2話 森の主
15歳になった。気付けばなっていた。時間の流れとは早いものだな。
15歳になったとて俺の一日は変わらない。唯一変わったことといえば、ドルジが魔法学院に通い始めた事だろうか。
最近ドルジは魔法のトレーニングを毎日行っているらしい。元々、才能があったがトレーニングで、更に力をつけたらしい。楽しみだな。
そんな事を考えながら、今日も今日とて書斎で本を読み漁っていた。
「てか何冊あるんだよ。あれから9年間毎日読んでるけど、まだ半分しか読んでないぞ。」
流石に多すぎでは?などと考えていると、書斎のドアが開いた。
「おお、やはりここか」
「父上。何か御用が?」
入ってきたのはユネイ伯爵。俺の父上だ。厳密には俺の義父だが。
「いやなに、以前お前を拾った森の事について話しただろう。そこの魔物達が活発化してきてな。討伐に行ってくる」
なるほど。そんなこともあったな。俺も気になるからついて行きたいな。
「俺もついて行っていいですか」
声にでてた。だが、これで父上の反応を見ることが出来る。頼む父上、首を縦に振ってくれ。
「仕方が無い。まぁ、そのつもりでここに来たしな」
よし、流石父上。
俺は心の中で目の前の父上を賞賛しまくった。
「私よりも強いエルを連れていかないのは、かえって討伐が困難になりそうだからな」
「いえ、そんな事は」
若干むず痒さを覚えながら俺は頭を掻く。
俺は読んでいた本を閉じ、立ち上がる。
「それでは、支度をしてきます」
「ああ。準備が完了次第、すぐに行くぞ」
ドアに手をかけ俺は考えた。
どんなやつだろうな。
きっと俺は今、悪い顔をしている気がする。
***
俺達は今、父上と兵士数人で森に訪れている。
懐かしいな、この森。俺が転生してから、もう15年か。
俺は森を歩きながら辺りを見渡す。茂みがガサガサ揺れている。
「数は……3か。魔法を使うまでもないな」
俺は飛び出してきた魔物に相対した。
兎型の魔物。見た目こそ愛くるしいが、その実、人や家畜を食べたりする。非常に獰猛な奴だ。
俺はふと思う。
「そう言えば日課がまだだったな」
先程魔法を使わないと言ったが、撤回させてもらう。
日課を済ませがてら、今の時代で魔物に通用するか、試させてもらうとしよう。
先に言わせてもらおうか。
「相手が悪かったな」
***
俺の周辺には魔物の死骸が、いくつかの部位に分かれて散らばっている。
呆気ない。実に呆気なかった。
まさか魔法1つでここまでなるとは。俺の方が驚きだぞ。
「おーい、エルー。大丈夫かー」
草木をかき分け、我が父、ユネイ伯爵が顔を出した。
俺の足元を見て、眉をぴくりと動かした。
「派手にやったな、ははは……」
苦笑いをしつつ、俺に語りかける父上。
俺は父上に一瞬目を向け、歩き出した。
「早く行きましょう、父上」
「ん?あ、ああ。そうだな」
少し歩いたところで、俺は立ち止まる。
風向きが変わった。鳥もやけにうるさい。これは……
「何か……来るな…」
元々空間魔法で気配は分かっていたのだが、今それが動き出している。
明らかに他の魔物とは違う、大きな違和感。
「もうすぐ、ここに来る。しかも一直線か」
じゃあ、少し開けた所に出ようか。俺は全力疾走して森を駆け抜ける。奴の反応も近い。
そういえば、父上どこいるんだよ。まぁ、いいけどさ。
駆け抜けた先は少し開けていた。
気が外側に円を描くかのように、まばらに生えている。川もあるな。
「さてと、ここらでいいかな」
俺は足を止める。その場に一人、佇んでいたが、段々と音が近づいている。
雲行きも少し怪しいな。濡れたくは無いんだが…。
空を見上げていた俺の視界に、一つの影が躍り出た。
それは、俺の前にズシンという重々しい音と共に着地した。
毛むくじゃらな体に血走った目、剥き出しの牙には、他の魔物の血らしきものが付着している。
それはーーー
「何だ、ただの熊じゃないか」
そう、熊なのだ。でもこいつは前世で見たことがあるぞ。
だが、あれはもっと大きかったはずだが。
じっと熊を見つめていると、後ろから音がした。
何かと思い振り向くと、そこには父上の姿が。
「あ、父上。ご無事でしたか」
「おい?!エル!後ろ後ろ!!」
ん?後ろ?再度振り向くと、熊が眼前に迫っていた。
というか腕を振り下ろしている最中だった。
俺は声ひとつ上げずバックステップで、間合いをとる。
隣には父上がいた。
「あの熊何ですか?」
「あ、ああ。あれは剥牙熊と呼ばれる、危険度が高い魔獣だ。この森の主だな」
声が上ずっているぞ父上。驚きすぎではないか。
あの熊そんな奴だったのか。そんな危険そうには見えないがな。
俺は熊に正対し、歩き始める。
後ろから、父上の声が聞こえるが、どうでもいいことだ。
熊は、俺が近づいてくるのを確認するや否や、猛突進をしてきた。
速いな。見かけによらず。
そんな事を思っていると、熊は速度を活かし飛び上がった。
これには俺も驚く。
「ほう」
熊は急降下してくる。速度と質量を加味すれば、当たれば、俺は文字通りぐちゃぐちゃになるだろう。
誰がなってやるかよ。
俺は魔力を練り上げる。
熊よりも速く精密に。
熊よりも強く鋭く。
練り上げた魔力を魔法へと転換し、俺は放つ。
「空間切断:歪曲」
放った魔法は俺と熊の間に出現した。
空間が上と下にズレたと思えば、歪みだし、渦を巻いている。
熊が迫る。俺は目を逸らさずに熊を見る。
熊が魔法に触れたことを確認して、俺は言う。
「相手が悪かったな」
熊は伸ばした腕から、ズタズタに引き裂かれて行った。
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