完璧な俺、買い物に行く
秋月忍さま主催「気楽に読めるアホコメディ」企画参加作品です。
俺の名は、神木経之丞。仕事は警備員だ。名は体を表すの言葉どおり、神の道を行く男だ。
自慢じゃないが、大抵のことは人並み以上にできる。というより、はっきり自慢になってしまうが、完璧主義者なので、何をやらせても完璧にやってしまう。
ガキの頃は、周りから妬まれたものだ。
つい先月も、庭の草むしりをしていたら、つい夢中になって丸1日やってしまった。そのお陰で、1か月経った今も、雑草1本生えてこない。綺麗なもんだ。
さて、今日は家電量販店に買い物に行こうと思っている。
食材の類は全て生協で賄っているからいいが、エアコンはそうもいかない。
普段はしないカジュアルな服装に着替えて出掛けよう。
キッチンのガスの元栓を閉め、テレビの主電源を落とし、玄関に鍵を掛けて、さあ出発だ。
…いや、風呂場のガスの元栓は閉めただろうか。…夕べ閉めたはずだよな。いや、しかし。
悩んでいる時間が勿体ない。
再び玄関の鍵を開けて、家に入る。
風呂場のガスは…うん、やはり閉まっている。そうだよな。この俺に限って、そんな初歩的なミスをするわけがない。なんでこんな当たり前のことが気になったんだろうな、馬鹿馬鹿しい。
気を取り直して、再び玄関の鍵を掛ける。
少し歩いたところで気が付いた。
玄関脇の小窓、今朝、空気の入れ換えのために開けてたよな。閉めただろうか。
いや、所詮は小窓だから、万が一開いていたとしても、泥棒に入られる心配はないんだが、もし雨でも降ったら…。
いや、今日の降水確率は10%だ。降るわけがない。現に、俺は傘を持って出ていない。
いや、しかし、万が一、億が一、降ったら…。
仕方なく家に引き返して外から見てみると、やはり小窓は開いていた。
再び鍵を開けて家に入り、小窓を閉める。
さすが俺だ。こういうところもちゃんと気が付く。完璧だな。
再び鍵を掛けて、家を出た。
少し歩いて、ふと思い出した。
庭側の大窓にサブロックを掛けておいただろうか。
空き巣被害の70%は、道路に面していない大きな窓を破って入られたものだという。だから、通常のサッシの鍵だけではなく、別に鍵を付けた方がいいのだそうだ。
完璧な俺は、その点も抜かりはなく、人が通れるサイズの窓には、全てサブロックを付けている。
だが、それをロックしてきただろうか。
まずい。空き巣は、僅か30分ほどで仕事を終えるという話だ。俺が買い物に掛かる時間は、1時間を超える。空き巣が入るには十分すぎる時間だ。
やむなく家に戻って、4か所あるサブロックを1つずつ見て回った。全てロックされている。当たり前だ。俺は完璧なんだから。
また玄関に鍵を掛けて家を出た。
待て! 4か所? サブロックは5か所あったはずだ。あと1か所、どこを忘れていた!?
こうしちゃいられない。俺は家に戻って、全ての窓をチェックした。最後の1か所は、ベランダの窓だった。こんな重要なところをどうして忘れていたんだろう。
だが、そこもしっかりロックされていた。さすがは俺だ。存在自体は忘れていても、きっちりやることはやっている。
再び家を出て歩く。
今度こそ完璧だ。
玄関の鍵! 今、玄関の鍵を掛けたか!?
慌てて戻って確認すると、やはり鍵が掛かっていなかった。危なかった。
鍵を掛け直して、今度こそ出発する。
玄関の脇の小窓は、大丈夫だったろうか?
いや、さっき確認したじゃないか。
キッチンのガスの元栓は閉めたか? さっき閉めた…いや、それは風呂場だ。サブロックは何か所あったっけ?
…だめだ、落ち着かない!
結局、俺は出掛けるのを諦め、電気屋を呼ぶことにした。
割高になるが、仕方ない。
俺の名は、神木経之丞。仕事は、自宅警備員だ。名は体を表すの言葉どおり…。
強迫神経症の神木くんでした!