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70話 頑張る日々 4「怒りと準備」

「ただいま」

そう言って、戸を開ける。

鍵がない生活も今までの「トール」のおかげで慣れたものだ。

それを考えると、記憶を後から返してもらったのは正しかったのかもしれない。

蛇口がない、電気がない、本がない、鍵がない。

・・・都会でしか暮らしたことのない「松田透」にはカルチャーショックが強すぎる。

しかし、今の僕には記憶は「トール」+「松田透」。身体の経験・慣れは「トール」である。

意識しなければ、もう慣れたものである。

・・・逆に言うと、意識すると違和感がひどいが。鍵つけようかな今度?


「おかえり」

「おかえりなさい」


そう言って、両親が出迎えてくれる。


「今日のハーヴィ達の剣の見世物、凄かったね」

そう僕が言うと、


「えぇ、訓練をしていたのは知っていたけれど、真剣だから驚いてしまったわ、最初から言っておいてくれたら良かったのに・・・確かに2回目のは貴族様のダンスってこんななのかしらと思うほど綺麗だったけれど、3回目のは怖かったわ」

と母さんが頬に片手をあてながら憂うように言う。


「え、知ってたのかい!?」

と父さんが驚いている。


「何を?」

と母さんが首を傾げる。

う~ん、噛み合ってない。


「いや、訓練をしてることだよ、知らなかったから。剣を扱えることにまず感心していたんだけど・・・そうか訓練をしていたんだ」


「あぁ、以前に皆の日記兼字の練習の束が落ちてしまって、それを妖狐さん、今はスコールさんか、と一緒に片していたことがあったの、その時にね。もう皆のが、全部床に落ちて、一人ずつ、時間毎に、まとめ直したの」

最後の方を強調している、笑っているが目が笑ってない。

いつの話だろう?言ってくれたら手伝ったのに。

なお、高熱にうなされていた時のことだと後から知らされた。


「あ、その、本当にごめんなさい」

と父が頭を下げる。


「ふふ、冗談よ。皆のが読めて楽しかったわ」

と母が笑う。

やはり男性は女性に勝てないのか、どこの世界でも。

いや、母は強しということかもしれない。


父が胸を撫で下ろしながら、

「いや、本当にごめんよ、今度穴でも開けて糸でも通しておくよ。それにしても今日のは見ていてハラハラしたよ、凄かったけどね。家族がやるとなると凄いよりも心配で」

と苦笑いしながら言った。


良かった、二人とも僕と同じ気持ちだった。

そして、今回のことに関与もしてない。


「そこは僕から厳しく叱っておくよ、二度とこんな事は起きないくらいに厳しく、それにあたって今日は僕は夕飯はいらないや。煮汁とかシチューの具なしだけくれる?」


「食べないと大きくなれないぞ?病気にもなってしまう」

と父が心配そうに言う。


「今日だけだから。彼等を叱るのに必要なんだ」

と父の目を見て言う。


しばらく父と睨み合いのような状態が続く。


そして父が溜息とともに

「・・・何をする気だ?」


万が一にも彼等に聞こえないように紙に記す。


それを見た父は

「・・・危険はないのか?」


「最悪、ハーヴィが龍の血をくれるだろうから、彼等も真剣を使うにあたってはそこも考えていたと思う。そこは公平にね」


「・・・男としてはやってこい!と言いたいが、父としてはもう少し過激さを抑えて欲しいんだけどね」


「ちょっと無理かな、僕は心配もしたけど、それと一緒に、非常に怒ってもいるんだ。色々とね、だから八つ当たりとか頭を冷やすとか込めて、次回からは過激さは抑えられると思う、今回は無理だけど」


「・・・イリス、夕飯はこの子のいう通りにしておくれ。何を言っても駄目そうだ」


「・・・トール?あまり無茶をしては駄目よ?」


それには笑って返せる

「男の子は無茶してなんぼだよ、どこの世界でも」



しばらくするとまず頼れるお姉さんズこと、妖狐=スコール、ドライアド=スロールさん達が帰って来た。

「ただいま~、やっておいたよ~、意外と数が多くて大変だったぁ」

と僕のベッドへダイブするスコール。


「ただいま帰りました、まったく、そんなに疲れてないでしょうに」

と苦笑いして座るスロール。

「しかし、アレで何をするのですか?あまり穏やかとは言えないものばかりですが」

と真剣な顔で尋ねてくる。


「説教と八つ当たりを理不尽さを込めて、ごめんね、我侭に付き合わせて、そして、ありがとう」

とスロールにハグをする。


「い、いえ、我侭などに付き合うのは良いのですが」

と慌てる美女。

「ただいま」など家族としての団欒に入るのに違和感を自身でも感じなくなってきているらしいが、スキンシップにはまだ弱い。


「あぁ~!トール!ずるいよ!私にも!!」

と勢いよく上半身を起こすスコール。


「勿論、そのつもりだったよ、でも元の姿の方が僕も嬉しいかな」

と言うとすぐに大きめの狐に変化して胸元へ。

大型犬が立って飼い主の方に掴まる体勢だ。


「ありがとうね、スコールも」


「良いよぉ、ご褒美があれば頑張れちゃうお姉さんさ」

と喉をごろごろさせる。


・・・狐は喉をごろごろさせるのか?微妙にそこだけを変化させたのかもしれない。

変化に関しては右に出る者はいない種族、その長だ。

それくらいは楽なものなのだろう。

・・・あぁ、もふもふに癒される。

日向の良い匂いもする。

もふぅ。

尻尾をぶんぶんさせているのは、狐もするのだろうか。

少なくても目の前のお狐様はしているが。


「それで、何をするかだったね、コレを読んで」

と先程の紙に「※いざとなったらハーヴィの血あり、重篤になる危険性少なし」と補足を書いて渡した。


案の定、2匹の顔が難しいものになるが、やがて溜息とともに、


「まぁ、人間的にアレは怒っても仕方ないのかな、良いよ、好きにやりな。お姉さんが見届けてあげる。いざとなったら止める判断もお姉さんに任せな。これでも人体のことは詳しいんだ」

とスコール。


「では、私は家に残りましょう。ちゃんと無事かどうかをスコールから思念をもらって二人に伝えます」


「ありがとう、止める判断は任せるよスコール。そして、ごめんねスロール、自意識過剰でなければ、たぶん君も心配で見ていたいとか思ってくれているはずなのに、二人のこと。村のこと。任せたよ」


村と家には莫大な金になる物が幾つもある。

誰かが家にいてくれると安全だし安心だ。


・・・

・・・

・・・


それからしばらくして、件の3人が帰って来た。


「「「ただいま」」」


「「「「「おかえりなさい」」」」」


「いや、疲れたぞ、子供が群れるかと思えば大人に群がられた」

と疲れたようにハーヴィが。


「騎士団に剣の指導をと言われたのには驚いた」

とくたびれたようにハーティが。


「まったく、騎士団は槍が主武装だろうというのにですよ」

と呆れたようにヴィトが。


「して、どうだった!?トール!??」

と大型犬レベルに元の姿に戻ったハーティが先のスコールのように方に手をかけて、尻尾をうならせながら尋ねてきた。

「褒めて、褒めて!」というのがもう目に見えるようである、主に尻尾で。


「もちろん、凄かったよ、お疲れハーティ。そして、ありがとう」

と抱きしめる。

月のように綺麗なのに、匂いは日向のそれだ。

もふもふする。スコールよりはさらさらだが、それも良し。

もふぅ。

「うむ、うむ!」

尻尾が凄いことになっている。


「ハーヴィも、いつの間にか剣を扱えるようになっていたんだね、知らなかったよ、お疲れ。ありがとう」

と小さく元の龍の姿に戻っていたハーヴィを抱きしめる。

ひんやりとしているが、温かい。本来は怖い龍だが、生命のぬくもりは同じだ。

・・・もふもふはないが。

「うむ、トールのために頑張って覚えたぞ、して、何か今失礼なことを考えなかったか?」

鋭い。

「失礼なことは考えてないよ」

と笑って頭を撫でておく。


「ヴィトもお疲れ、二人に剣の扱い方を覚えさせたのはヴィトでしょ?そして、ありがとう」

と我等が骸骨も抱きしめる。

「先ほどからありがとうと言っているということは、色々と見通されましたね」


「うん、幾つか浮かんだよ、見せてくれた理由は。外れているのもあるかもだけど、

自分達の凄さを見せて、僕に自分達はこの先何があっても大丈夫と安心させたい。そして、もっと頼ってほしいのかなとか。

彼等は僕に剣を修めた者の凄さを見せて、憧れてもらいたい、そしてできれば自発的に剣を修めてもらいたいと思ってかなとか。

彼等は僕の動体視力を鍛えるためにやっているのかなとか。

僕が自分の有り様で悩まないですむくらいに凄いのを見せて、心配事を忘れさせたいのかなとか」


「いや、それが「松田透」殿の知識の賜物ですか。最初のを除いて、全て合ってますよ。今更、私達を心配することなどないでしょう、もっと頼ってほしいという気持ちは確かにありましたが」


ここか、今回のズレは。


「うん?トール?・・・お主何を考えておる?」

と若干、いやかなり警戒したようにハーティが言う。

流石に早い。


「逆に、尋ねるよ、どんな匂いがする?」


「複雑な匂いよ、嘘は言っておらん、悪意はない。しかし凄まじく怒っておるのは分かる、だが、何にかは分からん。それに他にも色々と混じっておる」


「・・・そうだね、後で教えるよ、必ず。まずは夕飯にしよう。皆、手を洗っておいで」


その日の夕飯は静かだった。

件の3人は不思議そうに、それ以外の皆はこれから起こることを思って。

僕のご飯については、3人から問い詰められたが、濁しておいた。父に相談してのことと言うと、不審がられたが、納得した、というかさせた。


夕飯が終わり、一息ついたところで、


「じゃあ、3人とも来て欲しいところがあるんだ、そこで色々と話すよ。・・・・・・・あ、そういえば、昨日の話の続きをする約束してたけど、皆ごめん、明日にさせて」


皆が頷く。


「そこに行けば、お主の気持ちを教えてもらえるのか?」

とハーヴィ。


「理由もね、悪いけどスコール、乗せてくれるかい」


「あいよ」


ここで既にハーティが泣きそうになっている「何故、我ではないのか!?」と聞こえてきそうだ。

もう犬か、と。


連れて行ってもらった先は湖の近くの平たい場所。広さも申し分のない。何より、なまくらの剣や鉄の棒がそこらに刺さっているのが実に良い。

「スコール、スロールにも言っておいて、良くやってくれた」

とスコールの頭を撫でる。


「嬉しいけど、お姉さんとしてはこれの使いようには不服なところがあるよ?」


「分かってる、もう二度としないさ」


「・・・トール、なんですか、ここは?」

とヴィトが警戒しながら言う。


「その前に、二人に剣を教えたというスケルトンを呼び出してくれる?この辺にいると思うのだけど」


「・・・何故、そうと?」


「剣の練習なんてうるさいのを僕が知らなかったんだ。音が聞こえなく、広い場所にいると思って。違う場所なら呼んでくれる、その人も渦中の人物だから、仲間外れは良くないよね」


「分かりました」


と途端に彼の傍に一体のスケルトンが出てきた。


いつもなら、すぐに呼べるのかとか、どれくらい呼べるのかとか聞きたいところだが、今はそんな気分になれない。


「彼で良いのかな?テイムしても良い?今日だけでも」

とリッチロードの目を見ながら言う。


「・・・・・・確かに、知識で色々と変わるところがありますね。それは不安になるでしょう。何をする気か分かりませんが、嫌と言っても」


「命令する」


「・・・でしょうね。選択肢なんてないではないですか」


「できれば、命令したくないから」

と苦笑いすると苦笑いが返って来た。


「どうぞ」


「ありがとう」


そして、スケルトンに向き直る。


「今宵一晩だけテイムさせていただけませんか?あなたの力が必要なのです」

と頭を下げる。


スケルトンが頷く。


テイムに応じてくれたようだ。



これで準備が整った。


「トールよ、お主、そやつを呼び、何をする気だ?気持ちを教えてくれるのではなかったか?」


「教えるよ?というか味わってもらう。何をするか?説教とお仕置きだ、この馬鹿どもが」

ブックマークちょうど500件!!!!!!!

皆様、本当にありがとうございます!

やった~~~!なんか大きな目標を一つ達成できた感じです。

いや、書き始めた時にはそんな大きな目標なんてなかったですけど。

ブックマークが増えるだけで嬉しかったですけど、皆さんに支えられていつの間にか目標ができていたんだなぁと改めて実感。


これからもよろしくお願いします!


評価ポイントも上がってました、ありがとうございます!

文章評価が上がると凄い嬉しい、あぁ誤字とか大丈夫だったのか、とか違和感なく読めたんだと(笑


明日 (今日?)は日曜!

もう、もっふもふですね、皆様良い日曜を!

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