表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旅路の果て  作者: 灰猫
【序 章】プロローグ
1/29

0.雪融けを待つ(天恵7年2月下旬)

 走るってのは、単純至極。しかし、オレの想像を超える、魂を揺らす勝負が待っている。身の内に煌々と灯る青銀の焔は、何処まで墜ちても、決して消えない、何物にも代え難い光明だ。

 だからこそオレは、苦しくても、傷付いても、その刹那の永遠を、求めて止まない――。


   *


 オレの大学生活の思い出は、何時だってアイツ等と共に在った。気付いていなかっただけで、ずっと。

 そして伝説は幕を開ける。只管に春を待った、あの雪の日から――。


   *


 はらはら。はらり。冬の光の中を、白い綿が舞う。

窓辺に頬杖をついた青年――篠崎(しのざき)久蓮(くれん)は、見るともなしに、風に舞う白をその瞳に映していた。


「何ボサッとしてんだよ」


 久蓮の背後から同輩――清野(きよの)範昭(のりあき)がそんな声をかけてきた。その声を背中に聞きながら、久蓮は音もなく苦笑を零した。吐き捨てるように投げ掛けられたそれには、しかしながら、微かな心配の色が混じっていたことに、気付いていたから。

 久蓮はちらりと声の出所に視線を投げ、そしてすぐにそれを窓の外へと戻した。


「やー」


 いつものように軽い調子で、しかし、なんの温度も込められていない返事を投げる。いや、こんなものは返事とは呼べない、――か。

 落ちた沈黙。特段、居心地の悪いものではないそれ。範昭は、この後ろ姿を呆れと共に見つめているのだろう。自らの目で確かめずとも、久蓮にはそれが察せられた。そう。だって彼は、知っているのだから。久蓮の抱えた事情を――。


「はー……」


 そして落とされた、諦観を含んだ溜息一つ。一呼吸の後、そっと気配が近づいて来る。久蓮はそれを視界の外に置いたまま、ただ感じていた。


   *


 光の中を、初々しい顔がまばらに行き交っている。

 今日は、極北大学の二次試験当日。この北海道 極北市(北の果て)にある国公立大学の敷地は、広い。先程ジョグをした際は、ちょうど試験終了と重なったのであろう、悲喜交々(こもごも)の顔を浮かべた高校生で賑わっていたものだ。

 多くの人が行き交う風景を想起する。あの中の、幾人がここに通うことを赦されるのであろうか。――そして、あの中に、居るのだろうか。自分達と、自分と共に走りたいと。そう、心から願ってくれる者が。……居るのだろうか。


「まーた、巻き込むつもりかねぇ……」


 ふと我に返り、久蓮は独り言ちた。それでは、()()()()の二の舞ではないか。愛しい()()の顔が、浮かんでは消えた。

 けれども同時に、自分の求める自由は、決して独りでは掴めないことを久蓮は知っていたから。だからこそ、久蓮はこうしてこの極北の地で、三年間も機会を待っているのだ。自由の空に翔び立てる、その時を――。


――――そんな時が来るって? ……本当に?


 弱気が過った。もうじきここもバレるだろう。今まで隠し通せていたこと、それ自体が奇跡に近いのだから。タイムリミットが迫っている。覚悟なんて、これっぽっちも出来ていないけれど。動き出した時の先、自分の手には果たして、輝く未来が残っているのだろうか?


 じわり、じわりと、熱が体を巡る。それは、しつこく居座る膝の痛みだけではない。もっと奥深く、深く――。昔からずっと、求めてやまぬ、それ。どんなに痛め付けられようとも、消えない、それ。

 ちらり。久蓮は再び彼に視線をやる。途端に、ぱちり、と視線が絡み合った。久蓮は、そこで初めて、彼――範昭が久蓮を見ていたことに気がついた。


「もうすぐ、止むぞ」


――――ああ、オレは、こんなにも、切望しているのだ。もう一度、あの舞台に立つことを。そして――。


「はやく、融けないかなぁ」


 絡んだままの視線そのままに、久蓮はぽつりと呟く。範昭は軽く目を見開くと……次の瞬間笑みを浮かべた。


「春になったら、な」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ