97話 頑張る日々 31「悪夢と達成」
地獄を見た。
一面に漂う血の香り。
膝上まで積み上げられた、一面の死体。
誰も彼もが身体の「一部」を無くしている。
まるで、そう、まるで「何か」で潰されているように。
それに気づくと一面の死体達がこちらを見上げてくる。
「お前は誰だ」
「お前は何のために私達を殺したのか」
「私達は殺されるようなことをしたのか」
「我侭というだけで殺されたのか」
「私達は愛を捧げていたというのに」
「お前は私達を裏切った」
「裏切者」
「裏切者」
「裏切者」
「裏切者」
・・・あぁ、何も言い返せない。ゴメンなんて言えない。
ふと、先にある「物」に気づいてしまう。
気づいてしまった。
山のようなそれは・・・僕の、愛しい、彼等で・・・
「うああああああぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!」
跳ね起きた。
僕は・・・そうだ、ミノタウロスと戦って、勝ったんだ。
それで・・・そう、力を使い果たし、意識を失った。
うん、覚えている。
「トール!大丈夫かい!何かあったのかい!!」
とご飯を食べていたのだろう、スコールが飛んでくる。
起きたばかりの頭を必死に動かし、
「いや、悪夢を見ただけだ。ありがとう、食事中だったのかな?ゴメンよ、邪魔して。ところで僕はどれくらい寝ていた?」
「数時間位だよぅ」
と目に涙を浮かべる、金色の狐。
手で涙をとってやり、舐めてみる。
何故だか甘い気がする。
「そんなに?」
「うむ、ヴィトが寝かしとけと言うでな。ここ数日食事もスープのみ。ここに来てからは碌に飲んですらいない、そして力を使い果たした、ならば少しは寝かせとけとな」
と下からむくれたような声がする。
「ハーティ、ごめん、ずっと乗せててくれたの?」
「うむ、ずっとうなされていたぞ。それを延々聞かされた我等のことも考えよ、本当に」
「ゴメン、ゴメンね。ありがとう」
とそのまま下にいる彼女を抱きしめる。
ふと、彼女の美しい毛皮を汚したような気がして、ばっと離れる。
両手を見てみれば、あれ?綺麗になっている。
全身が綺麗になっている。
少なくとも拳で頭蓋を潰したし、足で蹴り殺したりもしたはずだけど。
スロールが傍に寄って抱きしめてくる。
「本当に、聞いているこちらも辛くなる声をあげていたのですよ」
抱きしめ返す。
「うん、ゴメンね。それでも起こさないでいてくれてありがとう」
「起きましたか、トール。まずは水を。それ以上飲まないのはいけません」
とヴィトがコップを手に近づいてくる。
「ありがとう」
素直にコップから水を飲む。
「はい」
とコップを返してから、
「ヴィト、全身が綺麗になっているんだけど、これは君が?」
「えぇ。血だらけで寝るのは不快でしょうから。よく寝てましたよ、起こしてしまうかとも思いましたが、あれだけ洗っても起きないとは・・・よほど、無理していたのでしょう」
鋭い視線になっている気がする。
眼窩のみだと雰囲気で察するしかない。
「まぁ、ね。無理はしていたよ」
と気づく。
手に大火傷を負っていたはずだけど・・・。
「ハーヴィ、手の火傷は君が?」
「うむ、馬鹿者が。もっとやりようがあったであろう」
といかにも呆れたという声とじと目です。
「ないよ、そんなの。まさしく必死の思いだったんだ。だけど、ありがとうね」
「・・・多少は元気になれたようだの」
「うん、彼のおかげだと思う。何もかもをぶつけられて、多少スッキリしたよ。彼も楽しそうだったから、罪悪感とか感じずにすんだ」
とミノタウロスの死体の方を見る。
肉は喰われた後だが、彼の装備していたものは残っている。
「彼は他の魔物や生き物と違ったね」
「おおかた、実力を図るためのものであろう。他の者はダンジョンを徘徊し、自分のテリトリーに近づけば、攻撃する。あやつはただここに辿り着いた者と死合う」
「・・・そうだね。あぁ、そうだハーヴィ。せっかく作ってもらった鉄塊を駄目にしちゃった。ゴメン」
「なに、また形を直してやろう。それよりも、せっかくだ。あれを使ってみたらどうだ?」
と彼の使っていた巨大な斧を指す。
「・・・うん。そうする。皆食事はすんだ?」
と皆を見渡せば頷いてくれた。
「じゃあ、待たせたね。続きといこうか」
と彼の防具をスライム達に任せ、斧を持つ。重い、けど振るえないことはない。
楽しかったよ、君も最期までそうであれば良いのだけど。
本当は火傷も、何も無視して最後まで殴りあいたかった。
まったく、武器を溶かすなんて反則じゃないか。
と彼に思いをはせていると、
「では、トール。約束通りここからしばらくは我が喰っていくでな」
とハーヴィが言い出す。
「え?食事はすんだって聞いて、頷いていたよね?」
「うむ、最低限のはな。だが、まだ多少は空いておる」
「え、まぁ良いけど・・・食べ過ぎてお腹を壊さないようにね」
と心配して言えば、頭をこづかれる。
「逆だ、馬鹿者。お主こそ、肉を喰え、見るからに痩せおってからに」
とぷりぷりしながら、レイスが知らせた宝箱の方に行くハーヴィ。
そこから、しばらくはボーナスステージのようだった。
魔物に会わない。
次の階にいたハーヴィに聞けばゴブリンメイジだったそうだ。
次の階も、次の階も、次の階も。
56階くらいでようやく、
「うむ、久しくたらふくに食べた。もう満足だ、あとはトールが好きにするが良い」
と言うと、後ろから、声がする。
「私も食べたい!」
スコールだった。
「良いよね、トール!?」
「あ、うん。ハーヴィの後ろで罠に気をつけるんだよ」
「うん!」
と尻尾をふりふり先をいく、スコール。
60階に辿り着いた。
そこで、
「満腹満腹」
とスコールが寄ってきた。
そうすると次は、
「では次は我だな」
とハーヴィが行く。
「行ってらっしゃい」
知ってたよ。
70階でようやく満足したらしい。
「・・・ねぇ、途中の階でさ、凄く、ダンジョンが壊滅的になっていたところがあるんだけど・・・」
「うむ、よくぞ聞いてくれた!なんと、なんと!レイスがおったのだ!酷くないか!!ダンジョンは肉を求めて来るというのに!!」
「それで・・・」
「うむ、八つ当たりよな、久しく暴れてなかったから、楽しかったぞ」
と尻尾をふりふりご機嫌だ。
「うむ、楽しかった」
とハーヴィも言う。
お前も暴れたのか。
ダンジョンが崩れたらどうするの!?
ないと思うけどさ!
「ハーティ、お腹は?」
「うむ、多少は空いておるが、楽しかったからもう良い」
そういうものか。
とりあえず後ろを向き、
「スロール、ヴィト、君等はどうする?」
「特にそこまでお腹がすいておりませんので」
「私も」
とのこと。
普段の食事で満足できてなかったのかな?
今度、ハーヴィ達に聞いてみよう。
さて、ここからはまた僕の番だ。
スイッチを切り替えよう。
トールという人格は深く深く沈めて。
覚悟を決めろ。
僕は僕の我侭のために相手を殺す。
次の階からもレイスが出てきた。
物理は聞かないが、魔力を込めて斧を投げれば四散する。
正直、ありがたい。
元が人間である彼等は、僕にとっては殺しやすい。
一つ気をつけないといけないのは、ヴィトが連れて来たレイスと間違えて攻撃しないことだが。
後ろから来たレイスは、ヴィトのレイス達にリンチにあっていた。
そのまま、後ろで固まっていてね。
80階に到達してからはリッチが出現するようになってきた。
予想はしていた。
50階を境に魔法を使う者・・・つまり、スライムの天敵がでるようになっているのだろう。
そうであるならば、80階位からリッチが出てきてもおかしくない。
ヴィトを彷彿とさせて、攻撃が鈍るかと思ったが、杞憂だった。
ヴィトならばこんな単調な攻撃を受けてくれるはずがない。
命を奪う感覚も多少鈍い。
元が死者だからか。
現金なものだ、リッチだって僕を愛してくれているのに。肉の有無だけで感覚が変わるなんて。
リッチの魔法は恐れるべきものだが、溶けかかった鉄塊を盾にして、斧を投げるだけでワンサイドゲームができた。
しかし、片手に巨大な槌の様な鉄塊、片手に巨大な斧。
見た目で言うなら、リッチより僕の方が遥かに物騒である。
そうして、90階からは今までの全てのモンスターがでる巨大なワンフロアになっていた。
モンスターハウスか!!
どうする!?
いや、答えは一つしかない!
「僕の手に負えない!
ハーヴィ!前から来るのをお願い!
スロール!敵を僕に近づけさせるな!
ヴィト!スロールの援護!
スコール、ハーティそれぞれ隣から来るものを!」
「「うむ!」」
「「「はい!」」さ!」
彼等を投入すれば後は早いものだ。
ほんの数分で、制圧は完了する。
「うむ、良い判断だった」
と上機嫌で頭をうりうりとするハーヴィ。
「えぇ、とても良い判断でした、あの判断の理由を聞いても?」
とヴィト。
「一つは多対一の勝負になれていないこと、もう一つは乱戦になったときに君等を巻き込む恐れがあったこと、万が一にも傷がつくかもしれない。最後にテイマーは指令を出すのが本分で、僕が死ぬのを避けるため。君達ならば問題ないだろうけど、パーティによっては瓦解するでしょう。リッチも結構いた、油断ができるとも思えなかった」
うんうんと聞いていた、ヴィトは僕の頭を撫でた。
「結構です、彼我の戦力差をよく見極め、混戦を防ぐ。判断が非常に早かったのも素晴らしい。もしも、しばらく一人で戦ってからの指示だと、万が一トールが危機に陥った時に我等の前にモンスターがいるかもしれません。そうすれば間に合わないこともあり得ます。また、トールを気遣って、私達も全力が出せません。二重丸です」
「ありがとう、この次の階とかも同じ様な大部屋型なら、今の布陣でお願い」
「「うむ!」」
「「「はい!」」よ!」
それから100階に至るまで、同じ様な大部屋型だった。
付け加えるなら罠も酷くなってきた。
見るからに毒の落とし穴。たぶん、溶かす系。
下から炎が噴出すもの。
地雷のように爆発するもの。
敵味方関係なしの罠の数々。
しかし、ハーヴィは文字通り物ともせずに。
ハーティとスコールは迅雷のような速さで駆け抜け、一切傷つかない。
これ、スライムにはハードモード過ぎるでしょう・・・。
明らかにスライムを殺すことを考えた罠の数々。
もう、槍とかないじゃん。
面倒になってきたので、宝箱はハーヴィがそのまま回収してくることになった。
そうして100階にたどり着く。
また、扉がある。
「ハーヴィ、お願い」
「?敵も見ていないのに、良いのか?」
「うん、50階の敵に苦戦したからね、僕の身には余るだろうから」
「ふむ、了解した」
と笑うハーヴィ。
「良い判断だと思うぞ」
とハーヴィが体当たりのように扉を開ければ、
そこにいたのは巨大な龍だった。
しかし、彼が声をあげるよりも、動くよりも先に、突進していたハーヴィが喉笛を噛み千切った。
口元を血だらけにさせながら、
「な?良い判断だと言ったであろう?まだトールには荷が重いと我も思う、こやつを相手にするにはもっと魔法を練習し、成長し、防具も武器もより良いものにする必要があろう。こやつ程度でもその程度の鎧ごと、お主を焼き尽くせるでな」
龍を倒すと死体が宝箱や金銀財宝に姿を変えた。
そして男の声が響く
『ダンジョン達成おめでとう、もう一度下まで行くのも面倒だろうから、その財宝とともに外に送ってあげるよ。もし仲間を途中で置いてきてたならその人も。また、宝箱とかは復活するから遊びにおいで、じゃ』
「ふむ、ここでも同じですか」
とヴィトが呟けば、気づくと外の森にいた。
「ここでもって?」
「前にゴブリンのダンジョンを攻略した時も、同じ男の声がしたのです」
「あぁ、それはダンジョンを造った人の声だろうね」
「?ダンジョンは神が創ったのでは?」
「そこら辺は追々で、とにかく疲れた、家に帰ろうか。父さんたちも待っているだろうし」
覚えているのはここまでだ。
どうもその台詞の後にまた倒れたらしい。
後半は特に動いていなかったはずだけど、かなり心身に負担をかけていたようだ。
後日、話を聞けば、事後処理は皆でやってくれたらしい。
スライムから食べられそうな死体を出して、倉庫へ。
金銀財宝や宝箱はとりあえず家へ。
途中、宝箱がミミックと分かれば、殺し。
スライムは森へ返し、荷車を貸してくれた家には肉をお礼につけて返したり。
鎧を外してベッドに寝かせてくれたり。
どうも締まらないが、
何はともあれ、こうして僕の初のダンジョン攻略は終わりを迎えたのであった。
ここ2回位はトールの心情につられてか、後書きが書けませんでした。
とりあえず、これでようやく後書きも書けます。
なんでも南の方は凄い雨とのことで。
休みたい人達が学校や会社を休めるようにお祈りしておきます。
怪我とかにも気をつけてくださいね。
土砂崩れとか、川の氾濫とか。
以下いつもの!
皆さんからの後書き上の「勝手にランキング」の1日1回ぽちっと、感想、評価、いずれも楽しみにしております!作品の中の子達が勝手に動いて物語りを紡ぐのもそうですが、読者の皆様からの反響もモチべUP要因です、凄くUP要因です(大事なことなので2回
是非ご贔屓に♪