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76話 頑張る日々 10「お見舞いと魔法の練習の練習」

あれから家に帰ってきて、スライムロードをむにむにしてから寝た。

やっぱりボコボコにされた後に長話なんてするもんじゃない、起きたのはドアを叩く音がしてからだ。

眩しい、たぶんお昼ちょっと過ぎたあたりか。


「イリスさ~ん、アーノルドさ~ん、トール?」

と幼い声がする。


あれ、珍しい、自宅に自分以外いない。

甘え狼ことハーティもいないのは珍しい。

ハーヴィも大体いるのに。

スコールとスロールは最近いることの方が多くなっているけど、家が狭いから必ずってほどではない。

ヴィトは魔法の実験をしていることもある。


・・・・・・・・魔法!!!!??

教えてもらわなきゃ!忘れてた!!

この寝込んでる最中に教えてもらおうと画策していたんだった!


「イリスさ~ん、アーノルドさ~ん、トール?いないのぉ?」

と来客を忘れていた。


「ごめん!入って良いよ」


「あっ、良かったぁ、いるんじゃん。入るねぇ、お邪魔・・・どうしたの、それ?」


「えっ・・・・誰かから聞いてない?」


「聞いてないよ?」


入ってきたのはルリちゃんだった。


ダイス、ゴーム、ルリ、レイヤはよく遊ぶ同世代の子達だ。

ダイス、ゴームは男の子。

ルリ、レイヤは女の子。


ダイスは何かとつっかかってきてくる。

ゴームは名前はごついのに優しい、華奢な少年だ。

ルリは女の子らしい方だ、レイヤに比べれば。

レイヤはいつもゴームを苛めている気がする。

頑張れ、男の子。


もちろん、小さな村だから少し年上だろうが、年下だろうが、子供組、大人組に必然的に分けられるから、10才くらいの子達ともよく遊ぶが、同世代はやっぱりどこでも結束は固いようだ。

・・・この代はどうか知らないが、主にトールのせいで。

だって、トールの知識にこの子達あまりいないもん。

ハーティ、スコールの毛皮とか、従魔と遊んでいる記憶ばかり。

・・・異世界でも友達が少ないとは。流石っす。


「で、どうしたの?」

なんか怒ってらっしゃる。


「うん?転んで、変な風に手をついて手を骨折して、更に転がったら足も折れた」


「・・・この辺にそんなところあったかしら」


「ちょっと暗かったから、森でね。足を木にとられちゃって」


「・・・ハーティさん達は?」


「うん、今起きたばかりだからどこかは」


「そうじゃなくて、その時、ハーティさん達は傍にいなかったの?いつも一緒にいるのに」


「ちょっと一人で考えたくて、森が静かだったから。まぁ、それで、この様だけど」


「ふ~ん?」

と目を覗きこまれる。

目を逸らさない。


「顔が近いよ」


「!うるさい!心配してあげてんのに!」

と頭を叩かれる。

嘘付け、疑ってたくせに。


「それでイリスさん達は?」


「さっきも言ったように、今起きたばかりだから分からない。父さんは狩りかな?母さんは・・・?」


「そう、ウサギの肉を最近食べてないから食べたいってお母さんが言ってたの、アーノルドさんが帰ってきたら伝えてくれる?」


「うん、分かった」


・・・?

帰らない?


「どうしたの?」


「・・・痛くないの?」

確かに心配してくれていたらしい。


「正直、痛い、とても」


「龍皇様の血は?」


「この程度では使いたくないんだけど・・・母さんが悲しむからね、1週間くらいしたら使うかも」


「??なんで使いたくないの?すぐ治るんでしょ?」


「・・・家族の血を使ってまで、治したいとは思ってないから。自然と治るのならそれが一番さ」


しまった、言い方を失敗した。

明らかに返事に困っている。

これだからコミュ障は!!

「・・・ごめん」


「いや、僕も言い方が悪かった、ごめんね」


「・・・・・・トール、変わったね」


「どこが?」


「昔はあまり私達の気持ちとか考えてなかったでしょ、なんかそういうところが」


トールさん、言われてますよぉ。

人付き合い苦手なまま成長すると社会に出て困りますよ。

あぁ、前世も今世もこんなだ。


「まぁ、誕生日を迎えて、大きくなったのさ」

と笑ってみせる。


「話し方も」


「あぁ~、背伸びしたい年頃なの、嫌?」


「別に、まぁお使いはすんだし、帰るけど、何かしてほしいことある?」


・・・珍しい、ルリちゃんもあまりトールに興味なかったと思うけど。


「いや、大丈夫、右半身は動くから、心配してくれてありがとう。帰り道に転ばないようにね、こんなになるから」

と言うと、


「あはははは、ならないよ、村でどう転べばそうなるの。うん、こっちの方が良いよ、こっちのトールの方が好きよ。ありがと、それじゃ」

と笑って手を振ってドアの向こうに消えていく。


「ふぅ、もう良いかの」

とハーティが小指サイズで枕の下から出てきて、ベッドから降りるといつもの大型犬サイズになる。


「・・・・・・なんで、そんなところにいたのさ」

と呆れて見せると、

「なに、色々な経験をすればするほど、トールは自身を認められるようになるとヴィトが言っておったからの、機会を作ったまでよ」


「そうか、ありがとう。ちなみに母さんは?」


「領主のところから商人が来ているらしいので、ちょっと見てくると言っていたな」


「あぁ、なるほど。ねぇ、ハーティ」


「なんだ?」


「僕ってさ、今まで同世代の子達とあまり遊んでなかったかな?」


「・・・よく分からんが、遊ぶよりも我等の背に乗って揺られている方が好きだったの・・・思いだせんのか?」

と心配そうな声になる。


「そうだよねぇ、いや、覚えている。だから、ちょっとショックを受けている。思い出の大半が君等で彩られていて、他の思い出がほとんどない、特に友達と遊んだ系は」


あれだけ一緒にいればそうなるというものよ、とハーティには大笑いされた。



その日の夜は、熱が出てきたため僕の世界の話はなしにした。

ただ、せっかくなので幾つかの御伽話を披露してみせた。

なかなか好評だった。

え、靴を落としたドジっ娘の話?したよ。その後の話はしてないけど。



次の日、来客が4人も同時に来た。


ダイス、ゴーム、ルリ、レイヤだ。


ダイス、レイヤには指さされて笑われた。

レイヤはお腹を押さえて、床を叩いていた。

ゴームがそれをたしなめている。

ダイスにはルリが怒っている。


「もう!怪我人を笑うなんて!!」


「だって、どう転べばこうなるんだよ」

ぶはっとダイスがまた噴きだした。


「本当に、トールは飽きさせないね」

と眦に涙をたたえて、レイヤが言う。


「どういう意味さ」


「愛し子で、魔物の長を呼んで、いつの間にかお祭りが増えて、王様と仲良くなったと思ったら、王子様連れてきて、一緒に遊ぶ。かと思えば、こん、こんな凄いころ、転び方」

ぶふっとレイヤも吹きだす。


「ねぇ、ルリちゃん?」


「な、なに?」


「怪我人の見舞いにしては随分と嬉しそうなのが2人いるんだけど、気のせいかな?」


「き・・・気のせい、じゃないかな?」


「ゴーム君は、どう思う?」


「まぁ、ちょっと」

と苦笑いしながら答えてくれる。


「とりあえず、見て気がすんだらお帰りください」


「「「・・・・」」」


「どうしたの?」


「ルリが言っていたのが分かったの、確かに変わったね。話し方とか色々」


「あぁ」


「うん」


「もっと、昔はこいつみたいに大人しかったよね?」

とレイヤがゴームのことを指差す。


「こいつって言うのを止めてあげて、背伸びでもしていると思って」


「ふ~ん、良いんじゃない?変におどおどしているより、そっちの方が良いよ」


「ありがと、ルリちゃんにもそう言われたよ」


「へぇぇ」

とレイヤが嫌な笑いをする。

目線が僕だけでない、ダイスを見ている。

ダイスは僕を睨んでいる。

なんだ、こいつ。


「まぁ、良いや。骨折で若干熱っぽいのは本当だから、そろそろ寝かせてもらうよ。お見舞いありがと、皆」


「治ったらハーティさん達ばかりじゃなくて私達とも遊んでよね」

とレイヤが言う。


「うん、いかにハーティ達にべったりだったか昨日思い知ったばかりだから、仲間に入れてくれるなら是非、じゃあお休み」


「・・・・」

皆が何かを言っていたようだが、もうその頃には夢の中だった。


・・・

・・・


昨日はあれからずっと寝てしまっていたようだ。

夕飯を食べた記憶がない。

その分、朝に目を覚ませたけど。

昼夜逆転はこの世界だと笑えない。

夜に起きて何をしろと?

鍛錬?

今日はヴィトに魔法を教えてもらう約束だ。


「では、トール良いですか?」


「うん」


「まずは魔法を放つよりも前に、魔力を感じとる練習をしてもらいます」


「うん」


「こ」


扉がノックされる。


「ごめん、ヴィトお願い」


「はい、どなた様ですかっと」


「あ、ヴィトさん、トールは元気?」

来たのはまたもやルリちゃんだった。

・・・3日連続?


「元気だけど、またお見舞いに来てくれたの?そんなに心配するような傷でもないよ?」


「「いや、心配するような傷」です (よ)」


「そ、そう?でもルリちゃんも大変でしょう?すぐに復活するから気にせず遊んでおいでよ」


「なに、私、邪魔?」


「いや、気持ちはありがたいよ?可愛い女の子が来てくれるんだ、邪魔とは思わないさ」


真っ赤になったルリちゃんが

「そ、そう」

と呟いた。


「ちなみにトール、男の子なら?」

とヴィトが聞いてきた。

何を当たり前のことを。


「気持ちはありがたいけど、邪魔って言う」


なんとも言えない表情になっているルリちゃん。


「そうだ、ヴィト、ルリちゃんがよければ魔法の練習の練習に参加してもらっても大丈夫?」


「えぇ、ルリさんも受けてみます?」


「えぇ!!」

と目から星が出そうなほど、嬉しそうだ。



「さて、まずは魔法には魔力を使いますが、魔力はいたるところにあります。ただ、基本的に魔法を使う際の魔力は自分の中にあります。それを今日は感じとってみましょう。だから魔法の練習の練習ですね。いまから私が二人の手をとって、魔力を流したり、逆方向にしたりと気づきやすいようにしてみますから。目を閉じて、自分の中に集中をしてください。今、どの方向に流れているかとか、気づいたら声にだしてください、いきますよ」


・・・

・・・


「今、肩の辺りに集まっている?」


「私は足の方?」


「お見事。今の感覚を忘れずに。また、自分でも意識して動かせるように練習してみてください。筋肉を動かすのと同じです、意識すれば、手をグーパーできるでしょう?魔力も意識して動かせます、では今日はもう遅いのでこの辺で」


「あ、凄い、もうこんな時間」

とルリちゃんが言う。


確かに辺りは夕日がでてきていて暗くなりつつある。

凄く集中していたんだな。

「ヴィト」


「はいはい、お送りしますよ、ルリさん」


「ありがとうねルリちゃん、ただ、本当に無理して来る必要ないんだからね?」


「良いの!私が好きで来てるんだから」


「そう?じゃあ、僕もこれ以上言うことはないけど。お休み、良い夢を」


「えぇ、トールも」


・・・

・・・


「ふむ、3日も連続で見舞いとはの、トールも隅におけんな」

とハーヴィ達に笑われるが、両親はちょっと微妙な顔だ。

「どうかした?母さん?父さん?兎肉忘れた?」


「いや、なんか忘れている気がして」

と父さん。

「兎はしっかり渡したから大丈夫だけど・・・何かしら?なんか良くないことが起こりそうな」

と母さん。


・・・勘弁してくれ、良くないことってなんだよ、熱があるんだぞ、こちとら一応。


・・・

・・・


そうして、1週間目になるまでルリちゃんは毎日見舞いに来てくれた。

一緒に魔法の練習をしている。

魔力を意識して集めるのが難しい。

お互いそこで止まっている。

ちなみに二人とも、センスは「並」程度だそうだ。

僕にしては落ち込むことでもない、むしろ並もあれば上等だ。


そうして、ルリちゃんが帰る時にダイスが扉を急に開けて入ってきた。

明らかに怒っている。

・・・こいつ、いつも怒っているような気がする。

あくまで気がするだけだけど、そもそもあまり村の人にも気を払っていなかったから。

ガキ大将タイプなのかな?

ただ、いつもより怒っているのが見て分かる。

ルリちゃんも怯えているほどだ。


とりあえず、

「ノックしてから入れよ、これで母さんが着替え中だったらお前父さんに殺されるぞ」


「・・・」


「?どうした?何かあったか?相談事?それとも決闘の申し込み?」


「決闘だ!!!!この泥棒が!!!!!!!」

と叫ばれた。

・・・名誉毀損で訴えたいけど、法にあるかしら?

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