83話 頑張る日々 17「前世と地理」
どうやら、寝ている間にスコールとスロールが戻ってきていたらしい。
「ごめん、二人が仕事している間に寝てた」
「まぁ最近忙しかったですから」
と笑って答えてくれるのはドライアドのスロール。
元が木だからか気長というか、おっとりしているというか、優しい。
問題なのは
「どうせ、私よりも猫が大事だったんでしょ」
と拗ねているスコールである。
・・・あなた、齢数百とかなのにその程度で拗ねないで!
とは決して口に出してはいけない。
たぶん、魔物の雌に対しても年齢は禁句である。
たぶん、いや絶対。
「スコール、スコール」
おいで、おいでと手招く。
「ふんだ、すぐに許してやるような軽い女じゃないんだから」
頬を両手に当てて、目を真っ直ぐ見据える。
「愛している」
「ふぇ?」
「君の性格も君の元の姿も、君の全てを愛している。昼に黄金に輝く毛並みを、月夜に銀に輝く毛並みを愛している。君の様々な色に煌く目を、美しい幾つもの尾を、優しさを、お姉さんみたいに見守ってくれるところを、皆を元気付けてくれている性格を愛している」
「ふぇ?ふぇ?」
「君の全てを受け入れてくれてるその心の広さを愛している。君の牙も美しいと思う。君の耳が感情を表している様を愛しいと思う」
「・・・ふぇ?」
「スコールは僕を愛してくれてないの?」
「あ、愛!?いや、愛しているけど!こんな皆の前で!」
珍しく照れて、目をきょろきょろさせている様がもう可愛らしい。
ただ、頬を両手で挟み、こちらを向かせるのはやめない。
「皆の前だろうか、どこだろうが僕は言えるよ?愛しているよ、スコール」
と鼻の頭にキスを落とす。
「ハ、ハーティは!!??」
「もちろん、愛しているよ。どっちの方が・・・とかは答えられない。同じくらい愛しているから、優柔不断とも不純とも誹られようとも、それが僕の本当の心だから。嘘をついている匂いはするかい?」
「・・・しな、いけど。猫の匂いが凄い」
とジト目で見られる。
「猫や犬や熊や蛇や猪とか動物は大好き、だけど君達は愛している、それじゃ足りない?」
「・・・はぁ、こんなに真っ直ぐ言われたら拗ねられないじゃないか」
と赤くなってため息を吐くスコール。
「ありがとう、許してくれて。これからも同じ様に動物や魔物に接することがあっても、覚えていて、本当に愛しているのは君等だけだ」
と首の辺りを抱きしめる。
「ハーティにも同じことを?」
「やったし、言って許してもらった」
視線の先を見ると、明らかに機嫌の良いハーティがいる。
「お姉さん、トールが将来、タラシにならないか心配さ」
むっ!
耳元で囁いてやる。
「言っただろう、愛してるのは君等だけだと。他の有象無象に言うわけがないだろう」
真っ赤になって俯いてしまった。
何この可愛い生き物。
「スロール、スロール」
とおいでおいでをする。
「はい」
と明らかに期待している目で来る。
抱きしめて
「ありがとう、お疲れ様。君を愛しているよ」
「分かってますよ」
と笑う、お姉さん。
「ただ、あれだけ熱烈なのを見せられたら、同じことをして欲しいですが?」
お互いで笑いあう。
「君はいつも僕等のために元の姿でいることはないよね、そういう気遣いができるところを、僕等を後ろから優しく見守ってくれているところを、長く待つことができるその在り様を、静謐を感じさせてくれるその在り様を愛している。その人型は元の姿から?」
「はい、そうですよ」
となでなでされる。
「それならば心置きなく、この美しい緑色の長髪を、その深く済んだ緑の色をした瞳を、その性格を現したようなその美しい姿も愛している。だけど・・・」
「だけど?」
「やっぱり、元の姿の君に向かって言いたいよ。だから今日はここまで」
「あらあら、では後日の楽しみにしていますね」
「うん」
とお互いを見て笑いあう。
ハーヴィが我は?我は?と期待を込めて見てくる。
「ハーヴィ、ヴィト、もちろん君等も愛しているけど」
「「けど?」」
「今のようなのは女性にしか言わないからね、まさに愛の告白なんだから」
「なんと!?」
と言ってもらえないハーヴィがショックを受ける。
「まぁ、男に言うのや言われるのは・・・えぇ、あんなに褒め殺されるのは言われる方もどんな顔して受け止めれば良いか分かりませんね」
と、ヴィトがはははっと朗らかに笑う。
そして、後ろでは両親が
「いつの間にか、7才の息子が女性を口説けるようになっているんだけど」
と父さん。
「あなたも見習わなきゃね、でも変な虫がつかないようにハーティさん達にはお願いしておかないと」
と笑う母さん。
むむっ!
「母さん、それ逆だから。ハーティ達に変な虫がつかないように僕が頑張るんだから」
「あらあら、それはごめんなさいね」
と更に笑う母さん。
・・・
・・・
夕食後、ハーヴィにお願いしていつもの山の上に来る。
「そうだ、スロール、スコールお願いしていたのは?」
「「ばっちり」だよ」です」
「流石だね、スロールやスコール、君等がしたことは本当に偉大なことだ。世界の救世主と言っても過言ではない、本当にありがとう」
ともう一度抱きしめる。
「そんなに凄いこと・・・どんなことをお願いしていたんだい?」
と父さんが尋ねてきた。
「スコールには以前話した火薬を使った武器を作る者が出てきたら知らせるように眷族達に周知を、幾人かは各王都に送り込んでもらった。スロールには野菜を探してきてもらった」
「火薬は随分と怖いのは教えてもらっていたけど・・・野菜がそんなに凄いことなの?」
と首を傾げる母さん。
「人間が長生きするのには、適度な運動と、適度に様々な栄養をとることが必要なんだ。肉だけ食べていたら人間は死ぬ、パンだけでも。今の食生活でたぶん足りない栄養をたぶん持っているだろう野菜をお願いしていたんだ。それと、もう一つ、凄い野菜?があってね、それは僕等の世界の大陸にある地方を救ったとも言われているんだ」
「・・・だいぶ、たぶんや疑問がついているのね」
と母さんから突っ込みが入る
「・・・・・・・・・・・だって、その辺の勉強は疎かにしていたんだもの。ごめんなさい」
家庭科?一晩で暗記してテストに臨み、テストが終わったら即忘れてました。
じゃがいもは野菜なの?芋なの?芋って野菜なの?ググりたい!!
アメリカ人が言っているジャガイモは野菜って信じて良いの?
あれ、お腹一杯食べたいから、野菜にしておけばヘルシーと言い張れるからって聞いたよ!?
世の小学生から高校生に声高に伝えたい!
君等が望んでいる異世界転生において長生きしたければ、栄養についての勉強をしっかりしよう!
あと、サバイバル能力もあると良いかもネ!
・・・ボーイスカウトはどれくらいカバーしてくれるのかしら?
「ま、まぁ?食卓に上がる物が増えるのは悪いことじゃないし?ね!!」
「え、えぇ。そうね・・・。えぇ」
必死な僕を哀れに思ってか頷いてくれた。
「トール、色々なことを考えていることは分かったけど。大陸っていうのはなんだい?」
「あぁ、じゃあ、今日のお話はその辺りの地理の話にしよう」
がりがりと地面に大きな世界地図の略図を書く。
「僕がいた世界の地図の略図ね。右から北アメリカ大陸・南アメリカ大陸・オーストラリア大陸・ユーラシア大陸・アフリカ大陸、ちょっと特殊な南極大陸。それぞれに木々があったり、動植物がいたり、人間がいてそれぞれに生活を送っていた」
「「「「「「「ふむふむ」」」」」」」
「そしてこの辺りの地帯を赤道と呼んでいた」
「ふむ、真ん中よりも若干下の線か」
とハーヴィ。
「そこがこの地図の面白いところでね、本来は赤道が真ん中にくるべきなんだよ。だけど人間の為の線だから、この地図を広めた国の使いやすいように書いているから本来とはズレている。さて、この地図である地点を指したい時には緯度何度、経度何度と呼ぶ。緯度が縦のこと、経度が横のことと思えば良いよ。さっきの赤道は緯度0度、つまり縦の基準だね。だから真ん中にくるべきと言ったんだ」
「「「「「「「ふむふむ」」」」」」」
「さて、この赤道は太陽が最も照らす地点と言って良いと思う。つまり気温は他に比べると?」
「高いですね」
とヴィト。
「そういうこと。つまり、緯度が0度から離れれば離れるほど寒くなる」
と南極大陸や、ロシアの辺りを指す。
「「「「「「「ふむふむ」」」」」」」
「ちなみに、この辺りはあまりにも寒くてね。凍死・・・凍えて死ぬ人も出るくらいだった。お酒を飲むと身体があったかくなるから、酒精が強いのを皆好んで飲むんだけど、酔っぱらって路上で寝ると凍死コースだとか」
「「「「「「「そんなに!?」」」」」」」
「ここらだと湖が凍ることすら珍しくないのさ。南極大陸がちょっと特殊なのは氷に覆われた地域だからだね」
「氷に?そうすると植物などは?」
とドライアド。
「さぁ?行く気もなかったからね、あまり調べたことはないけど。・・・たぶん無いんじゃない?魚をとる熊とかはいるけど。・・・苔とかはあるかもなのかな?」
「で、ここらの大陸以外が海。湖のずっとずっと大きいものと考えてくれていれば良いよ、塩がとれるくらいしょっぱいけど」
「「「「「「「・・・・・・え?」」」」」」」
「大陸以外が基本海、陸、こういう土があるところね。と海、広い水ね、割合にして10の内の3が陸、7が水、つまり海」
「「「「「「「・・・・・・えぇ!!??」」」」」」」
「むしろ、ハーヴィやハーティは世界の最初期からいたんだから知らないの?この世界のこと。こういう地図的な情報とか、この世界も同じかどうか知りたいんだけど・・・」
「「シラン」」
と目を逸らす二匹。
「わざわざ、世界を見て周る必要を感じておらんかったからな。東西南北、海はそれぞれ青竜達がおったからそこまで行くことは稀だ」
とハーヴィ。
「我も同じだ、世界を見て周るより群れの長としての仕事があったし、神の子として群れ同士の争いを治めるのを手伝ったりしておったからな」
とハーティ。
「ふぅん。まぁ、そういうものか。僕だって、世界を見て周ろうとか思ったことはあったけど、なんだかんだ面倒だからやってなかったしね。お金も凄いかかるし」
「・・・トール。それってお金と余裕があれば・・・・」
「できたよ?文明が進んでいたと言ったよね、人間が鉄の塊を空に飛ばし、大陸間を移動するような世界だったから、船も凄い早いのができていた」
「「・・・・船」」
両親がぽかーんとしている。
せいぜい見たことがあるのは川の渡し舟かしら?
それも見たことがあるかは怪しい。
だって外には魔物がいて危険だったのだから。
皆がポカーンとしていたので手を叩く
「はいはい、進めるよ!それで、僕のいた地域はここにある小島、日本という国だったんだ。適度に温かく、寒く、良い地域だった。この辺だったから。ただ、この辺からは寒くて雪が凄い場所だったね」
「「「「「「「小さい」」」」」」」
「うん、小さい島国だった。それでも数千万人は優に住める広さだったと思うけど。僕の時代は建物を建てられる場所が少なくなってきて、建物を2階、3階と縦に伸ばしていたから。本来どれ位が土地に暮らせる人間の許容量だったかは分からないな」
「こんな小さい、島に、数千万か」
とハーヴィがしみじみと呟く。
「ちなみに10階建てとかは普通にあったよ」
「10階・・・」
ほわぁとしている父さん。
「ドワーフでもできるかどうか、いやできるだろう、年月をどれ位必要とするかは分からんがな」
とハーティ。
「さて、スロールの素晴らしいところについてだ、昔々、この辺りはパンが主食だった。そして、野菜の数も少なかったと聞く。嘘か真か、野菜の種類が4種類しかなかったという地域もあったらしい」
とヨーロッパの辺りを指す。
「寒いのも理由の一つだと思うけど、例えばこの辺とかは海の水が温かいから地域としても温かかったりするんだよね。宗教とかもあるのか、それとも土が貧しいのか、探究心がなかったのか・・・」
後半は独り言みたいになってしまった。
「土が貧しいって何?」
とスコールが尋ね、
「それは作物を育てる栄養をあまり持っていない土ですね」
とスロールが答える。
「流石だね、そうそう、そういう土地。あぁ、話がズレた。それで、特にこの辺は寒くて、土が貧しくてね、作物が全然育たないんだ。そこで現れたのが他の地域から流れたジャガイモという作物。これが凄くてね、寒い地域だろうが、土が貧しかろうが育つ。しかも主食になるくらいにお腹がふくれる。これのおかげでこの辺の地域の人は人口を増やせた」
「はぁ、これがそんなに凄い作物だったんですね」
と当のスロールが芋を持ちながら言う。
「まぁ、本当に僕がいた世界のジャガイモと同じかは分からないけどね。その辺はおいおい研究だね。もし、本当に同じのだったら君は世界の歴史に名を残せる」
「そんなに褒めるほど?いや、凄い作物だっていうのは分かったけど」
「うん、素晴らしいよ!何故なら魔物達でも育てられるなら、彼等はダンジョンに潜る必要がなくなる。増える種族を支える手段がダンジョンでの狩りだけというのは怖い。手段は複数持っておくべきだ。何が起きるかは神ですら分からないのだから」
そして、
「人間がこの恩恵を最も受けることになる。僕は死ぬ赤子を少しでも減らし、病人も出ないようにするなど人間世界を変えるつもりだからね。増える人口を支える食物がなくてはならない」
書いていると本当に色んなことを知らないで生きているんだなぁと実感します。
特にヨーロッパの中世とか。
・・やはり何かしら明らかに「なろう」作家人を狙っている本を買うべきか・・・




