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旦那の実家が、“城”だった。  作者: ※CASSIS※BERRY✕jamSoda.
“夫の実家は『城』だった。”
3/3

嫁、昔《出会いの頃》を、思い出し語る。

 其の遺跡での記憶は今でも最悪だ。“彼”との、はじまりだからだ。ーーーー



 ーーーー



 激しい雨が降った。過去に崩壊した都市は今は遺跡と為り、朽ちていた。地殻変動の影響で降った塵が積もったまま、人が離れた過去の都市は瓦礫と空間だけを彩って在た。変動の中心部からは大分離れた此の地への影響はそんなものだった。都市が果てたのは直さなかったからだ。人の手が足りなかった。人は人を癒す事だけで、手一杯だったのだ。避難された土地は、逃れた人々が帰る事無く、果てたのだった。落ちた瓦礫すら払われる事すら、無く。そんな地に哀しみを見たのは、私の様なトレジャーハンター達だろう。私の代の頃には随分その数も減ったらしい。珍しい存在と為っていた。もう既に。ーーーー



 その日の雨は何故か止まなかった。









 ーーーー


 「マールが此の前は面倒掛けたな。……あの日は助かったよ」


 “ロォーリディアズ・ティラピスト”と名乗ったその男は私に言った。長くて嫌な名前だと思った。彼の相棒の“マール・マーカー”というらしい男だが、その男は私に敵意剥き出しだった。理由ならば私の職業だろう。今時トレジャーハントッ?!と、彼は初対面で言い放ったのだから。その他にも、あるらしい。



 『若過ぎる』、そして『女独りでソロ』とだ。“パーティーくらい組んだらどうだ”と、苦言されたのだ。然し私は聞かなかった。と、いうよりは聞けなかった。



 パーティーとは『組む相手』が存在して初めて成立するのだから。不人気の難関職トレジャーハンターに、誰が成りたいと云うのか。もっともマール・マーカー氏に言わせれば、トレジャーハンター以外と組めという意味だった。私にもそれは判った。けれど無理だ。何故なら私の目的とは合わないからだ。


 彼は其れを理解ってくれなかった様だ。けれど、



 其れが私に何の理由になるのだろうと思ったのだ。何故なら彼は私には無関係なのだからだ。だから聞けなかった。そして彼は其れが気に入らなかった。それだけの事だった。私は勘違いしていたのだ。彼の言葉を。



 意味を。



 ××××××



 「マールのあれはな」と、ロォーリディアズ・ティラピスト、彼に教えられる迄、私は解らなかったのだ。




 ーーーー



 「マールが今頃心配してるなあ…」と、ロォーリディアズ氏は暗く日も落ちた遺跡の地で、呟いた。私の横で。私はその時はじめてマールさんの“言葉の意味”を、知ったのだ。



 「俺達は確かに冒険者だけどな? けど特に理由が有る訳でも無いしな、要はお前の“宝探し”の協力者(・・・)に成れるから、どうだ?“役不足か?”ーーて、意味だよ」と。



 私は勿論「‥‥(其れ)いまさら言われても‥‥」と返していた。彼の腕の中だった。雨が冷たかったのだ。致し方無い。そうだろう?そうだとも。



 そういう事に、しておいてくれ。××××




 私とて初めはロォーリディアズとどーのこーのなる気など、まったく無かった。いや、そんな暇無かったと言いたい。私は目的があって、トレジャーハントしていたのだ。つまり、目的の“品”を、探して在たのだ。だが。



 さんざん探したその“品”だが。…………………………。なぜかロォーリディアズが持っていたのだ。






 彼の相棒が、軽い怪我をした事があった。とある遺跡で。私は彼等と会うのはその時二度目だった。遺跡の入口で会ったのだが、特に会話は交わさなかった。目は合ったが。そして、中で鉢合わせた。その時軽く挨拶を交わし、自己紹介をしたが、その場で又別れた。けれど帰り時に又遭遇したのだ。その時マーカー氏は上の階層の脆くなった地盤を踏み抜き、下の階層へと落ち、怪我をした挙句魔物にも遭遇したところだったのだ。そして私がそれを倒した。生活費の足しに為るからだ。けれどマーカー氏はその事を必要以上に、意識してしまったのだ。魔物は二匹在た。犬系の、大型の、黒い奴だ。毛皮も牙も、何なら爪まで売れる。そこそこの稼ぎ。迷い無く倒した。そしてその奥のもっと大きな“気配”を倒そうと構えたダガーナイフを引っ込めたのは、



 “気配”が足を怪我したマール・マーカーと名乗った男だと気付いたからだった。殺気が凄くて私は彼を獲物(魔物)だと思ったのだ。



 『は?』と思った私は、強張った彼の表情を見て、怪我に気付いて手持ちの簡易セットで軽い手当を施した。治療用のポーションも有るには有ったが、彼の合意を得てから使うべきだと思ったからだ。生死を問う様な怪我には見えないし、毒も喰らっていなさそう。ならば彼が欲しない限り、要らないだろうと考えたからだ。とはいえ放置も出来ない。手当てで動けない様ならば、手を貸すのもあれなので、やはりポーションかと。手持ちが無いなら後払いで等と思案していたらば、無駄となったが。彼は手当てが終わると自分の手荷物から其れを出して飲み干していた。………、持っていたのだ。恐らくポーションを出す暇も無く、黒犬達に出くわしたのだろうと思われた。その頃には彼の“殺気”も、消えていた。まじこの男は(野性)だと思った。




 本当なら恐過ぎて逃げたかった位の、嫌な出来事だったのだ。つまり私はマール氏が、苦手なのだ。彼の殺気(気配)は私には強過ぎるのだ。




 つまるところ言いたいのは、私の目的の品を持っていると判ったロォーリディアズに、提案されたのだ。私は彼からそれを譲られる代わりに、文字通り“代償(丶丶)”を求めら(提示さ)れたのだ。私の求めた“品”とは、ひとつでは無く、複数あった。幾つかは私の手許に。全てが無いと完成しない其の宝の為に、私は彼の提案を受けた。つまり私は彼に口説かれたのだ。要は彼の求めた代償とは私だったのだ。最低と云う無かれ。



 あれはそれ程の“私”には“宝物”だったのだから。そして、




 “マール・マーカー”氏にはそれはがらくただったのだ。××××





 “最後のひとつ”を手に入れるよりも前に、私はロォーリディアズの“嫁”になっていたが、その頃もうマーカーは私達の前には居なかった。リディアズが私に手を出したのを知って、彼等は違ったのだ。けれど私はその事を知らなかった。



 つまりロォーリディアズ・ティラピストとはそんな男なのだ。そもそも私は彼とマーカー氏がどういう経緯で相棒だったのかすら、知らないのだ。ロォーリディアズは、そういう男だから。





 だから彼の“実家”が城だったと言われても、“へえ”と言ったのだ。彼はそんな男だからだ。けれど私の夫なのだ。この男は。

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