87話 頑張る日々 21「聖書と奴隷」
次の日の朝には村長にスライムロードの話を伝えた。
糞尿の匂いがなくなるだけでも過ごしやすくなるため、村長もすんなり許してくれた。
周りの村人は・・・以前からの祭りで彼 (?)の為人を知っているためすぐに馴染むことだろう。
どうしてそこにいるかも彼 (?)なら自分で伝えてくれるだろうし。
そうしている内に気がついた。
スロールの持ってきた野菜類が本当に毒がないのかを知るのに本当に奴隷が必要なのだろうか。
この世界にはスキルがある。
一般的な誰でも持てるスキルから、特殊なジョブについてないと持てないスキルまで。
ならば、「鑑定」のスキル、あるいは才能を伸ばして「鑑定士」というジョブはないだろうか。
それで毒の有無が分かれば奴隷で試す必要はない。
育てる人が必要だから、買う必要はあるだろうが。たぶん、村の人間で育てることもできなくはない。子供達は「祝福と加護」のおかげで例年よりも労働力になっているだろうから。しかし、あれ等、特にジャガイモはしっかりと育てる知識を持っている人に携わってもらいたい。労働力は足りていても、指揮する人が足りないのだ。農業知識を持っている人はいても良いだろう。
・・・まぁ、鑑定が本物か分からないから1年位は奴隷で試すかも知れないが。
「鑑定士?ありますよ、ジョブとして。たぶん王都なら専門にやっている人もいるでしょう。貴族御用達で真贋を見極めるのです、需要はあるでしょう。あの悪人面の宝石商もたぶんそんなジョブじゃないですかね?まぁ、まっとうに生きてきたとも思えないのでスキル止まりかもしれませんが」
と、あっさりとヴィトは教えてくれた。
やはり、ジョブとしての鑑定士の「鑑定」スキルは、他のジョブについている人が持つ「鑑定」スキルに断然勝るそうだ。
王都へ行く理由が増えた。
1:服を買う (決闘で破れたりした)
2:奴隷を買う (農作物のため)
3:鑑定士に野菜の毒の有無を見てもらう
4:スラムなり道の綺麗さをちゃんと見てみる
5:病院を見てみる
こんなところだろうか。
ところで今、僕ことトールは蝋版の前でうなっている。
教皇達にもしすぐにでも会えるということになれば、神の子達の言葉をまとめておかないといけないからだ。さもないと会談の途中で彼等に即興で思念伝達をしなければいけなくなる。そんなの無理だから!
そして、ハーヴィ達もそうなれば適当なことを言うしかなくなる。
神の子の言葉なんて載せる気は毛頭ない。
載せるのは僕が皆に願うことだ。
隣人に愛を、平和が一番。魔物だからといって見下すなかれ、皆で仲良く。
まぁ、一回できたらハーヴィ達に見てもらいはして、彼等の方針に沿っているかだけは確認するけど。
さて、どうしようか。
・・・
・・・
『皆の者よ良く聞け
神の子たる我が言う
汝、隣人を愛せ
神は汝らが愛することを願う
神が人間も魔物も等しく愛するように
汝らも隣人を愛せ』
『皆の者よ良く聞け
神の子たる我が言う
全ては自分から踏み出すことから始まる
愛されたいならば愛すことから始めよ
周りを愛するならば、周りも汝を愛すであろう
その時、世界は汝の物になる』
『皆の者よ良く聞け
神の子たる我が言う
汝がこの世の全てから捨てられたように思っても
神は汝のことを見ている
誰からも愛されないということはない
神は汝のことを愛する
汝、神の愛を信じ最期までまっとうに生きるべし』
『皆の者よ良く聞け
神の子たる我が言う
貴賎なぞこの世にありはしない
種族、生まれ、職業
全ては等しい
この世界に生きる者全てが鍛冶屋ならば飢えて死ぬだろう
この世界に生きる者全てが人間ならば同胞で争いが起こるだろう
驕るなかれ』
『皆の者よ良く聞け
神の子たる我が言う
魔物は子や親を殺されても悲しみ、怒りはすれども恨みはしない
命がいつか尽きるものであることを知っているからだ
死ぬのは弱いからだと本能で理解しているからだ
恨むのは人間だけである
恨みを捨てよ
恨みはどこかで断ち切らなければならぬ
弱いのは恥ではなく、弱い者が死ぬのは自然の摂理である』
『皆の者よ良く聞け
神の子たる我が言う
弱肉強食の意を正しく理解すべし
弱い者は強者の血肉となって生き
強い者は弱い者の生を背負って生きる
強い者が好きにして良いということではない
強い者が好きにすれば周りに弱い者はいなくなり、その者は飢えて死ぬことだろう』
『皆の者よ良く聞け
神の子たる我が言う
群れで争うべからず
仮に自陣に被害なく相手の群れに勝ったとしても、それは中の上である
仮に自陣に被害なく相手の群れを根絶やしにしても、それは上の下である
争いを起こさず両者に益をもたらす案を持ちて、ようやく上の中である
上の上は相手を自陣に引き入れることである
争う時点で失策であると心得よ』
『皆の者よ良く聞け
神の子たる我が言う
満ち足りることを知る者は幸せである
常にもっとと欲深き者は不幸である
欲深き者はいつまでも救われぬ』
『皆の者よ良く聞け
神の子たる我が言う
我らの父は何を信ずるも自由とした
我らの父を信仰するならば
他者の異なる信仰を認めよ
他者を認めずして、己が認められることはない』
『皆の者よ良く聞け
神の子たる我が言う
友は大切にせよ
頼りきりになってしまうのは友ではない
友とは対等である
力を貸してもらったならば、次は力を貸すが良い
力で返せないのであれば、贈り物で誠意を見せよ
一方的な関係はいつか破綻する』
『皆の者よ良く聞け
神の子たる我が言う
謙虚に生きよ
謙虚な者は無茶をしない
それが彼を長生きさせるのだ』
『皆の者よ良く聞け
神の子たる我が言う
清潔さは汝らを救う
病気の元は汚物に付随する
汚物は周りから排除せよ
汚れた者は綺麗にしてやるべし』
・・・
・・・
「・・ル」
「ト・・、ト・ル」
「トール!」
と目の前にハーヴィ (小龍ver)の顔があった。
「うわぁ!??」
頭に止まっていて逆さにこちらの顔を覗いたらしい。
「!??すまんの、そんなに驚くとは思わなかったが・・・」
「いや、没頭し過ぎていた、何、ハーヴィ?」
「今日は王都に行くのだろう?そろそろ行かんと時間がなくなるぞ」
「あ、もう、そんな時間?ありがとう、ハーヴィ」
「うむ」
「そうだなぁ、今日はヴィトとハーティと一緒に行こうか」
「スコールや、スロールは?」
「待機かなぁ、あまり見せたくないんだよね。人間のドロドロしたところなんて。本当はハーティにも見せたくないんだけど、嘘を見破ることができる子がいた方が良いし。ヴィトに魔法の鞄と自前の宝石類、スロールのこの前の野菜類を持って来てくれってことと、ハーティも呼んで来て」
「注文が多いの」
とちょっぴり不機嫌な我等が龍。
頭を撫でながら、
「それだけ信頼しているんだよ」
と言ってみる。
「うぅむ、ハーティのように釣られたわけではないが、構わん。行ってくる」
と行ってくれる。
うん、家の子達は皆良い子だ。 (子というには年があれだけど、思わず言ってしまう)
・・・
・・・
各々準備を終えて、いざ王都へ。
王都を上からよく見ると碁盤の目のようになっていて、東側が明らかにぼろく、西側が綺麗で大きな建物がある。東が魔物のいる森に面しているから市民街なのだろうか。西は貴族の家などであろう。
ハーヴィのおかげですんなり王城へ。
でも今日は王城に興味はないから、王城を抜けて市民街へ。
途中、衛兵に見つかってもハーヴィが声をかければすっと通してくれた。
いつの間にかハーヴィが王城で馴染んでいる。
普通、僕のこととか聞かない?
あ、ヴィトもいるから?龍と骸骨の組み合わせはそうないもんね!
・・・警備大丈夫かよ。
そのまま、真っ直ぐ歩けばメインストリートだが、一見しては綺麗な道だ。
店なども活気があふれる。
糞尿など見当たらない。
しかし、確実に臭う。
やはり、汚物がどこかにあるようだ。
メインストリートから少し離れると少し汚くなるが、汚物は多少である。
豚が歩いている。
とことこ、と豚が歩いている。
なるほど、豚に汚物は食わせているのか。
その後、その豚を食うのか。
なるほどぉ・・・トールの6才までの感覚と地球の現代人の感覚が珍しく噛み合う。食いたくねぇ。
さて、ヴィトお気に入りの悪人面の宝石商のところへ行ってみる。
やはり店が並ぶところの通りはある程度綺麗に保たれているようだ。
まぁ、上からいつ糞尿をぶっかけられるか分からないところで買い物したくないよね。
「へい、らっしゃい!」
・・・宝石商の掛け声ではない。
「お、前の貴族様じゃねぇですかい、そちらのお子さんは?」
「従兄弟から預かりましてね、利発な子なんですよ。ところで今日も買い取ってもらいたいんですが、大丈夫ですか?」
とヴィトが一歩前に出て、答える。
「へぇ、勿論でさ。この前の持って来て下さったやつは大層人気が出ましてね、前くらいのならすぐにでも買取らせていただきまさぁ」
「いや、この前の残ったやつとかだね」
とヴィトがじゃらっとカウンターに宝石を転がす。
「あぁ、そんなのもありやしたね。一応確認させてもらいやす」
「では、君は外で他の店でも眺めてなさい」
とヴィトが僕に言う。
「は~い、あ、おじさん!」
「なんですかぃ?」
「おじさんのジョブって鑑定士なの?」
「いえ、違ぇます。鑑定士なら貴族様の方の商店街に腕の良いのがおりやすぜ、円に棒がついた看板を出してるからすぐに分かりやす、こっちの庶民の方のは駄目ですね、あいつはジョブじゃねぇ、スキルだ。しっかり見てもらいたいなら貴族の方のをお勧めしやす」
「丁寧にありがと~、あと奴隷ってどこで買えるの?」
「珍しいのですかぃ?それとも普通の?」
「珍しいのって、例えば?」
「エルフだとか、亜人、獣人、強い魔物、美男、美女、元貴族とかでさぁ。珍しいスキル持ちやジョブのもいるって噂だなぁ。普通のは普通にスラムから流れたような人間が主で、亜人や魔物はほとんど置いてねぇって話だ」
・・・・・・・・・あ?なんだって?魔物が?
「ん~、今はお手伝いさんが欲しいだけだから、普通ので良いや!」
と、にこって笑ってみせる。
「それなら、この通りをまっすぐ行って壁にぶちあたったら、2本ほど市民街へ、首輪の印の看板でさぁ」
「ありがと!じゃあ、お兄ちゃん!僕ここの通りの服屋に行ってるから!」
とヴィトに言う。
ヴィトにお兄ちゃんってなんだか、ものすごく、不思議な感覚!!
「じゃあ、彼を連れていくんだよ。あ、彼女をこっちに呼んどいてくれる?」
「は~い!」
扉を閉めるときに漏れ聞こえたのは
「あの坊ちゃんも肝が太いですねぇ、あっしの顔を怖がってねぇ」
「あの子は特別です、なにせ私の従兄弟ですから!」
とヴィトが自慢していた。
・・・そんなに怖い顔かしら?
「ハーティ、ヴィトが呼んでいるから中に行ってあげて。ヴィトが換金している間に僕は服を見てるよ」
「うむ、兄よ、トールに不埒な輩を近づけるなよ」
と半ば噛み付くように釘を刺すハーティ。
「当たり前だ、信じておれ」
・・・
・・・
服と靴を何着か買って、まずは奴隷の売り場へ。
途中途中、危険信号がうずくも、すぐになくなる。
大方、僕を誘拐でもしようとして、ハーティを見て止めた輩だろう。
そうして、奴隷を扱う店まで来た。
ここまで来ると、生活圏と店が混在している。
店の前は綺麗に、家の方は汚い。
店で豚を繋いでいるところも多い。
ここの奴隷売り場は他の建物から少し離れているため、綺麗だ。
・・・奴隷の叫びとかのためだろうか。
やるせない気持ちになる。
門番みたいな人がいたので、ヴィトに声をかけてもらう。
「すみません、奴隷を買いたいのですが・・・」
久々に!
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是非、この後書きの上のリンクをぽちっと!1日1回!
そうすると、なんと!
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