84話 頑張る日々 18「良心と葛藤」
「人間がこの恩恵を最も受けることになる。僕は死ぬ赤子を少しでも減らし、病人も出ないようにするなど人間世界を変えるつもりだからね。増える人口を支える食物がなくてはならない」
「・・・ふむ?」
とハーヴィが首を傾げる。
「人間は脅威だと言っておったのに、人間を増やすのか?」
「うん。我ながら偽善だとは思うけど、赤子のまま成長しないで死ぬ子や、せっかく授かった子の成長を見ることができずに死ぬ母は、ね。減らしたい。病人も、好きでなっているわけじゃないし。数が増えれば増えるほど脅威の度合いが増すのは分かっているんだけど・・・まぁ、僕も人間だから多少の情はあるってことかな・・・けど、魔物とのことを考えると、これは僕の我侭だね。もしかしたら、今後そうやって元気に産まれてきた子達が障害になるかもしれない、でも・・・」
「よい、そんなに難しく考えるな。ただ気になっただけよ。トールがしたいならばするが良い。それが間違っていない限りは我等もできる限り助ける」
とハーヴィが言うと、皆が頷いてくれる。
「トール」
と母さんが言うのでそちらを見ると、
「わぷっ」
抱きしめられていた。
「素晴らしいわ、是非お願いね。人間のためとかじゃなくて良いの、世の母達のために、子供達のために」
と更にぎゅうっと抱しめられた。
冷たいものが背中を濡らす、できる限り頑張るよと抱きしめ返す。
母さんも命をかけて僕を産んでくれた一人なのだ。
「具体的にどうするとかはもう案はあるのかい?」
と父さんが尋ねてくる。
母さんをゆっくり離し、
「うん。そもそもの話、この時代で産後の母親が亡くなる、子供が幼い内に亡くなるのは衛生って概念がないからだと思うんだ」
「衛生?」
「まぁ、つまるところ綺麗にしましょうって話。汚いってそれだけで病気のもとになるんだ、それに鼠が出てきたりするからね、彼等は病気の元を運んでくる。鼠が運んでくる病気で最も怖いのはペストって言う病気でね、ある時代では数人に一人が死ぬような病気だった。まずコレを防ぐ必要がある、赤ん坊が、母が、とかの域ではなくて、コレを防がないとどんな人間も死ぬ可能性がある」
「「「「「「「そんな病気が・・・」」」」」」」
ゴクリと、皆の顔が一段と真剣になった。
「あっ、ちなみに病気関連で言うと、さっきのジャガイモも多くの人を救っているけど、病気で育たない年があって、その時には飢えて死んだ人が数百万人とかいたんじゃなかったかな?」
「「「「「「「そんなに!?」」」」」」」
「うん、逆に言うとそれだけ、いいやそれ以上の数を養える作物だったということだけど、あぁ、また話がズレた。まずは王都も村も綺麗にするだけで大分変わると思うよ、ちなみに母さん、子供は村のどこで産むことになっている?」
「え、基本自宅でかしら?村によってはそれ専用の建物があるらしいけど・・・」
「うん、本当はそれ専用の建物が良いと思う。清潔なベッド、埃のない清潔な部屋、全員が専用の綺麗に洗われた服を着て、手もしっかり洗って、石鹸ってある?」
「えぇ、とても高級だけど・・・」
「石鹸で必ず手を洗わせよう。また、新鮮な空気を入れることとかも大事になるから窓付きだね。煤混じりの空気は駄目かな?できれば」
「そ、そんなにするのか!?」
とハーティが驚く。
「本当はもっとしたいところなんだよ、空気中には病気の元になるものが常にあると思って良い。それをできる限り排除したいんだ。普通の人には抵抗力があるけど、産後の疲れきった母親と産まれてからしばらくの赤子には抵抗力がないからね。後はお腹を切開できるようにしたいところでもある」
「トール、それは最後の、本当に最後の手段だよ。子だけでも助けたいという時の」
と父が真剣な、それこそ睨むような目でこちらを見る。
分かっているよ、この時代はそうだということは。
「僕の時代では割と多くの人が受けて、母子ともに健康でいたんだよ。あまり勧められる方法ではないのかもしれないけど、その辺の理屈は分からない。だから、できるようにしたい、止まりだね。残念ながら」
と苦笑で返す。
「うん、衛生?とやらが大事なのは分かったけど、どこら辺が具体的に綺麗にするべき場所なの?」
スコールが大事なところに気づいてくれた。
「う~ん、一言で言えば排泄物とか?」
「土に還るじゃん」
「還るまでは?ハエもたかる、彼等も病原菌持っていると思うよ」
「ふ~ん、どうやって綺麗にするの?」
「まぁ、スライムさんが適任というか、彼等しかできないね。彼等が嫌がるなら全てが机上の空論だね」
と笑う。
「命令しないの?」
「しないよ、スライムロードにも言ったけど、彼はテイムしていないから、命令できないし、したくない。お願いがせいぜいだけど、物が物だけに、どうだろうね?まぁ、村は良いんだ、排泄物なんて埋めればすむ。まぁ、問題は王都だよね」
「「「「「あぁ!」」」」」
と今更ながらに気づく従魔達。
「というか、君等よく行けたよね、糞尿とか凄くなかった?」
「皆、各々で結界で覆っていましたから、匂いも何も感じませんでした」
とヴィトが言い、皆頷く。
「そう言えばいたる所にあったな、何故土に還らん?」
とハーティが首を傾げ、
「道が舗装されていましたから」
とヴィトが返す。
「なんと、そうであったか。・・・・・・馬鹿か?」
とハーティが真顔で言う。
「まぁ、汚いと病気に結びつく、という考えがないか、広がっていないんだろうね。自分さえ良ければそれで良いのさ。ただ、皆もね、道が綺麗な方が良いと思うはずなんだ。だから、スライムに道のそれらを消化してもらいたいのさ、あとは各家庭のそれを道に捨てないように、決められた場所にいるスライムに消化してもらう。それが魔物との共存の一歩にもつながる」
「ふむ、それは王に言う必要があるな」
とハーヴィ。
「まぁ、やってくれるなら万万歳じゃない?途方も無い報酬を望むなら別だけど、これは僕の我侭もあるから格安で引き受けるよ、っていうかスラムの人の仕事にするよう提言するけど。王とスライム達次第だけど」
「我侭?母や子のためか?」
ハーヴィが尋ねてくる。
くっ。
本心を言うしかない、ないが、締まらないから言いたくない!
「それも当然あるけど・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・糞尿だらけのところの学校とか行きたくない」
「「「「「「「・・・」」」」」」」
一拍置いて皆が大爆笑した。
ハーヴィ、ハーティ君等も学校通う話になっているんだよ?
嗅覚が僕より優れている君たちには割と死活問題よ?
結界をずっと張っているなら別だけど。
「とまぁ、スコールもスロールも素晴らしい働きをしてくれましたと」
とまとめに入る。
「ねぇ、トール」
と母さんが真剣な顔で声をかけてきた。
「さっきの母と子のこととかはどうするの?」
「それなんだよねぇ・・・。一番は教会の聖書に載せてもらうことだと思う。たぶん、聖書も改訂していることだろうから」
「改訂?なぜ、そう思うの?」
と母さんが疑問符を頭に浮かべている。
「僕が産まれた時に神様の言葉が聞けたからね、それは載せなきゃでしょ。また、神の実の子ともいえるハーヴィ達の言葉も入っていない。大司教が来たのはその辺の言葉とかも載せるためじゃないかなぁ。聖書と言っても昔の偉人の話とイネガル神様の偉業、後は魔物の脅威についてとか生活にお役立ち大全って感じだったから。神様が魔物にも愛があると言ったというのなら、そして、実際に魔物が人を襲わなくなっているのなら、それについて載せないと整合性がとれなくなる。というか、神様が現れたのなら載せたいはずだよ、それだけ神について知っているという情報力を知らしめることができる。しかも紙の枚数が増えるから、必然的に価格も上げられる、不自然ではなく」
教会の怖いとこは情報を隠し、曲げ、広められることについてだから、実は整合性はいらなかったりもする。
「ただねぇ・・・この年で行っても良いのかって話でね。あまり目をつけられたくないし、納得させられるだけの材料を持っているわけでもないし。何より、その知識はどこで得たか、と言う話になる。神様がこの身体を通して皆に話したときに辛うじて見れたとか?苦しいんだよねぇ・・・どうすっかなぁ」
と天を仰ぐ。
「もし、もし無理でないのなら・・・」
と母さんが拳を胸の前に持ってきて言う。
「できれば早く進めてあげてほしいの」
珍しい、僕のやる事に母さんがここまで乗り気なのは。
いや、理屈は分かる。感情も分かる・・・と思う。
ああぁぁぁ。
再び、天を仰ぐ。
「一個進めるだけじゃ意味が無い、全体的にいっぺんに進める必要がある。そして、場合によっては莫大な金がかかる」
「お金?」
と父さん。
「僕の予想が外れていなければ、ここの王都の病院は修道院が兼ねているか、病院単体か・・・しかし、どちらにせよ、衛生概念がないから不潔な場所なはず。ある病気を持って訪ねたら、別の病気をもらうような」
「意味がないですね」
とヴィト。
「そう意味がないんだ、しかも患者を寝かせるベッドの配置とか窓の配置も考えられていないだろう。いっそ新しく建てた方が良いくらいに。そうなると教会は自腹を切るか?それがまず怪しい」
「え、でも教会は人を救うのが・・・」
と母さんが言う。
「本音と建前さ。この世界の教会がどれだけ綺麗な組織かは分からないけど。僕としては人間の組織ってだけで疑いたい。そして、考えるべきは常に悪い事態だと思う。つまり、教会が拝金主義に化していると。まぁ、金がないと人間社会では影響力をもてないからある程度は理解するけどね・・・度が過ぎている時。教会に事情を話して金を渡す?途中で抜かれるかも。それ以前にさっきの話と合わせて、異教徒認定されて襲われるかも。うちにはたくさん宝物があるし。教会を敵にまわすのは嫌なんだよね、やりようがないわけではないけど。泥沼の争いになるし」
「ふむ、ではいつが適切だと?」
ヴィトが尋ねてくる。
「次の僕の誕生日に王様達に魔物達の移動と、スライムによる町の清掃、この辺の話を通して、王から教会に相談してもらう・・・かなぁ」
ちなみに、僕の次の誕生日はまだまだ先である。
ついこの間記憶を返してもらったばかりなのだから。
思えば濃い日々を過ごしている。
その濃い日々に村の人との交流はないが。
・・・コミュ障?
知ってる。
そう、次の誕生日なら王達も集まるからどこどこの国だけが先駆けて・・・とか下らない話がでないはず。
できれば枢機卿や、本当にできれば教皇に祭りに参加してもらうと話は更に早い。
酒を飲ませればこっちのもんだ。
その酒がオーガの酒で、相手が酩酊状態になろうと、幾人かに証人になってもらえば良い。
公爵様とか。
ただ、母としての、母さんの想いも尊重したい。
それは僕なりの良心にも沿うものだ。
あぁぁ、どうしようかな???
ひっさびさの投稿に感じる!!
皆さん健康でしたか?
うなぎうなぎは・・・(白目
さて、ひっさびさとか、
そんな感じを覚えないように、どんどん書いていきたい所存でございます。
・・・だから、見捨てないでくださいね(うるうる
そんな、うなぎうなぎです!
なんだ、この後書き




