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82話 頑張る日々 16「トールにとって一番大事なこと・・・もふる!」

決闘も終わり、事前に整えておきたいことも色々と進めている。

だが、何かを、決定的な何かを忘れている。

そんな気がしてならない。


決闘翌日、また朝早くに起きた僕はハーティ(元の大きさver)と一緒に走っている。

今日は全力疾走でどこまで行けるのかを試す。

ハーティには僕の少し前を走ってもらっている。

人間何かを追いかけている方が早くなるもんだ。


「っ!!!!!」

漫画のように叫びながら走りたいが、そんなことをする余裕はない。

下手なことをしたら置いていかれる。

それに、尻尾が。

尻尾が。

尻尾が誘惑してくるのだ。

おいで、と。

もふもふだよ、と!

もっふもふだよ、と!!

置いてかれてたまるか!捕まえてもふもふしてやる!

もっふもふのもふもふのもっふもふにだ!

ダダダっという僕の走る音が辺りに響きわたる。


・・・

・・・


「ひゅ~、ぜぇ、ぜぇ、ひゅ~、ぜぇ、ぜぇ」

隣の村まで全力で走ったが、一度も捕まえられなかった。

とりあえず、分かったのは流石にトップスピードをこの距離まで維持するのはまだまだ無理だということだ。

全力では走ったが、途中で明らかにペースが落ちた。

それに合わせてハーティもペースを落とすものだから、目の前に人参をつるされた馬よろしく、そのまま頑張った。

正直に言う、頑張り過ぎた。

記憶の中でもこれが一番体力的に辛い。

ランナーズハイって聞いたことあるけど、発動条件は何!!??

「ひゅ~、ぜぇ、ぜぇ、ひゅ~、ぜぇ、ぜぇ」

大の字に転がって空を見上げる。


「うむうむ、走るのはやはり気持ち良いものよ、なかなか頑張ったではないか、トール」

と尻尾をぶんぶん振り回しながら、ハーティが言ってくるが、

とりあえず、まだ息が整わないので、手招きする。


「??」


近寄ってきたハーティの足を思いっきり抱きしめる。

・・・もふもふ。


「どうした?」

と頭を近づけてくる美形な狼。

やはり狼は美しい。

その中でも特にうちのハーティは一番美しい。これは絶対の真理だ。

誰にも文句を言わせない。


・・・足を掴み、どうにか立ち上がり、首筋に顔を埋める。


「まだ休んでいなくて良いのか?」


(このまま休むの!)

と思念で伝えて、

首筋のところで深呼吸を繰り返す。

もちろん毛皮が口に入るが、気にしない。むしろご褒美です。

もっふ~、ふ~ (す~、は~)

もっふ~、ふ~ (す~、は~)

もっふ~、ふ~ (す~、は~)


「こ、これ!くすぐったいわ、息が生温かいわ、やめんか!」


(やめない!頑張ったから、ご褒美があっても良いと思うの!)


もっふ~、ふ~ (す~、は~)

もっふ~、ふ~ (す~、は~)

もっふ~、ふ~ (す~、は~)


ふ~、落ち着いた。そして良い匂いがして、柔らかかった。

さらさらだった。

周りの目?あぁ、周りに誰か人がいるね、それがどうした!!


「はぁ、ようやく息が整ったよ、ありがとう、ハーティ」


「こちらは逆に混乱で息が乱れそうになったがな、何を乱心しておる」

凄いジト目で見られる。

ヤバイ、その目も良い!!

ちょっと横に移動してみる。

あ、なんか流し目みたい!色っぽい!


「いや、正気正気、ハーティやスコールでもふもふするのが一番回復するの、なんか・・・こう・・・気力が?」


「適当なことを言いおって」

あ、赤くなっている。

・・・可愛い。

うちの狼、美しいわ、可愛いわ、愛しいわ、もう何?奇跡?女神?

神の子?納得です。イネガル神様、あなたの子達は本当に最高です。


「あぁ~・・・お前さん、また来たんか?」

あ、この前のおじさん。

呆れたように見えるのは気のせい。


「おはようございます、えぇ、朝の運動に」

「うむ、おはよう」


「おう、おはようさん。はぁ、若いってなぁ良いなぁ、これからも毎朝来るんか?」


「毎朝かどうかは・・・気が向いた時にですかね」


「そうかぁ・・・んじゃあ、そん時にでも、もしあっちの村に届けたい物があれば頼んでいいか?」


「まぁ、壊れ物は万が一があるから嫌ですけど、手紙とかなら」


「おぉ!それでも助かる助かる!何せ、隣の村となると普通は馬車だかんなぁ。商人が来ないとなかなか連絡もできんのよ、何、お前さんの気まぐれの運動がてらで、んで俺に会った時で、しかも誰かがそっちに用がある時だけだ。そんなに頼むこともねぇさ」


「はぁ・・・、それで良ければ、構いませんが・・・」


「おう、ありがとうな、帰りも転んだり怪我すんなよ、んじゃな」

とおっさんが去っていく。


「良いのか?あんな雑用」

とハーティ。


「まぁ、たぶんそんなに当てにもしてないだろうさ。僕が行かなきゃ、いつものように商人が来るまで待つでしょう。それに魔物に襲われなくても、狼とか熊とか猪とかはまだまだ人間の脅威だからね、僕に利はないが、損もしない。誰かがそれでも助かる、なら良いさ」


「ふむ、人が良いの、トールは」


「まぁ、害意や悪意がなければね、さて、帰りはダッシュとゆっくりを繰り返すから、併走していても良いし、前で悠々走っていても良いよ」


「前でただゆっくり走ってもつまらんからな、併走するとする」


可愛いことを言ってくれる。

また、手招きをして、

「ハーティ、頭をこっちに」


「次は何をする気だ?」

と警戒し、嫌そうに言いつつも素直に頭を出してくれる。


「いや、可愛いことを言ってくれたからよしよししようと思って、よしよし、うりうり」

と頭を撫でて、顎下を撫でて、頬の辺りに顔を埋める。

よしよしよしよしよしよし、

うりうりうりうりうりうり、

よしよしよしよしよしよし、

もふぅ。


「はぁ♪」


「我を褒めるためというより、自身の為よの」

と呆れた顔のハーティ。

でも、僕は見逃さない。

尻尾が大きくぶんぶん振られているのを!

・・・だって草木がすごい揺らされているんだもん、風圧で。


「両者が幸せなら最高でしょう、じゃあ、帰ろう」


・・・

・・・


昼食も食べ終わり、これからのことを考えるが・・・

なんだか違和感が拭えない。

うぅむ・・・。

ハーヴィもハーティもスコール、スロールの元に行っている。

魔法の練習は後で夕食前にでもヴィトに頼んでするとしよう。

まだ、考えてないこと?

公衆衛生

道の舗装

病院

・・・医療レベルの確認か?いや、したところで自分が言えることなど当時の日本の常識的な範囲の物だ。

地図・・・も別に構わない。ハーヴィに乗れば大概のことは片がつく。まぁ、地図も文明の度合いを知るのには必要か?まぁ、余裕があったらで。

あっ!海にも神の子がいるって話を聞いた!今度会いに行こう!!

・・・けど、なんかそれも大事なんだけど、それじゃない。

スラムの人に仕事を与える

浴場を増やす

・・・お湯をどうする、毎回綺麗なのに変えないと感染症の人が入ったら・・・

栄養のこと

聖書改訂

魔物を王都で仕事させて融和させていく

魔物を集める

・・・あ、北の方のゴブリンやオーガってダンジョンがないんじゃ・・・。飢えてないか、後でハーヴィに行ってもらおう。今更だから、たぶん大丈夫だけど。他の魔物のダンジョンを借りているだろうとは思うが。


「・・・・うぅん????」

何だろうなぁ


「何を唸っているにゃ?」


「うん?ケットシー、珍しいね、村にいるなんて、木の上がお気に入りになってなかった?」


「あれは避難にゃ、まぁ気まぐれだからにゃ」


「まぁ、猫だしね」


ん?まぁ、猫だしね。猫だし・・・猫?猫!

そ・れ・だ~~~~~!!!!!


「ケットシー!今は暇!!!???暇だよね!!??」


「なんにゃ!!??いきなり元気になって、暇じゃないにゃ、仕事はしないにゃ!」


「仕事じゃないんだ!」


「じゃあ暇にゃ」


「そんな君が大好きだよ!」

と抱きしめる、もふぅぅぅ。

抱きしめながら顔を上げる。

「ねぇ、ケットシーって猫の王様だよね!!??」


「そうにゃ、偉いにゃ!」


「じゃあ、村の猫達に集まれって言ったら??」


「当然来るにゃ」


「もう、本当に大好き!!」

お腹にうりうりする。

お肉もついていて、ぽよんぽよんのむにむに。

そして、もふもふ、お日様の匂いもする。

あぁ、ハーティやスコールとは違った感触・・・そして匂い。


「それでどうしたにゃ?」


「君のお腹の上で村中の猫達と戯れたい!!」


「・・・・・にゃ?」


「君のお腹の上で村中の猫達と戯れたい!!」


「・・・・・にゃ?」


「君のお腹の上で・・・」


「いや、分かったにゃ!なんでそんなこ」


「したいの!お願い!!」


(あ、トールがなんか壊れたにゃ)

「分かったにゃ、好きにするが良いにゃ。仰向けで大の字で寝てれば良いかにゃ?」


「うん!ありがとう!大好き!!」


ごろんと大の字になってくれた、ケットシー。

上によじ登る。

まるで、某灰色の獣みたいな感じだ。

猫なのにバスじゃない。


にゃお~~~っと高い猫の声をケットシーが出すと、あちらこちらから猫が出てくる。


な・に・こ・の・天・国!!!!


猫の上で、猫に集られ、猫を思う存分にもふれる。

子猫もいる!

小さい!可愛い!ミーミー泣いてる!

テイマーだから警戒されない、むしろ近寄って来てる!

あぁ、最っ・・・・・高!!


そう。何のためにテイマーになったんだ?

もふりたいからだろ?

存分にもふりたいからだろ?

魔物と仲良くなりたい。嘘じゃない。

でも。

もふる。

それが至高、それが最高、それこそ我が覇業。

むしろ何のために死んだのか・・・もふるためと言っても過言ではない!


頭によじ登られる。

痛い、だが、それも良い。

肩にもよじ登るのがいる。

痛い、だが、それも良い。

顔にとびかかってきたのもいる。

最高です。

両手は手当たり次第に、頭とか顎とか背中とか尻尾のつけ根とか撫でている。

顔のがずれ落ちる。

見渡すと猫ばかり。

まさに猫尽くし。

はぁ、天国☆


そう猫科が足りなかったんだ!

あれ?狐ってどっちだ?

まぁ、狐っていうより、もうスコールだからこそ良いになっているけど。

え?他に狐がいたら?それはそれ。別腹です。もふります。当たり前です。


あぁ、君はイケメンだねぇ、手足がぶっといねぇ。抱きしめると重い。

おぉ、君はべっぴんさんだね、すらっとしているのが美しい。

君たちは兄弟かな?なんとなく似ているね、うりうり。

おお、君は色っぽいね、腰から足にかけてがセクシー。

ミーミー鳴く可愛い生き物はお前か、それともお前か。可愛いのう、可愛いのう。

お、鼻のピンクが綺麗だねぇ、お口は?はい、あ~ん、うん口の中もピンクで綺麗。

黒いねぇ、君は格好良いよ。黒猫の艶も良いね。

君はキジトラか、良い模様だねぇ。

君は長毛種?うわぁ、感触が短毛種とは違う!

君はカギ尻尾?しかも短い!可愛いねぇ。


幾匹も捕まえては首筋や頭やお腹の匂いを嗅ぐ。

最近は天気が良いからか、日向の良い匂いがする。

もふぅ。


はぁ、手が足りない、困った困った♪

あぁ、うちの子達用にブラシを買おうと思っていたんだ。

いや、ドワーフの長に頼もう、最高の物を作ってもらおう。

そうすると金が必要だ。

前の鉄剣の分とかもまだだし。

今度稼がなきゃ。


・・・それにしても、・・・・これぞ至福!!☆


あぁ、猫まみれ。

このためのテイマーだよ。

今度は犬まみれにならなきゃ。

素晴らしいね!夢と希望に満ち溢れる!!


・・・

・・・


「・・・ル、・・・-ル、・・・きるにゃ」

ん?


「トール、いい加減起きるにゃ、寝返りも打てずにつらいにゃ、そしていい加減暑苦しいにゃ」


「・・・?」

さっきまで天国にいたけど、と寝ぼけ眼で左右を見て周りを見渡す。

にゃっと声がした。

ケットシーの上は見る限り猫まみれになっていた。

もちろん、僕の上もだ。

感触から、

僕の足に手をかけて眠る猫。

足を抱き枕にしている猫。

足の上に寝ている猫。

お腹から胸の上の特等席は子猫達が埋め尽くしている。

腕も足同様に猫で固められている。

顔の上にいた猫が落とされたためにジト目でこっちを見ている。

さっき鳴いたのは君か!あぁ、ごめんよ!!!

頑張って首を伸ばすと頭に何か柔らかい感触がする。

頭の上の方にも猫が寝てるのだろう。


「ケットシー」


「どいてくれる気になったかにゃ?」


「お休み、この子達が自由意志でどこかに行くならともかく、王様権限でどかしたら・・・泣き喚くから。ハーヴィ達が困るくらいに大声で泣き喚くから。君のせいだって言って産まれたての赤ん坊より泣き喚くから」


「にゃ!!!???」


「ということで、お休み。誇って良いよケットシー、君のお腹の上も最高だ。猫達も最高だ」


「脅しておいて寝るにゃ!起きてにゃ!地味につらいんだにゃ!」


「頑張れ王様、応援してる」


「どいてにゃ~~~~!!」



後に猫球事件と呼ばれたこの事件。

最後は夕飯のため、呼びに来たハーティの拗ねた顔で幕が下りる。

曰く、我より猫が良いのかと。

ハーティを愛しているし、スコールも愛している。だけど、猫も大好きなのさ。


ちなみにこの後も度々この事件は起こることとなる。

普段は警戒している猫も触らせてくれるとあって村人も喜ぶことになるとは、まだ誰も知らない。


ちなみにノミやダニについては試しに森の方へ行くように頼んだら行ってくれたので、そこだけはケットシーも喜んでいたのも付け足しておく。

ついに思う存分もふれましたね。

もふるっていうか、塊になるというか、飲み込まれるというか。

最高ですね、代われトール、そこの場所、マジで。

テイマーになってやりたかったことの一つが叶いました。

後は、犬、狐、熊、獅子とかとか(多い

一匹を盛大にもふるのも尊いですが、大量に可愛いのをもふるのもまた正義!


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