1話 エル、拾われる
ここはテライト王国近郊の森。
俺ことエル=シグマはーーーー籠の中にいた。
やれやれ。転生した矢先にこれか。先が思いやられる。
思わず溜め息を着きたくなるが、体は赤子のそれなので、着けなかった。はぁ、不便だな。
する事もなく、ただただぼーっとしていたら右側から、木の枝が折れる音がした。
何だ……?魔物……ではないな。
茂みから出てきたのは、一人の男。
見たところ40代って所か。
「こんな所に……捨て子か……」
おいおい、捨て子とか言わないでくれ。何か悲しくなる。否定は出来ないが。
とりあえず俺は、適当に声を出した。
「あぅ、あぅ……」
思うように声が出せんな。仕方が無いか。
俺の声を聞き、男が俺を籠ごと持ち上げた。
「可哀想に…。こうなったら私が……」
お?
こうなるとは思っていなかったが、都合よく進んだな。
あとはこのおじさんに、拾われて育つか。拾われなくても、どうにかなるけど。
「ん?紙…」
おじさんが何か呟いたが、紙だと?
あ、ほんとにあった。えっと、なになに。
『この子の名前はエルです』
俺は、俺を捨ててくれた人に感謝した。だって、前世と名前違ったら何か違和感あるんだから。
***
俺が拾われて5年が経った。この5年で俺はいろんなことを学んだ。
例えば、俺が今生きているのは、転生前の世界から約300年後の世界だったということだ。
300年前、勇者が魔王を倒して、このテライト王国は更に繁栄した。
だが、エル=シグマは忌み嫌われている。どうせ、あの勇者の事だ。王に告げ口でもして、俺が逃げ出したとかほざいたのだろう。
俺にとってはどうでもいいことだ。
他には、俺を拾ったのは、テライト王国の有力貴族である、ユネイ伯爵という事も知った。
ユネイ伯爵は魔法の天才とも言われているらしい。是非とも、お手合わせ願いたいものだ。
因みに、俺を拾ったとき何であそこにいたんだろうな。まぁ、これもどうでもいいことだ。
特筆すべきは、魔法が進化したことだ。
以前、ユネイ伯爵に見せてもらった魔法が未知の魔法だった。少し、ワクワクするな。
おっと、もうすぐ夕飯の時間だな。今日は何が出てくるのだろうか。少し楽しみだな。
俺は本を閉じ、銀色に輝く髪を揺らしながら、ドアを開けた。
***
翌朝
「いい朝だ」
ベッドから体を起こし呟く。俺の日課は、まず魔法が正常に働くかをチェックする。いつ戦闘になっても良いようにだ。
「よし、いつも通りだな」
正常に作動する魔法を見て、俺はベッドを抜け出す。
「着替えるか」
思い立ったが瞬間ーーー
ドアが勢いよく開かれ、魔法が飛んでくる。
やれやれ、懲りないな。
俺は飛んでくる魔法に対し、魔法を起動する。
「空間切断」
魔法は跡形もなく消え去り、静寂がその場を制した。
ドアの奥から現れたのは、ユネイ伯爵だった。
「はっはっはっ!またしても駄目だったか!」
「朝から大きな声を出さないで下さい。父上」
豪快な笑い声を上げながら入って来た父上に対し、俺は静かに対応する。これも俺の日課である。
というか、ノックぐらいしろよ……。
俺が3歳の時に、うっかり父上の前で魔法を使ってしまったのが事の始まりだ。
何があったかは忘れたが、俺と父上が決闘をする事になって、俺が圧勝したんだった。
3歳相手に何決闘申し込んでんだ、この人。
「早く着替えろよ、エル。朝稽古だ」
父上が部屋から出ていくのを確認して、俺は着替え始める。
また、あいつ来んのかな。そう思うと俺は知らず知らずの内に溜め息を着いていた。
***
朝稽古とは、筋トレと魔法の同時発動の事だ。
父上が考案した、独自のトレーニングだ。
案外楽しい。鍛えることなんて無かったからな。
最近では、体を鍛えることも大切らしい。魔法のセーフティがどーたらこーたらだとか。
するとそこで、向こうから一人の少年が歩いてくる。
はぁ、またあいつか。
「おい!この落ちこぼれ!今日もこの俺様が直々に稽古をつけに来てやったぞ!」
こいつは、父上の息子のドルジだ。俺の義兄にあたる。
魔法の才能がそこそこあるが故に、こんなねじ曲がった性格となってしまった、可哀想な奴だ。
「兄上……。俺は好きで空間魔法を使ってるんです」
「うるさい!落ちこぼれ風情が、口答えするな。大体それしか使えないではないか」
そんな事はないんだが……。些か使い勝手が悪すぎるんだよな、他の魔法じゃ。
「そんな事はいいからとっととやるぞ!」
「分かりました」
俺はげんなりとしながらトレーニングを中断し、立ち上がる。
「今日も俺様の魔法に怯えろ!」
俺が立つなりいきなり魔法を打ってくる。火球か。その歳にしては中々だがまだまだ甘すぎる。
「どーだ!びびったか!」
カスってすらないのにそれとは…。
よくもそんな事が言えるな。いっそ笑えてくるぞ。
「どんどんいくぞ!!」
いやらしい笑みを浮かべ、ドルジは叫ぶ。
うるさいなぁ。早く終わんないかな。
十分した後ドルジは、ゼーハァゼーハァ息を吐きながら、こちらを見てくる。
完全に魔力切れだな。
もっと鍛えればいいのに。
「もう、いいですね?兄上」
「ま、待て……。まだ、勝負は……」
「着いています。兄上は魔力切れですから」
俺はそう言い放ちその場を後にした。後ろで、ドサッという音がした。
やれやれ、相手が悪すぎたな。
***
家に帰ってきた俺は、真っ先に風呂場へ。体が汗で濡れている。最悪の状態だからな。
出てきた俺は服を着て、書斎へ向かう。大体俺はここにいる。今は知識を蓄えるべきだからな。
夕刻まで書斎にこもった後は、夕食を済まし、また、書斎へ戻る。
「ん?明かりが……」
誰かいるのか。そう思い書斎を覗き込む。
あれは……ドルジ…?
そこに居たのは朝、魔力切れを起こしていたドルジだった。懸命に魔法に関する本を読んでいる。
どれだけ俺に勝ちたいんだよ。
でもまぁ、
嫌いじゃないぞ。努力している姿は素晴らしいものだ。
俺はドルジを見たあと部屋に帰って、ベッドに入った。
寝る子は育つって言うしな。皆も寝ろよ?
これで俺の一日は終わる。
そんな日々はあっという間にすぎて行き、気付けば俺は、15歳になった。
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