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69話 頑張る日々 3「剣舞と渦巻く感情」

その後もしばらく剣で打ち合う音と、足捌きに注目させるかのように砂のじゃりじゃりという音が響く。

紙一重に剣を避けるような足捌きもある。わざとガントレットで受けることもある。

できる限り、死角へ死角へと回り込もうとする動きの女性ことハーティことフェンリルさん。

それを阻むように軸足を回転させながら追いすがる動きの男性ことハーヴィこと龍皇さん。

最後は立ち位置が入れ替わり剣を互いの目の前で交差させて終わる。


観客からは拍手が、子供達の中にはさっそく真似をし始める子も出てくる。


「さて、今のが1回目になります。皆さん動きそのものや、どうしてその動きをしているのか、足はどういう風に動いていたかなど見ていましたか?続いては第2幕、普通より少し強い人間位の速さで行います。解説はもうないですからね、ちゃんと見ていてくださいよ?」

と我等が愛しの骸骨ことヴィトが解説者をちゃんと務めている。

堂に入っているその姿、長年生きて (?)いて何をしていたのだろうか。まこと多芸である。


そして、またも気づけば広場の端と端に立っている二人。

あくまで演者なのだろう、今日は軽口も叩いていないで人形のように動いている。

ただ、表情は拍手などで気を良くしたのだろう、笑顔が浮かんでいた。


「あ、龍皇、もう少し広場の真ん中へ。そう、そこ」


「龍皇ではなく、ハーヴィと呼べ、ここか?」


「えぇ、そこの方が明るくて皆が見やすいでしょう」


「では、準備はよろしいですか?」


「「うむ」」

とハーティとハーヴィの声が重なる。


そして、周りの喧騒もなくなり静寂が、子供達は急いで注目する体勢へと移行する。


「では、第2幕、始め!」


と、言葉と同時に女が正眼に構えたまま飛び出し、剣を真っ直ぐに打ち下ろす。

それに対し男が剣を地面と水平にし、刃の部分ですかさず受ける。

リーンと音がした気がした。

それは剣で打ち合う時に聞こえるには、あまりにも澄んだ音だった。


女は受け止められた次には、既に斜めに切り込む姿勢になっていた。

男もそれに合わせて、斜めに剣を振るい受け止める。

対になるその姿。

リーンと音がする。


その後は先ほどの繰り返し。

けれど、剣がかち合う度に聞こえる澄んだ音。

避けるため、回り込むための綺麗な足捌き。

剣を受け流された際のすべるような身体。

剣をからめとろうとする蛇のようなしなやかな剣捌き。

また、剣を振るう余地を与えないようにあえて至近距離に踏み込むその勇ましさ。

フェイントが入ると分かっていても、釣られて見てしまう堂々とした太刀筋。


気づくと立ち位置が変わっていた。

これで終わりかと思うと、なんと男が攻勢に出た。

真っ直ぐ振り下ろす、斜めに切り込む。

数合打ち合えば皆が分かった。

先の女の太刀筋を今度は男が見せているのだと。


拮抗した剣戟について「踊っているよう」、という表現を目にすることがあった。

まさに彼等はそれだ。

打ち合う際の澄んだ音はダンスの際に奏でられる音楽。

打ち合う剣と回り込もう、追いすがろうとする足捌き。

くるくる、くるくる回るその姿はまさに「踊っているよう」に見える。


そう、気づけば女が攻勢に。

また、気づけば男が攻勢に。


男の3回目の攻勢で、剣を互いの目の前で交差させるように打ち合う。

澄んだ音がして、動きが止まる。


しばらくして、


「以上、第2幕でした。2人に盛大な拍手を!」

とヴィトが言い、皆が目を覚ます。


最初はまばらな、段々と大きな、最後は歓声とともに大きな拍手が、その反響たるや隣の村にまで聞こえようかというものである。



真剣で打ち合うということでどうなることかと正直思った。

ただ、1合目を目で追えた瞬間に彼等がこれで傷つくことはないと安堵した。

僕の目で追えるのだから、彼等の動体視力と反射神経なら、薄皮を切らせてかすり傷をあえて作ることだって可能だろう。

そう思ってからは、魅入った。

そう、「見入る」のではなく「魅入る」だ。

幾度と同じ動きを見せてくれたおかげで、動きがまぶたに焼きついた。

あのように剣を振るえたらと憧れた。

子供達も「魅入っていた」のだろう。周りの大人が拍手するまで動いてなかった。今も歓声をあげているのは大人で、子供はぼんやりとしている。

大人にはただの見世物なのだろう。既に可能性がないから。

だが、子供はあのようになれる可能性があると示されたのだ。

何せ、普通より強い人間程度の速さだという。

ならば、後は技術と膂力と素早さである、いずれも努力すれば得られるものだ。

男の子も女の子も余韻に浸っている。



そして、


「では、本日のメイン、第3幕に移りましょう。」


僕にとっての事件が起きる。



彼等はまた最初の立ち位置に戻る。

そして、深く深呼吸すると今までになく真剣な顔つきになった。

ピリピリとした空気にすぐに広場は静まる。

嫌な感じだ。

とても嫌な感じがする。


その時点で察するべきだった。

その時点で止めるべきだった。

第2幕の時点で、彼らは「打ち合っていた」のだ!

澄んだ音を高らかに響かせて。

そして、ヴィトは最初に何て言っていた?

3回目は本気の速さだと言っていた。

嫌な予感がして、声をあげようとしたがもう遅かった。


「さぁ、本日のメイン、第3幕を始めます。追える限り、目で追ってみてくださいね!では、神話の如きその剣舞、いざ、」


彼らが剣を構える


「始m」


その時には女の姿は最初の位置には既になく、広場の真ん中で男に振り下ろした剣を受け止められていた。

ガーンと雷鳴のような音がする。

そして剣を先ほどまでと同じように振るう。

雷鳴は幾度となく鳴り響く。

あくまで模擬試合、先ほどまでと同様、剣を「打ち合わせて」いる。

その速度と威力が極端になっただけだ。

男が押されていく、その場に立っていられなくなるほどの猛攻。

最初に男が剣を受け止めたところは、足の形に凹んでいる。そして、そのまま後ろへ下がった様子が見られる。

紙一重に剣を足捌きでかわすところなど心臓が止まるかと思った。

いや、たぶん止まっていた。

なにせ、切られているように見えたのだ。

それは残像だったのだろう。

だが、確かに切られているように見えたのだ!

龍皇が!

ハーヴィが!!

幾度となく、彼が切られる様を幻視した。

ガントレットで剣を受け止める時には叫び出しそうになった。


そして、攻勢に出る者は変わる。

そう変わるのだ、先ので終わりではないのだから。

ハーティが受ける側にまわるのだ。

同じように雷鳴のような音が鳴り続ける。

先ほどまで受けてもその場で止まっていた剣は、何cmも沈み込む。

受けた剣が下がり彼女の身を傷つけそうになる。

そして、彼女も紙一重でかわす瞬間がある。

分かっている、残像だと。

それでも心臓が止まりそうだ、いや止まっていただろう。

幾度となく切られる様を幻視する。

フェンリルが!

ハーティが!!


そして、また攻勢に出る者は変わる。

そう都合6度は立場を変えて打ち合っていたのだ。

これを6回も見せられるのか?

僕を慈しみ、愛し、育ててくれた家族が、切られる瞬間を幾度となく?

頭では分かっている。

彼らは傷つかないだろう。練習をしてきた筈だ。

でも心では分からない。分かるはずがない、分かりたくない、分かってたまるか!!!

だが、「頭でっかち」の僕は彼等の意図が分かるから目を離せない、離してはならないと思ってしまう、そして止めるという行動に踏み出せない。

僕の一言は彼等の動きを鈍らせるだろう、そうすればそれこそ事故につながりかねない。


彼等は自分達の凄さを見せて、僕に自分達はこの先何があっても大丈夫と安心させたいのだろう。

そして、頼ってほしいのだろう。

彼等は僕に剣を修めた者の凄さを見せたいのだろう。

彼等は僕に憧れてもらいたいのだろう、そして自発的に剣を修めてもらいたいのだろう。

彼等は僕の動体視力を鍛えるためにやっているのかもしれない。

僕のメリットが幾つも頭に浮かぶ。

感謝するよ、

ありがとう。

そして、


・・・ふざけんなよ


目は離さない、彼等の好意を無駄にしてはならない。

この神話のような剣戟に心が躍らないと言えば嘘になる。

確かに剣を習いたくもなる。

だけど僕の目には、目の前で行われているその剣戟は、


真っ赤な景色の中で行われていた。



そして、剣戟が終わる。


「~~~~」

ヴィトが何かを言っているが、聞こえない。

周りが何故拍手しているか、分かりたくもない。

周りの喝采がうるさい。

頭が痛い、割れそうだ。

吐き気がする。

僕の中を感情が渦巻く。感情に支配される。

それは一つではない。

幾つもの感情だ。


本日の立役者どもの所に足を踏み出そうとして、服を引っ張られる。

思わず感情のまま振り払おうとして、澄んだ瞳が目に映った。


「トール、トール、何があったか分からないけど落ち着いて。そのままだときっと何もうまくいかない」

とタクトが声をかけてくれた。


少しだが、頭が冷えた。

その通りだ。

感情のままに行動しても意味はない。

意味を持たせた行動をするべきだ。


ふ~っと長いため息を吐く。

無理にでも落ち着け。

彼等には後で思い知ってもらおう。

僕のこの想いを。


今はなかなか遊べないタクトを優先すべきだろう。

タクトを連れて、子供達の所へ向かう。

頭では別のことを考えながら。

タクトを皆に紹介して、遊ぶことにした。

遊びは鬼ごっこは暗くて危ないし、隠れんぼをするにももう遅い時間だ。というか、隠れんぼはタクトが不利すぎる。

ということで、「だるまさんが転んだ」をすることにした。


もちろん、僕が考えたゲームということで皆に説明する。

皆初めてやるからハンデも必要ないし、やることは単純だ。

ただ名前は「だるまさん」ではなく、「龍皇さん」にした。

だるまさん、この世界にいないし。

「だるまさん」って何?とか言われたら、答えようがないし。

単純に鬼が文言を唱え終わったら振り向く、振り向いている間に動いた者はアウト。振り向く時間は10秒までなどルールを詰める。皆がアウトになれば鬼の勝ち、鬼のところまで誰かが最初にたどり着けばその子の勝ちというゲームとした。

「最初の一歩」や「アウトになった人達は鬼に誰かがタッチしたら逃げられる」などのルールなし、単純なものにした。そういうものは後から加えれば良い。何はともあれ初めてのゲームは楽しいものだ。

皆もすぐに慣れて、笑いが耐えないものになった。

変な体勢で止まるものだから、10秒の間に倒れて蛙がつぶれたような声を出す子がいたり。

動けないことを良いことに、女の子のスカートをめくる男の子の鬼がいて、ゲームより女の子達による私刑が始まったりとだ。

最初はタクトの扱いに慣れなかった皆もすぐにタクトに馴染んだ。

というのも、タクトの鬼が凄まじかったからだ。

すぐに、文句を途中で早く言ったり、遅く言ったりと緩急をつけたり、変顔で笑わせて動かさせたりと皆をアウトにした。

・・・王子の変顔を見れたのはきっと僕等だけだろう。家族の前でもしたことはないはずだ、意外と負けず嫌いか?


皆が夢中になり始めたところで、皆に別れを告げて輪から抜け出す。

目指すのは皆のお姉さんこと妖狐のスコールとドライアドのスロールの元へ。


「スコール、スロール」


「ん?どうしたい、トール?・・・何かがあったかい」

とスコールの目が真剣になる。

きっと僕の匂いで感情が分かったのだろう。


「あった、が、理不尽なものさ、理不尽に怒っているだけだ。頼みがある」


「なんでしょうか」

とスロールも真剣な顔つきで聞いてくれる。


「彼等が剣術をどう学んだか知っている?」


「?剣術に優れていたという人のスケルトンが師匠のはずだよ」


「じゃあ、リッチロードが呼び出せるね?」


「えぇ、その筈ですが・・・?」


「ならば、リッチロードからマジックアイテムの鞄を借りて、村長の許可を取り、倉庫のいらない武器と分けられている方から鉄の剣や棒を集めてその中に入れてくれ。金が必要なら後払いにしてもらってくれ、担保として僕が龍皇からもらった宝石を出しても良いと。そして、そうだな、湖の近くで良いかな。そこの広く平らなところにそれらをばら撒いてくれ、できれば地面に突き刺しておいてくれると尚良い。ある程度の間隔をもってやってほしい。途中リッチロードにタクトという王子をグレン王の所まで連れて行くよう伝えて。色々で悪いが、限りなく命令に近いお願いと思ってくれ。できる限り早急にお願い。」


「・・・・・・何をする気だい?」

とスコールが珍しくおどける様子もなく真剣な顔で尋ねてくる。


だから僕も真剣に答える。

「お仕置きだよ・・・意味はすぐに分かるよ、誰に対してかも、どういうものかもね、それでお願いは聞き入れてもらえるかな?」


「・・・はぁ、どうせ私等が断っても自分でやるんでしょ。良いよ受けるよ、それで良いね、スロール?」


「不安ですが、はい」


「頼んだ、終わったら家にいるから声をかけてくれ、事と次第によっては両親にも関わるからね」

ようやく更新できた~!

ひゃっふ~!


ブックマークがあと6件で500件に到達します!

記念すべき500件目は誰になるでしょうか!


また、更新してないときでもぽちぽち「勝手にランキング」を押してくれていた方々ありがとうございます!

評価してくれた人の数も増えてました、ありがとうございます!


明日は金曜、気合入れて乗り切りましょう!!

でもお酒の飲みすぎには注意してくださいね!

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