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77話 頑張る日々 11「この泥棒猫!」

「決闘だ!!!!この泥棒が!!!!!!!」

とダイスが叫ぶ。


「ダイス、ダイス、ダイス君?落ち着いて?人聞きの悪いことをそう叫ぶものじゃない、泥棒って僕が何をさ。この1週間この有様だよ」

と左半身に巻かれている包帯を見せる。

・・・実は既に動かせる、痛いけど。

1週間大人しくしていたのが良かったんだネ、冗談です。魔物の長の皆、ありがとう。

おかげでこんなに頑丈に、そして回復力も強くなりました。

・・・もう魔物に近いのでは?


「うるせぇ!ルリもこんなやつのとこばっか来てんじゃねぇ!」

と荒々しくルリちゃんの手を掴む。

「きゃあ!痛いわ!離して!」

とルリちゃんがダイスを蹴った。

・・・いい感じにわき腹に入った気がするが・・・、とりあえず


「ヴィト、二人を引き離して、んで椅子の方まで連れて来て?」

とため息混じりにお願いをする。


「はいはい、ほらダイス君、そうやって掴むとルリさんが痛いでしょう?」

とルリちゃんには椅子を引いて座らせ、

ダイスは片手で両手を掴んだまま、無理やり座らせる骸骨殿。

・・・君も大概男子への扱いがアレだよね?

自分もだから、特に何か言う気はないが。


「それで、ダイス?僕が何を盗んだって?」


「ルリをだよ!!!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・は?悪い、ちょっと待って。ヴィト、ごめん、僕の耳の中見てくれる?耳垢溜まってない?」


「どれどれ、綺麗なものですよ、安心してください」


「そう、ありがとう。

それで、ダイス?僕が何を盗んだって?」


「だから!ルリをだよ!!!!ふざけてんのか、テメェ!!!!!!」

とダンと机を叩く、その音にびっくりしてルリちゃんがびくっとしている。


「とりあえず、人の家の家具にあたるなよ。・・・・・で?ルリちゃんを、僕が、盗む?・・・・・・お前こそ、ふざけてんの?」

と至極まっとうに真顔で返す。


「テメェ!愛し子だかなんだか知らないが、人の婚約者まで奪うのか!!!!!」


・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・


「・・・・・・・・・なんか言ったらどうなんだ!!!!!」


・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・


「・・・・・・・・・・・・・・・は?」


「テメェ!!」

と勢いよく立ち上がるダイス、その衝撃でガターンと椅子が倒れる。


「いやいやいやいや、いやいやいやいや、婚約者?誰と誰が?は?何?お前貴族か何かだっけ?」


ブチっと音がした。

「どこまでふざけんだ!!!皆知っていることだろうが!!!!!!」


「皆とか誰だよ!俺は知らなかったよ!!!!!!!はぁ?え?何、本当?ルリちゃん?」


「・・・・・・うん」

と下を見ながら肯定する少女。


「あ~・・・・・・・・それは、ごめん。知らなかったとはいえ、ダイス、君の怒りももっともだ。知ってたら、少なくともダイスと一緒に来るように伝えていたわ、決闘どころか、殴る権利もあるわ・・・・・えぇ~、婚約者制度とかあったの、ここ?」


「ふざけんな!!!常識だろうが!!!!!」


「いつも従魔にべったりしていたガキに常識なんてあるわけないだろうが!こっちは一人っ子なんだよ!!!」

これだから人間社会に馴染めないコミュ障は思ってもない事をやらかすんだ!(前世談


「えぇ~・・・あ、ゴームもレイヤも、もしかしたら」


「・・・・・・本当に知らねぇのかよ、そうだよ、あいつらも婚約しているよ」


「僕等の年でふざけてとかじゃなくて・・・」


「親が決めてんな、そうじゃなけりゃ、誰がこんなやつ!」

とルリちゃんを睨むダイス。


「あぁ、そういう言い方はなし。照れ隠しにしても、そうじゃなくても女の子に言う台詞じゃない。っていうか、まじかぁ。・・・俺の婚約者って知ってる?」

と机に額をぐりぐりさせながら聞いてみる。


「知るわけねぇだろ」


「なんでだよ!!!!!!村の常識なんだろうが!!!!!!!!」

とがばっと起き上がってキレる。


「し、知らねぇよ!!少なくとも俺等やゴーム達のは常識だけど・・・・・お前のは・・・そういえば知らねぇわ」


「じゃあ、俺がお前等の知らなくても怒んなよ!!!!お互い様だろうが!!!!!」


「い、いや、ってそうじゃなねぇ、人の婚約者を奪おうとしてんじゃねぇって話だ!!」


「だぁかぁらぁ、婚約者なんてもんがこの村にあるとか知らなかったって言ってんだろうが!!さっきの俺の言葉聞いてたんか、オメェは!!!!!!」

被害者に加害者が怒鳴る酷い絵が広がっていた。


はぁはぁ、と荒い呼吸が2つ。

色っぽくもなんでもなくても叫び疲れたのだ。


「ヴィト、皆の分の水をお願い」

と右手を額に乗せ、天を仰ぐ。

・・・屋根しか見えない。


「はいはい。おや、どうやら、皆が帰ってきたようですよ」


「トール!叫び声がしたが大丈夫か!!・・・ん?ルリとダイスか、どうした?皆して疲れた顔しおって」


「ただいまぁ」

「ただいま!」

「ただいま帰りました」

「ただいま帰ったぞ」

「ただいま、おやお客さんかい、また見舞いに来てくれたのかな?でもそろそろ暗いから帰りなさい?」

と母さん、スコール、スロール、ハーヴィ、父さんが帰って来た。


「ところで、トール?叫び声が遠くまで聞こえたけど、どうしたの?喧嘩でもしたの?」

と母さん。


「いや、それが・・・・」


・・・

・・・


「あぁ、この前の嫌な予感ってこれかぁ、そういえばそうだった」

「あらあら、私もうっかりしてたわ」

と両親があっさり白状した。


「ごめんなさいね、ダイス君、トールに教えるの忘れていたわ。というか正直もう知っていると思っていたわ」

と母さん。


「えっ、じゃあ、こいつ、本当に?」


「うん、知らないねぇ。ごめんね、教育不足だったよ」


「でも、普通、生まれる前から決まっているって母さん達から聞いて・・・」


「まぁ、数にあぶれたというのもあるんだけど・・・何せ、産まれた時に魔物の長さん達が来ただろう?向こうの家もこっちもそれどころじゃなくて、しかも子育てが大変だから・・・すっかり忘れてたよ」


「じゃあ、僕には婚約者は・・・?」


「ごめんね、いないわ。最初に約束していた家の子も気づいたら他の家の子と約束していたし」


「・・・・それってありなの?」


「普通はなしだね、だけど、トールは王都の学校に行ったりするだろう?村の婚約っていうのは村の人間の数を保つためだったり、互いの連帯感を増すためだったりするんだけど、トールは・・・なんか違うだろ?だから僕等も、婚約破棄されたのも当然だと思ってね、あまり気にしなかったんだけど、婚約者欲しかった?」


「いや、正直いらない、ありがとう」


「でしょう?」

と父さんが微笑む。


「あの頃のトールに婚約者がいても、ハーティさん達にべったりし過ぎていて、たぶん喧嘩していたわね」

と母さんが言ったら、ダイス含めて皆が笑っていた。

・・・確実に「私ともふもふどっちが大事?」って聞かれたら「もふもふ!」と答えていたと確信できる。トールだもん。


「さて、ダイス、改めてごめんな。知らなかったとはいえ、婚約者が他の男の子の家にばっかり行くのも良い気分じゃなかっただろう、ごめん」

と頭を下げる。


「とりあえず、言い訳みたいになるけど、ルリちゃんとはヴィトと魔法の練習の基礎固めを一緒にしてただけだよ、二人きりだったこともほとんどない。魔法のは僕がこんな状態だから暇つぶしがてらやってて、効果が出たら、村の皆にもヴィトに教えてあげてもらおうと思ってたよ」


「お、おぉ。わ、分かりゃ、良いんだよ、そもそもルリも悪いんだから、ほら!ルリ、行くぞ!」

と無理やりルリちゃんを立たせるその手を、右手で握り締める。

「ところで、決闘って言っていたよね?」

と笑顔で尋ねる。

「あぁ?言ったけど、お前もわざとじゃなかったし、謝ってもらったし」


「じゃあ、改めて、僕からだ、決闘しようか、ダイス」


「・・・・・は?」

とダイスの目と口が丸くなる。

四角にはならないらしい。


「決闘で得るものは、お前が勝ったら俺を好きなだけ殴ると良い、俺が勝ったら女の子の扱いを学んでもらうとしよう、正直、今のダイスは格好が悪い」


「・・・んだと!?」


「さぁ、俺から決闘の申し出はしたぞ、どうする、ダイス?受けるか、逃げるか?」


「・・・後悔すんなよ、受けるに決まっているんだろ。俺が勝ったら、お前を殴らなくて良いからお前の家の武器をくれよ、決闘中に好きなだけ殴るんだからよ」

と獰猛な笑みを浮かべる


「良いよ」

とこちらもたぶん獰猛な笑みになっている。


そして、お互い獰猛な笑みで握手する。


「いつやる?」


「明日の昼間に広場で良いけど、ダイス、お前皮の鎧とかある?」


「あるわけねぇだろ」


「じゃあ、何か防具は?」


「普通の家にはねぇんだよ」


「それは困ったな、明後日にしようか、ドワーフの長に皮で鎧を作ってもらおう、金は俺が持つよ、ヴィト、スコールに以前なまくらの鉄の棒や剣を買うのに、ハーヴィからもらった宝石を担保にしている。ということはあの鉄達は一応僕のだ。適当に売って皮の鎧代にしよう。スコール、確認だけど村長に言って買ってあるんだよね?」


「うん。ぶっちゃけ、トールの好きにして良いって言ってたけどね。宝石は持ってるのも怖いからってここにあるけど」


「・・・スコール、それはもう少し早く言おう。宝石が家にあるんじゃ担保にならないんだよ、普通は」


「それもそうだけど、村長困っていたし」

とスコールが困り顔。


「そうか、それもそうかぁ。考えが足りなかった。今度、何かお菓子を作って持っていってあげて」


「は~い!」

と元気なスコール。


「スコールが無茶しないようにスロール、手綱は任した」


「はい、仰せのままに」

と笑って道化のように礼をする。

美人は何をしても美人であるらしい。


「お前、何勝手に話進めてるんだよ!」

とようやくダイス。


「決闘の話だよ、じゃあ、明日ドワーフの長の所に行って作ってもらって、ヴィト、案内と口利き頼むね」


「はい、分かりました」


「じゃあ、ダイス、やっぱり明後日の昼に広場で、鎧はプレゼントだから。少し前にヴィトが行くから着せてもらって」


「ちょっと待て、お前は何の鎧を着るんだ、オリハルコンとかか!??」


「そんな無粋なことはしないよ、何も鎧は着けないよ。理由はその時にでも話すよ、たぶん。じゃあ今日は遅いからヴィト送っていってあげて、あと決闘する旨とその理由をご家族に伝えておいて、頼んでばかりだね、ごめんね、ヴィト」


「それが従魔でしょう、気にしないでください。ほらダイス君、行きますよ」

とダイスを肩に担いで出て行く、ヴィト。

「お休み、ダイス~」


「お休みじゃねぇよ、降ろさせろよ!!」


「えっ、ごめん、よく聞こえない、叫んでばかりだと喉を痛めるよ、ばいばい、また明後日」

と笑って手を振る。


わーわー騒ぎながら彼は運ばれていった。


さて、


「んで、ルリちゃん?」


目をまん丸にしてやり取りを見ていたが、

呼ぶとびくっとした。

ちゃんと理解はしているようだ。


「とりあえず、彼と決闘することになったけど、切っ掛けは分かるね?」


「うん・・・」


「ルリちゃんもダイスが他の女の子にばっかり構ってたら、好きかどうかは別として、なんかムカッて来ない?」


「うん・・・たぶん・・・・する」


「それを君はやっちゃったわけだね。ダイスは嫌い?」


「嫌いじゃない!けど・・・なんか私のことを・・・最近、物みたいに雑に扱うのが嫌で、私だって女の子だし、それで、トールが変わって、良くなって、そのちゃんと女の子の扱いしてくれるし・・・その・・・格好良くなったから、その・・・」


「ありがとう」

と笑ってみせる。

「だけど、どういう風にしてほしいかはちゃんとダイスに伝えた?」


「ううん、どうせ言ったって、お前なんかが女の子とか笑わせんなとか言われるし・・・」


「それでもね」

と目線を合わせる。

「それでも、伝えなきゃ。言葉は伝えるためにあるんだよ。もちろん、言葉で伝わらないこともある。だけど、できる限りは言葉で伝える努力はしよう、ね?」


「うん・・・ごめん、トール。決闘なんて、私のために」


「あ、それは勘違いだよ」


「え?」

とようやくこっちを見た。

目を丸くしてだけど。


「僕はダイスのことをどう思っていると思う?」


「あんまり好きじゃない?」


「うん、だけど、結構好きでもあるんだ。彼の真っ直ぐなところは僕にはないから。憧れるし、格好良いとも思える。いちいち突っかかってくるところは好きじゃないけど」

と苦笑い。

「今回の決闘はね、切っ掛けはルリちゃんだよ。でもね、本当の理由は、ダイスが自分の良い所を自分で殺していたからだ、だからね、彼のためっていうのが本当のところ」


まぁ、見てればきっと分かるよ。

少なくとも女の子の扱いはちゃんとさせてみせるよ、と約束した。

帰り道を送るのはスコールに任せた、彼女ならちゃんと説明できるだろう。

人間の機微ならなんでもござれな妖狐だ。



さて、

「ハーヴィ、君の血を倉庫」

『から取ってきて』の前には飛び去っている。


相変わらず早いし、速い。

「取ってきたぞ!!」


以前見たような光景だ。


「これ、怪我用?」


「うむ、濃い目のやつだ」


「じゃあ、とりあえず」

と飲む。


「トール!??」

とハーヴィが慌てる。


「身体の中で骨が曲がっているかもしれないからね、そのまま治ると困るから・・・ぐっ」

身体の中でミシミシ言う。

目の前が真っ赤になる。

ミシミシと骨が鳴いている。

痛みはないが、それが怖い。


・・・

・・・


気づいたら、ヴィトとスコールが帰って来ていた。

「あぁ、お帰り、送ってからどれ位経った?」


「10分というところでしょうか、龍の血の用法・用量はこれからは私に相談してくださいね、トール?」

あ、怒っている。


「うん、ちょっと、考えなしだった。それでお医者様?副作用とかは?」


「ないですね。トールは若いからそんなで済みますけど、お年寄りとかには危ない濃さですよ?二度と勝手には飲まないように」


「は~い、スコール、君から見て、骨が曲がってくっついているところはある?」


「うぅ?うぅ~ん、・・・・・うん、無さそうだよ!」


「良し!ありがとう」

と包帯をようやく外していく。

お風呂にこれで入れる!


「ごめんね、皆。母さん、夕飯は・・・」


「もうできますよ、まったく、また心配させるなんて」


「一応、僕なりにも計算して、大丈夫と踏んだんだけど・・・ごめんなさい」


話を遮るように (たぶん空気を壊してくれたんだろう)

「トール、トール、この前のお話は面白かったぞ、今日もあるのか?」

とハーティが飛びかかって来る。

大型狼が飛びかかって来ても受け止められる7才!

・・・改めて考えると凄ぇよなぁ。


「そうだねぇ、何にしようか」


そうして、家族の夜が更けていく。

久々の掲載!

この小説では現在「勝手になろうランキング」で

22位 (にゃんにゃん)

11位 (わんわん)

2位 (にゃん)

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を目指しています!まぁ、2位とか1位とかは雲の彼方のような夢ですが(笑

もし良ければ、後書き下の「勝手に小説ランキング」タブをクリックしてくれると、

作者がもふぅっとします!

どうかご協力よろしくお願いします!


最近、80位くらいから上がれてなくて、22位が遠くて・・・orz


もっふもふでもふもふな世のために!



ちなみにトールは気づいてないですけど、「僕」と「俺」が混ざっているのは実はまだ松田透の記憶に慣れてないため。思わず出てるけど、だいたいは本人は気づいてなかったり。たまに気づいてやってたり。

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