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75話 頑張る日々 9「宣言と勝算」

「僕は、国を作る!!すぐではない、だが学校を卒業して、しばらくしない内にだ!!魔物と獣人と人間が共存する国を作る!人間と魔物とが共存共栄できることを僕が示してみせる!!!」


誓う。

ここにいる皆に。

世界に。

夜空に。

そして、僕をここに送ってくれた「神様」達に。


「「・・・」」

両親は固まっている。


「ふむ・・・」

とハーヴィが考える素振りを見せる。


「うむ、うむ!」

とハーティが嬉しそうに応えてくれる。


「おぉ!格好良いじゃん!王様になるの?流石、トール!」

とこちらも嬉しそうなスコール。


「頑張りましょうね」

とどこかまだ分かってなさそうなスロール。


「まぁ、それは簡単にできるでしょうが・・・。・・・・・・あぁ・・・だから強くなりたいと」

とヴィトが独りごちた。


「「・・・え?」」

あ、両親が戻ってきた。


「簡単にできる・・・の?」

と母さん。


「強くなりたい・・・理由?」

と父さん。


あ、まだ完全には調子が戻ってないな。

当然か、7才の子供がただ言うだけならば「戯れ言」の類だ。

しかし、その子供が自分達よりも知識を持っているとなれば、話は別だ。

「できる」と考えられる理由があり、既に「案」があるということに他ならない。

自分の子が本気で王国を作ろうというのだ、ちょっと勘弁してほしいところだろう。

・・・特に父さんはそういうの苦手らしいし。


「国を作る、それだけならばすぐにでもできよう。魔物だけならばな。愛し子がここに集まれと言っている、と集合させ、これからは愛し子が群れの長をまとめる全ての魔物の長となると宣言すれば良い。そして、我が認め、ハーティが認める。まぁ、間違っても長達から反発などありはせんよ。

トールは愛されておるからな、トールの執政に不安を抱いても我やハーティ、ヴィトがおる。何より、無理に何かを変えなければ、そも今までと変わらない生活よ。ダンジョンで肉を得る、外で果実を採る、草を食む。生活が変わらないのであれば反発する理由もなかろうさ、人間も王が変わろうが、生活が変わらなければ特に問題あるまい?魔物の集団移動のため、ダンジョンは移動できるようになっておるしの」

とハーヴィが答えてくれた。


「うん、魔物については完全にハーヴィが答えてくれたね。そう、魔物だけならばそれで済む。一度に獣人、人間が無理でも魔物だけを一箇所に集めることは不可能じゃない、むしろ簡単にできると思っている。なにせ、神の子達が僕を認めテイムされているんだ、生活に変わりはない、むしろ他種族がより近くに住むことでそれぞれ協力しあい、ダンジョン攻略をより安全にできると言えば、長達も納得する。魔物達は狩って狩られていた生活を当たり前と思っていた。弱肉強食を当たり前と思っていたんだ、互いに遺恨はない。その潔さが僕が彼等を尊敬する理由の一つだ」


「しかし、獣人と人間となると・・・できるか?」

とハーヴィが尋ねてくる。


「できる。これもそこまで難しくない。獣人は好かれているか、嫌われているか、人間社会ではどう?」

と両親に尋ねる。


「えっ、う~ん、近くにいないからなんとも、分からないなぁ」

と父さん。


「行商に来てた人の話ではあまり・・・なのかしら?」

と母さん。


「えっ、イリス、何でそんな話を?」


「女性は新しい話題に常に飢えているものよ」

うふふっと母が笑う。

だから女性って怖いよネ。


「全体としては好かれていないかなぁ、あまり雇ってもらえなかったり、苛められていたりは普通かなぁ?周り次第だけど。王都とか人が多いところだとその傾向が強いねぇ」

とスコール。

妖狐ネットワークは実に情報収集向きだ。


「私の時代でも、好かれてはいないというか、嫌われてはいないはいないけれど、避けられているという感じでしたね。不吉の象徴?みたいな」

とヴィト。

流石、生き字引を体現するような骸骨。


「うん、人間は群れの中にいる異物を嫌うからね。まったく同じ人間同士でも信じている神が違うだけで殺しにかかる生き物だ。絶対好かれてはいないと思うんだ。そこで彼等に差別などない国を作ったからおいでと勧誘する。全体の数割は来ると踏んでいるよ。誰だって差別を受けるのは嫌なもんだ、同じ仕事をしても賃金が低かったりとかね」


「しかし本当に差別を受けないのですか?人間も誘うのでしょう?」

とヴィト。


「新しく町を作る時の強みは、起こりうる問題に対して予想を立てて、それを回避する策を練り、それを実践できるところにある。建物が密集しているところで火事が起きたら、どこまでも建物を燃やすだろう。ならば建物の間隔はある程度ある方が良いとかね。各種族毎にエリアを分けるんだ、寒い地域にいた魔物に南に行けとか言えないから、これは必須だ。その際に獣人のエリアを作るんだ。人間のエリアと離しても良いね、魔物は差別とかしないでしょ?」


「うむ、強いか弱いか、それが最重要だ。そこにしたって差別はないな。大事な餌か、自分が大事な餌にされるかだ」

とハーティ。


「まぁ、そこの感覚に安全に物事を進められるか、という観点を入れ込んでいきたいけど・・・また、余裕がある時かな。獣人は人間より強いと思うのだけど・・・?」


「うん、まぁ、大体は身体能力は頭抜けているね、だって魔物分の要素が入っているんだ、そりゃ強いよね」

とスコール。


「そして人間の臆病さも持っている、ダンジョンの斥候の仕方を教えたら随分成長しそうだよね。罠の解除の仕方とかさ、腕が使えない種族としてはいるとダンジョンでの狩りで怪我をすることが減るんじゃないかな、彼等の恐れるべきことの一つが罠だからね」


「・・・・ふむ、それならば魔物からも狩りに連れて行く際に弱いからどうこう言われることもなかろう、そして仕事があり、獣人は正確に評価されるということか」

とハーヴィ。


「まぁ、そこらはさっきも言ったけど後回しでも良いけどね、別に斥候でもなくてもそれぞれの魔物の所で取れる物を集める役を頼んでも良いしね、妖狐や魔狼の毛皮とか、龍の鱗とか」


「人間はどうする?トールは群れの人間は好きじゃないのだろう?」

とハーティ。


「うん、だけど、人間と魔物が共存共栄するには、まずどこかで大きな成功例があると良いと思う。まぁ、無理なら大工仕事とかでドワーフ、オーガ、ジャイアント。セイレーンの歌で人気取りとかで少しずつ人間社会侵ししていくのも良いけどね」


「人間が獣人は別として、魔物ばかりの国に来るのか?今の生活を続けたいと思うのではないか?奇しくも魔物がそうであるように、生活が変化しないで安定していることは大事だろう?」

とハーティ。意外に考えている狼である。

たまに忘れるが、遥かに僕より生きているんだから、知識も知恵も所々でしか勝てないだろう。

・・・たまに忘れさせるほど、犬な狼だが。


「む?何か失礼なことを考えたな」


「どうかな、受け取り方は人によって違うからね、さて、人間でも生活を変えたくない人ばかりじゃない。むしろ例え騙されることになったとしても生活を変えるチャンスがあるのなら、それにしがみつく人もいるのさ。人間の社会だ、しかも余裕があるわけではない、人間の社会だ。僕の時代にもあって、この世界にないはずがない」


「それは?」

とヴィト。


「既に差別されている人間だよ、彼等は既に最底辺の生活を送っている。そういう人間なら来ると踏んでいる」


「?いるのか?そんな人間」

と首を傾げるハーティ。


「必ずいる。王都にだって治安が悪いところがあるはずだ。群れのなかに溶け込めなかった人、何かで失敗して表に出て来れない人、過去に犯罪を起こした人、その人達の子供。地球でこれくらいの文化レベルならば必ずそういう人達がいる。彼等も表通りにいる大多数からすれば異物だからね、必ず追いやられている。食うに困っているかもしれない」


「・・・大丈夫か?特に犯罪者などを受け入れて」

とハーヴィ。


「まぁ、大丈夫でしょう。貧しくてやむにやまれず盗んだとかいう人もいるし、暴力沙汰ならそれならそれで良い、暴力を起こす人間は自分より強い者には手を出せないからね。治安維持隊として、オーガを人間地区の監視役にすれば良い。・・・一番怖いのは快楽のために同族を殺すような輩だけど、まぁ、そういうのは流石に死刑にしているはずだよ。まぁ、人間も獣人も後で構わない、急ぐべきは魔物を一つにまとめること、そして国として認めさせること。国同士の争いになり得るとなれば、馬鹿どもも下手な手は打てないからね。最悪、自国の王に処刑される」


「ふむ・・・ある程度の案はあると。トールよ、2つ尋ねる。魔物を集めて国を作る利点と欠点、そして急ぐ理由だ」

とハーヴィが真剣に尋ねてきてくれる。


「まず急ぐ理由は魔物の集落が各地に分散していることへの危機感だ。さっきも言ったように人間のどこかの馬鹿が少しずつ集落にいる魔物の数を減らして種族を滅ぼすなんて考える前に、人間はもしかしたら魔物より強いのではとそいつ等が思うより早くしないといけない。

利点は人間が群れて強くなるように、数は力だ。半端な数では仮にも国と名乗るところに押し寄せるのはリスク、失敗した時の痛みの大きさで良いかな?の方が大きいと思わせられる。また、各魔物が力を合わせることで様々なことができる。ドワーフとオーガと人間達だけで即興で家をあんなに早く作れるんだよ?

後は、魔物の子達にも学校へ通わせたいと思っているけど、皆が集まっているとそういうやりたいことが一度にできる。

欠点は・・・・・・僕かな?」


「だから早くから強くなりたいのでしょう?」

とヴィトが言う。


「あぁ、愛しの骸骨よ、君の察しの良さが怖いよ」


「どういうことだい?」

と父さん。


「僕が声をかけて魔物の国を作ったとしよう。争いが見たい人からすると、魔物が嫌いな人からすると、争いで儲けたい人からすると、魔物の群れは気に食いません。群れていて強いからです。しかも彼等は理性的で人間とわざわざ争う気がありません。ではどうすれば魔物と争いが起こせる?できれば人間からしかけたとはしたくありません。彼等にも立場があるからです。できれば魔物の理性も失わせたいです、隙ができるから。さぁ、どうする?」


両親を見る。

申し訳ないと思う気持ちを込めて。


「僕を殺すのが一番手っ取り早いのさ、ね、皆?」

と従魔を見ると、その言葉だけで皆が殺気立っている。


「トールを殺すような輩は生かしておけん、個人だろうが、群れだろうが、国だろうが」

とハーヴィが龍の立派な牙を見せて怒りの表情になる。


「「「・・・・・・」」」

ハーティ、スコール、スロールが無言で頷く。


「そして、彼等の気持ちは魔物全体が抱くでしょう、国ができてしばらくしたら、トールから王が代替わりでもしたら落ち着くでしょうが、少なくともトールが殺された時点で、魔物全体が人間の犯人と思しき者達を断罪するでしょう、そうして再び、魔物と人間の間に溝が・・・と」

とヴィト。


「そうだね、次の溝は魔物からしても狩り、狩られるの段階ではなくなるだろう。自分で言うのもなんだけど、大切な僕を狩りのためではなく殺されたのだから。その遺恨は・・・そのために起きる争いは今までの比じゃなくなるだろう。魔物は人間を問答無用で襲うようになるかもしれない、むしろ人間という種を絶滅させようとするかもしれない。人間も力の限り反撃するだろう。狩りのためじゃないから歯止めがない、この件では調停者も」


「むろん、魔物側よ」

と即答する龍の長。


「だからね。だから僕は万が一にも人間に殺されることがないように鍛えないといけないのさ。だから、しばらく鍛える日々が続くね。子供の成長期の方が鍛えられるだろうから。だからすぐにハーヴィの血を飲まないの、生物には自然回復力というのがあるから、それも鍛えたい。だから母さんには悪いけど、数日はこの姿で、ごめんね」


「国を作らなければ・・・?」

と父さん

「国を作らなければ、トールは安全なのかい??」


あぁ、心配ばかりかけてごめん。


「・・・既に愛し子が魔物から愛されているという話は広がっているだろう。魔物を逆上させたい人間が出てきたら、僕は一番に狙われる。ごめんね、心配ばかりかける子供で。でも、逆にね、そういう意味では僕は死ねないんだ、絶対に。愛してくれている皆が無駄に傷つくことがないように」

それに、とつなげる。

「父さん、母さん。僕等の家族がいるんだ、例え何があったとしても安全だよ、これも絶対だよ、ね、皆?」


まったく、と誰かが言った。

「我、ハーヴィはトールの従魔になり、その眼前に立ちふさがる脅威を悉く破壊してみせることを宣言する」

「我、ハーティはトールの従魔になり、その身を襲う全てからそなたを守り尽くすことを宣言する」

「我、ヴィトはトールの従魔になり、その眼前に立ちふさがる物を魔法でねじ伏せることを宣言する」

「我、スコールはトールの従魔になり、その身の鼻と耳になり危機から守ることを宣言する」

「我、スロールはトールの従魔になり、その身が飢えないように常に豊作をもたらすことを宣言する」


「ありがとう、君等がいるから前だけ向いて進んでいける、信頼しているよ、心の底から」


「そう、そうね。皆、トールを頼んだわよ、これからも」

「頼んだ、悔しいけど、僕等じゃ、守りきれないみたいだ・・・」


「何を言っているのさ」

と両親に抱きつく。

「二人のことも守ってくれるさ、家族なんだ。

それに父さん、僕は守られているよ。愛してくれている人達がいる、その人達の数だけ僕は強くなれる。頑張れる。母さんも父さんもそうやって僕を充分に守ってくれているんだ。二人が愛してくれている、それだけで僕は絶対に死んだりしない、そう思える」


太陽が周りを照らし出した。


両親から離れ、皆を見る。

照れた顔は太陽が隠してくれるだろう。

「さて、幾つかの疑問には答えられたかな?今日はこのくらいにして、そろそろ帰ろうか」

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