4話 肩慣らしと入学試験
少し間が開きました。すみませんm(_ _)m
さて、やっと着いたか。馬車が止まったことが分かったのは、揺れが無くなったからだ。
俺は、馬車のドアを開け、外へ出る。初めて踏む、王都の道。見たことの無いような店や、数え切れないほどの人。
その中の一人になった気分は、少し嬉しい気がした。
「では、行くか」
俺は目の前にある、何千人もの人が集まっているミルネライト魔法学院にーーー
向かわず、身を、踵を翻して歩き始めた。
俺の後ろから、俺を呼ぶ行者の声がする。
うるさいなぁ。聞こえてるよ。ただ、
「気になる奴がいただけだ」
俺は、行者に聞こえないだろうが、はっきりと口にした。
向かう先はーーー
***
「ま、やはりここだよな」
俺は、目の前にいる4人の男の前にいた。
てか、なんてベタな展開なんだ。これがお約束というやつか……。
俺がいるのは、薄暗い路地裏。俺がここに来るまでに、怪しいと思った奴は、何人かいた。
だが、
「揃いも揃って、全員路地裏とは……」
ベタすぎて驚いたぞ。好都合だがな。
俺は目の前の男たちを一瞥し、臨戦態勢に入る。
男たちは、殺気のこもった目をこちらに向けている。
慌てない……か。なるほどな。こいつらは、並大抵ではないということか。
俺は、魔力を練ろうとする。が、寸前に男達が動いた。俺は中断し、回避行動に移る。
あくまで最小限にだ。少しでも隙を見せたら、多分…。
考え事をしながら、男たちの攻撃を避ける俺に、鋭い刃が迫る。
考え事してる暇もないか。
俺は瞬時に魔力を練る。回避行動を取りつつ、自身の魔法を構築することが、ここまで大変とは思っていなかった。
死角から迫る刃に俺は身を捻り、正面から来る刃は屈んで避ける。
「クソ。なんて連携だよーーーッッ!」
俺がここまで苦戦するとは思わなかった。
だが、俺の準備は整った。狙いは、あそこ!
「空間切断:圧縮!!」
俺は、魔法を放つ。瞬時に空間が歪み、亀裂が生まれる。
すると、男たちが亀裂に引き寄せられた。
俺が狙ったのは、1動作後の相手の癖。奴らは、俺を攻撃した後、少しの間をあけ、4人が一箇所に集まっていた。そこに魔法を叩き込んだ。
困惑する4人に俺は間髪入れずに、魔法を放つ。
「相手が悪かったな。空間切断」
今、暗い路地裏の誰の目にもつかない小さな争いが終わりを告げた。
***
「ふぅ…」
俺は額を流れる汗を拭う。多分、こいつらが父上の言っていた連中だろう。
だが、ここまで手こずることは無いと思っていた。
「まだ、俺も甘いな」
空間魔法を極めたが、対人間を極めた訳では無いと、知らされた一戦だった。
俺は乱れていた息を整えた。そして路地裏を抜ける。
足を運ぶ先はミルネライト魔法学院。ようやく、入学試験だな。試験前の肩慣らしには、些か疲れたがなんら問題は無いだろう。
俺は、列に並ぶ。多すぎて学院側も対処が難しいのだろう。列を作らせ、捌くのを楽にしたんだと思う。
「次の人、どうぞ!」
おっと、俺の番か。俺は、屈託の無い笑顔をこちらに向けている受付へ歩を進める。
「ようこそ、ミルネライト魔法学院入学試験へ!今からあなたには筆記試験と、実技試験を受けてもらいます。まずは、お名前を教えてください」
「エルです」
「エルさん、ですね。それではこの受験票とバッチを持って、あちらの方にお進み下さい!頑張ってくださいね!」
俺の名前が書かれた受験票とバッチを受け取り、俺は受付の示された方へ足を進める。
道中、俺はどこからともなく発された殺気に嫌気を覚えていた。
「殺気……。だが、殺す気は…ない?」
殺気に晒され、俺は辺りを見回す。
「上か……」
出処は上、ミルネライト魔法学院からだった。
だが、何故かは分からない。もうここで試験が始まっているのか、それとも俺の……。
そういえば、ここには兄上が通っているはず。まさか兄上が…?
胸の内にあるもやもやを抱え、俺は再び試験会場へ、足を運んだ。
***
「ふむ、気付くか」
薄暗い部屋にぽつりと放たれた言葉が残る。言葉を発した本人は窓枠を離れ、部屋のドアの扉に手をかける。
「…少し…楽しみ」
またしても放たれた言葉の余韻が部屋を巡る前に、その人はその場を後にした。
***
試験会場に足を運んだ俺は、受付から渡されたバッチを手にしていた。
「これは、所謂学生証みたいなもの。だが、何故まだ受かるとも分からない者達にこれを…」
いろいろ考えているうちに時間になった。
俺はバッチを胸に付け、最初の試験である筆記試験に臨んだ。
『第一問 誰もが使える初期魔法とは何か、答えなさい』
そんな初歩的な問題から始まり、徐々に難解になっていく。俺は、答えを書き進めていった。
「ぬるい。あまりにも…」
筆記試験は恙無く終わった。が、俺は呆れた。
「300年経って、魔法が進歩していると思っていたが、逆ではないか。あんな問題、子供でも解ける」
そう、ぬるすぎたのだ。書かれている問題は基礎のものばかり。勉強すれば解ける程度。これで優秀だと?
周りでは、
「うわっ、今年のは難しかったな」「あれは無理でしょ」「流石に一二を争う学院……」
とか聞こえる。お前ら勉強してるのか?そう思っていると会場に教員と思しき人物が姿を現す。
メガネで白衣を纏っている女。ガチガチの科学者だな。
科学者…教員は俺たちを、「次の会場に案内する」と告げ、さっさと歩いて行く。
おいおい、ちゃんと説明しろって。俺は心の中でそう呟いた。
数分歩いた先は、大きいドーム型の建物の中だった。
入った途端、胸につけていたバッチが光りだした。
何だ。何が起きている。
俺はバッチを見る。と、光はどこかに伸びている。先には、水色の髪の少女。背丈は低めで、無表情な顔はどこか凍てつく大地を連想させる。
と、そこで科学……教員が口を開ける。
「今、諸君らのバッチから光が放たれていると思う!」
俺たちに聞こえるように叫んでいる。確かに光ってる。結構眩しいな、これ。
そこで教員の女が言葉を紡ぐ。
「そして!光がどこかに伸びているだろう!」
確かに伸びているな。あの少女に。
「諸君らは光の先のものと模擬戦を行ってもらう!これが筆記試験に次ぐ、実技試験だ!」
なるほど、そういうことか。これが、この学院の実技試験という訳か。
俺は少女に正対する。彼女の表情は崩れていない。
少し怖い気がする。それは何故かまだ知らない。
俺は、ミルネライト魔法学院実技試験を迎えた。
目の前の少女との模擬戦を。
良ければ感想、レビュー、ポイントを是非お願いします。