3話 強さの秘密と学院
この世界には、魔法がある。古の神々から引き継いだ超常の力。
様々な種類の魔法がある中、誰もが最初に覚える、所謂《初期魔法》というものがある。これが《空間魔法》だ。
俺は前世で初めて空間魔法に触れた時、とてもワクワクした。この魔法は便利で使い勝手がいい。更に、自分の思うがままに空間を弄れる。
だが、圧倒的な欠点があった。
攻撃力が皆無なことだ。
他の魔法と比べ、攻撃力が全くない。ただ、空間を弄れるだけ。それは幼い子供が、玩具に慣れる為の玩具のようなもの。
だが、俺は諦めなかった。どうにか空間魔法を工夫出来ないか模索した。そして見つけた。
《追加魔法》を。
追加魔法。それは読んで字の通り、魔法に何かを追加する魔法だ。俺は追加魔法を見つける前に、空間魔法を攻撃に特化させたもの、《空間切断》を取得していた。
追加魔法を見つけてから、空間魔法は格段に進化した。俺が転生する際に加えた、『次元超越』『魂転換』も追加魔法のそれだ。
という事で、俺は空間魔法を極めることにしたというわけだ。
……いや、別に他の魔法に適性がないわけではないぞ。ただ単に空間魔法に魅入られただけだ。
っと、父上は…………何やってんだ。そんな大口開けて、だらしないな。全く。
「父上、終わりましたよ」
「……はっ!え、エルか」
「何言ってるんですか父上。ここには俺と父上しかいませんよ」
まだ若いんだから、ボケないで欲しいものだ。
それにしても後ろの死骸どうしたものか。
一応消しておくか、邪魔だからな。
「空間切断:収納」
俺は死骸に向かって魔法を行使する。すると死骸を中心に、空間が歪み、一瞬の内に飲み込んでしまった。
再び目を向けると、目を点にした父上の姿。
やれやれ、この人はどうも、驚くことが好きらしいな。
***
俺たちは熊を狩って、家に帰ってきた。というかまともに家見るの初めてな気がする。
全体的に白で塗り固められている。てか、真っ白すぎんか?
家に入った途端、父上から
「後で、執務室へ来なさい」
と、言われたから自室で本を読んだ後行きますか。
しばらく経った後、俺は執務室に足を運んだ。
いくら身内とはいえ、無作法なのは許されまい。
俺は執務室のドアを軽く数回叩いた。
「入りなさい」
奥から父上の声がした。さて、何の話か。
俺はドアを開けて、礼をした後に、ドアを閉めた。そして、父上の机の前まで移動する。
「何か、御用があるのでしょうか」
「ああ、実はお前を魔法学院に行かせようと思ってな」
「学院、ですか」
魔法学院といったら、我が兄ドルジが通っているところではないか。今頃何しているのだろうか。
にしても、魔法学院か…。少し興味があるというのが俺の心境だ。元々、魔法には興味がある。我が父だけの魔法では些か、今の魔法を知ることが出来ないからな。
「…分かりました」
「それは何より。さて、学院がどこにあるか説明を…」
「それについては、既に承知していますので」
そう、知っているのだ。全く、空間魔法とは素晴らしいな。
「そんな……いや、エルなら有り得るか…」
父上も、俺に順応してきたな。流石は父上だ。
さてと、俺は準備をする為、自室へ帰るとするか。
俺が踵をかえそうとすると、父上が待ったをかけた。
「どうしたのですか、父上」
「いやなに、学院周りに不審な人物がいるらしくてな。エルなら大丈夫だと思うが、気を付けておけ」
「ご忠告、ありがとうございます」
父上には感謝だな。そいつを見つけてたら、多分、刻んでいたと思うぞ。
***
俺が、父上から魔法学院についての話を受けてから、数日がたった。そろそろいくか。
準備していた荷物を空間魔法で取り込み、俺は家を出た。
家を出てすぐそこに父上がいた。そのすぐ後ろには馬車がある。
「出るのか…」
「はい」
短い会話だったが、これが最後というわけではなかろう。
俺は父上をじっと見ている。
「そうか。ではこれに乗れ」
そう言うと父上はその場を動いた。
俺は馬車に乗り込み、椅子に座る。
「気をつけるのだぞ」
全く、抜けているところはあれど、やはり父上は父上か。
俺は父上の言葉にこう返す。
「行ってきます」
そうして馬車を走らせる。小さくなっていく屋敷に、俺は少し寂しさを覚えながらも、これからの学院生活を楽しみにしていた。
おっと、まずは試験を合格せねばな。さて、どんな奴らがいるだろうか。楽しみだな。
***
俺が行く学院、名を『ミルネライト魔法学院』と言う。名前の由来は、昔テライト王国の国王が、ミルネラという女性と学院で恋に落ちたとか何だとか。そんなこんなで、ミルネライトらしい。
入学には試験があり、ひとつは筆記、もうひとつは実技という、オーソドックスな内容となっている。
ミルネライト魔法学院は国内で、一、二を争うくらい優秀な学院である。それ故に、毎回入学希望者が多いとのこと。
おっと、そうこう考えているうちに、王都に着きそうだ。
魔法学院、300年前はなかったが、如何なものかな。
俺は高く聳える門を抜け、王都に入っていく。
まだ見ぬ新たな世界に胸を高鳴らせながら。