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第10話 県大会決勝 前篇

「テレビ穂高をご覧の皆様こんにちわ。

夏の甲子園。穂高県地方大会決勝をお送りします。

本日は港南大学野球部監督 元原氏の解説でお届けします。

元原さんよろしくお願いします」


「よろしくお願いします。」


「さて、決勝のカードは私立穂高第一高校と県立穂高南高校となりました。

このカードについての印象はいかがでしょうか?」


「そうですね~、穂高第一高校は2年前に甲子園へ出場した名門校ですからね。

部員は全員野球推薦で入学した少数精鋭で、監督の下しっかり意志統一された集団という感じですね」


「なるほど。では、今日勝てば悲願の甲子園初出場となる穂高南高校はいかがでしょう?」


「何といっても鍵を握るのは、投手の初山タカシ選手です。

今大会の台風の目、球場全体が彼に注目しているでしょう」


「マックス151km/hの剛腕ピッチャーが、まさかの野球競技歴2ヶ月というのは驚きでしたね」


「エースピッチャーが絶対に抑えてくれるという信頼のおかげか、打撃陣も思い切って攻めのバッティングができるという好循環がチーム内で生まれたのが、今回の南高校の躍進につながったのでしょう」


「対する第一高校のエース 佐野投手もマックス140km/h台で変化球も多彩

なかなか狙いどころを絞るのが難しいピッチャーですね」

「はい。今日の決勝はエース投手同士の投手戦となるでしょう。

投手戦となると1点の重みが大きくなります。守備の乱れ一つが大きな結果につながりかねません。その中で、経験の浅い初山投手がどのように切り抜けるのか、見ものです」


「注目の一戦。まもなく開始です」




―――――――――――――――――――――――――




ベンチ前 最後のミーティング

川本監督を中心にしてメンバーが囲んでいる。


「ここまで来たお前たちは私の誇りだ。今日は楽しんで来い。以上だ」


短い激励だったが、その言葉には積み上げてきた物の重さがあった。


円陣の中心から監督が離れると

主将の茂雄が代わりに中心にきた。


茂雄は天に向かって大きく息を吸い込むと


「監督胴上げすっぞっっっっっ!!」


「「「「「  おおっ!!!!   」」」」



腹から声を出し、グラウンドに駆け足で踏み出した。




―――――――――――――――――――――――――




「勝つためだ。徹底的にやれ」

「「「「 はい!! 」」」」


第一高校ベンチでも監督の檄の後、選手たちは別れて行った


第一高校エースピッチャー 佐野投手は自分の出番に向けて、無表情でブルペンへ向かった。




―――――――――――――――――――――――――




1回表 第一高校の攻撃


(予想通りきやがった!!)


トップバッターがいきなりバントの構えをしたが

バットを引いた


1ストライク


次は当てに来るだろう。

セオリーならストライクを外して様子を見るが、ここはストライクど真ん中

バントの時にはかえって穴!!


意表を突かれた相手は、バントだが空振り


スリーバントは避けたい相手はヒッティングの指示が出たようだが、きっちり3球目も空振りさせて1アウト


(とりあえず1人。序盤はバント攻めするつもりか?)


このバント攻めは相手にとってはメリット目白押しだ。

俺からヒットを打つのは正直厳しい

バントで俺がエラーしてくれる確率の方が高そうだ

また、バント処理で俺に心身ともに俺に負担を強いることで、後半のピッチングに悪影響を出させることが期待できる。

しかも、バント姿勢でゆっくり事前データの少ない俺の球筋も観察できる。


「こちとらゴロ捕球だけは鬼軍曹の特訓で鍛えてるんだよ!!」


三番のバントは見事なフィールディングで送球。

「ナイスプレー」


と守備陣から声がかかる。

上手くいくときは上手くいくんだけど、やはり安定しなくて怖い


何とか初回にエラーが出なくてホッとした。




―――――――――――――――――――――――――






(そこまでやるか!?)


俺は思わず心の中で毒づいた。


回は3回表 0-0 第一高校の攻撃


2回の相手方の攻撃は、またしてもバント攻勢だった。クリーンナップまでが徹底してバントしかしてこないのはハッキリ言って異常だった。


そして3回の打者一巡の回にて、またしてもバント攻勢にあっていた。

そして恐れていたエラーをしかけた。

バスター気味に飛んできた打球をグラブでファンブルしたが、球は運良く足元に落ちたため慌てて送球してギリギリアウトにできた。


これで3回ツーアウト


一心がマウンドに近づく


「いや~、相手さんは的確に弱点を突いてきますな」


一心が笑いながら話しかける。

「人の嫌がることはやらないって、幼稚園で習わなかったのかね」

「相手は正しく勝負師だな。けど、これは結構博打だと思うぜ。実質、一巡目捨ててるんだし」


肩で息をした俺は一心に向きなおり

「博打なんてするもんじゃないって相手さんに解らせないとな」


ニヤリとした笑顔は口元を覆ったグラブで隠された。




―――――――――――――――――――――――――




後続を切り

三回裏の南高の攻撃


俺に本日最初の打席が回ってきた。

ランナーは無し


いつものようにユラリとバットを構えて、やる気なさそうにバッターボックスに立つ。


投手なのでデッドボールだけは勘弁とばかりに、ホームベースから通常より離れた位置にポジションを取る。


今大会ノーヒット

相手投手としては、外角に放っておけばアウトが一つもらえる休憩所だ。


相手投手もテンポよく二球目を投げた。


(うん。線 見えてるな)

踏み込んで思いきり外角に描く線に合わせる。


「カツゥンッッ!!」


木製バットの乾いた音が響き

高々と上った打球はセンター方向へ伸びていき……



審判が右手の人差し指を立てて頭上で回した。



ホームラン!!


『わぁぁぁあぁぁあ!!!!』


すごい歓声だ。

塁を回るのは何気に初めてである。

初ヒットだから喜びもひとしおだ。


ホームベースに戻ってくると、部員達から手荒い祝福が待っていた。


「よく打てたな!!」

興奮した様子の一心と茂雄が話しかける


「相手ピッチャー油断しきってたからな。俺のやる気ない演技も中々だったろ」

「名演技でビビったわ」

「けど、この策は二度と使えないからな……」

「まさか決勝のこの舞台まで温存を……味方すら騙して」

「クレバーだろ?」


「「「「 いや、普通に打ててなかっただけだろ 」」」」


(テヘペロ)


総突っ込みを受けて爆笑するベンチ内

ひとしきり笑った後、茂雄がピリッとした顔で絞める。


「これで1-0 このまま守り切れば俺たちの勝ちだけど、お前らそれでいいのか?」


「「「  ?  」」」」


「タカシが投げて完封して、タカシがホームラン打って勝利。

『もうあいつ一人でいいんじゃないかな』って思われるぞ。」


「「「「 ぜってぇ嫌だ!!! 」」」」



闘志を燃やす俺以外のナインは気合十分だ




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