表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/219

74話 頑張る日々 8「前世と嫌悪、そして悪意」

「そう。僕はね、人間が嫌いだ。いや、語弊があるかな、人間の集団が嫌いだ、人間の群れが嫌いだ、鳥肌が立つ、反吐が出る、自分が人間であることに絶望していたくらいに!!!!」


「・・・していた?」

と父が願いを込めるようにこちらを見つめる。

安心して。


「そう、あくまでもしていた。この世界の人間は嫌いじゃないよ、嫌いと言えるほど知らないし。何より前提条件が違いすぎて比べられない」


「前提条件?」

とスコールが首を傾げる。

首を傾げる煌く狐・・・写真に収めたいな。ないけど。


「魔物ですね」

とヴィト。

月の下の骸骨、豪奢なマントと王冠。これも絵になる。


「そう、この世界では魔物がいたから、身を守るために互いを守りあった。僕のいた世界では魔物がいなかった、恐れるべきものが人間、つまりは互いだったんだ。だから、自分の群れを守るために殺しあった、奪い合った、だから人間同士を殺すことが伝統とでも言えるようになった」

それに、と続ける。

「松田透も全ての人間を嫌っていたわけではないさ。彼にも僕のように愛していた家族がいたし、友だっていた、好きな人だっていた、独身だったけど。また、身近で尊敬する人もいた、見知らぬ人だが尊敬できる人達がいた」

例えば、

「ある貧しい地域があった。周りに木々がなく砂ばかりの所だ、水を見つけて運ぶのも一苦労。そこに井戸を掘る知識があるからと向かい井戸を見事を掘った人がいた。飢えている、栄養が足りない子に食事を届ける人がいた。その人達が充分に働けるためにと見返りなしにお金を寄付する人達がいた。自分の人生を人を助けることに費やした人がいた。素晴らしい人達もたくさんいたさ」


愛していた家族がいたというところで一同から安堵のため息が聞こえた。

いや、僕のように、のところかも知れないが。


・・・不幸な人生と思われていたのだろうか。

家族にも、友にも恵まれていた。この目で、知識で素晴らしい人を見た、知った。

・・・それでも全体としては嫌いというところに、僕の、人類という種の業の深さが隠れていると思うが。


「それにしても、トールよ、お主、我等が父、イネガル神に会ったと言っておったな」

とハーティ。

月下の狼。もう字だけで美しさが表現されている。

だが、実際の美しさは言葉では語れない。

・・・この前の僕の怒りのように、心配のように。


「その時に、死後を選べるようにしてもらって「テイマー」になったと言っておったな。何故、そこまで嫌っている人間になった?例えば、それこそフェンリルや龍になっても良かったのではないか?」


「う~ん、人間は種族としては嫌い、群れになっても嫌い。だけど個人で見るとまた別というのが一つ、また様々な魔物や動物と仲良くなりたかったから「テイマー」になりたかった、それには人間になるしかないというのも一つ。最後に・・・実は・・・・僕はもふもふとした毛皮が好きなんだけど・・・・」

と皆をちらりと見ると、皆が互いを唖然とした様子で見ている。

なんだ??


「・・・実は?隠していたのか?赤ん坊の頃から変わっておらんだけではないか。それこそ村中が知っているだろうよ、トールが泣き出せば我か、スコールの尾を与えておくと良いと」


「そ、そうなの」

思わず赤面してしまう。


「そ、それで、もふもふがとにかく好きなんだ。だから自らが狼になるとかも考えたけど、ふとね、狼は他の狼のもふもふをどう感じているのかって考えてさ。人間が犬や猫の毛皮を触るとどう感じるかは分かる。だけど、龍になったら?その皮膚の感覚はどうなる?と思ったら・・・ね?ここまで揃うと人間一択だよね」

と笑う。


さて、と話を変える。

真剣な話になる、思わず表情も固くなるくらいに。


「調停者、ハーヴィよ。君は僕が異常に用心深いと言っていたね。幾つかの理由がある、それを話そう。君には特に関係する話だ。既に二つここまでで明かしたと言えるかな。一つは以前伝えたね、異世界の知識、それだけで狙う人間がいる。二つ、今話した人間の悪意だ」


「・・・まだあるのか?」

とハーヴィが尋ねてくる。その顔は真剣そのものだ。

何せ「調停者」という彼の役割に関わる。つまり生態系に重大な影響があるということだからだ。


「それがあるのさ、僕がいた所、いつまでもこの呼び方は微妙だな、地球とこれからは呼ぼう。地球とこの世界では決定的に違う所がある、散々言ってきたことではあるが、ヴィト?」


「魔物の有無ですね?」


「そう。それはつまり何を表しているのか。狼はいる、熊もいる。でも魔狼はいない、何故?」


「・・・・・・そういえば、魔法が使えない世界でしたね。・・・・・・・魔力が存在しない?」


「うん、そうなんだ。地球では魔力が存在しない。そして、ジョブも無い。そう、地球ではね。ジョブがないんだ。この世界ではジョブが剣士でも、農業を営めるね。彼は剣士のジョブの恩恵でステータスが伸びるだろう、例えば鍬の振るい方とか膂力とか。でも、地球では全員平等にジョブがない、農業を営む者も、雑貨を売る者も生まれた時のステータスをただ伸ばすのみ。そこにジョブの恩恵などない。つまり、群れで殺しあう時は、なかなか決着がつかない」

だが、と続ける。

「人間は楽な道を選ぶ生き物でね、殺すなら手っ取り早く、自分は安全な所からと考える。そこに卑怯という考えは一時はあったが、すぐになくなったよ。だって戦う者は皆すべからくそれを望むようになったからね。しかし、魔法がないから遠くから安全に殺すには弓位なものだった。あとは槍を投げるか。・・・ねぇ、父さん、狩りをする者として弓で人間を殺すのってどう?効率的?」


「え、う~ん、相手の装備次第かな。兜とか鎧で急所を隠されると辛いね、あとは矢に毒を塗るしかない。けど、即効性の毒は・・・知らないなぁ」

聞いておいてなんだけど、かなり現実的に答えてくれた。意外です、ごめんなさい。


「そう、互いが殺しあうなら、まずは武具が発達する。すぐに遠くから安全にというのは難しくなった。けど、それを可能にした武器がある。それを銃と言うんだが、この世界にはもうあるかな?」


「銃?」

とスコールが繰り返す。


「それはどのような物でしょうか」

とヴィト。


「う~ん、僕は平和な時代の平和な国に生まれたから、具体的にはよく分からないけど。握りがあって、こういう先端が開いた筒がついていて、何よりも中で火薬が爆発して弾を打ち出す」

と地面に絵を描いてみせる、簡単なものだが。


「・・・いえ、私が知る限りでは、火薬をそのように使用した例は・・・」

とヴィト。


「私達も知らないわね」

と両親。


「私も知らないなぁ」

とスコール。


・・・一先ず安心か。


「これは初期に作られた物であっても、鉄を貫通する威力がある。やがて、殺し合いは近距離同士から遠距離同士に移行した。それを可能にしたのが科学という学問だ」


「科学?学問が武器を作るの?」

と母さんが尋ねてくる。


「違うよ、学問で得た知識を人殺しの武器作りに転用したんだよ、最初は狩りのためであったのかもしれないがね」

と笑う。


「科学というのは、う~ん、ちゃんとした定義、言葉の意味でないけど、実験してみて望む結果を得られるように考える学問、かな。逆かも、結果がどうなるかを知るために実験してみること?まぁ、そんな感じ。例えば、蝋燭に火をついてます。吹き消さないで火を消すにはどうしますか?蝋燭と火に触れてはいけないとします」


皆が考え込む。


やがて、

「砂をかける」

と父。


「何かで覆う?」

とヴィト。


「二人とも正解、実はこれはある意味では同じ意味を指しているんだ」

と言うと、何人もが首を傾げる。


「分かりやすいのが、ヴィトの答え。何かで覆う。より正確に言うと密封状態にするんだ。コップを被せたりね。ねぇ、どうしてヴィトはその答えに辿り着いた?」


「火の魔法を使う際に、風の要素を入れた方が強くなりますから」


「そこだ!風は幾つもの要素でできているが、その中に酸素という物がある。これが物を燃やすためにはある程度必要になってくる。だけど、密封されるとコップ内で酸素を消費してしまう、しかも外から供給されない。よって、ある程度時間が経つと火は消える。父さんの答えは火と酸素を遮るという点で正解だ。火に触れてはいけないという前提に触れないかというと微妙だけど」

と笑うと、照れたように父が頬をかく。


はぁ、と声が聞こえた。

ヴィトだ。

「松田透殿の知識は凄まじいですね、これ以上にも色々知っているのでしょう?貴族だったのですか?教養というよりも知識を得るのに専念しなければ、こんなにも知りえないでしょう?」


「いいや、平民だよ。というか貴族文化は一部の国でしか残っていないし、それも形骸化、つまり見てくれのみだね。王制は幾つかの国で残っているけど。僕の国では9年間は必ず子供を学校に通わせる義務が親に課せられていて、そして更に3年学ぶのが普通だった。そして4年更に学ぶ者も多かった。学んだ量だけ知識のある使える人間ということで働き口が多くなるから。だから、これは地球の僕の国では子供が習うレベルの一般教養だよ。さっきの他国の争いの話も子供の頃に習った記憶だから細かいところは実は違うかも、争いが起きた理由とか、口実とか」


皆が、特に両親がぽかーんとしている。

まぁ、学校が貴族しか通えない時代だ。貴族文化がなくなることも、学校に全ての平民が通えることも、その学習期間の長さも驚きだろう。


「あ、ちなみに平均の寿命は80歳位だったけか、だから今よりも学ぶ期間が長くても生きている期間が長いから無駄になるという考えもなかった」


更に皆がぽかーんとしている。特に両親は顎が外れんばかりだ。


まぁ良いと続けることにする。

「ここで君等は新しい知識を得た、火を消すには空気、特に酸素に触れさせなければ良い。そうすると効率的に火と酸素を遮る物を作ろうという考えが生まれる、そうするとやがてそれは作られるだろう。そう実験や考察によって知識が増える、そうするとそこから何かが生まれる。新しい知識や新しい物、そして新しい武器とかね」


皆を見渡す。


「分かったかな?つながったかな?銃はそういう科学という学問の発達の上で生まれた。だけど、さっきの銃の説明だと殺せるのは一人だけだね。群れを効率的に殺すにはどうすれば良い?人間は脆い、爆発だけでよくないか?そういう考えが生まれればより大きな爆発を起こす物が生まれる。この爆発を起こす物を爆弾と呼んだ。いや、爆発だけだと生き残るかも、生き残りがいても確実に戦闘力を削いでおきたい。そういう考えのもと、大きな爆弾が爆発すると中から金属片が辺りに散らばるようになった。いや、もっとたくさんの群れをもっと確実に殺したい。そうして、もっともっと大きな爆発を起こせる爆弾が生まれた」


「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」


「科学、知識という面、文化という面でも地球の方が進んでいた。ざっと500~700年位かな?逆に言うと、科学が進むと700年後にはそんな武器が生まれる可能性がある。ちなみに、僕が生きていた時には」

ふはっと思わず笑いが生まれた。

「一度爆発させれば何十万人も殺すことができる爆弾が作られていたよ、核爆弾という種類で、それがまたたくさん、たくさん、たくさん作られていたよ。70億という全人間を何度も全滅させることができるくらいに、たくさん。馬鹿だよね、本当に」

笑いが止まらない。


「なんで、また、そんなに?」

と呆れるハーヴィ。


笑いながら答える、おさまらない。

「国同士が仲良くないからさ、あいつが1発持っている、打たれたら困るから脅し用に2発持とうとか繰り返したんじゃないかな?まぁ、1発でも打つととてつもない数の殺し合いに発展するからと、それの使用には自重するようになったのは褒めて良いんじゃないかな?それでも度々脅しに使うんだけどね、あぁ・・・・度し難いね」

と吐き捨てた後、皆を見渡す。


「さっき、この世界の人間は嫌いじゃないと言ったね。正確には、まだ、という言葉がつく。僕は人間の本性は異物を見つけ群れで滅ぼしにかかる、そういうものと思っている。

だからね、魔物という脅威がなくなった今、どこかの誰かは何かとの争いの種を探しているかもしれない。あるいは、この先そういう奴が出てくるかもしれない、いや出るだろう。それが人間同士の争いになるのか、魔物の集落を滅ぼしにかかるのかは分からないが」


ハーヴィを見つめる。


「調停者よ、数百年先の異世界の記憶から断言する。人間は争いを起こす。確実に。その時に銃が作られていたらどうなるか」


「・・・」

ハーヴィは答えない。


「銃により、戦えない筈の市民も兵になり得る。その全員に銃を持たせれば遠距離から安全に殺せる軍隊がすぐにできる。しかも銃は一発ではない、弾と火薬があれば何回でも撃てる。魔物に向けば、確実にほとんどの魔物が殲滅される。また、人間同士では相手が銃を隠し持っているかもと疑心暗鬼になり、やがてそれが争いを生むだろう。そうして、互いに殺しあう。」


「調停者よ、数百年先の異世界の記憶から断言する。人間は争いを起こす。確実に。その時に核爆弾が作られていたらどうなるか」


「・・・」

ハーヴィは答えない。


「断言しよう、世界はいつか必ず滅びる。世界の寿命ではなく人間の悪意によって」


「・・・・どうしろと?」

ハーヴィが口を開く。


「邪魔をすれば良いのさ、銃を思いついた者がいた、だけど自分では作れないだろう。ドワーフに頼むかもしれない。そうしたら、ドワーフに報告をもらうと良い。そして調停者の名によって使用を禁じる。破ればそいつの周囲一体を吹き飛ばせば良い。あるいは妖狐に頼んでそんな噂が聞こえたら、同じように報告してもらうと良い。大きな爆弾を作るには大きな製作の場所が必要になる。使われる前に、それを完成させたらその場で爆発させると言えば良い。そうして実際にそうすれば良い、スライムのご飯にしても良いね」


皆を見渡す。


「魔物が常に武力では人間の上に立つ様にすれば良い。ただ、爆弾はそもそも洞窟を掘るために作られた・・・はずだった気がする。ならば、魔物がその代わりを果たすんだ。そうして共存共栄に持って行く。それを阻む武器は大量生産される前に破壊するんだ。その製作場ごと。

もし調停者が代替わりするならばそれを必ず伝えてくれ。もし爆弾の作り方を知るものがいたら、そいつの家を燃やしてしまえ。書き残しがないように、他の誰かが真似しないように。もし、銃が、爆弾が進化していけば龍とて危ないだろう、芽を叩き潰せと。」


・・・・・・今の内だ、まだ魔物の集落が襲われたという情報がない前に。

決めろ、決めろ、決めろ!

腹をきめろ!!

この世界を愛しているんだろう?

だったら、背負え。

無償の愛に甘えるな。


「トール?」

ハーティがいぶかしんだような声をだした。

そして気づく、震えていることを。


「僕は・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


皆の中心に立つ。

宣言しろ!逃げ道なんて作るな!神への感謝のため、愛してくれている魔物のため、人間のためにも!!


「僕は、国を作る!!すぐではない、だが学校を卒業して、しばらくしない内にだ!!魔物と獣人と人間が共存する国を作る!人間と魔物とが共存共栄できることを僕が示してみせる!!!」

かいていたらとちゅうできえました、はんぶんくらいかいたところできえました。

ばっくあっぷさんはこんかいはたすけてくれませんでした。

もっふもっふ orz

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ