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98話 頑張る日々 32「才能と伝えたいこと」

これは夢だと分かっている。

これは夢だと知っている。

分からないのは、

知らないのは、

ただ起き方だけで。


山と積み上げられた、死体。

川のように流れる、血液。

なるほど屍山血河とはよく言うもので。

昔の合戦でも似たような光景があったのだろう。

ただ、違うことは、

死体のどれもがこちらを見ている。

あぁ、首のない死体も。

上半身がない死体も。

こちらを見ているのが分かる。

彼等があげるのは怨嗟の声。

何故死ななければならなかったのか、

それを問う声。

死体達はこちらへ、こちらへとゆっくり這って来る。

逃げる場所など、ありはしない。

死体の山が周りを囲んでいる。

這いずって来る死体、山から落ちてくる死体、死体死体死体。

死体に群がられながらも、こう思う。

あぁ、今回はあの子達がいなくて良かった。

そうして、死体の山が新しく築かれる。


唐突に場面が変わる。

首がない者、胴体に穴がある者。

彼らは巨大な槌を持って僕に群がり、思い思いに槌を振るう。

例え同じ境遇の者が先にいても、僕と一緒に叩き潰す。薙ぎ払う。

きっと、僕が抵抗すれば槌は防げるのだろう。

でも、抵抗なんてできない。

僕の両手を、両足をゴブリン達が掴んでいる。

あぁ、最初に殺した子達だろう。

それに抵抗なんてする気も起きない。

彼等のは正当な報復だ。

潰される、潰される、潰される。

潰される、つぶされる、ツブサれる。

つぶサレる、つぶさレル、ツブサレル。

潰されては甦る。

あぁ、この夢は心地が良い。

痛さが罪を拭ってくれるようで。

死ぬほど痛い。

死ぬほどイタイ。

死ぬほど、痛かったのだろうな。

また、潰される。


場面が変わる。

巨大な銀色の山がある。

血のように赤い河が流れる。

気づいてはいけない。

巨大な黒くまた所々に赤の色を反射する山がある。

血のように赤い河が流れている。

気づいてはいけない。

巨大な黄金の光を放つ山がある。

血のように赤い河が流れている。

気づいてはいけない。

なぜ山のように見えるのかなど、考えてはいけない。

まるで□□□□から□と□を取り除いたようだなど。

血のように赤い川が流れている。

赤い河のような血が流れている。

上流から下流へ何かが流れている。

気づいてはいけない。

コレは僕を壊す物だ。

近寄ってはいけない。

コレは僕を決定的に壊し尽くすものだ。

「何か」は人の姿をした物だった。

4人。

眼窩から血を流す、骸骨。

人の形をし、苦悶の表情を浮かべる木。

そして、首がない、夫婦。

気づいてはいけない。

気づいては・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いけなかった。

それがハーティだと、ハーヴィだと、スコールだと、ヴィトだと、スロールだと、そして両親だと。

気づいてはいけない。

しかし、気づかない筈がなかった。


「あああああああああぁぁぁぁぁあ嗚呼あああっぁぁぁぁぁぁあ嗚呼あああああぁぁあ嗚呼ああああアアああああああアアアアアアアああああああああああああああああああああ!!!!」



身体が揺れた気がした。


・・・

・・・


「トール!トール!目を覚ませ!トール!」

とハーティが圧し掛かっている。

思わず彼女の頭を触る。


「・・・・・・・・・ハーティ?」


「うむ、我だ、ハーティだ。ここには汝を脅かすものは何もない、何もいない!気を確かに持て!!」


「ハーティ!!」

と強く強く抱きしめる。

「他の皆は!!??」


「おるよ、安心せぃ」

とハーティが抱きしめ返してくれる。


ハーヴィも、スコールも、ヴィトも、スロールも両親も心配したようにこちらを見ている。

皆の頭を触り、生きていることを実感し、そしてここが家だと気づき、安心した。

安心したらまた堪えきれずに泣いてしまった。

皆が抱きしめてくれたので、声をあげて泣いてしまった。


・・・

・・・


ハーティをきつく抱きしめながら、ここ2日程寝ていたことを聞かされた。

ずっとうなされていたらしい。

聞かされていたほうはたまったものではないだろう。

・・・悪夢を見ていた僕もたまったものではなかったが。

その間に色々事後処理をしてくれていたことも聞かされた。

そして、最後に全員から「無理をするな!」と懇々と、それはもう懇々と聞かされた。

スープを飲んでいるときも、ヴィトに汗を流してもらっている時も、水を飲んでいる時も。

それはもうずっと聞かされた。

皆が涙を流しながら。怒るのではなく、ただただ、この身を案じて。

ハーヴィまでが涙を蓄えながら、説教してきたのは驚いた。それと同時にどれほどの心労をかけたかもよく分かった。

それからは最後に叫んでいたという僕の夢の話になった。

そしてまた怒られた。

勝手に殺すなと。

ハーヴィとハーティからは我等を殺せるものなぞおるはずがあるまいと。


それからは僕の悪夢の話になった。


「でも、どんな悪夢の中でも、君等がいなくなることが一番辛かった」

とぽつりと零すと皆が静かになって、また抱きしめてくれた。


「さて、この子がもう悪夢を見ないですむようにするためにはどうすれば良いと思う?」

と父さんが最初に口を開いた。


「父さんは最初に動物を殺した時はどうだった?」


「えっ、僕かい?そうだなぁ、しばらくは肉を食べられなかったけど。それ位かな。そんな悪夢は見なかったよ」

と残念そうな顔をして頭をくしゃりと撫でてくれた。


「ふむ、殺すことが当たり前になるまで殺すか?」

とハーティ。


「それはそれで、この子の心に大きな影を落としそうだわ」

と母さん。


「殺すことが当たり前になったら、トールさんらしさがなくなるのでは?」

とスロールも懐疑的。


「そもそも、何故、魔物を殺した位でそのようになっているのだ?」

とハーヴィ。


「ふむ、やはり自分の手で殺したから、感触とかでしょうか。あとは食べるための狩りとは違いますからね、無為に殺したという罪悪感ですかね」

とヴィト。


「しかし、我等の空腹は満たしたぞ、また倉庫には肉が溜まった。無為ではあるまい」


「事実と本人の認識は必ずしも一致しないんですよ」


「そうだね、罪悪感だと思う。いや、罪悪感からだ」

と僕が言うと、皆がこっちを見る。

「たぶん、僕がテイマーだからだ」


「どういうことですか?」

とヴィトが目線を合わせて、尋ねてくる。


「ジョブに就くためには才能が必要なんだよね」


「そうですね、だから親の仕事を見て、真似する子どもが親と同じようなジョブに就く可能性が高くなります。才を伸ばしているんですね。他よりも優れた才になった時、それがジョブとして発露するとも言えるのでしょうか?」


「じゃあ、テイマーになる為に必要な才ってなんだと思う?僕は二つあると思う」


「二つですか?」


「そう、生き物を愛する才と、調教する才。僕はきっと前者の才に全ての才が割り振られている」

だから、

「だから、生き物を殺すのは僕の中では禁忌なんだと思う。たぶん人間は別だね、テイムの中に含まれていないから。だからかな、レイスやリッチを相手にするのは幾分気が楽だったよ、人間から生まれるからね。リッチロードたる君に言うのもなんだけど」


「なるほど・・・」


「僕が魔物の魔物らしさを愛すれば愛するほど、今回のような我侭での殺戮は禁忌になるんだと思う」


「ふむ?今何と言った?」

とハーヴィが横槍を入れてきた。


「魔物らしさから離れた我侭での殺戮は禁忌?」


「なるほど、どうにかなるやもしれんな」

とハーヴィが言うが早いか、扉までのっしのっしと歩く。

「付いて来い、トール。魔物らしさというのを見せてやろう。母君達は数日待っておれ。多少なりともマシにして帰ってくるでの」


「・・・・・・何を思ってか分かりませんが、ついて行ってみましょう、トール」

とヴィトが言う。


「うむ、兄なりの考えがあってのことであろう」

とハーティも歩き出す。


「えっと・・・うわ!?」

と考えていると、胴体を咥えられた。


「ほひはく、いほう」

とスコール。


「とにかく、行こうですって」

とスロールが通訳すると、うんうんと首を縦にふるスコール。

そして縦に揺さぶられる僕。

「では、行ってきますね、お母様、お父様」

と僕の意思は無視して連行されるようになった。


「父さん、母さん、とりあえず行って来る!帰って来た時にはマシになっているよう頑張るから!!」


「私達のことは良いから、気をつけて行ってらっしゃい」

母さん。

「よく寝れる方法を僕等でも考えておくよ」

と父さん。


そして、ハーヴィは大きくなったかと思えば、皆すぐに乗る。

僕?スコールに咥えられているままだ。

「どこへ行くの?」


「ふむ、ゴブリンの集落よ!」


「えっ、トラウマの最初の要因なんだけど!!」


「トラウマ?よく分からんが、飛ぶでな、舌を噛むなよ!」

と羽ばたく従魔。

従ってくれない従魔ってどういうこと!!??

いや、明確に否定してないけどさ!!


「トラウマっていうのは心的外傷のことだぁぁぁぁぁ!!!!!!」

と僕の言葉は空に消えていった。


・・・

・・・


「ほれ、着いたぞ」

とゴブリンの集落の広場に下りるハーヴィ。


見渡せば、ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン。

・・・・・吐きそうだ。

手に甦るのはあの感触。

頭蓋を潰した。

胴を千切った。


「ロードはどこだ?」

と近くにいるゴブリンに聞けば、一際大きいゴブリンロードが近寄ってくる。


「調停者殿、今日はトールも連れて皆で来たのだな、また我等の力が必要になったか?」

と快く出迎えてくれる。


「うむ」


とそこで言葉が途切れる。

たぶん思念でやりとりをしているのだろう。


「ふむ、おるし、そのように使ってもいる。今からその者達を呼ぼう」

とロードが言うと、しばらくして子ゴブリンと思わしき者と、歴戦の勇士といわんばかりに傷がたくさんあるゴブリン達が来た。


「今のは思念の伝達?」

と僕が聞けば、


「うむ、ドラゴン種の者のより幾分短いがな、これだけの数がいればそれぞれを接いで全員に行き渡らせることができる」


ドラゴンネットワークならぬ、ゴブリンネットワークか。

あれ?ドラゴン、ネットワーク?

何故、ここで英語が?

英語は通じまいとなるべく日本語や噛み砕いて話をしていたのに。

イネガル神が龍皇に仕事を任せた時に、そう伝えたのかな?


と考えていると、いつの間にかダンジョンの扉の前に連れて来られていた。

(未だにスコールに咥えられたまま。なんか鼻歌を歌っているし、もう諦めている。この温かさが彼女が生きている証と思えば、安心もできる。・・・服が涎まみれなのはアレだけど)


「それでハーヴィ、ここで僕に何を見せるつもり?」


「うむ、トールは魔物に些か幻想を抱いておるようだからの、その修正よ」


「幻想?」


「うむ、まぁ見ておれ」


扉を開けると、子ゴブリンと歴戦のゴブリンが突撃する。


「えっ!ちょっと、小さい子が!!」


「黙っておれ!ここからは彼奴等にとっては死地に他ならん。お主に気をとられて殺されましたでは笑えもせん!」

とハーヴィが小さく、けれど、吼えた。

「見ておれ!」


彼等が行く先には一匹の狼が。

それを小さい子達だけで相手をしている。

鋼の盾、鋼の剣、それだけを頼りに。

数分をかけて殺すことができた。

意外と冷静な自分に気づく。

自分の手で殺していないからか。


さらに数階進む。

オークが2匹、現れる

それでも歴戦の兵と思しきゴブリンは後ろから指示を出すだけ。

子ども達に任せている。

助けに行きたくても、先のハーヴィの言葉が僕を縛る。

僕が下手に喋れば、動けばその瞬間に彼等はこちらに気をとられて死ぬかもしれない。

思念で皆に助けるように呼びかければ、返答は決まって「必要ない」。

そうして、何体かのゴブリンがダンジョンに打ち付けられ、それでも残りの子ゴブリンが2匹の止めをさした。

そこで、歴戦のと思しきゴブリン達が子ゴブリンを褒めて、彼等に1匹だけつけて帰す。

残りのゴブリン達はそのまま進む。

そのまま30階以上進んだろうか。

皆傷だらけになったところで帰ることになった。

肉を持っている者はほとんどいない。


扉を抜けて帰れば、ロードが待っていた。

「世話になった」

とハーヴィが言えば、


「いや、特に何もしておらん。むしろハーヴィ殿達に見られて、いつもより張り切っておったわ」

とロードが笑う。


「では、次があるでの、またトールを連れて来る」


「む?もう行かれるのか?皆、珍しい客で宴でもと言っておるが・・・」


「大事な用でな、また近い内に顔を出そうぞ」


「約束だぞ」


「うむ、では皆乗れ」

と言われてハーヴィに乗る。


「何を見せたかったの?次はどこへ行くの?」

と聞けば、


「まだ気づかんか、次は魔狼のところよ」


・・・

・・・


魔狼はハーティの一鳴きですぐに集まった。

また、思念で会話をしていたかと思えば、

子狼と他よりも大きい傷だらけの狼達がダンジョンへ入る。

そうして、先ほどと同じ様に彼等が戦う様を見届ける。



ハーヴィは僕に何を伝えたいのだろうか。


ぎにゃああああああ~!

今週は毎日更新をしようと思っていたのにぃ。。

うぅ、うぅぅぅ(泣



以下いつもの!


皆さんからの後書き上の「勝手にランキング」の1日1回ぽちっと、感想、評価、いずれも楽しみにしております!作品の中の子達が勝手に動いて物語りを紡ぐのもそうですが、読者の皆様からの反響もモチべUP要因です、凄くUP要因です(大事なことなので2回


是非ご贔屓に(泣



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