72話 頑張る日々 6「答え合わせ」
「トールは無事かい?」
目を閉じたままアーノルドが口を開く。
「一応は、命に別状はないようです」
と暗い声でドライアドの長、スロールが答える。
「・・・そうか、こんな事、彼等とやっていることが同じじゃないか、まったく」
とトールの残した手紙を見る。
手紙には、短くこう書いてあった。
『彼等の師匠に鉄の剣や棒で徹底的に稽古をつけてもらう。目の前で家族が傷つくのがどんなに辛いか、どんな想いを家族がするかを思い知らせて、二度とあんな馬鹿な真似はさせない』
・・・
・・・
「ぎっ!?」
左足の脛を思い切り叩かれた。
あれからどれくらい経ったのか。
もう左肩は動かない。
折れたのか。
今ので左足も折れたようだ。
でも、まだ身体は動く。
何度気絶したことだろうか。
身体がずぶ濡れだ。
約束通り先生は湖に突き落として拾い上げてくれたのだろう。
その前後の記憶がないが。
左肩は動かない。
左足は動かない。
先手は取れない?
いや、取らなきゃ、嬲り殺しだ。
殺されないなんて、本当のところ思っていない。
頭を打つな?首を打つな?背中を打つな?
吹き飛ばされた先に突き立っている棒や剣に頭を強く打ったら死ぬかもしれない。
彼が間違えて背中を打てば半身不随になるかもしれない。
首にしたって彼の間違い、吹き飛ばされた先、吹き飛ばされ方でどうなるか分からない。
・・・だからこそ、意味がある。
勘は冴えてきた、視界にはいつも彼を収められるようになってきている。
成長が感じられる。
いい加減、一発は殴り返したい。
幾度も剣や棒を試した。
両手に持ってみたりもした。
だが、僕にはコレが合っているらしい。
身体を引きずる。
追撃は来ない。
身体を引きずる。
追撃は来ない。
身体を引きずる。
辿り着いた。
あぁ、声がする。
誰かが泣いている、怒鳴っている。
それは一番長い鉄の棒。
結局、僕にはコレが合っているらしい。
(トールで良かったか、名前は?)
「あぁ、そうだよ」
棒を引き抜く。
(感服したぞ、まさか泣きもせず、ここまでやれるとは。最初は強がりと思っていた、謝罪しよう)
「構わないさ、7才の子供があんな事を言い出せば、そう思うのも当然さ」
(見事、この訓練で成長したな。身のこなし、勘の冴え、視界を広く持つ、よくぞその域まで辿り着いた、大人でも中々いないだろう、その段階に到達している者は。まことに恐れ入る)
「ありがとう、先生のおかげだよ」
(そうか光栄なことだ。・・・そろそろ、刻限だ。これが今宵最後となろう。今まで以上に集中せよ)
「無理だよ」
思わず笑う。
「ずっと集中していたんだ、これ以上は無理ってくらいに」
(そうか、そうだな)
彼が笑った気がした。
(余計な一言であった、では・・・)
「あぁ、待って、僕が気絶したとして先生はどうするの?日の光は?」
(無論、日が当たらない所に行くまでよ。洞窟などもある。気にするな。しかし・・・トールも大概の大馬鹿だな、周りが見えんのか?)
「見えないよ、見ないんだ。終わるまで。言っただろう、八つ当たりに巻き込んで申し訳ないと、八つ当たりするようなのは大馬鹿だろ?」
(そうだな、余計な一言だった。終わったのなら彼等を安心させろよ?悪気はなかったのだから)
(悪気がないのが問題なんだけど、理解はさせるさ。大丈夫、僕の家族だから)
(くっ・・・くはははは!ならば問題あるまい、では今宵最後の一幕だ、気張れよ)
「当たり前だ!」
動くのは右手、右足のみ。
だけど、最後に一撃を喰らわしてみせる。
骸骨が剣を持って迫りくる。
でも、もう見えている。足の方向、剣の向き。
そして、感じている、危機はどこから訪れるのか。
ならば、足が踏み出す前に、剣が届く前に、突けば良い。
彼が踏み出すその先を。
肩は不必要に出さない、出したら身体ごと武器を流される。
腰と右腕だけで、近寄らせない。
(むぅ!?剣を使う身として、先生と呼ばれて!くっ!悔しいが、トール!お前の得物は棒が最も、向いているようだな!)
突くたびに弾かれる、弾かれる。
ガンガン、ガンガン音がする。
弾かれ、流されそうになり、踏ん張り、突く。
ガンガン、ガンガン音がする。
複数の声がする。
突く、払う、薙ぐ。
全身を目に収めているから、彼の挙動は分かる。
どこに避けようとしているかも。
そして、その後の行動も予測がつく。
だが、まだだ。
予測がつく?それだけでは足りない。
突いて突いて、突きまくれ。
面で押し返せ。
弾かれる?当たり前だ。
彼が前進してくる?
それでも突け。
肩に、頭に、胸に、骨盤を目掛けて。
揺さぶれ、揺さぶれ。
そして、彼がついに体勢を崩す。
ここだ!!
彼の腰を狙って低く、薙ぐ!
だが、彼は跳躍してかわす。
そんなことは知っている。
だが、空でこれを避けれるか!?
今日最速の突きを見舞う。
だが、武器で流しながら、身体を回転させて彼が降ってくる!
(格上が体勢を崩したら、罠だと思え!散々その身で味わっただろう!!)
と彼が右肩を狙って、振り下ろす。
・・・味わったし、知っているよ。
だから、予想だにしないことをするしかないんだ。
できないはずがない。
ハーヴィが、ハーティが見せてくれた。
先生も今日散々間近で見せてくれた。
ならば、やってやろう。
歯を食いしばり、
足を回転させる。
差し出すのは、もう使えない左腕と肩。
使えないなら盾にでもするしかない。
でも、空に跳躍した先生には効く筈だ。
彼は、右肩を狙って、両腕を破壊しようとしていたのだから。
今更、狙いは変えられない。
変えようものなら、頭か首だ。
バキっと音がした。
砕けたかな?
肩が燃えるように熱い。
助かった、痛みは感じない。
だから、
この一発をかますことができる!
「おおおおぉおおぉぉぉ!!」
棒を持ったまま、右フック。
もろに胴体に喰らわしてやった。
(ぬぉぉぉぉぉぉ!?)
殴った勢いで飛んでいき、地面に刺さった棒にぶつかり止まる先生。
やった!
一発かまして・・・
(相手の予想を超える、素晴らしい一手だ。だが、詰めが甘い、こちらは吹っ飛んだだけ、骨が折れたがな。だが、そちらは?最後に顎を揺らさせてもらった。ここが戦場ならそちらの負けよ。だが、まさか喰らうとはな。素晴らしい一撃であった、また手合わせの必要があれば呼ぶが良い、トールの頼みなら喜んで聞いてやろう。楽しい一夜であった)
気絶する最中にも思念が聞こえる。
くそっ、見えなかった。
(ありが・・・と・・・う・・・ござい・・・・・・・・)
何かが倒れた音がして訓練は終わった。
・・・
・・・
・・・
なにかこえが・・・
「何故、もっと早く止めんかった!!!!」
「止めたかったよ!!!!でも、止めたらトールの意思が無駄になる!!!!分かってんでしょ!!誰のために、何のためにトールがここまでボロボロになることを選んだのか!!!」
「それでも!!!!!!!それでも・・・・」
あついのがぽたぽたとおちてくる
くらい、いたい、とってもいたい、からだが、こころが。
目を開ける、
フェンリルの身体の上で寝かされていたようだ。
「して、容態は!!??」
「龍の血を使うほどではないと言うと思うけど、本人に聞きなよ」
あぁ、涙声だ。
「ハー・・ティ。僕の可愛い、狼よ、スコールを・・・責めないで」
「「「トール!!」」」
「スコール・・・ありが、と・・・・止めない・・で、くれ、て」
「知らないよ、この頑固者!大馬鹿!!」
狐の目からは大粒の涙が光る。
あぁ、ごめんよ、それが綺麗に思えてしまう。
「答え・・・合わせ、だ。3人、とも、今の・・・気持ちを、教えて・・・おくれ」
「言葉にできんほど怒っておる、心配させおって!!!!」
と龍の長、ハーヴィが。
「そうよ!!何故こんな真似をした!!!!」
とハーティが。
「私達のどこが悪かったのですか!!??」
と不死者の王、ヴィトが。
「くっ・・・あはは・・っ!?」
痛い、とても痛い。言葉にできないくらい痛い。アドレナリン?とっくに切れたよ。
こりゃ父さん達にも怒られるな。
「そう・・・か、まだ・・・分かって・・くれないか。ハーヴィ、君の血・・・回復させるの、凄い、よね」
「!?うむ」
「あれ・・・さ、首を・・・刎ねた後で、も効く?」
「いいや、即死ならば効かんな」
「だろ・・・う、ね。」
目を開けているのもしんどい。
「あの・・・3幕さ、見た・・・時、怖かっ、たよ。君等が・・・死なないか。傷、つかない、か」
「だが、あれは練習した・・・」
「馬鹿だね・・・知って・・・た?人間は、転ぶだけ、で死ねるんだよ?頭、からいけばね」
「それが?」
とヴィト。
「人間は・・・脆いんだ、だから・・・君達が・・・どんなに、丈夫でも、姿を、、、重ねて・・・心配をする」
「「「・・・」」」
「それ、に・・・・練習?本、番は、、何が、、、起きるか・・・分からない。もし、ハーティが・・ハーヴィの・・・首を狙った、時に、僕が飛、、び出した、ら、剣は止め・・・られたかい?剣で防げた?」
ハーティに手を伸ばす
「あぁ、綺麗・・・だ。傷がつか・・・なくて、良かった。」
「「「・・・」」」
「僕の、記憶の、、自我の、、、、為だろうか。焦って、過剰な演出・・・・にしたのか、は知らない。でも、万が一・・・にでも・・・・家族が傷つくかもしれないのは、嫌だ、嫌なんだ。僕のため?ふざけるな、だったら、僕は苦しんだ・・・方が良い。僕が苦しむ方が」
あ~、くそ、涙が出てきた。
「僕が・・・前世の・・・記憶を、持って・・・なければ、たぶん・・・・・・・僕はそれこそ、飛び出した、と思う、君等の剣戟・・・・・・の間に」
「「「「・・・・」」」」
さぁ~っと血の気が引いていく音が聞こえた。
「でも、僕は・・・飛び出せなかった、君等の『想い』を汲んで・・・しまった、から・・・そして、止めるのが、君等の恥に、、、なるかもという俗な・・・理由で」
「この、痛みは・・・君等への罰、そして・・・僕への罰なんだ、ごめんね・・・・・止められ、なくて」
もう前が見えない。
「僕のため、、、にして、くれたのに。理不尽だと、思う。でも、君等が、、今感じてく、れているだろうように・・・・・・怖くて、心配で、死ぬかもと、自分を、軽く見ていることが許せなくて」
「もう良い、悪かった、我等が悪かった」
とハーティに涙を舐められる。
「うむ、すまなかった、二度とこの身を過信すまい、心配かけまい、誓うぞ、だから」
とハーヴィにも涙を舐められる。
「だから、トールもこのようなことしないでください、お願いです。お願いですから」
とヴィトに手を握られる。
「本当だよ、辛いんだよ、見ているだけって、本当に、辛いんだよ?」
とスコールが頭で右手をぐりぐりする。
「君達・・・・・がしない、なら、僕だってしない、よ。約束できる?」
「「うむ」」
「はい」
「うん、うん」
「じゃあ、約束だ。これで・・・お仕置き・・・と説教は終わり。龍の血は・・・なし・・・教会で治療を、自然・・・治癒力を高め・・・」
そこまで言って僕の意識は完全に途切れた。
ちょいネタ。
魔物の数え方、特にハーティ達は1「人」や「匹」をあえて色々使っています。
なんというか、種族に捕らわれない感じを出したくて。
家族というカテゴリー、しかもペットではない。そんな感じ。
他にもちょいネタ
あえて、平仮名表記にしているところが多いです。
年齢が低くても読めるようにとか、どの漢字がふさわしいか悩んだりした時なんか。




