門番、不審者を制止する。
「……んっ」
「? なんだ? 如何した?」
ロォーリディアズは隣でミズルディアが呻く様に唸ったので、そう言った。彼女の溜息が聴こえた。右手を延したが心配に触れる前に問い掛けの答えは返って来たのだった。“夢をみた”と。
「ん〜?」
「あ〜、うん。出会って未だまだ最初の頃の。………“最悪”な、頃のね」と、彼女は答えたのだった。
ロォーリディアズは苦く笑った。××××
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ミズルディアとロォーリディアズが婚姻を神に、つまり教会へと届けてから、約三年程が経っていた。ミズルディアはロォーリディアズからは“帰る様な家は無い”と聞いていたのだが、先日の事だった。“里帰りする必要が出た”と聞かされたのだ。良く分からない説明をされてから彼女は彼と共に彼の実家へと向かう事と為ったのだった。正確に云うならば、其処は実家とは違うらしいのだが、親戚、親族の邸らしいのだ。彼の説明を噛み砕くならば、此れから行く場所とはロォーリディアズ、彼の従兄妹、又彼の叔父に当たる人物の邸なのだそうだ。理由は更に良く分からない。なんでも彼の従兄妹、つまり叔父の娘成る人物が、他所の家に嫁いだらしいのだ。其れを聞いたミズルディアは“………普通の事では?”と、思ったものだが、謂わば其の娘とは、所謂“ひとり娘”だったと。
つまりは今回ロォーリディアズは“世継ぎ問題”で呼ばれたらしいのだ。だがミズルディアには其処が不思議だった。“帰る様な家は無い”と発言していたロォーリディアズに、何故そんな問題が突き付けられるのか?がだ。
従兄妹が婿を取れば良かったのだろうが、どういう訳かその従兄妹殿は嫁に出てしまったらしい。彼に聞いたがロォーリディアズ自身も里帰りしてみないと何故そう成ったのかが、いまいち判らないらしいのだ。そして無視する訳にも行かないらしい。“難儀な事だ”とミズルディアは思ったのだ。××××
今は無き“ポメラ”の地近くの、“ポマーラ”の地、俗に“共和国”と呼ばれる地にて身を落ち着けて居た此の二人だったが、今は彼等は夫ロォーリディアズが生まれた地「‥‥‥テラピー‥‥?」皇国へと、向かっていたのだった。
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「‥‥‥初めて言ったよね? それ」
ミズルディアは思わず渋い顔で苦言した。夫の方は大して動揺も見せずに、言うなと返しただけだった。
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「“帰る家無い”ってのは、なんでよ?」
ミズルディアは懲りずに苦言した。ロォーリディアズも流石に渋々応え出したのだった。“それは”と。
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「実際、無いんだよ。俺が産まれて育った家自体は。あ〜所謂“家督”…だな。其れを他家に開け渡してあるんだ………だから無い。父親と母親は生きてはいるが………、“他国”で暮らしてる。そういう理由だよ……つまり、今から“呼び出された場所”てのは、な。俺の父親の“実家”だ。」
良く分からないので“へ〜そうなの”と、言って置いた。父親の実家ならば「お祖父ちゃんお祖母ちゃん家じゃないのそれ?」と。
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“テラピー皇国”とは。観光業を主軸にした、皇王治めし大国で在る。彼の“ガイサース王国”にも引けを取らないと云われる、豊かな国だ。“アロマ”と云われる香り立つ香油を使った製品が有名で、又其の原材料とも為る花々等も、美しい。其れ等が立ち寄る人々を魅了するのだった。又、
“食”にも通じていた。所謂“魔獣”だ。此れ等が住まう此の国においては、其れ等の肉も又人気だった。故に其れ等を狩る“冒険者”達にも利有る国だったのだ。人が集まれば、国は潤う。潤いは国を豊かにし又、人を潤した。彼の国はそんな国だ。××××
さてそんな皇国の、由緒有りきの、王住まう宮の前で、当然の様に宮の安全を万全にするべく勤めし門の兵は、不審な輩をみたのであった。どう見ても王宮とは無縁の男は其処へやって来たのだ。××××××
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「ーーで?」
「ーーな?」
テラピー皇国のとある“飯屋”で、とある夫婦はそう会話したのだった。彼女は不貞腐れた様子だった。流石のポーカーフェイス夫も、些かたじろいでいたのだった。「ま、食えよ」と。