6話 合格発表……ん?
翌日
ベッドから、体を起こした俺は、服を着替えて、宿を出た。昨日はミルネライト魔法学院の入学試験だったからな。よく王都を回れなかったんだよな。
俺は少し歩いて、商店街へ入っていく。
やはり活気がいいな。人々が生き生きとしている。こういう姿が人間で一番美しいのだろう。
という自分でもよく分からないことを考えていると、何やら人だかりが見えてきた。
「オラ!立ちやがれ、テメェ!!」
「ひ…っ!」
大男3人に絡まれているのは、小さい子供2人。兄弟っぽいな。周りの人は、なんだなんだと群がっている。
そんなことしてるなら、衛兵でもなんでも呼んでこいよ…。
どうやら、片方の子供が持っていたアイスを大男に付けてしまったらしい。そんなんで怒んなよ。大人気ないなぁ。
「今すぐ弁償しやがれ、このクソガキが!」
「ひっ…」
「ちっ、腹立つなぁおい!!」
子供の態度が琴線に触れたらしく、大男が拳を振り上げた。
やれやれだ。
「はい、そこまで」
俺は、大男と子供の間に割って入った。ついでに拳も止めた。手を使わずに。
俺は割ってはいる寸前に彼の拳の軌道上に、空間魔法でクッションのようなものを作っていた。いやぁ、ほんと便利だよなこれ。
「なんだぁ、このクソガキ。てめぇも殺されたいか!」
「近くで騒ぐなよ、この子達怖がってんだろ」
「うるせぇ!何したか知んねぇが、くたばれ!!」
再度男は拳を振り上げる。俺はその場から動かない。拳はそのまま俺に向かって振り下ろされる。
俺は男の懐に潜り込み、腕を掴んで、相手の勢いを利用して、投げた。それはもう計画通りだった。ひとつを除いて。
えぇぇぇ。そんな風になるかぁ。
そう、男は地面にめり込んでいた。男の後ろにいた2人は俺と目が合った途端、しっぽ巻いて逃げていった。こいつ、どうすんだよ。
周りの人達は、ワッという歓声と拍手をする。あ、これ面倒くさいやつだ。理解した俺は一目散にその場から離れる。
後ろから大きい声で「ありがとう」と、そう聞こえた気がして、俺の口はにやけていた。
たまには人助けもいいんもんだな。
***
「あの動き、流石だよエルくん。無駄のなく洗練された動き、見事だよ」
エルが、大男を投げ飛ばした時、ある人物がエルを見ていた。その頬は、少し火照っている。
「でも、まだだ。まだ君の実力はそんなもんじゃないだろう?なぁ、エルくぅん…」
そいつは笑う。そして、路地裏の暗がりに消えていった。
***
昨日はいい事をした。それだけでこんなに気持ちがいいとは。俺はそんなことを考えながら服を着替えていた。
今日は、一昨日あったミルネライト魔法学院の合格発表日。まぁ、300年前の知識がある俺にとっては児戯に等しいものだったけど。
宿を出ると、昨日とは比べ物にならないくらい人がいた。これ全部受験者か?だとしたら倍率凄そうだな。
俺は、緩み切っていた気持ちを引き締めて、学院へと足を運んだ。
ミルネライト魔法学院に着いた時には、沢山の人でごった返ししていた。なんだこの人数。
そこかしこから聞こえてくる、喜びや悲しみの声を耳で捉えながら、俺は自分の名前を探す。
「エル、エル、エル………ん?」
無い。ないないない!俺の名前が無い…だと…。そんな馬鹿な。俺が、この俺が失格だと…。前世では『魔法博士』とか呼ばれてた俺が…。すまん、盛った。
数十分間こんな感じで、周りの人に凄い目で見られてた気がする。
「はぁ、仕方ない…。これは父上にどう言えば…」
俺は踵を返す。ミルネライト魔法学院へと背を向け、歩きだした。
なんか後ろで一際大きい声が上がった気がするが、今の俺にはどうでもいい事だった。
一方、合格発表場所ーー
「はい!では、これより、推薦、及び特待生入学者の発表を行いまーす!!」
用意されたのは、ひとつの台車。布が被っている1枚のボード。一人の男性がその布に手をかける。一気に引く。ボードには、1枚の紙が貼られてあった。
そこには、3人の人物の名前が。
その者らの名はーーー
***
「はぁ、どう報告すべきか」
俺はミルネライト魔法学院という、このテライト王国で一、二を争う学院を受験した。そして落ちた。この一件を父上にどう報告すべきか…。
「はぁ……」
意外すぎてため息しか出ないな…。でも落ちたものはしょうがないか。
俺は、気持ちを切り替えて歩き出す。すると視界の端にある店を見つけた。
「『魔法古書』か…。よし」
魔法古書店。それは古くからある魔法書を取り扱っている店だ。まんまだな。だが、相当古いものもあるらしく、たまに年季の入った掘り出し物が見つかることがある。
「これは…」
俺の目の前にあるのは200年前の魔法書。俺が転生したのが300年前だから、100年経ったものか。
内容は酷いものだった。衰退しきった魔法が津々浦々と書かれているだけであり、何も進歩したものがない。
「実技試験の時、他の受験者が使っていた魔法はお世辞にも優れているとは言えなかったからな」
200年前から衰退しきった魔法が今日まで継がれたのかもな。
書物を読み耽っていると、後ろに人の気配がした。
一人か…。殺意はないが、一応念のために魔力を練っておくか。魔力を練り、臨戦態勢に入る。
そして勢いよく振り向くとーー
「あれ、君は…」
そこには、実技試験の相手の少女が立っていた。