88話 頑張る日々 22「奴隷と考え事」
「すみません、奴隷を買いたいのですが・・・」
とヴィトが門番みたいな人に声をかける。
・・・逃げ出した人の捕獲用?服従させるという首輪がある筈なのに?
「今、店主は別の方を案内しておりますので、しばらく別室でお待ちいただくことになりますがよろしいでしょうか」
と門番みたいな人が口を開く。
筋骨隆々でほぼ武装しているのに、すごい丁寧な口調だ。貴族と思っているのだろうか。
いや、貴族以外で奴隷なんて買わないか。
・・・・・・あ、なるほど、門番や用心棒を兼ねているけど、この人はあくまで店員か。
奴隷を買っているのを見られたくない人もいるだろうから、そういう人を他の客と鉢合わせないようにしたり、あらかじめ待つことを伝えて客の怒りを買わないようにしているわけだ。
結構、店員の質が高い。つまり店主の質も高いということか。
「構いません、従魔も連れて行って大丈夫ですか。奴隷が怖がるかも見ておきたいんで」
とヴィトが続けてくれる。
「勿論でございます。では、ご案内いたします」
とドアを開けると、また別の店員が。
こちらは身なりも綺麗な女性であるが、首輪をしている。
今気づいたが筋骨隆々の方も首輪をしている。
いやね、筋骨隆々の方の首輪はなんか刺々しいんだもん。ファッションかなって思ったよ。
なんか皮鎧の一部かなって!
でも、この世界でファッションで首輪はしないか。奴隷と思われるんだから。
「ここからはこの者がご案内いたします」
と筋骨隆々の者が紹介する。
そうだよね、見せたいよね。自慢の奴隷を。
あわよくば買ってもらいたいよね。
よくある、よくある。
ゲームセンターの前にクレーンゲームの商品を展示する感じね。
筋骨隆々の方は用心棒とかをお求めの方で、女性の方は夜伽用ですか。
「では、こちらへ」
と女性に案内される。
店内は明るく、また綺麗に掃除されている。
調度品なども見た感じ気を使っているようだ。
美術センスがないから、よく分からないけど・・・。なんとなく。
案内された部屋はまぁまぁ広かった、と思う。
まだ廊下に先があったことを考えると、よく見ていなかっただけでこの家はかなり広いんだなと予想される。
まぁ、それもそうか。奴隷暮らしているもんね。
だから、他の家とかから離されているのかな?拡張したりしやすいように?
「お飲み物などはいかがいたしますか?」
(ヴィト、いらないって答えて)
「結構です、このまま待たせてもらいますから」
「かしこまりました、外におりますので何かございましたらお声がけください」
と頭を下げて女性が去っていく。
(何故、いらないと?)
(綺麗な水か分からないから)
(お酒にすれば良いじゃないですか)
(あぁ、それはこの世界でもそうなのね。でも、未発達な今にお酒はなぁ。酒精が強くなくとも抵抗があるかな)
(そういうものですか)
(そういうもんです、あ、お姉さんに要望を伝えておいて。家族を・・・3世帯位希望、子どもありで。病気、犯罪歴含む可。農業スキル持ち希望。性行為においては自由でなくなること。毒見と農作業が主な仕事。3食と衣食住はできる限り守られる。これを自らの意思にて了承する者達)
(分かりましたが、子どもあり?性行為?)
(子どもありは妊娠できるかどうかということ、性行為は近々避妊具をドワーフさんに作ってもらいたいからかな)
(なるほど。避妊具は何故?)
(人間の数を抑制する為が一つ、性行為による病気の蔓延を防ぐのが一つ、最後に)
(最後に?)
(子どもは望まれて生まれてくるべきだからという考えによる、かな。できてしまった、ではなくて、来てくれたと望まれて生まれて来て欲しいじゃん?貴族は欲しがると思うんだよね、女遊びをするようなのっていそうだし。でもそいつが子を喜ぶかって言ったら貴族位の継承の邪魔になるしね)
(なるほど、良い考えです。私は好きですよ、その考え方。それでは伝えてきましょう)
とヴィトが席を立ち、女性に告げに言ってくれる。
「ごめんね、皆、そのまましばらく静かにお願いね」
((うむ))
ハーヴィとハーティから同時に思念をもらう。
・・・
・・・
待っている間に考える。
火薬は何故この世界で発展していないのか。
火薬が見つかっていないってことはないだろう。
なにせ元寇で既に使われていたのだから。
もっと早く外国では利用されていたに違いない。
少なくとも「てつはう」が元寇では使われていた。
兵器として利用されていたのだ。
では、この世界では?
最初に発見した者がこれを取るに足らない物と考えたとかだろうか。
爆発しようが、燃焼しようが、思ったタイミングで思った事が為せるかが重要である。
早くとも、遅くとも、少なくとも、多くともいけない。
コントロールできない爆発、燃焼は木に囲まれたこの世界では自身どころか周囲をも滅ぼす。
また魔物に対してはジョブがある人間が対処するという図が既に成り立っていた。
図が既に成り立っているのに、改めて研究するだろうか。
王都の者なら研究できるかもしれない。
しかし、自身の金で、役に立つかどうか分からない物に手を出す者がどれだけいるだろう。
少なくとも、僕が生まれてくるまでは王都でも魔物の対応に追われていたはずだ。
研究するならばもっと即物的に、鉄の純度とかだろうか。
また、魔法があるのを忘れてはいけない。
魔法で火を起こすことはできる、爆発はどうだろうか。
いや、爆発が魔物に対抗する唯一の手段ではない。
槍や弓矢だって対抗し得るだろう。
風で切り裂く、土で穿つ、水で溺死させる。魔法だって対抗策はたくさんある。
・・・他にはないだろうか。
・・・他に例えば人口をそのまま戦力に変えられるような武器は・・・
ドアをノックする音がする。
「どうぞ」
とヴィトが答えてくれる。
「お待たせしました」
と身なりと体格が立派なちょび髭の男が入ってきた。
「ここの店主のヤットーです」
と慇懃に礼をする。
「本日は当店にお越しいただきありがとうございます。ご要望は先ほどうかがっております、ご要望に沿うのが6組ございます、今から順番に連れてまいりましょうか、それとも奴隷の様子を外からご覧になられますか?当店は初めてでいらっしゃいますから、ご要望の他にも気に入る者がいるやもしれません。また、奴隷の様子など中々見る機会がないからと見ていかれる方も多いですが」
(・・・簡単に見ていくと伝えて)
「そうですね、珍しいですし見ておくのも良いかもしれませんね」
「かしこまりました。ここからは私がご案内いたしましょう。皆様でいかれますか?」
(ハーヴィ、ハーティは残っていて)
(((何故?)))
(人間の汚い部分を見せたくないから。ヴィトは多少は知っているでしょ)
(多少ですがね)
(我も付いて行きたいが・・・)
とハーヴィが良い、ハーティが頷く。
(嫌)
と嫌そうな顔を作り伝える。
(駄目ではなく、嫌ですか。それで、どうしますか。中々、嫌と言わないトールがここまで言ってますが)
(うぅ、最近やけに厳しくなっておる気がする、了解した、ここで待ってよう)
(ゴメンね、ありがとう。魔物で嫌な思いをした人もいると思うしね、待ってて)
と2匹の頭を撫でて、ヴィトに付いて行くため立ち上がる。
「従魔は置いて行きます。魔物で嫌な思いをした人もいるでしょうから」
「おぉ、ご配慮感謝いたします。しかし、うちの奴隷達は柔ではありませんからな、そこまで気にかけていただかなくても結構ですよ。お買い上げいただいた際にもそこまで配慮する必要はございませんから、躾が楽だと皆様から喜びの声をいただいております」
「買われなかった奴隷はどうするの?」
と子どもっぽく聞いてみる。
「勿論、そのままでございます」
目線を合わせて言って来る。
よく心得ているもんだと素直に感心する。
「ここにいるのが嫌で、買ってくれ~とか言ってきたりする?」
「いいえ、私が許すまでは発言を許可いたしません。ご安心ください」
「じゃあ、怖くないね!」
「えぇ、勿論ですとも」
と、にっこりスマイル。
「ではご案内いたします」
と廊下に出て、階段を上がって2階へ
「奴隷の皆は2階にいるの?」
「えぇ、そこで暮らしております。魔物は1階におりますが、今回は人間をご所望ということでしたので」
「なんで魔物は1階なの?」
「単に入りきらなかったからですねぇ」
「へぇ、ヤットーさんはここで暮らしているの?狭くない?」
「面白いことを仰いますな、いいえ、私は他の家で暮らしております。ここは完全に商売用です」
「凄いね!2軒も持っているんだ!」
「ありがとうございます、誠実に商売をしてきた結果でございます」
「へぇ~」
素直に凄い。
王都でまかないきれない人たちが村を成していると考えているが、そうだとしたら彼はここ王都でそれだけの自由を得ているのだ。
そういえば、村と国の歴史の勉強をしたことがないな。
今度、魔法の勉強する時にヴィトに聞いてみよう。
「さぁ、こちらでございます」
と案内された先は大広間だった。
2階全てがつながっている。
廊下で2分されていて、檻が設けられている。
亜人、獣人、人間が一緒くただ。
ヤットーが姿を表すと皆が配置につく。
「よく訓練されていますね」
とヴィトが感心して言う。
「それはもう!・・・と言いたいところですが、実のところ首輪のおかげです。大声を出すな、反抗するな、逃亡しようとするな、私が来たら黙って配置について動くな、と」
とヤットーが素直に言う。
自分の手腕だと言えば良いのにと思うと、
「ですから、お客様も首輪を使えば訓練もいらずに躾ができます」
なるほど、そこで締めるか。
上手いことだ。
「皆のトイレは?」
「・・・珍しい所に目をつけなさいますね、そこの隅の壺ですが、何か?」
「溜まったらどうするの?ここ窓がないけど」
「えぇ、奴隷の話し声などが、ご近所様に迷惑になるので窓はつけておりません。そのため、お客様をご案内させていただいた奴隷などがそとに持って行き処理します」
「ふ~ん」
(ヴィト、もう良いよ。条件に合っているのを部屋に順繰りに連れて来てもらおう。人数が多い順で)
「珍しい物が見れました、ありがとうございます。では、ここから条件に合っているのを、人数が多い順で先の部屋へ連れて来てください」
「へっ?もう良いので?かしこまりました、人数順ですと・・・4番のグループ、こっちへ来い」
素っ頓狂な声をあげながらも行動は早い。
4番のグループと言われた奴隷達は静かに付いて来る。8人だ。全員青白く不健康そうだ。
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次話は、今日の24時UP予定です
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