第13話 聖地へ
「うおおおおぉぉぉおおお!!!」
わたし 沖 可南子
花も恥じらう18歳の乙女です。
時刻は午後10時半
乙女の私がなぜ雄たけびを上げながら、冷えぴたをおでこに貼って、前髪をチョンマゲよろしく束ねた女をかなぐりすてた容貌で机に向かっているかというと、熱烈に勉強をしているからである。
行きたい大学があるからというのは一先ず置いておいて、今の私の勉強のモチベーションは何といっても、甲子園にタカシを応援しに行くためだ。
甲子園に我が南高が悲願の初出場という事で、私の周りも大層盛り上がっている。
同級生も、折角だからとか、一生の思い出になるからとか理由をつけて、夏休みだが甲子園への応援を申し込んでいる。
ちなみに在校生は、希望者は学校に入場チケットや送迎バスに申し込む。
中には、某ハリウッド系テーマパークで遊ぶのも兼ねて、独自に宿をとる旅行を計画している子たちもいる。受験生なのに大丈夫なのだろうか?
私は運がいいことに、野球部員の保護者の泊まる宿にタカシのお母さんの桃子さんの計らいで交ぜてもらえることになった。
場合によっては長期滞在になるわけだけど、それをうちの両親に認めてもらうには勉強を死ぬ気でやるしかない。向うでの滞在中はもちろんだが、甲子園応援旅行のせいで受験勉強が疎かになったと両親に絶対に言わせないために、出発までは鬼気迫る様相で勉強に打ち込んでいる。
その様子を見て、両親も最後には根負けしたようだ。
(ピピピッ)
スマホのアラームが鳴った
「そろそろ時間か」
私はひとり呟いて、自室を出た。
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『激熱 甲子園!! 今日の特集は、初出場校の穂高県立穂高南高等学校です。』
テレビ番組で南高の特集があるのだ。
録画予約もしているがやはり生で観たいので、テレビの前に正座する。
SNSのクラスチャットを見ても、みなリアタイで番組を観ているようでさながら実況中継のようだ。
『悲願の初出場を果たした公立校 今大会最速投手は、なんと野球競技歴3ヶ月の助っ人ピッチャー!? その舞台裏に注目です』
見慣れた南高の校舎や野球部グラウンドが映し出され、野球部の練習風景の映像が流される。
自分の知っている場所がテレビで流れると、やはりテンションが上がる。
『穂高南高等学校は周りを自然に囲まれた開放的な学校です』
【クラスチャット】
(書き込み1)ただの田舎なだけだろうが
(書き込み2)物は言いようだな~
(書き込み3)近くにジュースの自販機しかねぇよ
『公立の進学校ながら野球部は精力的に活動しており、過去何度か県大会決勝まで進みましたが、あと一歩及ばずという悔しい結果が続いていました。』
『しかし今年、圧倒的な強さで県大会を制しました。その原動力となったのが投手の初山 タカシ選手です』
『マックス158km/hは今大会最速。ナチュラルムービングする速球のみを武器に、地方大会で投げた試合での失点はゼロ』
『そんな初山選手。なんと野球部に入部したのが高校三年生の5月。それまではバドミントン部に所属していて部長をしていたそうです。
そして、野球部のお手伝いとしてバッティングピッチャーとして助っ人を勝って出たところ、監督の川本監督にその力を見出され三年生の5月に入部ということになったそうです。ここより初山選手御本人に話を伺ってみました』
「インタビューよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
「さっそくですが、初山選手は本当に野球競技歴は無いのですか?小学生や中学生時代などは」
「はい。リトルリーグやシニアリーグ、中学軟式野球部 一切入っていません。
ただ、捕手で幼馴染の一心…あ、畑中とは半ばお遊びでやってはいました」
「畑中捕手からバッティングピッチャーとして助っ人を頼まれたのが入部の切っ掛けだと伺いましたが?」
「はい。コントロールは昔から良かったので役に立てるかなと思いまして協力することにしました」
【クラスチャット】
(書き込み1)テレビだからってタカシいい子ちゃん振りやがって
(書き込み2)けど本当に初山君天才だね。勉強できる人って印象しかなかったのに
「球速が今大会最速ですが、何のおかげだと初山選手自身は思いますか?」
「バドミントンで鍛えたスタミナとロードバイクで鍛えた体幹と下半身の強さですかね」
「高校ではバドミントン部の部長だったということですが、そちらの方は」
「それが地方予選の一回選で負けてしまって(笑)あまりに早々に高校最後の夏が終わってしまい燻っていたので、ある意味御誘いは渡りに船という感じでした」
「けど、高校三年生ということは本来なら受験勉強が気になりますよね。」
「その点はキチンとバランスを取ってもらっていて、平日、月水金の週三回の助っ人部員という立ち位置でやらせてもらって、勉強に支障が出ないようにしてもらいました」
「初山選手は学業の成績もトップクラスということで正に文武両道という感じですが、将来の夢はあるんですか?」
「ええと……まだ色々考え中です」
【クラスチャット】
(書き込み1)公務員だろ
(書き込み2)公務員って言ってたよね
(書き込み3)ちゃんと言えよ
「そういえば助っ人だからということなんでしょうかね。これは県大会の開会式の映像なんですが、初山投手、どこにいるかと言うと最後尾。恰好はユニフォームではなく学校の制服姿ですね。これはどうしたんでしょう?」
「これは……急遽の入部だったのでユニフォームが間に合わなかったんです。映像で見 せられるとやっぱり浮いてますね」
「そうだったんですね。」
【クラスチャット】
(書き込み1)一人だけ制服で草
(書き込み2)パッと見、マネージャーにしか見えねぇ
( 一心 )タカシの奴、ユニフォーム作るの高いから嫌だって駄々こねたんだよ
(書き込み3)内部告発草。一心も甲子園で暴れてこいよ
( 一心 )おう。あんがと
「それでは最後に甲子園へ向けた意気込みをどうぞ」
「野球歴の浅い自分が立つべき舞台じゃないよなと恐れ多い気持ちでいっぱいですが、精一杯、夏を楽しみたいと思います」
「お忙しい中、ありがとうございました」
インタビューが終わり、番組は終了した。
なお、その後録画を三回見返したので、その日はもう勉強はできなかった。
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「あいつら好き勝手言いやがって」
昨日の番組の感想を言い合ってはしゃいでいる、クラスのチャットを見て、俺は顔をしかめた。
「タカシはリアタイで観なかったのか?」
「親が正座待機してたからな。親と一緒に自分が出てる番組観れるメンタル持ってないわ」
「県大会の決勝でばんばんストライク放る奴でも無理なのかよ」
「リアタイで観つつ、クラスチャットまで参加してた一心のような強メンタル持ってねぇよ」
一心と俺は隣り合うバスの座席に座っていた。
甲子園出場が決まってからの目まぐるしい日々が過ぎ、いよいよ甲子園へ向けて出発したのだ。
なお、乗っているのはベンチ入りメンバーと監督、マネージャーのみ
他の部員は別のバスだ。
また、選手は宿も大会本部から指定されたところに決まっているらしい。
「宿どんなとこだろう、楽しみだな」
「ペイチャンネル観れるかな」
「相部屋なんだから辞めろ」
他愛のない話をしていると、バスは高速道路を下りていった。
いよいよ聖地、甲子園だ。




