73話 頑張る日々 7「ぐるぐる包帯、ぐるぐる前世」
眩しいな。
朝か?
じゃあ、起きなきゃ。
「っ!!??」
体中が痛い、もうなんだろう、痛くて笑えてくる?こんなの笑えるか!!
なんだ、何が起きているんだ!?
目を覚ますと、もう理由が分かった。
というか、思い出した。
自分、包帯だらけだ。
「トール、トール!?起きたか!??」
と我が狼、ハーティがベッドを覗き込むように叫ぶ。
あぁ、こんなだから一緒に寝てなかったのか。
・・・惜しいことをした。
「おは・・・よう」
口の中も痛い、歯は・・・無事か?
いや、数本抜けている気がする。
まぁ乳歯だろうから、良いや。
頬も叩かれたからなぁ。
「おはよう、トール?」
あぁ、母様、そんな優しい声出さないで?
怖いよ?
「私、色々と、聞きたいし、言いたいの」
「はい」
しばらく、こんこんと説教が続いた。
やっぱり一番辛いのは涙ながらに説教されたことだ。
ハグしてごまかすこともできない。
次にはスコール、スロールが同じように泣きながら説教をしてくるとはその時の僕は思っていなかった。
余談だが、ハーティ達にはこの比じゃないほど説教があったようだ。
たぶん、僕のこの姿が火にガソリンを注いだのだろう。
彼等には良い薬だ。
どれだけ、愛され、心配されているかを思い知ると良い。
・・・あ、はい、分かってます。ごめんなさい、もうしません。
ちゃんと愛されていることも、心配されていることも知っています。
え?なお悪い?
他の方法が思いつかなくて・・・えっ、リッチロードも言っていた?ですよねぇ。
・・・
・・・
とりあえず、龍の血だけはそれでも飲まなかった。
これは僕への罰だし、彼等への罰もかねている。
この姿をしばらく見るのも罰だろう。
お仕置きと説教はもう終わっているが、罰はまだあるのだよ、諸君。
ただ、夜中になったら口の部分だけでも血をかけないと・・・。
以前の話の続きがある。
それにしても、母様?
僕にご飯を食べさせるのはそんなに楽しいですか?
えっ、昔を思い出して楽しい?
そうですか、それなら別に良いですが。
スコール?愛しの狐さん?なに、次は私の番って。
スロール?愛しの木精さん?その次は私の番って。
ハーティ?愛しの狼さん?次は私の番って、これお前のせいの一部だからな?忘れてないよな?
トイレだけは無理やり自力で行った。
右手と右足は残ってるんだ。
えっ?食事も摂れるだろ?女性陣にあんな目で見られたら、させた方が良い。
さもないと、次に何が来るか分からない。
それこそ、トイレに無理やり連れてかれる。
・・・
・・・
昼が過ぎたところで、ニコニコした顔のイワン大司教がいらした。
とても嫌な予感がするが、逃げられない。
「夜明けにドンドン扉が叩かれましてね、もちろん、神への祈りの場はいつでも誰でも迎えます。ですが、スコールさんが泣きながらトールさんを頼むと。見ると痣だらけ、骨折だらけ、擦り傷だらけ。龍皇さん、今はハーヴィさんですか、その血を使わないのか尋ねても、トールさんから禁止されているとか」
ニコニコ。
ニコニコ。
ニコニコ。
だらだら。
だらだら。
だらだら。
「いき・・・なりの、治療、のお願い、ごめん・・・なさい」
「私が聞きたいのが、言いたいのが、そんなことではないのは分かっているのでは?」
「・・・家族へ、必、要・・なこと、だったの、です」
「両親に心配をかけ、両親を泣かせ、自分の従魔達を泣かせても?」
目を見て、頷く。
しばらく、目と目が合う。
さながら睨み合うように。
だが、これだけは引けない。
「・・・はぁ」
ため息とともに、
「口の中も怪我しているようですから、問い詰めないですが。あなたはどれほど「祝福と加護」を周りから頂いていてもまだまだ子供なのです。あまり無茶はしないように、散々言われたでしょうが」
笑って頷く。
「もう、しなく・・て、済む、、、でしょう」
「ならば、特に重ねて言わないようにしましょう。タクト王子が探していましたが、転んで口の中や足に傷があるから見舞っても喋れないし動けないから行かないようにと伝えておきましょう」
「ありが・・・とう・・・ございま・・・す」
「そう思うなら、意地は程々にして、早く治してください。神職に就いている者にこれ以上嘘をつかせないように・・・それにしても、ここ2日ほどですか、随分と変化があったようで」
と笑って去っていった。
・・・どこまで見通しているのやら。
しかし、タクトには悪いことをした。
今度来た時にでも何か作ってあげよう。
何か良い遊び道具でもあっただろうか。
・・・
・・・
夕飯も代わる代わる食べさせられる。
父様、楽しい?
楽しい?あっ、そう。
龍よ、ハーヴィ、お前もか。
骸骨よ、ヴィト、お前もか。
お前等も僕をこの様にした共犯者だからな。
ハーティ、お前もだよ。
・・・
・・・
夕飯が終わった。
「ハー・・・ヴィ、倉庫、から・・・君の血」
『を取ってきて』の前には飛び去っている。
相変わらず早いし、速い。
「取ってきたぞ!!」
右手で受け取り、口に含み、もごもご、がらがら、コップへ、ぺっ。
「何故、吐く!!??」
「喋れれば良いからだよ。あ~、ようやく普通に喋れる。話す度に変なところで区切れるから、嫌だったんだ。聞きづらかったでしょ?時間かかるし。他の傷は1週間はこのままにしておくよ。自然回復力も高まるかもしれないからね、それにその方が罰になる。君等にとっても、僕にとっても」
「私はその姿のあなたを見ているのが嫌なのだけど?」
とニコニコ顔で母さん。
「ごめん、これからの僕の成長にも関わるから、これは勘弁して。理由も話すよ、何故、成長にそんなに拘るか。さて、ハーヴィ、前の所に連れて行ってくれるかな?」
「相変わらず、異常なまでの用心深さよ、何がそうさせる?」
「・・・・・・・・・悪意」
と真剣な顔で言うと、場が静まる。
「誰、いや何に対して?」
「内緒、ここでは」
「・・・・・うむ、分かった。皆乗るが良い」
外に出ると、いつの間にかスライムロードが。
(・・・・・・・・・・何があった?)
あ、これ、もしかしなくても怒ってる?
「剣の実戦形式の訓練だよ、安心して」
と右手で撫でた。
(何かが襲ったわけでは・・・)
「ハーティ達がいるんだ、大丈夫さ」
(ふむ、とうとうテイムしたか、我はテイムせんのか?)
「彼等が特別。僕はテイムしたいわけではないの。ただ、魔物の皆と仲良くできればそれで良いのさ。彼等は・・・あ~、家族の証みたいなもんかな。でも、従魔というわけでもないのに、いつもすまないね」
(構わん、良き隣人というところか、それも良かろう)
「ん~、良き友人、頼れる親族というところもなきにしもあらず」
(!?・・・くくっ、ならなおさら良い。いつでも頼れ。頼られるのも嬉しいものだからの、家の中の守りは任せよ)
「うん、君だからこそ任せられる、よろしく」
「では、スライムロード殿は家の中へ。また閉めますよ」
(うむ)
そうして、我が家は石で覆われた。
鍵が必要かと思ったがいらないか?
いや、やっぱり必要か。
僕は王都に学校に行くのだから。
・・・まぁ、脅されたり、盗まれたりで、武具や宝石が無くなっても良いのだけど。
ハーティが逃がさないだろうし。
・・・やっぱり必要ないか。
・・・
・・・
そうして、僕が『僕』を認められた場所へ。
あぁ、やっぱりここは美しい。
夜空が綺麗だ。
星も月もよく見える。
「ハーティ、寄りかかっても良い?」
「無論、聞くまでもなかろう」
「じゃあ、遠慮なく」
丸くなったハーティの前足と顔の横に腰掛ける。
「じゃあ、お父さんたちは私に座りな」
とスコールが尻尾を差し出す。
「じゃあ、私達も遠慮なく、あら、もふもふ、ふふふ」
「お、やっぱり、もっふもふだねぇ」
と幸せそうな両親。
「さて、」
と言ったところで皆が僕を見る。
「前はどこまで話したか、人間と魔力を帯びない動物しかいないこと、人間がたくさんいたこと、神様がたくさんいたこと、あとはこの世界の基が、僕の前いた世界の想像による創作からというところだったかな」
「まだ現実味がないよぉ、ふわふわする」
とスコール。
笑ってしまう、そりゃそうだ。
「じゃあ、今日は僕がいた世界の人間の話をしよう、それが皆の幾つかの疑問を晴らすだろうから」
「さて、人間と魔力を帯びない生物しかいない、そんな世界はどんな世界になるでしょうか?」
「う~ん、やっぱり平和じゃないかな。君が生まれるまではジョルジュ王が言うように魔物を恐れていたわけだし、彼等が生きるのに必要な行為だったとしても。外敵は狼や熊位かな?」
と父さん。
平和、平和、平和か
「違う、違うよ。平和?そんな時代あったのかな?どんな時にも、どこかで争いがあったんじゃないかな?そう、争いだ!人間と動物しかいないんだ、何と争うか分かるね?」
「人間でしょう・・・・ですが、何故?」
とヴィト。
「何故!そう、そこが重要だ!!何故?他国の資源が欲しいから、奴隷が欲しいから、金が欲しいから、神様のために、反吐がでるような、下らない理由さ。復讐だけは理解できるがね、そうだ、こんな争いがあった。」
「この世界にもあると思うけど、吸うと気持ちよくなる薬や葉っぱ、あるかな?」
「人間が吸うと気分が高揚するような葉はありますね」
とスロール。
「松田透の世界にもあったよ。彼の世界では痛みをごまかすために使ったりしたんだ、そういう風な痛みをごまかす薬を麻酔という。だけど、諸刃の剣なんだ、この薬。気持ちよくさせるんだけど、それが切れると禁断症状が起きることがある。全身を虫が這っているような感じがしたり、誰かに監視されたりしているような気がしたり、それを止めるにはまたその薬を使うのが手っ取り早い。だけど、また効果が切れたら禁断症状が起きる。だから手放せなくなる。そういう使い方をすると麻薬と呼ばれるけどね。しかも、その時はそこまで知られてなかったけど、それは脳を溶かすんだ。でもね、そんな薬を他国に裏で売っていた国があった」
「裏で?」
とハーヴィ。
「そう、裏でだ!何故か!!麻酔のような平和利用が目的でないからだ!禁断症状を起こさないためには薬を持ち続ける、つまり買い続ける必要がある。でも、金はいつか尽きる、では使用者は我慢して禁断症状を乗り越える?そんなことができるなら2度目は買う必要がない、金がない?なら手っ取り早いのは?奪うことだ。そして、裏で売られていた国は見事に荒れていった」
「そして、裏で麻薬が蔓延しているのに気づいたその国は、売っていた国の商人に売らないように伝えた。だが、彼等は従わなかった、だから没収して焼いたんだ。そうしたら、どうなったと思う!!??」
「・・・・・どうなった」
と真剣な表情のハーヴィ。
「売っていた国がね、自国の商人の財産を勝手に燃やすとは、喧嘩を売っているに等しい、だったら買ってやるとね。分かる!!??彼等はね、金儲けの為だけではなかったんだ、争う口実がない、だから作ったんだ。最初からそれが目的だったのかは問題ではない。争う口実にしてしまえたのが問題なんだ!なんのためか!なんとお茶や茶器とかが欲しいがためさ!信じられる!!??そして、売られていた国は領土や金やお茶なんかを奪われた、僕が一番嫌いな争いさ、反吐がでる!!松田透が生まれるずっと昔の他国の争いだがね」
「こんな争いもあった、異なる神を信じる異教徒を殺すことが自分達の神を喜ばせることであると信じた人達がいた。だからその神を奉じる教会が主導して軍隊を組織して、異教徒を殺戮するんだ。戦える男だけでなく、女、子供関係なくね。しかも救えないことにこれは何回も行われる。何故か!!神のため?だったらまだマシだ。死人から何を奪っても誰も文句を言わないからさ、金儲けのために、殺戮に興じたんだ!」
「人間は群れるから強いと誰かが言った、違う。群れると凶暴性が増して、理性が麻痺して、どんな卑怯なことも残酷なこともできる、その集団になったときの感覚の麻痺、集団になった時の悪意、これこそが本当の人間の強さだ!」
「トール、お主は・・・」
ハーティが悲しい声で呼ぶ。
「そう。僕はね、人間が嫌いだ。いや、語弊があるかな、人間の集団が嫌いだ、人間の群れが嫌いだ、鳥肌が立つ、反吐が出る、自分が人間であることに絶望していたくらいに!!!!」
前にここの山で話していたのは66話です。
作中のはあくまで松田透の価値観なので悪しからず(ぺこり
実際のアヘン戦争はもう少し複雑な経緯がありますし、十字軍もそうでしょう。
その辺は次話で触れます、簡単にかもしれませんが。




