91話 頑張る日々 25「王城と僥倖」
来た時とは逆に門の中へ。
ここでもハーヴィと骸骨姿のヴィトが一緒にいるとすんなり通してくれる。
「こんなにすんなり通してくれて警備大丈夫なのかな?」
と一人呟くと、
「あぁ、それは王と約束したからの、たまに直訴に行くと」
ハーヴィが頭の上から答えてくれた。
・・・穏やかじゃない単語がなんか聞こえたんだけど。
「は?直訴?」
「えぇ、トールが生まれた時に、大きくとても質の良い宝石を買いたいとあちらが仰いまして、母君もこんな立派な宝石が家にあるのは恐れ多いと、なので売ることにしました。ただ、予算的に現金が難しいということで、トールも知っているようにうちの村は税なし、周りの村も数年減税、領主を腕の良い人に変えてくれ、龍皇がたまに直訴に行くのも許可してくれ、我等の入学金にも充当してくれ、その時は魔物の長が大勢突然来たので、軍が動いてしまいましたのでそのお詫びとか諸々含めて代金としました」
とヴィトが笑いながら言う。
「・・・ねぇ、幾つか聞かされたことがないんだけど」
「そうでしたっけ?そうかもしれませんね、瑣末なことですから」
「いやいやいやいや、瑣末じゃないよね!?王様に直訴って普通ないから!!」
「まぁ、そのおかげで王妃が子を産んだ時にもわりかしすぐに案内してもらえて、龍の血をあげれたので先方も利益があったということで」
「・・・・・・まぁ、王様達がそれで良いならいいけど、また今度、ヴィトの知る歴史と僕の生まれた際の色々を改めて教えてね」
「かしこまりました、とそこの方」
とヴィトが後ろから通り過ぎようとした一人の衛兵を呼ぶ。
「なん・・・あぁ、リッチロード様ですか。龍皇様もいらっしゃってどうかなさいましたか」
最初は威勢の良い声が出たものの、ヴィトを見て声が和らぐ。
なんだろう、舐められちゃいけないのかな?衛兵って。
「王様に、トールが生まれた時に交わした約束の一つの直訴のために参りましたとお伝えください。それで伝わるはずです」
「かしこまりました。では、こちらへ」
と連れられて、部屋に案内される。
「しばし、こちらでお待ちください、よろしければ先にご用件をうかがいますが?」
「そうですね、ではお願いします。
1:23人奴隷を買ったので、ワイバーンを貸してもらいたい
2:身分証が欲しい
この2点を伝えてください」
「かしこまりました」
と丁寧に頭を下げて、部屋を後にする。
・・・
・・・
しばしの間、出されたお菓子などを楽しむ。
それにしてもやはり城である。
大きいだけでなく、気品が感じられる。
鎧が飾ってあるのも良い。
椅子の座り心地も良い。
今度、我が家の椅子も魔物達の毛をつめてソファーみたいにしようかなぁ。
など、ハーヴィを膝の上に、ハーティの頭を撫でながら考えていると、
ドアがノックされた。
「王がお会いになるとのことです。ご案内いたします」
と先と違う男の人が来た。
衛兵ではなさそうだ。なんだろう、侍従?文官?秘書?
服装的に文官かな?
歩きながら、文官 (仮)が言う。
「王は執務室で仕事をなさっておいでになります。そのため、謁見の間ではないことをご了承ください」
「えぇ、目的が果たせればどうでも、お気遣い感謝いたします」
「いえ、感謝を申し上げるのはこちらの方です」
と先を歩いていた男がこちらに向き直る。
「タクト王子がお生まれになった時に回復薬をいただいたとのこと、この城にいる者全てが皆様に感謝しております。代表して申し上げます。まことに、ありがとうございました」
「うむ」
とハーヴィが頷く。
「どういたしまして、そういえばタクト王子は?」
「王子は今は稽古場で騎士に稽古をつけてもらっているところでしょう。健やかに、また聡明に育っていると他の者達からも聞いております」
と再び歩き出した彼に付いていく。
「王も王子の成長を楽しそうに見守られております、いずれ良き賢王になられることでしょう。と、こちらが王の執務室になります。私はこちらで失礼いたします」
と楽しそうにタクトのことを話していた彼は、僕達を案内し終えると去っていった。
話を聞きませんよ~、というアピールなんだろうか。
う~ん、貴族社会は分からん!!
ヴィトがドアをノックする
「トールが従魔、リッチロードのヴィト、龍皇ハーヴィ、フェンリルのハーティ、そして主であるトールが参りました」
「おぉ!入っとくれ、入っとくれ」
「失礼いたします」
「申し訳ないの、ドアも開けずに。なにせ、ほれ、この通りよ」
と座ったままのグレン王が視線を下に落とせば書類の山である。
もはや山脈である。
「仕事でも溜めていたんですか?」
「うむ、ちょびっとな。おぉ、トールか、いつぞやはタクトをありがとうの、権力に結びつかない遊び相手は初めての経験だったでな、とても楽しかったと今でも言っておる。怪我をしたと聞いていたが、大丈夫のようで安心したわ」
「はい、ご心配おかけして申し訳ありませんでした。ただ、タクト王子にもそんなに楽しんでいただけたなら、幸いです」
「ふむ、もっと楽にせぃ、そこの我等が骸骨殿のようにの」
「ありがとうございます」
いや、本当にありがとうございます。
跪くべきなのか、立ったままでいいのか分からないし。
しかも7才の子どもが王様にどんな口調で話すかとかもっと分からないし!!
「幸いでございます」?「幸いと存じます」?「恐縮です」?「恐れ多きことでございます?」
なんて言えば良いの!?
後はヴィト、任せた!!
「王よ、畏れながら、それではあまりにも軽過ぎでございます。彼等は他種族の長なれど、トール殿は国民であるゆえ、せめてそれなりの礼を尽くさせるべきかと・・・」
と壁の方にいた生真面目そうな壮年の男の人が言う。
・・・ごめんなさい、気づきませんでした。
「生真面目なやつじゃのぅ、ちなみに、こやつは行政大臣じゃ。街のことなどはこやつに任しておる」
と紹介してくれた。向こうもぺこり、こちらもぺこり。
「しかしの、相手は7つじゃぞ?しかも平民。これが伯爵位以上のところの子どもならば仕込まれておろうが、平民の子ども相手にそれを求めるのはちと酷であろう。また、彼等が従魔であるということは位は龍皇殿達よりトールの方が上よ。他種族の長に求めないのであれば、その長が付き従うテイマーにはどうすれば良いというのじゃ。今はこれで良い。学校に行けばそれ相応のことは仕込まれよう、いずれにせよ作法に付いては話はそれからじゃ。さて、待たせたの。話は聞いておる。ワイバーンと身分証じゃな?」
とこちらに向き直る。
「はい、何分、いつもの癖でハーヴィに乗り、王都に来てしまいました。馬車で奴隷を運ぼうにも門を通っていないので、門番も混乱するでしょう。また、身分証もないので怪しさしかないと。なので、今回はワイバーンで運ぶのが一番かと」
「ふむ、ワイバーンについては軍務大臣に任せておる。大臣が演習などで使ってなければ良いぞ。もし使っていたら馬車で行くが良い。軍務大臣に一筆書いてもらえば混乱なく門も開くはずじゃ。本当は馬車で行って道中、金を落としてほしいがな。ただ、残念なことに30人近くも泊まれる宿などあるまい。また、奴隷を外に寝かせるのも、非人道的じゃしの。本当に残念じゃが。
また、身分証は冒険者ギルドの物が良かろう。冒険者は他国へ行ってその土地の魔物の部位や薬草を取って来た歴史がある、冒険者ギルドの物が一番他国でも分かりやすかろう」
「冒険者ギルドでは鑑定とかされませんか?」
「ふむ・・・どうだったかの」
と王様が大臣さんに目を向ける。
「初回はされます。位をどれにするかを知る必要があるためです」
「位、ですか?」
「えぇ、星が1から7まであります。7が最高ですね。その位で受けることができる任務が決まります。もっとも最近は魔物の討伐などでの部位回収もありません。ダンジョンを皆攻略するか、薬草などを採取するかですから、今となっては信頼度とダンジョンをどれだけ攻略する実力があるかの指標ですがね」
「ふむ、実は先ほど鑑定士のところで野菜を鑑定してもらったんですよ」
「野菜ですか?」
「えぇ、新しく村の近くで取れたので、毒の有無を知りたいと。その際についでに私を鑑定してもらったところ、アンデットと見破られましてね」
「なるほど、それではギルドも困りましょう。こちらで作成いたします。色々記載できますが、どうしますか?」
「と、言いますと?」
「名前やジョブ、星の数はもちろん、スキル、出身、年齢、スキル以外の特技などですね」
「いや、名前と星の数だけにしてください」
「星は皆様7で良いですか?」
(や~め~さ~せ~て~、皆は5、僕は2で!目立つから!目立っちゃうから!!)
「私達は星5、トールは星2で。悪目立ちしそうですから。あと、妖狐の長であるスコール、ドライアドの長であるスロールの分もお願いします」
「かしこまりました。すぐに持って来させましょう」
とベルを鳴らすと、すぐに侍従らしき人が出てきたので、伝えている。
「ところで、トール。教会からお主が神の叡智の一端を知っておると連絡がきた。おかげで、日程を擦り合わせるために、仕事を前倒しにしている物もある」
「はい、それは、何というか」
「責めたいわけではない、いずれ知るのだ。どのような物かを教えてくれんかの」
これぞ僥倖!
以前、イワン大司教に話したことを話す。
「ふむ、衛生、病院、風呂、水、スラムか」
「神の知識の一端で見た街の風景では、道に糞尿などは一切ありませんでしたし、スラムのようなところもありませんでした。また、風呂屋が街にたくさんありました」
「ふむ・・・お主が変わったのもその知識に触れたが故かの」
「変わった自覚はありませんが、変わったのでしたらおそらくは」
「道をどのように清潔に保つかは?」
「そこまで触れることはできませんでしたが、ヴィトには案があるようです」
「ほぉ!それは?」
(ヴィト、よろしく!)
「スライムに食べてもらえば良いのです、既にスライムロードより、スライムが糞尿を忌避しないことは聞けておりますし、その際に100匹程度は貸してくれるとも言ってくれております」
「・・・・・・・・はははっ!なるほど、なるほど。スライムか、確かに、宴の後始末の際にも彼等は役立ってくれたの」
ポカーンとしたのち、豪快に笑い出す王様。
(ヴィト、スラムへの職に結びつけさせて)
「なので、スラムの住人にスライムの手綱を握ってもらえば良いでしょう。トールが言えばスライム達も従います。テイマーでなくとも良いのです。朝早くに街を練り歩き綺麗にしてもらい、街が綺麗になったら決まった場所にスライムを配置させて、糞尿を捨てさせれば良いのです」
「ふむふむ、それが定着した後も、街を毎日決まった時間に練り歩きさせゴミなどの清掃に従事させれば、恒常的な職にもなろう」
「王よ、すぐにでも取り掛かるべき案かと」
と大臣が口添えしてくれる。
「うむ、お主は効率的な運用方法とスラムの者達への賃金をどうするかを考えよ、スラムの者全員が取り掛かれる仕事ではあるまい。スラム内で諍いが起こらないような案もな。それから決裁としよう。病院は教会が関わるゆえ、今はなんとも言えん。風呂は一考しよう、建物をつくる場所と燃料の問題がある。水は・・・気をつけさせるしかあるまい。まぁ、井戸を汚そうという輩はおらんだろう」
「かしこまりました」
と大臣が頭を下げる。
「トールよ、決まった際にはスライム達への指示を頼むことになろう、その時はよろしく頼むぞ」
「かしこまりました」
ドアがノックされる。
「身分証をお持ちしました」
「入れ!もうそんな時間か、ヴィト殿達が来ると時間が飛ぶようじゃ」
先程の人から身分証をまとめて渡される。
すぐに立ち去るのは教育が行き届いているのだろう。
(ヴィト、王様に裏面に、この者に対する不敬はいかなる者でも許されざる、とか何か書かせて)
(何故ですか?)
(ヴィトの真似して、骸骨の真似して入ってくるような賊に対して。やっぱり警戒心が城にしては足りないと思う)
「王様、この裏に私達に対する不敬は許さん的なことを書いてくれませんか?」
「む?」
「骸骨と龍だけで私達と判断されてここまで来ましたが、変装などで真似をする輩が出てくるとも限りません。そこまで書いてある王直筆の身分証があれば、より安全でしょう」
「骸骨と龍を真似るとな?いるとも思えんが。良かろう、貸してみぃ」
全部に書いてくれた上に、王のと分かる印も押してくれた。
「あぁ、なるほど。そう言えば、ヴィト殿達は変身ができるのであったな。となると、他にもできるようなのがいてもおかしくはあるまい、なるほどな」
「変身の魔法については、このトールでさえも知らず、私達だけに現在は留まっております。しかし、この先もどうかは分かりませんから」
「ちなみにもし教えてくれと言ったら?」
「王様でも駄目です、情報はどこから漏れるかも分かりません。変身する賊が現れたら教えましょう」
「うぅむ、今日のところは諦めよう。骸骨殿は折れてくれなさそうだしの」
「私が折れたら大変ですよ、人間の骨折よりも重傷です」
と肩を竦めてヴィトが言うと、部屋が笑いで溢れる。
「良かろう、こちらも聞きたいことは聞けた、そちらも望みの物は手に入った。今日はもう帰るのか?」
「奴隷も待たせておりますので」
「ふむ、王妃にも会わせたいところだが、仕方ないの。軍務大臣は稽古場だろう、いなければワイバーンのところへ行け。数が揃っておれば連れ出して良いぞ。揃ってなければ悪いが、馬車で行け。ほれこの手紙を持っていくが良い」
とヴィトに丸めた手紙が投げて渡される。
「中身にはこの者の言う通りにせい、と書いておる。ワイバーンを飼育・管理している者も門番もこれがあればどうにでもできよう、色々参考になったわ、トールよ、タクトに会ったら声をかけてあげてくれ、ではの」
おかしい。
予定ではこの話で村に帰っているはずだったのに。
まだ、ワイバーンか馬車かも決まらないとか(白目
皆さんからの後書き上の「勝手にランキング」の1日1回ぽちっと、感想、評価、いずれも楽しみにしております!作品の中の子達もですが、読者の皆様からの反響もモチべUP要因です、
是非ご贔屓に☆(キラッ!




