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プロローグ

  グシャッ  

 聞いたことのない音に右手の違和感に気づく,

あるはずのそれがない,激しい血しぶきが失ったことを物語っている。

「――――――がああああぁぁぁ!?」

 

 血の気が引き,激痛が走る,思わず膝から崩れ落ち,真新しいコンクリートの上を転がり回る。


 逃げなきゃとは考えてはいなかった,ただ目の前の強大なる敵の存在は本能的に感じていた。


 もと来た道を駆け出す、「人のたくさんいる場所」に行けばいいものをこのときの僕は判断力が欠けていたのだろう。


 冬の北風が僕の逃亡を邪魔する。

 すぐに疲れ果て,息が切れる,今にも心臓が飛び出そうだ,血の味がする,

――――ちくしょう,どうして…

 

 必死の逃走劇の甲斐あってかバケモノはおってこない、気がつくとその場所に立っていた。


 なぜそこに行き着いたのかわからない。


 記憶にあるようでない、その寺は少しの風で吹き飛ばされそうなほどぼろい。

 何かが額にあたる…  これは桜の花びらか?

 ――おかしい…今は二月だ。冬の真っ只中だ。

 そうとも,そこは異様で,ぼろいにもかかわらずどこか厳かな雰囲気をも兼ね備えていた。

 しかし、自分の家にいるような安心感さへあるから不思議だ。

 「ん?」誰かいる,全身に緊張が走る。

 

 「なんだ君か」

 

 なつかしく,やさしいそんな声が聞こえた。

 昔からの知り合いのような...

 

 着物姿で美しい黒髪を風になびかせ,凛と佇んでいる。


 可愛らしい顔つきの中でどこか大人な雰囲気をも併せ持っている。

 「やっときた..なんか右手ないし...」

 

 まるで昔会ったような口調で文句を言い出す。

 いつ会ったのかどこで知り合ったのか全く思い出すことができない。

 しかし,思わずこんなことを言ってしまった。

   「……ただいま」





 日常の終わりであり,非日常の始まりとなったこの瞬間を僕は忘れない。

 

 

 

 

 


  

 



 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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