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0話 思い立ったが転生

不定期ですがよろしくです

 


「もう、充分だから。エル、お前は王国に戻ってくれないか?」


 俺は目の前にいる勇者からそう告げられた。目の前には禍々しい程の魔力を放っている黒い城。

 俺ことエル=シグマは、現在勇者一行の魔術師だ。だが今、その勇者本人から直々に、解雇通知を受けている。



「何故だ。俺はきちんとこなしているが…」


「違う、その逆だ」


「逆、だと?」



 理解できない。逆とは一体どんな…?

 俺が怪訝そうな顔をしていると、慌てながら勇者は言った。



「エル、お前は良くやってくれた。俺たちをここまで導いてくれたのは他でもないエルだ」



 余計に分からない。なら何故今この時に抜けなければならないのだ。この城の主──魔王を倒さねば、世界は救われないと言うのに。



「エル、お前は王国に戻って、王に伝えてくれ。この勇者が必ずや、魔を滅すると」



「……仕方が無い。俺は王国に戻らせてもらう」


「すまない…」



 何を謝るのだ。勇者の、成すべきことを成そうとするその意気込みは、俺は嫌いではない。

 俺は自分の荷物を持ち、勇者の前に出る。



「それではな。勇者、お前が魔王を討ち取るのを期待するぞ」


「ああ、エルも王によろしく頼む」



 短い言葉を交わし、俺たちは別々の道へと体を向ける。


 だが何故だ。



 去り際に見えた勇者の口元は、酷く、醜く、歪んでいたのは。






 ***





「良くやってくれた、エル=シグマよ」



 俺は今、テライト王国宮殿の謁見の間に片膝をついている。労いの声を掛けているのは国王だ。



「ありがとうございます、王よ」



 顔を上げながら俺は王に言った。



「うむ、ゆるりと休まれよ」



 国王にそう告げられ俺は謁見の間を後にした。


「帰ってきたな。この街に」


 久々に帰ってきた街にどことなく笑みを零しながら、ポツリと零した。

 変わらぬ商店街、出店のおっちゃん、客寄せの女性。全てが懐かしい。

 あの日、王国の外に蔓延っていた魔物を、倒し回っていた時に、勇者と出くわしてから一年と半年か。


 物思いに耽りながら、我が家を目指す。商店街の路地裏へ回り、人目につかない道を歩き、ようやくたどり着いた。



「やっと、帰ってきたな」



 家のドアに手を掛け、開けようとするが、直ぐには開けなかった。


 いや、開けられなかった。


 誰かいるな。しかも4……5人か。

 上手く隠れているつもりか知らんが、甘いな。


 俺は魔力を練り上げ、何時でも魔法を打てる用意をする。


 さて、いくか。


 ドアを開け、部屋を見渡した。出来るだけ平然を装いながら足を進める。

 数歩歩いたところで、影が動いた。


 数は……5か。いい連携だ。


 俺は歩みを止め、魔法を行使する。






「相手が悪かったな」





 ***




 さて、どうしたもんか。


 今、俺の前には5人の人が横たわっている。


 殺してはないぞ。安心してくれ。

 そんな事を思いながら、そいつらを物色していた。



「ん?……これは……」



 左から二番目の奴の首が一瞬光った。俺はフードを脱がせ、確認する。



「ははっ…そういう事か」



 首には、勇者を信仰する宗教の紋章があった。


 さしずめ、俺を殺して俺という存在を無かったものにしたかったって事か。



 なぁ、勇者。



 残念だったな、相手が悪すぎる。



「うーん。でも、どうしたものか。勇者が居ないからな」



 ちょいと説教したいところだが、何も出来ることは無い。

 というか、ぶっちゃけ暇である。久々に国外へでて、魔物でも討伐しようか。いや、止めておこう。



「そうさな…。転生でもしてみるか…」



 俺は元々転生してみたかったし、実はもう理論も構築済みである。

 実験はしていないから些か、不安ではあるが、まぁ、問題なかろう。



「さてと、それじゃ……そうだ。勇者に置き手紙でも残しといてやろう。俺が死んだかどうかわかんないだろうしな」



 俺は早速、神と羽根ペンを用意する。ペン先をインクに浸し、スラスラと書いていく。



「ふぅ…。こんなもんか」



 ちなみに、今のふぅは言いたかっただけだ。

 さて、あとは転生するだけだ。俺は静かに精神を統一して魔力を練り上げる。転生に必要な魔力は酷く精密な作業で練り上げるしかない。

 十分近くたった後に、俺は魔法を起動する。



「空間切断:次元超越・魂転換」



 目の前の空間が歪みだし、切り開かれた。


 久々に集中したな。まぁいい。ここに入れば理論上転生できる。失敗したらお陀仏だがな。


 俺は何処かワクワクしながら、歪んだ空間に足を運んだ。

 あと数歩、足を進めたら俺は、何百年か先の未来で転生する。


 あと一歩、踏み出したらそこは、未来。俺は早まる鼓動を耳で捉えて、笑う。



「さあ、行こうか。この先の未来が魔法の進展した、素晴らしき未来であると信じて」



 俺は踏み出す。新たな人生を迎えるために。自身の魔法を試したいがために。



 そうして俺は空間に吸い込まれるかのように入っていった。




 ***



 エルが歪んだ空間に入ったあと、空間は元に戻った。何事も無かったかのように、乱れなく消えた。



 エルの机には文字が綴られた紙と、羽根ペンが置かれている。


 紙には勇者宛の言葉が書かれていた。







『勇者へ


  相手が悪かったな


  エル=シグマ』


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