89話 頑張る日々 23「取引と契約」
面談である。
先程の部屋へ帰って来た。
「では、ヤットーさん。彼等に自由に話すように命じてください」
とヴィトが言うと、
ヤットーさんも
「はい、皆自由に話す許可を与えるが、騒々しくするなよ」
と素直に受け入れた。
言われたくないことなどないのだろうか。
「はい」
と家長であろう男性が声を発した。
「私は・・・」
「ごめんなさい、あなた達の事情はこっちから聞きます。名前とかいらないんで、聞かれたことに素直に答えてください」
と僕が言うと、ヤットーさんも4番さん達も驚いていた。
「奴隷になったのは何故ですか?」
「子どもの薬を買うためです」
「番号が若いですよね、結構古株のように思えますが何故ここまで買われなかったのですか?」
「家族全員で買われることを条件に奴隷になりました、8人も一度に、しかも子どもを含んで買うお客様がおりませんでした」
「僕が求めているのは農作業のスキルがあり、毒見、農作業を主な仕事とし、性行為にも条件がつくことを了承している人達です。家族全員その覚悟はありますか?ちなみに動物での実験は済ませています」
「はい」
と男が言う。
「他の皆さんは?」
「はい」
「はい」
「はい」
「はい」
「はい」
「はい」
「・・・」
と一番下の4才位の女の子が黙る。
「お、おい」
と男性が声を上げるが静止する。
「どうしたの?何か嫌なことがある?それとも分からないことがある?」
目線を合わせてあげる
「・・・お父さん達に乱暴しない?」
「叩いたりって意味なら、しないよ」
「・・・どくみってなに?」
「毒は分かる?」
ふるふると首を振られる。
「食べると具合が悪くなるのが毒」
うんと頷く女の子。
「毒かどうか分からないのを食べてみてもらうの。それで具合が悪くなるかを見ることが毒見」
「・・・」
さぁ~っと青くなる女の子。
「お父さん達具合悪くなっちゃうの?」
「なるかもしれない、ならないかもしれない。君にも食べてもらうよ。でもね」
と頭に手を置いてあげる。
「死なない限りは全力で助けてあげる、具合が悪くなったら薬を用意してあげる」
女の子は服をぎゅっと握り締めたままだ。
「ねぇ、君はここでの生活が好き?」
ふるふると首を振る。
「たぶん、僕達が買わないと君達は一生ここで過ごすことになると思う。それでも良い?」
ふるふると首を振る。
「具合が悪くなるかもしれないけど外に出るのか、具合が悪くなるかもしれないからここで過ごすのか、君が決めなさい。お父さん達が何と言おうと君にも決める権利がある」
「具合が悪くなったら本当に助けてくれる?」
と涙目でかすれた声で女の子が囁く。
「うん」
「じゃあ、出たい、ここから出たい!」
と泣き出した。
「うん、うん」
と頭をぽんぽんしてやる。
「ヤットーさん、彼等を別室へ。とりあえず、買う方向で」
「驚きました、お兄さんの方がご入用とされているかと思えば、随分と大人びてらっしゃる。かしこまりました、次の者達を呼びましょう」
次も8人、次いで7人と来た。
どれも「息子を助けるため」、「凶作で借金をして首が回らなくなり」と言ったシンプルなものだった。
ハーティがうならないから確かなのだろう。
そして、2組とも子どもも毒見を承知で来る事になった。
さっきの女の子みたいな言葉は出てこなかった。
あらかじめ言い聞かせていたのか、よく分かっていなかったのか・・・。
まぁ、家庭の問題である。
そのまま、この3組で決めた。
後は値段交渉だが・・・
「ヤットーさん、これで23人買おうと思うわけですが・・・」
とヴィトが言う。
「はい、ありがとうございます」
「もちろん、割り引いてくださいますよね?」
ドストレートに直球で攻めますね、ヴィトさん。
「もちろんでございます、初めての方でこんな大口のお買い物、そちらが仰らずとも割り引かせていただきます、そうですね全部まとめて4プラチナでいかがでしょうか」
とヤットーさんが言った途端にハーティがうなり声をあげる。
びくっとしながらも声を出さないところに意地を感じる。
「すみませんね、うちの従魔が。やましい事がある人にはうなってしまうんです。それでどのような隠し事が?」
「いいえ、隠し事などございません」
と、にっこりスマイルは崩さない。
「割り引いて4プラチナは高いですよね、どう考えても。23人といえども、3分の1は使いものにならない子どもですよ?せいぜいが1プラチナでしょう」
「ご冗談を、それでは元が取れません。精一杯、他の方に内緒にしていただいて3プラチナと50金貨です」
「おやおや、それでは彼等がいくらの借金をしていたか確認してみましょうか。どんなに頑張っても80金貨に及びますまい」
「元の借金は少なくとも、今まで世話してた分の食事代がありまして」
「それで2プラチナを越えると、どんな上等なご飯を食べさせていたのですか?あんなに青白く、ひょろひょろとしていて。あんなでは、まずはこちらも食べさせなくてはなりません」
「青白くひょろひょろしていたのを買うと決めたのはお客様でございまして、ただ、お客様の仰ることもごもっとも。これからもご贔屓いただきたい。ではずばり3プラチナではいかがでしょうか」
「いやいや、正直言って下さい。売れ残りですよね、彼等。しかも、家族全員でないと嫌だとか。私が買わないでいたらこれからも売れない、損が増えるばかり。最終的には他の奴隷と抱き合わせて売りますか?いや私でしたら余計なのがくっついてきたとしか思えませんね、養わなければいけませんから。3プラチナでも多いですよ。譲歩しても1プラチナと50金貨ですね」
「いえ、そうしたら最終的に魔物の餌にでもしますよ、なにより首輪の値段も考えていただかないと。あれも高いんですよ。2プラチナと80金貨、王様の勅命でもこれ以上は割り引けません」
ヒートアップしているが、正直奴隷だけなら1プラチナで店主が元をとれて、それ以上が利益になると思う。首輪はどうだろう。結構高性能だし、全部でざっくり1プラチナかな?店主もまとめ買いして安く抑えているだろうし。
だからヴィトも一生懸命値切っているのだろう。
(ヴィト、今から言うことを提案してみて・・・って)
「店主の言うことも確かに理がありますね、ではこうしましょう。今から言うことに正直に答えてください、これで従魔がうなれば別の店で買います。北の方が安いですしね」
「今までも正直でしたが、かしこまりました。それでお客様のお気がすむのであれば」
「ちゃんとご飯を食べさせていても皆が青白く元気がでなくなっている」
「はい、奴隷になったのですから心を病めばそうなるでしょう」
「健康に気を使っているにも関わらず病人が多い」
「はい、これも先と同じですね」
「買う時は能天気で心を病みそうにないと思って買った頑強そうな者でも、心を病む」
「はい、これも同じですね」
「彼等は買ってから一度も外に出していない」
「はい、奴隷ですから、首輪があれども不安の要素はないに限ります。数人は出したかもしれませんが、基本はそうです」
・・・ハーティはうならない。
「それらが実は奴隷になったという事実以外にあるとしたら、どうでしょう。病気や心を病む人が減れば大きくないですか?これからも人間を扱っていくのでしょう?あれだけの数の」
「・・・あなたは原因と治す方法を知っていると?」
「治すというよりかは予防ですが、えぇ。しかし、すぐには答えが出ないでしょう。ですから、あなたが私をどれだけ信頼するかによります。これを聞くのであれば2プラチナにまけていただきましょう。そうでなければ先の2プラチナと80金貨で買いましょう」
「・・・」
ヤットーさんが考えこむ。
しばしの後、
「分かりました、私も男です。賭けにでましょう、2プラチナで売ります、あなたを信頼しましょう!」
「そうこなくては」
とヴィトがにやりと笑う。
人間に変身しているのに表情豊かだよなぁ、変身凄ぇ。
「ただ、もう口約束ではなくて、書面で約束してください。この奴隷達の値段は口外しないと、本当にギリギリな値段です、他の店から苦情がくる。」
とため息まじりで言うと、書面にさらさらと奴隷の値段を口外しないことを約束するといった文書が書かれていた。ちゃんと罰金も書いてある、5プラチナだ。・・・高っ!
「こちらにお名前をいただいてもよろしいでしょうか」
「はい」
とヴィトが書面に署名する。
「ふむ」
と署名を眺めるヤットーさん
貴族ではないのか、と言った表情。
しかし、それを口に出さない辺りは偉い。
「では早速、先の方法についてお聞かせいただけますか?」
「ごくごく簡単なことです、太陽と窓です」
「太陽と、窓?」
「太陽の光を浴びないと人間は不健康になります。そもそも太陽の光を浴びていない人間はあなたの周りの人達にいますか?」
「ふむ、確かにいないですな」
「つまり、彼等の置かれている状況は異常ということです、異常ということは余人がかからない病気になるのです、心を病んだり、骨が弱ったり」
「なるほど」
「それに運動もさせなくてはなりません、健康な人ほど身体を動かすでしょう。騎士で心を病む人、青白い人はいますか?他の家庭の子も元気に駆けているでしょう、使わないと筋肉は衰えます。だから騎士は普段から稽古を欠かさないのです」
「なるほど、外に出して運動させる理由は分かりました。窓とは?」
「窓は綺麗な空気を入れるため、そして汚い空気を出すためです。汚いところには病気が溜まりやすい、スラムなんかがそうでしょう、誰も彼もが病気のよう。それも汚いがためです。怪我人の蛆などは取り除いてやりなさい、蝿は病気をもたらします。怪我をしたらすぐに綺麗な水で洗ってあげなさい、汚い空気が触れればそこから病気となります。既に病の者は他から離しなさい、他の者にもその病が移ります。たまには身体を綺麗な水などで清めてやりなさい。また、食事が少なければ弱ります、病にかかりやすくなるでしょう。あぁ、途中から窓以外の話になってしまいました」
とヴィトが笑う。
「・・・」
ヤットーさんは紙に書き起こしていたかと思うと、がばりと上半身を起こし、ヴィトの手を握った。
「素晴らしい!そうです。当たり前のことを忘れておりました!そうです、彼等も人間なのです!私達と同じ環境の方が病気になりにくい、いや、私としたことが。目から鱗が落ちる思いです。奴隷だからと経費をケチっておりました。いや、これでは奴隷商人失格ですな」
と、ははははっと笑っていたかと思うと、頭を下げ
「2プラチナでは今の教えに報えません、1プラチナと80金貨にいたします」
「いえ、2プラチナで充分です。ただ、もし私達が何か困ってここに来た時にはその分助けてくださいね、具体的には次回にここで買う時なんか」
とウィンクを決める骸骨さん。今は骸骨じゃないけど。
ポカーンとすると、店主はまた笑いながら
「かしこまりました、次回も大いに値引きましょう」
と快く言ってくれた。
ので、
「ヤットーさん、もしここの魔物を全て買いたいって言ったらどれくらいするの?」
と今の台詞に乗っかって尋ねてみる。
また、ポカーンとすると涙目になるほど笑って、
「流石ですな、買う量も考えることも豪快だ。20プラチナもあれば充分でしょうと言いたいところですが、あなた達なら14プラチナで売りますよ」
「首輪はいらないからもっとまけてって言ったら?」
また、ポカーンとするとお腹を押さえて爆笑して、涙を手で拭いながら
「いやはや、この子の行く末に神よ、祝福を。それでこの建物を破壊しないで連れ出せるなら、10プラチナにまけますよ。もちろんお客様も怪我しちゃだめですよ?こんなに良いお客様を怪我をさせて帰したなんてなったら商売できなくなります」
ひー、ひーと笑いながら答えてくれる。
「やったぁ、書面にして~、書面に!」
「かしこまりました、将来はテイマーにでもなりたいのですか?」
さらさらっと今の約束を書面にしてくれる。
「うん、お兄ちゃんみたいになりたいんだ!」
「そうですね、お兄様は流石です、小さいワイバーンに小さい魔狼ですか。従魔が育てばお城でも働けるかもしれませんね。ただ、うちには結構いますからな、30はいます。テイマーにはテイムできる量が決まっていると聞きます。頑張らねばなりませんね」
背伸びしている子を見る大人の目で見てくれる。
「うん、頑張る!」
とにっこりスマイル。
スマイルはあなたの専売特許じゃないんだぜ、げへへ。
以下メモなので気にしないでくださいネ。
30 6
20 9
10 8
440




