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真実不明

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Twitter:@kiriitishizuka


 

 よく晴れた日の土曜日。

 美沙が村井と打ち合わせをしてから2日後のことである。


「やっと着いた」


 美沙はその建物の入り口に立つと、ハンカチで額の汗を拭った。

 そこには「国立国会図書館」という小さな文字と図書館の案内図が記載されていた。


「初めて来たけど……広いな」


 美沙はそのまま受付へと足を運び、利用登録者カードを登録する。

 登録をし終えると、すぐさま館内の端末に「週刊黒曜 1992年11月5日号」と入力し、一件雑誌が検索されると、貸出の申し込みを行った。


 受付でその雑誌を受け取り、閲覧室で雑誌をパラパラとめくり、あるページで美沙は指を止めた。


「名もなき遺体!"サトウタカヒロ"の謎に迫る!」


 タイトルにはゴシック体ででかでかと見出しが書かれている。

 美沙はその中身を一言一句漏らさず、事細かに読んでく。


「うそ……でしょ」

 中身を読んでいくうちに、美沙はそこに書かれている記事の内容に衝撃を受け、呆気にとられた。


<中略>


 私は取材を進めていくうちに、一つの疑念にたどり着いた。


「"サトウタカヒロ"という身元不明の遺体は、意図して駅に出現している過去の亡者ではないか」ということだ。


 私は過去に"サトウタカヒロ"が出現した駅を調査した結果、3つの駅がたどり着いた。

 ①静岡県 伊東駅(1970年2月8日) ②東京都 曳舟駅(1985年10月23日) ③千葉県 千倉駅(1989年4月15日)


 "サトウタカヒロ"という身元不明の遺体が出現したこの3つの駅に共通点はないが、遺体を目撃した証言が残っており、皆口を揃えて「突然死体が現れた」と証言している。


 また、"サトウタカヒロ"の死亡状況、背格好や服装、性別、年齢、顔の表情までそれら全てが同一であるという事実に私は驚愕した。


 当時の警察の検死や鑑識課の身元調査では詳しいことはわからず、聞き込み調査や情報提供を募った形跡はあるものの、杜撰な捜査であったことに間違いはなく、大した資料は残ってはいなかった。


 だが、ここで私には一つの疑念がわいた。

 もし、仮に"サトウタカヒロ"という遺体が幽霊の類であるのなら、なんらかの意味を持って出現しているに違いないと仮説を持った。


 私はその仮説をもとに、独自に調査を行い、ある一つの結論に至ったのだ。

 それは、「"サトウタカヒロ"は意図的に社会から抹殺された裏社会の闇である」という結論だ。


 読者の皆様には、このような突飛な結論が出てしまったことをまずは謝罪しなければならない。


 私は調査の中で日本の鉄道が初めて開通した明治時代まで遡る。

 過去の鉄道事故を調べ上げるうちに、少しづつではあるが日本の闇の部分が垣間見えてきたのだ。


 鉄道が開業した明治5年当初は、機関車に乗れる乗客は限られており、稼働率も低かったことから未整備なところが多々ありながらも、事故件数は少なく、人身事故に至っては指で数えられるほどの死亡者数であった。


 だが、電車の発達によって、蒸気機関車からそれらが入れ替わっていくにつれ、人身事故は増加の一歩をたどった。


 私が着目したのは「鉄道人身傷害事故」だ。


 いわゆる、ホーム上の飛び込みや転落、線路内立ち入りや列車接触のことを指すが、これらの死亡事故は原型を留めていることがなく、身元特定は遺留品に委ねられることが多々ある。


 そこに目を付けたのが、裏社会で動く影の存在だ。

 この世には昔から存在してはいけない人間、もしくは消えなければ都合の悪い人間が数多く存在していた。


 それらの人間を事故処理する方法の一つとして、人身事故が使われていたことということが調査で判明した。


 人身事故であれば肉片しか残らず、詳しい調査もされることがないために、遺体の遺留品のみで判断されることが多々ある。


 そこを逆手に取られ、スーツジャケットに"サトウタカヒロ"という刺繍を施したものを着せられた人間が遺体となって完成するという処理方法を取られていた。


 現在では、科学の進歩によってDNA鑑定などにより、ある程度その身元を特定することが出来たが、それでもなお完全に特定できるものはそう多くない。


 "サトウタカヒロ"として偽装された男たちは、社会から抹殺された人間の集合思念体ではないのだろうか。


 だが、あくまでこれらは仮説であって真実ではない。

 集合思念体というのはそもそも実体を持つものなのだろうか。


 過去に死んでいった"サトウタカヒロ"からのメッセージなのだとすれば、彼らは一体何を伝えたいのだろうか。


 "サトウタカヒロ"については未だ、数多くのことが謎に包まれている。


 もし、この"サトウタカヒロ"について情報をもっているかたがいれば、是非とも週刊黒曜まで情報提供を頂きたい。


 ◆


「青木編集長。言われた通り、今は廃版となった週刊黒曜を確認してまいりました。」


 美沙は青木のデスクの前に立ち、雑誌を複写したものを彼に手渡した。

 時間は夜の11時を回り、終電も近いことから、会社には青木と美沙の2人だけが残っていた。


「懐かしいな。かれこれもう30年近く経つのか」

 青木は、その複写を眺めながら懐かしむようにそれを見つめる。


「編集長、なんでこれを黙ってたんですか?」

「黙ってたわけじゃないさ。答えを先に教えてもあまり面白くはないだろう」


「これを書いたのは誰なんですか?」

「草木 俊介。俺が元居た新聞社の同期だったやつだよ」


 そういうと青木は、デスクから一枚の写真を取り出し、美沙へと手渡した。

 そこには若いころの青木の姿と、肩を組んで隣で笑う草木の姿がそこにはあった。


「やつはな、まぁとにかく熱いやつだったよ。真実のためなら身を焦がしてでも追及していくような危なっかしいやつでな。今のお前にそっくりだよ」


「そうだったんですか……」


「だがな。悲しいことに、若くして草木は死んじまったよ。自宅で首を吊ってな」


「えっ……それって……」


「何が草木を追い込んだのかはわからない。遺書も残ってはいたが、一言"すまん"とだけ書いてあったそうだ。確かに連日連夜家に帰らず仕事に打ち込んでて、一秒たりとも休んでいた様子なんて見られなかった。きっと、やつなりの信念があったんだろうな」


「いつ頃亡くなられたんですか……?」


「その記事が発行された一週間後にだ。だから、お前が"サトウタカヒロ"という言葉を残したとき、どこか寒気のようなものを感じたんだ。何か因縁めいた……草木の呪いのようなもんをな」


「編集長はこの"サトウタカヒロ"については何か知っているんですか?」


「いや、俺は草木の残した記事以上のことは知らない。だが、この記事を書き終わった後に草木と一度飲んだ記憶があるんだが、その時ぽろっと言っていたことは今でも鮮明に覚えている」


「なんて言っていたんですか?」


「"俺たちは何が何でも真実を暴かなきゃならない。国民の味方の警察も、結局は国家権力の下にある。国家に都合の悪いことは揉み消され、その真実を追求しようとしたものは罪人として葬られる。真実を追求することが罪になるのなら、誰かが犠牲になってでもそれを世に広げるべきだと俺は思う。消防士が見ず知らずの人命を、炎の中から命がけで助けるのと一緒で、俺たちはたとえ自分の命が危なかろうと、揉み消されようとする真実を奪取しなければならない。これは法に縛られず、国家権力に従うことのない俺たちだからこそ出来る仕事だ。俺はこれを多くの人を救うことの出来る天職だと思っている。だからこそ、俺はどんなことがあっても前に進んで行きたいんだ"ってさ。とにかく真っすぐなやつだったよ」


 青木はデスクの後ろの窓を開けると、その場で煙草に火を灯した。

 吐いた白い煙が、眠らぬ街のビル街へとふわふわと漂い、消えていく。


「編集長、ここ禁煙ですよ」

「いいじゃねぇか。俺とお前しかいねぇんだから、お前が黙っていれば俺は無罪だよ」


「そういうもんなんですかねぇ」

「そういうもんだよ」

 そういうと、青木の美沙から笑いがこぼれ始め、そこで大笑いをしてしまった。


「ったく、草木のやつ。結局真実まで辿り着いてねぇじゃねぇかバカ野郎」


 青木が窓に向かって小さく呟いた。

 その煙草を持つ右手が、少しだけ小刻みに震えていたことに美沙は目を背けた。


「青木編集長。私はまだこの取材を続けてもいいのでしょうか?」


 美沙は珍しく弱気の発言をする。


 未だに草木の自殺の謎が解けていない以上、この記事を書いたことが死亡の原因であったとも考えられる。

 まだ年端もいかない女性にとって、それは見えない恐怖そのものであった。


「あぁ、続けて構わない。草木がたどり着けなかった真実まで辿り着いてほしい。それがあいつの供養になるかもしれねぇしな」


 青木は美沙の肩を優しく叩いた。


「ありがとうございます!」

「もし、何かあれば俺に言えよ。必ず俺がお前を助ける」


 そういうと、青木はポケット灰皿に吸っていた煙草をしまい込んだ。

 美沙は青木の優しさに拳をぐっと握った。


 いつも険しい顔をして仕事に向き合う青木の背中が、美沙にはいつもに増して頼もしく見え、彼女の心の憧れに火を灯したのだった。


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[気になる点] 曳舟駅は東京都です。 [一言] 国家権力が動く場合は、ありがちな死因で葬ったり、行方不明者が白骨化した状態で発見されたとか処理すれば済みますが事件性が疑える状態でも本人が死んだ事を明ら…
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