちらに集まってきて


 「甲子園の黄金バッテリー様だ!!」

 「おおぉ!!神様!仏様!!」

 「来てくれた……ありがとう、ありがとう」

 「また決勝であの国と戦うの嫌だったけど、これなら行けるぜ!!」

 「後でツーショット写真おねがい!!」


 大盛り上がりである。

 やっぱり野郎にモテても嬉しくない


 「よく来てくれた。初山、畑中。

 U-18日本代表監督の杉浦だ」


 「よろしくお願いします」


 右手を差し出してきた杉浦監督の手を握り

 俺も挨拶する


 「甲子園では君にやられたが、今は仲間だ。よろしく頼む。

 そして済まなかったな。君が100パーセントを出せない投球しか出来ない状態で、君にこの世界大会に出てもらう訳にいかなかったんだ」


 俺は苦笑いして、気にしてませんと言って杉浦監督の手を握り返した。


 そして杉浦監督は、一心とも握手する。

 一心は今回のメンバー選定について思うところがあるので、ちょっと強張った表情だ。


 「畑中君。実は、君はU-18メンバーの当落線上の次点候補だったんだ。

 初山投手とセットでの選出も考えたが、そこは公正にあくまで君単独での評価の結果だった。」


 こんな負傷者が続出する事態になるなら、素直に最初から呼べば良かったがね!!

 と、ガハハッと杉浦監督は笑った。


 流石はGL学園という超名門校の監督だ。

 高校生の子供だからと侮らず、まっすぐに向き合ってくれているのが解る。


 一心の抱いていたわだかまりも溶けたようで、ほころんだ顔で杉浦監督の手を握り返した。



 「さて。明日が決勝だ。君たちは今日は時差ボケを直すことに専念しろ。

 翌日に試合のぶっつけ本番になるが……」


 「君たちなら大丈夫だろ?」


 「「 はい!! 」」


 俺と一心は力強く答えた。




―――――――――――――――――――――――――




 「くあぁ……眠い」


 今日は、試合当日

 朝食の時間のため食堂に下りてきたが、とにかく眠い。


結局前日に変な時間に寝て起きてだったので、いまいち自分が睡眠が十分なのかが分からない。


「なんだタカシ。結局時差ボケ治りきらなかったのか」


「これ思ったより大変だな。時差ボケ辛いから、俺当分はメジャーリーグ行くのはよしとくわ」


「タカシが言うと冗談に聞こえないんだよな……。あ!そういえば」


 一心がポケットをまさぐり俺のスマホを出してきた。


 「俺の部屋にスマホ忘れてたぞ。」

 「お、そっちにあったのか悪い悪い」

 「なんか夜中に通知来てたみたいだけど」

 「本当か?連絡先ほとんど教えてないから、そんな連絡来ないはずなんだけど」


 そう言ってスマホを見ると、可南子からメッセージが来ていた。

 本文内容は、「無事に帰ってきてね」という一文と画像ファイルが一つ添付されていた。


 「何だこりゃ?」


 そう言いながらファイルを開いてみると……


 そこにはチアガールの恰好で、おまけにフェネック耳と、たわわなボリュームのある尻尾という凶悪装備で、肉球に見立てた両手をグーにして顔の前におねだりするように掲げた可南子の写真だった。


 それを見た俺と一心は固まってしまった。


 「なんだ。可南子さんと、もうそういう関係なんじゃないか」

 「まだ違うが……」

 「まだ……ねぇ~」


 「けど、おかげで眠気は吹っ飛んだ」


 帰国したら可南子にお礼しとかないとな。




―――――――――――――――――――――――――




 「無様にも、二回も同じ相手に負ける屈辱を奴らに味あわせてやれ」


 「「「「「   ハッ!!  」」」」


 特定国のチームは監督の号令の下、統率された動きでグラウンドへ散っていき守備位置にについた。


 特定国の監督は、その様子を見てニンマリとした。


 この世代代表チームは、特定国では何よりも重要視され、資金面設備面とも国内最高水準のものが用意されている。

 勝利を至上命題としたチームとして、徹底的にしごき上げ、選手たちは監督の意のままに動く。


 日本という宿敵のチームを予選リーグと本戦決勝と、二度も下して相手の溜飲を下げさせたとあらば、自身の監督としての価値もウナギ登りというものだ。


「俺のA代表監督への道筋も見えてきたな」


つい、ニヤけてしまう口元を隠したのを良いことに独りごちた。


 「プレイボール!!」


 アンパイアがコールをして、特定国のエースピッチャーが第一投を投じた。




( クァンッ!!! )



 小気味の良い音を残し、打球は奇麗な弾道を描き、ライトスタンドへ吸い込まれた。


 ホームラン


 日本の一番バッターの一振りだった。



(ガンッ!!)


 ビクッと、ベンチにいる特定国の選手が震えて、音を発した主を見やった。


 監督の足元にあったクーラーボックスの中身がぶちまけられていた。


 監督から無言で睨まれると、特定国の控え選手たちはハッとして、あわてて地面に四つん這いで、散らばった飲料を拾い集めた。


 それには目もくれず、特定国の監督は思案していた。


  さすがに一人に打たれたからと言って、まだ投手は交代出来ないな。

 先発はうちもエースを投入しているしな

 事実、二番打者、三番打者、四番打者と次々打ち取っていった。

 日本の打者は先頭打者ホームランに続けとばかりに、どいつも大振りしている。


(かえって楽をさせてもらえるかもな。代表とはいえ、所詮はケツの青いガキだ)



 先頭打者のあれは、立ち上がりを狙った出会い頭のものだろう。


 自身のプランに大きな影響はないと判じた特定国の監督は、ここでおもむろに日本のオーダー表を見て、意外感から思わず呟いた。


 「ピッチャーが一番バッターだったのか。日本の監督は何を考えとるんだ」




―――――――――――――――――――――――――




 1回の表が終わり、その裏、特定国側の攻撃


 攻守交代の際に、ピッチャーに打たれた腑抜けがとエースピッチャーを罵倒し、ブルペンでの投げ込みを命じた特定国の監督は、マウンドにいる日本のピッチャーを見ていた。


 今日は今大会初お目見えのバッテリーだ。


 こういう世代別代表戦では、国際大会の経験を積ませるために、色んなピッチャーを出すのが通例だ。

 日本のピッチャーは2名潰したから、サブのピッチャーを使わざるを得なかったのだろう。


 決勝なのに同情するよと口元を隠して微笑すると

 特定国の監督は、ふと違和感を感じた。


 「マスコミが今日はやけに多いな」


 現地のアメリカのメディアが多いのは、まぁわかる。

 だが日本のマスコミが随分入っているようなのだ。


 なんのために?日本も世代別代表のPRに力を入れているのか?


 その疑問は、件の投手が第一投を投じたところで氷解した。


 「球速160km/hだと!?」


 高校生の試合では中々お目にかかれない球速だ。


 なるほど、日本のマスコミメディアのお目当てはこれか。


 たしかにこの速球には目を見張るものがある。

 自国の投手にいたらと思わずにはいられない。


 だが、一番手ピッチャーに速球派を据えるなど、日本の監督は野球をよく知らないと見える。


 仕方がない。

 この投手は、球数を投げさせて、とっとと交代してもらおう。




―――――――――――――――――――――――――




 ……私の目論見が甘かったことを認めざるを得ない。

 うちの選手が誰一人、相手の球を前に飛ばすどころかバットに当てられない。


 球速がじょじょに上がって、今は167km/h


 相手は無駄球を投げないため、まだ投球数には余裕があった。


 このピッチャーを長く引っ張らせる訳にはいかない。


 幸い、こちらも冒頭のソロホームラン以外は打たれていない。

 今ならまだチャンスはあるだろう。


 3回裏ツーアウト


 相手の打者が二巡目に入ったところで、特定国の監督は伝令を飛ばした。




―――――――――――――――――――――――――




「事前に聞いてた情報だと、そろそろ来るかな」


 俺はバッターボックスへ向かいながら呟いた。


 開幕初球でいきなり故意死球はさすがに特定国でも無いだろうから、一番打者で初球打ちを狙えという杉浦監督の作戦はズバリ的中した。


 そして、塁に出たら何をされるかわからないので、打者全員にホームランか三振しろという指示が出た。

 長打狙いの大振り強振は、三振でも相手ピッチャーへ確実にプレッシャーになる。


 俺はバットを立てて構えると相手ピッチャーを見た。


 いい球放るんだよな、このピッチャー


 俺が打てるのは、ちゃんと線が見える一流の球だけだ。


 一球目は外角に外れる球


 そして二球目

 内角にきっちりボール2個分、内に入れてきた。


 避けなきゃギリギリ当たる球だ。

 きっちりコントロールされてやがる。

 これなら故意死球には問われないだろう


(カシュッ)


 すんでのところで体を引いて避けた際に、ユニフォームの少し弛ませておいた腹部分を球がカスっていった。


 デッドボールを宣告されたので俺は一塁へ進塁した。




―――――――――――――――――――――――――




 「チッ!!デッドボールのダメージはないか。まぁいい」


 特定国の監督は舌打ちして、ピッチャーにサインを送った。


 (しつこく牽制してピッチャーを疲弊させてやれ)


 牽制で、相手ピッチャーの体力と精神力を削るのが目的だ。


 今は2アウトだから、向うの攻撃が終われば一息つく間もなく、相手ピッチャーはマウンドに上がらねばならない。


 特定国のエースピッチャーはサインに頷き、一塁走者をチラリと横目で見ると……


 なんと、一塁走者のタカシはベース上に仁王立ちで暇そうにしていた。


 少しもリードを取っていない。

 積極性のかけらもない


 しかし、これでは牽制を入れても意味がない。

 この状況であまりにも牽制球を投げたら、遅延行為と取られかねない。


 アテが外れた特定国のエースピッチャーは、この回が終わった後の理不尽な監督からの罵倒を予感し、一先ずこの回をさっさと終わらせようと、打者に向き直り投げた。



 (キィィィイイイン!!)



 中途半端な気持ちで臨んだせいか、高めにいってしまった球を、二番打者の大振りのフルスイングがとらえた。


 特定国のエースピッチャーは茫然と、センターのフェンスを越える打球を見送った。




―――――――――――――――――――――――――




 「お~!!行った行った」

 

 打球の行方を見て、俺はランニングでベースを回り、ホームベースで打った二番打者を待ち構えた。


 「ナイスホームラン。一心」


 俺と一心はハイタッチを交わす。


 「お前、一塁走者時のリードは何だよ」


 「お前がホームラン打つなら、リード取る必要ないだろ。三振でもな」


 「……本音は?」


 「俺は普段からホームランから三振だから、走者になったの初めてで、どうしていいか分からなかった。投げてる時も相手が進塁することほぼないし」


 「帰ったら走塁判断のテストするぞ」


 「うげぇぇ」


 「勉強得意なんだから、ちゃんと覚えろ」


 俺たち二人はベンチに戻り、チームメイトからの荒い祝福を受けた。




―――――――――――――――――――――――――




 「うぐうぅぅ……」


 特定国の監督は追い詰められていた。


 現在、5回表 3-0のビハインド


 あのピッチャーから点はそう取れそうにない。

 だが、大事な決勝で宿敵の日本に敗れたとあっては、周囲は手のひら返しで、A代表監督への道が遠ざかってしまう。



 こうなったら、もう負傷退場してもらうしかない。


 「おい。次の相手ピッチャーの打席。ビーンボールで顔面に行け

 ここで奴を潰しておくのは、今後の我が国の利となる」


 なりふり構わぬ監督の指示に、先ほど監督にベンチ裏でみぞおちを殴られたエースピッチャーは、付き合いきれないと感じ始めていた。




―――――――――――――――――――――――――




 俺の第三打席


 先ほどの打席は、避けなきゃ当たる内角攻めだったが……


 「やっぱり、いいピッチャーだな」


 二投続けて内角のボールの際どい所へ投げ込まれた後に、外角いっぱい低めのストライクに決まった球を見て、思わず声に出して呟いた。


 先ほどの内角死球で無意識に引けていた腰では、外角に手が出なかった。


 何やら特定国の監督が、ベンチで茹でダコのように真っ赤になって、自国のエースピッチャーに何やら怒鳴っているが、言葉がわからないのでどうでもいい。


 相手エースピッチャーは何か吹っ切れたような表情で、まっすぐ俺を射殺さんばかりに鋭い眼光を向ける。


 本気の真剣勝負


 「嫌々来た世界大会だったけど楽しかったな」



 四投目


 またも内角ぎりぎりを掠める線を見咎めながら、バットは鋭く一閃され、低めのライナー性の打球が直接レフトスタンドへ叩きつけられた。


 膝に手をついて悔しがる特定国のエースピッチャーは、打たれたがどこか晴れ晴れとした顔であったのが印象的であった。




―――――――――――――――――――――――――




 帰国の飛行機の中でスマホを見ながらフッと笑うと


 「なんだタカシ?また可南子さんの例のフェネックチアガール画像見てニヤニヤしてんのか?」


 「ちげぇよ。ほら、対戦した特定国の先発投手と連絡先交換したんだ。見ろよこれ」


 俺は一心に添付された画像を見せた。


 そこには顔に青あざを作ったエースピッチャーや、他の特定国のメンバーとの満面の笑顔での集合写真だ。

 後ろの片隅には、ボロ雑巾のようになった特定国監督が死んだカエルのようにのびていた。


 あの回が終わった後、興奮した特定国の監督がベンチという衆人環視の下で、エースピッチャーの顔を殴ったのを皮切りに、ベンチ内で選手と監督で乱闘になったのだ。


 そんなトラブルがあったため、試合はそのまま没収試合となった。


 その後、複数の選手がSNSで監督から故意死球の指示や、従わない場合どうなるかの脅迫がなされていた事が暴露された。


 特に、現地できっちり映像を撮っていた日本のマスコミが大きく取り上げてニュースとなり、近々、件の監督は野球界を追放されるようだ。


 日本のマスコミが世界大会に多数入っているのを見てチャンスだと、特定国のメンバーは思ったそうだ。中々に聡い判断である。



 送られたメッセージは「いずれメジャーでまた会おうぜ」と締めくくられていた。


 「そういやタカシ。大会終了後、メジャー関係者っぽい人からすげぇ話しかけられてたな」


 「むこうの国の人は強引に話を進めようとするから断るのに難儀したわ。

  あ、これ貰ったメジャー球団のスカウトの名刺な。30球団コンプリート」


 「カードゲーム出来そうだな。けど、メジャーはまだ行く気ないんだろ?」


 「ああ。行くのは少なくとも可南子が大学卒業してからだな」


 「ん?何でメジャー行きに可南子さんが関係あるんだ?」


 おっと。つい心に秘めた未来計画を口走ってしまった。


 ニヤニヤしている一心への言い訳を考えていると

 ちょうど、可南子からメッセージがスマホに届いた


『 帰ってきたら一緒にお勉強しよ 』


 とのメッセージと一緒にまたしても添付画像が一つ。


 いつもの制服にフェネットの耳と尻尾、そして伊達メガネをつけて、学校の教室の机に座っている可南子だった。


 いつもの制服、教室でフェネット耳というのがまた破壊力抜群であった。


 見慣れた学校の教室、そして可南子を見て

 

 早く帰って会いたいなと微笑んだ。


日ハムのきつねダンス可愛いよねってことで思いついた番外編でした。

新作の書きため中にダーッと一気に書き上がりました。


ブックマーク登録、評価、感想宜しくお願い致します。

新作もよければ読んでみてね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ