90話 頑張る日々 24「輸送と鑑定」
もう最高な台詞を聞いてご機嫌MAXで店から出ようと思って気づいた。
この奴隷達をどう運ぶか。
えっ、23人?
調子に乗ったか、いや完全に調子にノっていたわ。
兵站は全ての基本です。
いやね、奴隷買うならこういう家族で買われなきゃ絶対イヤって人達が良いじゃん?
だって余計なのがくっついてくるんだから、売れ残るし。
ってことは長い間、あんなプライバシーのない空間にいるわけで。
心病みますよ、病み病みですよ。
ということで、本来、番と子在りの3組で9人買うところを功徳を積むみたいなわけで、大家族から買いました。
うん、僕偉い。
金は使ってこそ。それも人助けに使えるなら最高よね!
・・・あぁ、馬鹿した。もっと早くから予想して然るべきだった。
「ねぇ、お兄ちゃん」
まだ店内なのでヴィトをお兄ちゃんと呼ぶ
「どうしましたか?」
「あの人達をどう運ぼう?」
「・・・あ」
案の定、ヴィトも気づいていなかった。
ハーヴィが元のサイズになってから、スライムロードの力を借りれば片がつくと思っていたのだろう。
うん、僕もそう思っていた。
でも、ここ王都なんだよね、騒ぎにならないためにワイバーンクラスの大きさで来たのに、それでは意味がない。
さてさて、どうするか。
「馬車をご用意いたしましょうか?」
とヤットーさんが申し出てくれる。
手数料を取る気だろうが、親切心も含まれているだろう。
それよりも多大に恩に着せようというのが溢れ出ているが。
しかし、馬車も困る。
何せ、正規の手順で来たわけではない。
ある意味では密入国だ(同じ国だけど
関所を黙って超えて来た感じ?うん、比喩じゃないね、事実だね。
「ヤットーさん、また今日の内に引き取りに来るから、少し預かっておいてくれますか?」
と申し出てみる。
「実は他にも用があって、その間にお兄ちゃんと相談してみます、ね?」
「そうですね、お願いできますか?3金貨渡しておくので、食事を出しておいてあげてくれますか?パンだけでなくシチューや、菓子などもあげておいてください。あとそれぞれにできる限り綺麗な服も」
「かしこまりました。では、首輪への所有権の変更の手続きはその際にいたしますか?」
「そうですね、それでお願いします」
とヴィトと手を繋いで皆で店を後にする。
ヤットーさんは店の外まで出て見送ってくれた。
・・・
・・・
貴族街の方の鑑定屋を目指しながら話す。
「あぁ、失敗したぁ」
「ですが、トール?馬車を4・5台買って行っても良いのでは?どうせ馬は農耕馬などでも使いますし、食べれますし」
「僕達は?正規に入っていないし、身分証もあったもんじゃないよ?」
「なるほど、確かに。ヤットーさんに馬車の手配を任せて、私達はハーヴィで外に出ますか?」
「それもヤットーさんが門番に話したら駄目だよね?買ったやつ誰そいつってなるし・・・」
「うぅん、身分証を作っておくべきでしたね」
あるいはちゃんと門から入ってくるべきだった。
身分証は正直無くても大丈夫だろう。
なにせ、村の人が来ることも充分あり得る。
普通の村人は身分証なんてないだろう。
それとも各村長から何か書いてもらうのだろうか。
「そうだったねぇ」
「・・・仕方ありません、王様に頼みますか」
「今のところそれしかないかぁ。借りを作るようで嫌なんだけど・・・」
「こればかりはどうにも、ハーヴィ達も人間形態の身分証はあった方が便利ですし、ただ、従魔が身分証を作れるかといえば・・・無理でしょう。私も鑑定されたら、下手したら駄目でしょうしねぇ。これからも王都には来ますよね?」
「まぁ、ほぼ確実に・・・他国へも行くかもだし。教皇の結果如何では」
「トールが大きくなるまでは私が保護者役としていた方が良いですよね」
「そうだねぇ、そうなんだよねぇ。あぁ、まだ成長していないこの身体が恨めしい」
「何を言う、ゆっくり成長せよ。我等の楽しみが減ろうに、今でさえ成長が早いというに」
とぷりぷりと怒るハーティ。癒しか。
「子どもは早く大人になりたいんだよ、いつだって、どこの世界でも、きっとね」
と頭をわしゃわしゃしてやる。
「な、何をする!頭の毛並みは整えるが大変なんじゃぞ!」
尻尾は元気にぶんぶんとご機嫌です。
尻尾は口よりも物を言う。
背に乗せてもらい手櫛で整えました、レディーが身なりを気にしていたらできることをしたいよね!
と、そんなこんなで貴族街の方へ。
こちらも多少臭いが、市民街よりもマシ。
だけども、やはり臭うということは糞尿の処理は雑なんだろう。
そう言えば、ぼっとん便所が昔地元であったなぁ。田舎じゃなかったけど。
むしろ田舎じゃなかったからこそ、あれの処理ってどうしていたんだろう。
今どき汲み取りの人とか都市にいないのに。
なんて考えていたら、目的のお店へ。
「ねぇ、ヴィト。僕達は外で待ってるから、会話とか思念で伝達を頼んでも良い?」
「構いませんが、何故ですか?」
「もしもだけど、愛し子だとバレるのはちょっと上手くない気がして。貴族の間で評判になったりするのも嫌だから」
「どうせ、学校に行くのでしょう?周りは貴族だらけですよ?早いか遅いかの違いでは?」
「ん~、それもそうなんだけどね、さっきのヤットーさんの最後の台詞は僕を愛し子と知らないからこそ出てきた台詞だよね、そうすると知られていないということはやっぱりメリットになると思うんだ」
「ふむ」
「さっきは身体が~って冗談で言ったけど、生かせる内は生かそうとね」
「なるほど、分かりました。では行って来ますね」
「うん」
・・・
・・・
「すみません、今大丈夫ですか?」
(ご主人は看板の道具を手に、大きな宝石を見ていますね。剣や金の塊も置いてあります。ご主人の特徴はいりますか?)
(うん、いらない)
「・・・あぁ、失礼いたしました。いらっしゃったのに気づかずに、集中しておりましたため、どうかお許しを。私が店主のラルフでございます。本日はどのような物を鑑定に?」
と白髪のお爺さんが頭を下げる。
「こちらの植物が村の近くの森で取れたと報告がありましてね。食べられるのか、毒があるのかを見ていただきたいのですが」
「あぁ、それ位でしたら、すぐに終わります。少しそちらの椅子におかけになってお待ちください」
「えぇ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
(ひとつずつ、あらゆる角度から見ていますね)
(ふ~ん)
「これ切っても大丈夫ですか?」
「えぇ」
切り口もためつすがめつ眺め、虫眼鏡も使っている。
真剣な顔をして見ているそうだ。
そりゃそうだ。貴族が食べることになるかもしれない物をてきとうに見ることはできないだろう。
「ありがとうございます・・・・・・・・・・・・・・・・・・・終わりました。この3種は毒は大丈夫でしょう。この1種は毒が多いですね。ここ・・・芽ですかね?、と皮とが毒ですね。最後のも毒のところを気をつければ食べれるでしょう」
「ありがとうございます、よく毒とか分かりますね」
「昔から親に連れられてキノコなんかを食べてたりしてたので、それでよく見る癖がつきまして。おかげで鑑定士のジョブに就けたんですよ。ですから、こういう毒の有無とかの方が私には分かりやすいですね。流石に育て方となるとお手上げですが。こう、」
ちらっと宝石を見る
「逆に大口のお客様の宝石ですとか、剣の鑑定の方が私には難しいですね」
と照れりと笑うお爺さん。
「失礼ですが、それですとここよりも市民街の方が合っているのでは?」
「あちらですと逆に需要が無さ過ぎるんですよ、毒の有無なんて分かりきった野菜ばかり。宝石なら宝石商がおりますし。せいぜいが回復薬が本物かどうか・・・。それも飲めば分かりますしね。ですから、ここで営んでおります。たまには毒の有無を調べて欲しいという貴族様もいらっしゃいますしね」
「あぁ、確かにそういう需要はありそうな場所ですね」
「貴族様を羨む方もあちらでは多いですが、この商売をやっていると贈り物でもらった物も呪いはないか、毒はないかと心配する方々を見ていると、貴族様にも違った苦労があると感じさせられますねぇ」
(ヴィト、君の正体と君の保有スキル、君の強さを聞いてみて。どんな風に見えるかを知りたい)
「確かに確かに」
と朗らかに笑うヴィト。
「ところで、ラルフさん。これは依頼ではなく、ただの興味本位なのですが」
「はい?」
「私を鑑定すると、どのように見えるものですか?」
「そうですねぇ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ご主人?」
「いや、おかしいですね、私もボケてきてしまったようです。それとも目を酷使し過ぎたのでしょうかね、変なのが見えて。いや、申し訳ありません。ご希望に沿えそうにないですな」
冷や汗を垂らしながら謝るラルフさん。
「いえいえ、そういう日もあるでしょう。ちなみにもしかしたら今後の酒の場での良い話題の種になるかもしれません。なんと見えたか教えてください、ゴブリンですか、オークですか。お店の名前は秘密にするから教えてくださいよ」
「いやぁ、お気に触るかもしれませんよ?それでも良いですか?あ、良い、そうですか。あ~、その、・・・・・・・・アンデットと」
「はははっ!なるほど、それは確かに言いにくいですね。ちなみにスキルとか強さとかはどんな風に?どうせなら強いリッチとかが良いですね」
「私も人を鑑定することは初めてなので、スキルは分かりませんが。人外レベルにとてつもなく強いとだけ」
「力や魔力といった感じに細かくは?」
「力も魔力もスピードも全部同じですね」
「細かくは見れるんですか」
「大雑把にです、力、魔力、体力、速さ、頑強さなんかですね」
「ほぉ、鑑定士の人は皆そんな感じで見えるんですかね、スキルとか、強さとか」
「鑑定士にも得意、不得意がありますから。私なら毒の有無、他の者でしたら宝石の質、あるいは鉄の純度。どれだけそれに触れてきたかが影響します。例えば、先ほどの毒はかなり強い毒がありました。他の者ですと、毒があるとしか分からないなど。もしかしたら微弱で取るに足らない毒かもしれないのに。そうですね、騎士団ですとか冒険者ギルドにいらっしゃる方ですともっと細かく見えるでしょう」
もっとも、と笑うと
「お客様がこの様に見える時点で、今日はもう私は駄目そうですね。いつもより早いですが、お客様が出られたら店を閉めましょう。頭も目も休ませた方が良さそうです。あぁ、先の毒の有無に関しては自信がありますのでご安心を、一応一筆書いておきましょうかね。それにしても、慣れない人の鑑定なんてするとこんな失敗することもあるんですねぇ」
と書面にすると苦笑いしながらヴィトに手渡す。
「まぁ、スキルで魔法を使おうとして、慣れない者が火を起こそうとして自身ごと燃えることなんかも有名ですしね。何事も経験ということですかね。いや、それにしても良い話題の種になります。ありがとうございます。ちなみにお代は?」
「あぁ、お客様は初めてですし、変なことも言ってしまいましたので、5銀貨で結構です」
(これバラしても良いですか?お爺さんを騙しているようで気が引けるんですが・・・)
(奇遇だね、ヴィト、僕もだ。お代は、うん、1金貨で良いよ。正体バラして帰っておいで、ただ、骸骨になっちゃ駄目だよ、冗談まじりで。お爺ちゃん心臓止まっちゃう)
(分かりました)
「では」
と1金貨を置くと、
「お客さん、5銀貨で良いですって!ほんの片手間の作業でしたし!」
「いえね、ご主人、実は合ってるんですよ」
「へ?何がですか?」
「私、一回死んでるんですよ、不死者、リッチなんです。なので、疲れ目やスキルの間違いではありません。ただ、内緒にしておいてくださいよ?」
パチリとウィンク。
「余分な金貨は驚かせたお詫びです。受け取っておいてください」
「は?・・・・え?」
「はははっ、ではまた何かあったらよろしくお願いしますね」
と笑いながらドアを出るヴィト。
後ろからは、「は、え、は、はい、またのお越しを?」
とどう反応すれば良いか分からないお爺さんの声が聞こえてきた。
「お帰り、ヴィト。ありがとう」
「いえいえ、それにしても、毒の有無が専門の人でも鑑定すれば分かるんですね」
「・・・妖狐とかに対応するためかな?しかし、従魔とかリッチとかまでは分からないんだね。あくまで異物であるってことだけか・・・そうなると、戦闘の補助につく鑑定士はもう少し、種族とかは分かりそうだね。強さももう少し具体的なのかな?」
「そうですね」
「いや、いずれにせよ、なんか色々と疲れたよ。臭いし、早く帰りたい。それじゃ王様のところへ行こうか」
いきなり寒くなったり、雨降ったり。
皆さん風邪には気をつけてくださいね、横着しないで温かくして寝ましょうね(この時間に更新をしておいて
皆さんからの後書き上の「勝手にランキング」の1日1回ぽちっと、感想、評価、いずれも楽しみにしております!作品の中の子達もですが、読者の皆様からの反響もモチべUP要因です、是非ご贔屓に~
(なお、うなぎうなぎは昨日ようやく評価の付け方を知りました。最新話じゃないと出てこないのね)




