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王冠の爪跡

作者: 根木東洋

 低くなり始めた秋の陽射しが更に西へと傾いていた。到る所の柿の木や、ナツメの木などには多くの実が生っている。小学生の頃には木に登って実をもいで食べたりもしたが、とにかく柿だけはどの木へ登って食べてみても舌が痺れて千切れてしまう程に渋かった。

 名も知らない小振りな赤い花の蜜が甘くて何度も吸った。秋桜も到る所に咲いている。

 この町には諏訪湖を源流として、約二百十三キロメートル掛けて南流しながら太平洋の遠州灘へと注ぐ天竜川(てんりゅうがわ)が流れている。その川沿いの道を歩いていると下校のチャイムの音がまだ耳の奥で鳴っていた。

 友達といつも道草を食って公民館へ寄り、ロビーの自動販売機でジュースを飲むことが日課となっていた。最近では瓶のコーラがここでしか売られていないからである。缶のコーラはどこでも買えるが、アルミと言うか何か鉄の臭いがして不味い気がした。やはりコーラの味は瓶に限る。

 百円玉一枚と、十円玉一枚を投入して自販機から瓶を引っこ抜き、販売機に備え付けてある栓抜きで栓をこじ開ける。王冠がグニャっとくの字に曲がり、カチっという音を立てて自販機の中のゴミ箱へと落ちる。

 今までは百円玉一枚で買えたが、消費税という制度が導入されてから十円も値上がりをした。

 政治の事は全く分からない。総理大臣が竹下登なのか宮澤喜一だったのか。親も学校の先生も政治なんて誰も何も教えてはくれなかった。それでも少しでもインテリに近付きたくてブラウン管をつけてチャンネルを回しても、コメディアンが牛乳を吹き出して笑いをとったり、何やらベテラン映画監督が新しい風俗店を取材するなどだけで、何も得られない。

 孝平こうへいはコーラの瓶に口を当てて一気に飲み干した。炭酸が胸でつかえて逆流しそうになるが、その炭酸の苦さが、柔道の授業で自分よりも体格が小さい相手に簡単に投げられてしまった事や、高校入試が少し不安な事などを一気に洗い流してくれる至福の一杯だった。

 いつも気の知れた友人とコーラを飲みに来る。特に信治しんじとは一番の仲良しだった。中学校へ入学してから自然と仲良くなったが、最近はバイクの話ばかりで付いていけない。孝平も以前はバイクに興味があり、仲間とバイク雑誌の写真を見ては興奮したりもしたが、別の同級生から誘われてエレキベースを購入し、ロックバンドに熱中するようになってからは次第にバイクへの興味が薄くなっていった。

 他にも二人の女子もいつも付いて来る。ヘルシー思考な時代なのか、その女子二人は最近はコーラよりも烏龍茶の方が美味しいと言い始めた。

 二人の女子の内、一人は里恵りえ。孝平とは幼なじみである。小学四年生の頃には抱き合って意味も分からずに、将来は結婚しようと約束を交わした事もあった。

 里恵はアイドル歌手の岡田有希子の大ファンで、いつも上機嫌で歌を口ずさんでいた。飛び降り自殺の訃報がワイドショーで流れた時には、ご飯が喉を通らないと言ってしくしくと泣きながら孝平の胸に寄りかかった事もあった。

 今では黒くて少しだけクセのある髪を後ろで束ねて、淡いピンク色の輪ゴムで結えている。学校の校則では髪を結えるゴムの色は黒か紺と定められていたが誰も守らなかったし、それを指摘して注意する教師もいない。

 もう一人の女子は由衣ゆい。孝平とは放送委員で知り合った。色白で小顔で細身で背は低い。髪型はショートヘアで、全校生徒の女子ではただ一人、膝よりも丈の短いミニスカートを履いていた。他の女子は階段や強風などで下着が見えてしまうのを防ぐ為にスカートの下にブルマを履いていたが、由衣はミニスカートにも関わらずブルマは履かなかった。スカートの下にブルマはファッション性に欠けると思っていた。いつも仄かなシトラスの香りがしていた。

 中学校でも一番、二番を争う美少女だったが、年頃の男子達にとっては高嶺の花だと思い、かえって由衣に近付こうとする男子はいなかった。その由衣が、在日朝鮮人だったから男子が寄り付かない訳で決してはなかった。生徒達もそれは知ってはいた。そんな事は普段は忘れていたし、どうでもいい話だった。

 しかし生徒達の保護者達は違った。由衣の家に対しては差別的に接する大人達も少なくはなかった。孝平はその保護者達の言動がおもしろくないと思っていた。

「もう塾に行かなきゃだな。そろそろ帰るか」

 孝平はカバンに手を伸ばしたが、バイク雑誌に熱中していた信治が思い切り大きなげっぷを吐いて、館内に響かせた。

 里恵は表情をしかめた。

「もう、やめてよそういう汚いこと」

「汚いってさあ、げっぷは人間が炭酸を飲むと胃の下部食道括約筋が緩んで不要なガスを体外へ出してくれる大切な働きなんだよ」

「知らないわよそんな事…。ほんとデリカシーが無いっていうか」

「何を苛々してんだよ。あ、分かった、おまえ今日もしかして生理だろ?」

「はいはいはい全然違うしそんなの信治には関係ないわよ」

 由衣は一瞬微笑んだかのようにも見えたが、黙って烏龍茶の缶に口を付けていた。

 孝平は靴を履いたりして帰り支度を終えていた。

 里恵は少し気を取り戻して、皆に話し掛けた。

「ねぇ、今度の日曜日は久しぶりにご飯でも食べに行かない?」

「おお、俺はいいけど」と孝平は答えた。

「由衣と信治も平気?」

「うん、俺も平気だよ。まぁたまにはいっかな」

「うん、私も午後は家庭教師が来るけど、お昼なら抜けられるわ」

「じゃあ決まりね」




 この田舎の街でも喫茶店は何軒かは有ったが、いつも行く店はここ「珈琲喫茶マイルス」だけだった。

 店内を流れるBGMは有線ではなく、店主が好みのジャズのレコードを流している。

 カウンターには珈琲をドリップする為のサイフォンとアルコールランプが二つずつ置かれている。店主はいつもそのサイフォンを磨いていた。

 食事のメニューはナポリタンにミートソース。チキンライスが包まれたオムライスやビーフシチュー。

 他にもこの店オリジナルの特製マイルスピラフもある。ピラフの上にミンチのサイコロステーキが幾つか盛られて、サラダも付いてくる。初めて皆で注文した時には、ほっぺが落ちると言って、がつがつとフォークで口に運んだが、信治だけは具材のグリーンピースが嫌だと言って、次からは注文しなかった。

 この店で一番の人気メニューはハンバーグライスだった。ジューシーな手作りハンバーグにエビフライが二本添えられ、その上にイタリアから取り寄せている無農薬の白ワインビネガーと、ひまわり油で調理された自家製のタルタルソースがたっぷりと盛られたメニューだった。しかし千二百円もする為に中学生の孝平達にはとても手が出せなかった。その他にはミックスピザ、ミックスサンドイッチ、フライドポテト、ピクルスなどがあった。

 四人は自転車で喫茶店へと集まり、店内へ入った。

「何か久しぶりよねぇ」

「そうね、修学旅行が終わってから初めてじゃない?」

 無口な由衣がコンパクトミラーを覗きながら答えた。

 孝平と信治はメニューを見ていた。

 店の隅の席には、いつもベージュのニット帽を被った初老の男性が新聞を読んでいた。男性が座っている背中の壁にはゴッホと思われる向日葵の絵画が飾られていた。その為、孝平たちはいつもヒマワリおじさん今日もいるよな、などと噂をしていた。

「何頼む?私は特製ピラフにするけど」

「うん、私も」

「じゃあ俺も」

 三人はピラフに決めたが信治だけはミートソースにした。

「じゃあ飲み物は?私と由衣はレモンスカッシュ」

「俺達はコーラに決まってるじゃん」

 里恵は手を上げて店主を呼んだ。白髪混じりの女性の店主が注文を取りに来た。

 いつもありがとね、と店主は低い声で言いながらペンを走らせた。そして注文を取り終えてからゆっくりと厨房へと戻った。

「ねぇ今朝テレビ見た?そろそろボジョレーヌーボーが解禁なんだって」

「何だよそれ」

「ワインよ、信治そんなことも知らないの?」

「孝平は知ってるか?そのボンジョレとかってやつ」

「うん毎年聞くよこの時期は」

「由衣は?」

「そうそう、確かに毎年テレビでやるわよね」

「信治、一応ボンジョレじゃなくてボジョレーね。何か今年はここ数年では最高の出来なんだって。ねぇ、今度の日曜日に家で飲まない?」

「酒だろ?オレ飲んだ事無いし…」

「いいじゃない。ウチ、今度の日曜日はお父さんもお母さんも車椅子バスケのボランティアで居ないのよ」

「でも高いんだろ?そう言うの」

「ううん、ウチのお姉ちゃんが三千円位で買えるって言ってたわよ」

「そうなの?」

「うん。じゃあみんな決まりね。日曜日は約束だからね」

 注文したメニューは全て運ばれていた。

「信治、粉チーズ掛け過ぎじゃない?ミートソースが見えないじゃん」

「馬鹿だなぁ、これが通な食い方なんだよ」

「まあ何でもいいけど。孝平は瓶のコーラと、ここのコーラはどっちが好きの?」

「もちろん瓶に決まってるじゃん」

「でもここの方がレモンスライスが入っていて美味しそうじゃん」

「いや、炭酸が弱いんだ」

「じゃあここでコーラなんて頼まなければいいのに」

 孝平は確かに里恵の言う通りだとも思った。

「バンドはどうよ、ベースは上手くなったの?」

 ミートソースを頬張りながら信治が孝平の顔を覗いた。

「うん、コピーは飽きたからそろそろオリジナル曲を作ろうか、って話してるところだよ」

「へぇ、いいな孝平は気楽でさ。よっぽどじゃない限り、受験合格はほぼ決まった様なもんだからな」

「いや安心は出来ないよ。でも信治おまえは大変だよな、何てったって将来は医者だもんな」

 里恵はストローでレモンスカッシュを吸いながら得意気な口調になった。

「信治が医者になるなんて、変態医師になりそうなんだけど」

「あぁ好きに言えよ。俺が学ぼうとしている先端医療なんて里恵には説明しても分からないよ」

 孝平は少し驚いた。

「ほぉ、信治のカバンの中はエロ本しか入ってるの見た事無いけど、先端エロ産婦人科医療だな」 

「何だよそれ意味分かんないよ」

 信治は眉間に皺が寄った。

 由衣は白い歯を見せて微笑んでいた。

 店内には、レコードから軽快なジャズのトランペットが鳴り響いていた。ヒマワリおじさんは新聞を読みながら、ロマンスグレーな無精髭を撫でていた。




 空は朝から少し曇り気味ですっきりとしない天気だった。

 土曜日。孝平は自宅での受験勉強を抜け出して電車で駅二つの隣町のデパートへ出掛けた。念願だったG―SHOCKの腕時計の新デザインの発売日だった。この日の為に貯めておいたお年玉を切りくずした。このブランドの腕時計は同年生の中でも一番乗りだった。マイケルジョーダンのバスケットシューズやテレビゲームのコレクションでは同年生にかなり遅れをとっていた為、腕時計で名誉挽回を計っていた。

二万三千円という大金をレジで支払うのは産まれて初めてだったので緊張を極めた。購入を無事に終えると他の腕時計のデザインも気になり出して、しばらくショーケースを眺めた。白い手袋の女性の店員が、あらセンスいいわね、試着したかったら言ってね、と言ったが、孝平は店員に苦笑いを見せ、二つも買える訳が無いと思いその場を諦めて帰路の駅へと向かった。

 腕時計を手にした優越感と、貯金を切りくずしてしまっった罪悪感の様な気持ちが複雑に入り交じっていた。

 デパートを後にして階段を降りると四人の学生達がロータリーの脇で立ち話をしているのが目に入った。男子二人と女子二人だった。その中の一人が由衣だった。とても談笑をしている雰囲気とは思えず、明らかに由衣は絡まれている様子だった。

 ちっ嫌な感じだなあ…、西高の連中だ。孝平はそう思い恐怖を抱きながら近寄って話し掛けた。

「由衣、どうしたんだよ」

駅前の交番に自然と視線が届いたが、巡回中らしく警察官は誰もいない。

「おぉ、飛んで火に入る夏の虫だな」

「ばーか、今は秋だぞ」

「あははは!」

 金髪を後ろで束ねて三つ編みに編んだ女子高生と、男子高生の二人がテンション高く盛り上がった。

 三つ編みの女子高生は孝平に近寄った。

「何だおまえ、この女の彼氏か?財布出せって言っても出さねえんだよ。おまえからも頼めよ」

 孝平は恐怖で身も心も固まり、何も言い出せなかった。

 三つ編みの女子高生は孝平の襟を掴んだ。

「おまえ何黙ってんだよ!早く財布出せって言ってんだよばーか!」

 襟掴みの状態から、更に孝平を腰投げでアスファルトへ叩き付けてから、胸の辺りを強く踏みつけ、顔へ唾を吐き捨てた。その後に由衣の顔へも渇き気味な唾を吐いた。しかし由衣は微動だにしなかった。細い黒髪が風になびいた。一瞬シトラスの香りが漂った。

 由衣は三つ編み少女を激しく睨みながら左手をミニスカートのポケットへそっと忍ばせて、メリケンサックに細い指を通した。

 三つ編み少女も由衣を強く睨んだ。

「何だよおまえ、なにチューボーのクセにガン飛ばしてんだよ!」

 その直後、由衣の左の強烈なビンタは三つ編み少女を一撃で仕留めた。メリケンサックの鉛が頬の肉と骨を打ちつける鈍い音がした。三つ編み少女はその場でうずくまり、その内にしくしくと泣き始めた。それはただ頬の痛みに泣き始めただけではなく、今までの行いを省みる涙でもあった。

 由衣は続いて男子高生二人を睨んだ。

「おまえら皆殺しだからね!孝平にこんな事をしやがって」

 男子二人はたじろぐしかなかった。

「あたしの兄貴はね、甲信極東連合の総長なんだよ!」

再びうずくまった三つ編み少女を睨んだ

「おい三つ編み!おまえ必ず兄貴の舎弟達にレイプされるから覚悟しておきなよ!」

 由衣のその甲高い声は駅前のアスファルトやビル群に木魂した。

 男子高生達は三つ編み少女を引き起こして駅の方へと後退りをした。

「おい、甲信連合ってよ、今の話しがもしウソだったらその時は覚えとけよ!」

 その男子高生の濁声もまた駅前のアスファルトやビル群に木魂した。

 孝平は安堵の表情で起き上がった。腕時計は無事だった。

「由衣、今の話しは絶対に誰にも秘密のはずだろ。大丈夫なのか?将来警察学校を受けるのに影響があるって」

「いいのよ孝平。それよりもあの三つ編み、私絶対に許さないから」

 由衣はメリケンサックを握ったまま、まだ駅の方を睨んでいた。肩で息をしながら、小さな背中は怒りと恐怖で震えていた。

 遠くの空の方で雷が鳴った。さっきよりも雲が低く立ち込めていた。




一晩中雨が降っていたせいか、かなり肌寒い。木々やあらゆる植物。山並み。電線やアスファルト。瓦やトタン屋根の全てが雨上がりに濡れていた。天竜川は飲み込まれそうな程に濁流がうねって轟音を響かせていた。

 約束の日曜日、皆は里恵の家に集まった。孝平達は自転車を停め、二階の里恵の部屋へと上がった。ボジョレーヌーボーは女子大生になる里恵の姉が準備してくれてあった。その姉はベランダで煙草を吹かしていた。

「おぉこれがボジョレー、お姉さんありがとうございます!」

 孝平は興奮しながらリュックから瓶のコーラを数本取り出して炬燵の上に置いた。炬燵の上には人数分のワイングラスが既に準備され、陽射しがグラスの縁に反射していた。

「孝平いいのよ、飲み切れなくて残った分は私が全部貰うんだからさ」

 由衣はドーナツ店から大好物のドーナツをテイクアウトして来た。信治はコンソメ味と、のりしお味などのポテトチップスを持って来た。

 里恵は得意料理の一つでもあるBLTサンドを作って、キッチンから持って上がって来た。

 BLTサンドは程良いキツネ色に焼いたトーストに和がらしの効いたバターを塗り、ベーコンとたっぷりのレタス、トマトを挟み、耳を切り落としてから三角形になる様に半分に切られていた。それ以外にも、生クリームと缶詰の蜜柑やパオナップルを挟んだ甘いトーストもあった。

「さあ始めましょうよ」

 里恵はおもむろにボジョレーヌーボーの栓を開けた。栓はコルクではなかった。準備されたワイングラスに一杯ずつ注いでいった。

 四人は初めての体験に鼓動が高まった。全てのグラスが赤ワインで満たされた。

「姉ちゃん乾杯の音頭を取ってよ」

「いいけど里恵、私が買ってきたんだから一週間お風呂上がりにマッサージだからね」

 里恵は少しだけ頬を膨らませて微笑んだ。

「ボジョレーヌーボーに乾杯!」

 中学生達にとっては、赤ワインの苦味と甘味と酸味はボディーブローの様にじわじわと味覚を襲った。

「これがボジョレーかぁ、かなり苦いよな」

 信治は赤ワインを旨いとも不味いとも言わずにBLTサンドに手が伸びた。

思っていた味とはかなり違った。期待した程にボジョレーヌーボーの話題には華が咲かなかった。

「やっぱ里恵のBLTは最高だなぁ」

「信治ありがとう。残さないで全部食べてってよね」

 姉だけは一年振りのボジョレーヌーボーに満面の笑みで舌鼓を打った。

「昨日は何があったのよ」

 姉は心配を寄せたが、孝平は天井を仰ぐだけだった。

 里恵はチョココーティングの上にアーモンドクランチの乗ったドーナツに手が伸びて、得意気な口調になった。

「大体からして由衣に喧嘩を売るなんてほんと命知らずよね。兄貴が連合の総長で、本人は将来の警視庁捜査一課なんだから」

「おまえ捜査一課って意味分かって言ってんのかよ」

 信治はつっ込まずにはいられなかった。

 由衣は数年前、正月に家族で皇居の一般参賀へ行った時以来、皇居前広場を馬に乗って警備する警視庁の騎馬隊に強い憧れを抱いていた。

「あれから昨日ね、兄ちゃんが家に帰って来たからその事を全部話したの。そしたら兄ちゃんの舎弟達が今週バイクで西高に乗り込むって」

「ふうん、二年前みたいにまた全国ニュースになるかもな…」

 孝平は腕時計を自慢したかったが、まだ勿体なくて箱から出せずに家に置いて来た。三つ編み少女に蹴られた胸には、まだ少しだけ違和感が残っていた。

 皆は思い思いに食べたい物を食べ、飲みたい物を飲みながら将来を語ったりしてくつろいでいた。姉は録画しておいた音楽番組を見始めた。

 孝平は無茶をしてワインを三杯飲んだところで天井がぐるぐると回り始めてノックアウト。姉が毛布を自分の部屋から持って来て優しく掛けてくれた。柔らかくてまだ姉の温もりが残っている様な気がした。

 しばらくして夢の中から背中に何か痛みを感じてうつらうつらと目が覚め始めた。その痛みを感じる背中の、何か硬い異物感が有る所にゆっくりと手を伸ばしてみると、瓶のコーラの王冠が背中に食い込んでいた。

 

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