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【完結】私を甲子園に連れてってで人生変わりました  作者: マイヨ@電車王子様【11/25発売】


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19/23

第19話 ドキッ!!自宅での勉強会

 夏休みが明けた9月


 国体は9月末頃開幕

 それが終わればドラフト会議だ


 プロ志望届は先日提出した。

 ついでに大学入学共通テストも申し込んでおいた。

 ドラフトで指名されるか否かは別に保証されてるわけではないのだから


 やるべきことを済ませたら、後は平常運転だ。


 月水金は野球部で自主練習。それ以外の平日は図書室で可南子と勉強だ。

 土日はロードバイクでロングライド。秋に向けて少し暑さも和らいで最高のライド日和だ。


 「私が引退したら毎日勉強に付き合ってくれるって言ったのに!!」

 「許せ可南子。俺もここまで延びるとは思わなかった」


 放課後のいつものベンチでカフェラテを飲みながら、俺は仕事が忙しい言い訳をする亭主のように、可南子のご機嫌をとっていた。


 「代わりに土日も付き合うからさ」

 「ホント!?」


 可南子は先程のふくれっ面から一転、口元がにやけているのを必死に抑えているようだ。


 「どこ行く?映画とかどうかな」

 「いや勉強でしょ。そして来月は俺忙しいから土日は無理だからな」


 ペンっと肩をはたかれ、可南子はソッポを向いてしまった。

 女性のご機嫌取り中は、正論を返すのは愚策である。


 「じゃあ、勉強場所は私が決めるからね」

 「わかったわかった」




―――――――――――――――――――――――――




 土曜日

 俺は可南子から指定の時刻だけ聞かされて、自宅に待機しているように言われた。

 午後からということだが、場所はおって連絡するとのことだ。一体どこへ行くつもりなのだろう?

 俺は鞄に筆記用具や参考書をまとめて、いつでも家を出れるように準備しているが、可南子からの連絡はまだない。




 (ピンポーン)


 来客を知らせるチャイムが玄関から鳴った。

 そういえば先刻、母さんも車に乗って出かけていってたな。

 父さんはまだ寝てるし仕方がない。


 俺は玄関へ向かった。


 「 は~い 」


 玄関の引き戸を開けると、そこには白いブラウスに紺色のロングフレアスカートの可南子がブリーフケースを持って立っていた。


 「お、お邪魔します」

 「可南子!?え、なんで俺の家……可南子に家の場所教えてたっけ?」


 「あ、それは」

 「私よ」


 可南子の背後から車の鍵のついたキーケースを回しながら、母さんが現れた。


 「あ~そういうことか」

 「この坂、可南子ちゃんに登らせるわけにいかないでしょ」

 「桃子さんに最寄駅まで迎えに来てもらったの」


 「なぜ俺を飛び越えて可南子と母さんで調整ついてんだよ。」

 「私が招待したのよ。可南子ちゃんとは半月も寝食を共にした友達だし」


 「「 ねぇ~ 」」


 二人とも顔を向き合わせキャイキャイしている。

 キャイキャイする歳かよ、おばさんが。




―――――――――――――――――――――――――




 「はぁ」


 なんか勉強始まる前からドッと疲れた

 台所でグラスに氷を入れて麦茶のボトルと一緒にお盆に乗っけて持っていく。


 「飲み物持ってきたぞ~」

 襖をあけて中に入る。


 「異議あり~!!異議あり~!!」


 中に入るなり、正座して脹れっ面の可南子が勢いよく挙手していた


 「はい、可南子君」


 議長よろしく俺が指名する。


 「なんで勉強する部屋がここなんでありますか!!」

 「我が家でお客様をもてなす部屋はこちらだからであります」


 そう、ここは仏間だ。



 田舎あるあるで、仏間が部屋はやたら広いし一番日当たりの良い場所にある。そして、座卓もデカイので一緒に勉強するには、うってつけなのだ。

 客間としても使うので当然クーラーもある。


 「普通、こういう場合は相手の自室で勉強してドキドキワクワクが一般的であります!!」

 「自室の学習机じゃ狭くて、肩が触れ合うくらい詰めて並ばないと一緒に勉強できないだろ」


 「その方がいいのに……であります」


 そろそろ議会ゴッコも飽きてきたので勉強道具を座卓に広げだしたら、可南子もしぶしぶ鞄から勉強道具を取り出した。




―――――――――――――――――――――――――




 「ふう、一息いれるか。」

 「そうだね」

 「そういえば、その過去問……」

 「うん、稲大学の。併願で受けようと思って」

 「東京の私大か。たしかに穂高大学と傾向似てるからな。いいと思うぞ」

 「うん……」


 本当は別の理由があって、実質志望校を稲大に切り替えているのだが、タカシには言えない。

 とても邪な理由だから……


 「茶菓子でも取ってくる」

 「ありがと」


 タカシは仏間からお盆を持って退室し、仏間の中には可南子一人になった。



 (こういう部屋の主が不在の時にはHな本探しをしたり、ベッドの布団にくるまって臭いを堪能したりするのが定番なんだろうけど……)


 可南子は仏間を見渡す。


 大きな仏壇に床の間には掛け軸。

 鴨居の上には御先祖様の遺影が額縁に入って飾られている。


 (こんな部屋じゃあ、ドキドキ展開なんて絶無!!)


 可南子はおでこを座卓に乗っけてうちひしがれていた。


 (うう……別にアレな展開を期待してた訳じゃ……いや、正直ちょっと期待してたけどさ)


 ふと視線を持ち上げると鴨居の上にある御先祖様の遺影と目が合った気がした。


 「しないです!!しないです!!御先祖様の前でそんなふしだらな」

 「なに独りで喋ってんだ可南子」

 「ひゃいっ!!」


 タカシが茶菓子を持って戻ってきた。


 「ちょっと発声練習をね」

 苦しすぎる言い訳だが、独り言を聞かれた可南子に配慮し、俺も空気を読んで深く追求しないことにした。


 「あ、次英語やりたいのに辞書持ってきてなかったな。ちょっと部屋に取ってくる」


 茶菓子を座卓に置いて再度席を立とうとするタカシの腕を、可南子が掴んだ。


 「な、何?」

 「私も連れてけ~」

 「別に面白いものなんて何も」

 「連れてけ~~」


 ゾンビのように垂れ下がる可南子を振りほどくのは無理だった。




―――――――――――――――――――――――――




 「ほぉ~これがタカシの部屋か~」

 可南子が部屋に入って感嘆の声を上げながら部屋を見回す。



 「参考書もたくさんあるね~。あ、でも見たことあるのばっかり。これ一年生の頃使ってたやつ」

 「そりゃ三年間一緒に勉強してたらそうだろ」


 「あはは、そうだね」


 そうか。可南子とは三年間一緒だったんだもんな。

 時の長さだけ言われてもただの数字だが、こうして本棚に収められた参考書を見ると、積み重ねというものが視覚的に解りやすかった。


 三年間。高校の三年間


 ずっと一緒だったんだな


 「あ、自転車とバドミントンの月刊誌に紛れて一冊だけ野球の雑誌が……って」


 当該の雑誌を手に取りニヤつく可南子


 「あらあら、自分が表紙の雑誌はさすがに買うんですねタカシく~ん」


 当該雑誌は甲子園緊急特集号。

 表紙には俺のピッチングの時の写真だ。


 「出版社から送られてきたんだよ。」

 「あれ?でもこんな雑誌、本屋で見たことないんだけどな」

 「まだ発売前の見本誌だからな」

 「見せて見せて」

 「写真撮ったりすんなよ」

 「わかってる」


 雑誌の中を見ると、ほとんどタカシの写真ばかりだった。

 記事には今までの試合の振り返りや、タカシの生い立ち、果てはこの先の輝かしい展望などが書かれていた。


 記事を読んでいると誇らしいという気持ちの後から湧き上がった、ある感情

 それはドンドン大きくなって全てを塗りつぶしていく


 「……なんだか遠くへ行っちゃったな」


 言葉を続けようとしたが声にならない

 自分でも気づかないうちに大粒の涙が一筋頬を伝い流れ落ちた。

 悲しさと寂しさに支配されていた。


 「こんなに近くにいるのに……」


 絞り出すようように独白したあと、タカシに手を伸ばすがタカシの体には届かない。


 タカシはプロ野球の世界へ行く

 これだけ有名になってしまったんだ。きっとタカシはこれから華やかな舞台に立って、その内にモデルや女優さんみたいな煌びやかな人と……


 嫌だ


 涙が溢れてくる


 突如、泣き出してしまった私にタカシはおろおろしていた。


 「私さ……」


 やめて。なんで喋ろうとするの。言っちゃダメなのに


 「タカシと一緒にいたいから穂高大学を志望してたんだ」


 やめて

 止まって


 「でもタカシがプロ野球に行くことになったから……じゃあ、在京の大学に行けば会える機会が多くなるかなって、今度は稲大学志望になって……」


 耐え切れなくなって目元を手で覆った


 「気持ち悪いよね…… 重いよね…… 」


 私はこの後ろ暗い感情から早く解放されたかったのかもしれない

 いっそタカシから拒絶の言葉を貰ったら、諦めて先へ進めるから。

 だから意思に反して、心に従って言葉がまろび出てしまった。


 「だから……」


 幕引きの言葉を発しようとした時、私の体は抱きすくめられた。

 

 力強く


 タカシは一言だけ


 「可南子。もう少しだけ待ってくれ」


 耳元で囁かれた後、しばらく二人は無言で抱き合った。

 もう夏は終りなのに身体がとても熱かった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 》》それは先日発行されたばかりの甲子園緊急特集号だった。  表紙には俺のピッチングの時の写真だ。 この直後の会話文で、発売前の見本誌と喋っているのだが
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