表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

1話 エル、拾われる

 ここはテライト王国近郊の森。

 俺ことエル=シグマはーーーー籠の中にいた。


 やれやれ。転生した矢先にこれか。先が思いやられる。

 思わず溜め息を着きたくなるが、体は赤子のそれなので、着けなかった。はぁ、不便だな。


 する事もなく、ただただぼーっとしていたら右側から、木の枝が折れる音がした。


 何だ……?魔物……ではないな。


 茂みから出てきたのは、一人の男。

 見たところ40代って所か。



「こんな所に……捨て子か……」



 おいおい、捨て子とか言わないでくれ。何か悲しくなる。否定は出来ないが。

 とりあえず俺は、適当に声を出した。



「あぅ、あぅ……」



 思うように声が出せんな。仕方が無いか。

 俺の声を聞き、男が俺を籠ごと持ち上げた。



「可哀想に…。こうなったら私が……」



 お?

 こうなるとは思っていなかったが、都合よく進んだな。

 あとはこのおじさんに、拾われて育つか。拾われなくても、どうにかなるけど。



「ん?紙…」



 おじさんが何か呟いたが、紙だと?

 あ、ほんとにあった。えっと、なになに。



『この子の名前はエルです』



 俺は、俺を捨ててくれた人に感謝した。だって、前世と名前違ったら何か違和感あるんだから。




 ***




 俺が拾われて5年が経った。この5年で俺はいろんなことを学んだ。


 例えば、俺が今生きているのは、転生前の世界から約300年後の世界だったということだ。


 300年前、勇者が魔王を倒して、このテライト王国は更に繁栄した。


 だが、エル=シグマは忌み嫌われている。どうせ、あの勇者の事だ。王に告げ口でもして、俺が逃げ出したとかほざいたのだろう。


 俺にとってはどうでもいいことだ。

 他には、俺を拾ったのは、テライト王国の有力貴族である、ユネイ伯爵という事も知った。


 ユネイ伯爵は魔法の天才とも言われているらしい。是非とも、お手合わせ願いたいものだ。


 因みに、俺を拾ったとき何であそこにいたんだろうな。まぁ、これもどうでもいいことだ。


 特筆すべきは、魔法が進化したことだ。

 以前、ユネイ伯爵に見せてもらった魔法が未知の魔法だった。少し、ワクワクするな。


 おっと、もうすぐ夕飯の時間だな。今日は何が出てくるのだろうか。少し楽しみだな。


 俺は本を閉じ、銀色に輝く髪を揺らしながら、ドアを開けた。




 ***




 翌朝



「いい朝だ」



 ベッドから体を起こし呟く。俺の日課は、まず魔法が正常に働くかをチェックする。いつ戦闘になっても良いようにだ。



「よし、いつも通りだな」



 正常に作動する魔法を見て、俺はベッドを抜け出す。



「着替えるか」



 思い立ったが瞬間ーーー

 ドアが勢いよく開かれ、魔法が飛んでくる。


 やれやれ、懲りないな。

 俺は飛んでくる魔法に対し、魔法を起動する。



「空間切断」



 魔法は跡形もなく消え去り、静寂がその場を制した。

 ドアの奥から現れたのは、ユネイ伯爵だった。



「はっはっはっ!またしても駄目だったか!」


「朝から大きな声を出さないで下さい。父上」



 豪快な笑い声を上げながら入って来た父上に対し、俺は静かに対応する。これも俺の日課である。

 というか、ノックぐらいしろよ……。


 俺が3歳の時に、うっかり父上の前で魔法を使ってしまったのが事の始まりだ。


 何があったかは忘れたが、俺と父上が決闘をする事になって、俺が圧勝したんだった。

 3歳相手に何決闘申し込んでんだ、この人。



「早く着替えろよ、エル。朝稽古だ」



 父上が部屋から出ていくのを確認して、俺は着替え始める。


 また、あいつ来んのかな。そう思うと俺は知らず知らずの内に溜め息を着いていた。




 ***




 朝稽古とは、筋トレと魔法の同時発動の事だ。

 父上が考案した、独自のトレーニングだ。


 案外楽しい。鍛えることなんて無かったからな。

 最近では、体を鍛えることも大切らしい。魔法のセーフティがどーたらこーたらだとか。


 するとそこで、向こうから一人の少年が歩いてくる。

 はぁ、またあいつか。



「おい!この落ちこぼれ!今日もこの俺様が直々に稽古をつけに来てやったぞ!」



 こいつは、父上の息子のドルジだ。俺の義兄にあたる。

 魔法の才能がそこそこあるが故に、こんなねじ曲がった性格となってしまった、可哀想な奴だ。



「兄上……。俺は好きで空間魔法を使ってるんです」


「うるさい!落ちこぼれ風情が、口答えするな。大体それしか使えないではないか」



 そんな事はないんだが……。些か使い勝手が悪すぎるんだよな、他の魔法じゃ。



「そんな事はいいからとっととやるぞ!」


「分かりました」



 俺はげんなりとしながらトレーニングを中断し、立ち上がる。



「今日も俺様の魔法に怯えろ!」



 俺が立つなりいきなり魔法を打ってくる。火球ファイアボールか。その歳にしては中々だがまだまだ甘すぎる。



「どーだ!びびったか!」



 カスってすらないのにそれとは…。

 よくもそんな事が言えるな。いっそ笑えてくるぞ。



「どんどんいくぞ!!」



 いやらしい笑みを浮かべ、ドルジは叫ぶ。

 うるさいなぁ。早く終わんないかな。


 十分した後ドルジは、ゼーハァゼーハァ息を吐きながら、こちらを見てくる。


 完全に魔力切れだな。

 もっと鍛えればいいのに。



「もう、いいですね?兄上」


「ま、待て……。まだ、勝負は……」


「着いています。兄上は魔力切れですから」



 俺はそう言い放ちその場を後にした。後ろで、ドサッという音がした。

 やれやれ、相手が悪すぎたな。




 ***




 家に帰ってきた俺は、真っ先に風呂場へ。体が汗で濡れている。最悪の状態だからな。


 出てきた俺は服を着て、書斎へ向かう。大体俺はここにいる。今は知識を蓄えるべきだからな。


 夕刻まで書斎にこもった後は、夕食を済まし、また、書斎へ戻る。



「ん?明かりが……」



 誰かいるのか。そう思い書斎を覗き込む。

 あれは……ドルジ…?


 そこに居たのは朝、魔力切れを起こしていたドルジだった。懸命に魔法に関する本を読んでいる。


 どれだけ俺に勝ちたいんだよ。

 でもまぁ、

 嫌いじゃないぞ。努力している姿は素晴らしいものだ。


 俺はドルジを見たあと部屋に帰って、ベッドに入った。

 寝る子は育つって言うしな。皆も寝ろよ?


 これで俺の一日は終わる。


 そんな日々はあっという間にすぎて行き、気付けば俺は、15歳になった。

良ければ感想、ポイント、レビューなどお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ