68話 頑張る日々 2「ショータイム」
「さて、お集まりの紳士淑女の皆様方、今宵というには少し早い時間ですが、お集まりいただきありがとうございます、これから皆様が見るのは一生に一度見れるかどうかというもの、特に子供達は前へ。これは君達のための見世物です。いつかダンジョンへ行く子もいるでしょう、いつか王都の学校へ通う子もいるかもしれません、その時のための見世物です。また、狼や熊退治にも使えるものがあります。学んでください。それ以外の子は、まぁ、見て楽しんでください、なかなか剣同士の戦いなど見る機会はありません。王都であっても、大人になってからもですよ」
と子供達が前へと出てくる。
背が高い子は座っているのが偉い。
タクトと僕は最前列にいた。
「自己紹介が遅れました、私はリッチロード、しかし、先日トールにテイムされ、名を頂きました。これからはヴィトとお呼びください」
と慇懃に礼をしてみせる骸骨。
タクトは驚かない。
父がわざわざ紹介させた子だ。
愛し子と気づいていたのだろう。
本当に賢い。
「では、本日の主役を紹介します、2匹とも前へ」
と豪華な武具を装着した男と女が前に出てくる。
その武具の光は篝火よりなお明るく、煌いていると感じるほどだ。
っていうか、あれ家に放置されていた武具。
剣とかベッドの下に放置されていたのを知っている。
しかも、ハイハイの自分にはそれでも危ないからと周りを同質の防具で固めてさらにベッドの下は石を積んでいたのを知っている。
なんでも逸品らしいとは聞いていた。
6才までのトールには「ふ~ん」だったが、今のオタク知識装備の僕には分かる。
あれは・・・
「男の方は龍皇が人に変化した姿、龍皇も先日トールにテイムされており、ハーヴィと名づけられました。女の方はフェンリル殿が人に変化した姿、彼女も先日トールにテイムされており、ハーティと名づけられました。二人が装備しているのは紛れもなく伝説のオリハルコンにて作られた武具であります」
そうだろう、イネガル神様ならそうするだろう。逸品はオリハルコンかヒヒイロカネかダマスカス鋼か。
ミスリル、アダマンタイトも考えられたが、オリハルコンだろうと思った。
なんというか、不思議な凄い金属=オリハルコンなのだ、僕等の中では。
きっとイネガル神様の家の本棚と僕の本棚は割と中身が一致すると思う。
皆から「ほぉ~っ」という感嘆のため息が聞こえる。
名だけしか知らないような伝説の装備をこの目で見れたならそうなるだろう。
その武具の美しさにも感嘆しているのかもしれない。
見事な長剣。
頭には兜、フルアーマーのようなものではなく要所を守る鎧、腕の間接を邪魔しない程度に長いガントレット (手首周りは段々にして動けるようにしているのかはここからだと分からない。)、脛当てなど。
動きやすさを重視しているのが分かる。
どちらも鎧には見事な龍と狼が彫られている。
兜は前が大きく開き、視界を広くしている。
頭上と横からのみを守るのだろう。
彼等ならプレートアーマーのようなものでも重量的には大丈夫なのだろうから、そっちが良いのでは?とは思わないでもない。
・・・あれ?この村にあれを着せられる人なんていたかな?
あの簡略化したのだって怪しい。
骸骨先生かな?
というか、あの二人にフィットする?
まずそこがおかしい、鎧はオーダーメイドが基本だ。
オリハルコンを彫る?武具を作る?誰が、どうやって?
不思議効果が満載されてそうだ。
「あんな鎧があるんだ・・・」
とタクトが呟く。
あれ、人間が戦うには向かないから、たぶん。
この時代、騎馬で戦うんでしょ?
あれ?軽くなるから良いの?
でも、重さ=衝撃でしょ?
どうなの?
というか、彼等のは機動重視だ、あんな鎧はよく動く冒険者くらいじゃないか?
本当に戦うことが決まっているときは鎖帷子みたいなチェインメイルとか着込むのではなかっただろうか?
少なくとも騎馬戦の鎧にはあんな薄い装備は良くないと思いますよ。
あと、君が剣の指導を受ける際にも。危ないから。
「これから二人には模擬戦をしてもらいます」
・・・
・・・
あぁ?
「と言っても、本気ではありません。3回行います、一回目は私の解説ありでゆっくりと一つ一つ丁寧に、二回目は普通の人間の速さで、三回目は彼等の本気の速さで。そうでないと目が追いつきませんし、勉強になりませんから。そして、お互いが怪我しないためでもあります。いや、彼等なら怪我しても平気でしょうが、血に弱い人もいるでしょうからね」
とカラカラ笑う骸骨。
少し沸騰する血。
「?トール?」
とタクトがこちらを驚いた顔で見ている。
「どうした?」
とタクトを見ないで彼等を見つめる、いや、たぶん・・・
「なんか怒っている?」
「・・・半々。彼等は・・・たぶん・・・いや、確実に僕のためにこの見世物をやっている。ありがたい、けど・・・」
「さぁ、では開始しましょう!」
と骸骨が高らかに宣言する。
広場の端と端に男と女が長剣を正眼に構えて立つ。
「お互いが騎馬していない決闘時に、勝つためにはどうすべきか。1つは、相手の予想しない速さで防御のない所を狙う」
気づくと女が男の首筋まであと20cmのところで剣を止めており、男は正眼から相手の剣へと少し剣を逸らしているが、この位置では間に合わないだろう。
皆が呆気に取られている、文字通りの目に見えない速さ、というのを目の当たりにしたのだ。
「といっても普通はこれは厳しいでしょう、特に人間は」
と骸骨が笑い、皆も苦笑する。
と、ヴィトを見て、目線を戻した時には既に男と女の位置が戻っている。
「なので、もう一つが相手の予想していないところへ攻撃する」
女が男の傍に既に立っている。
「例えば、腕を狙うと見せかけて、首筋とかを狙うとかですね。」
言葉に合わせて、女が男の防御されていない鎧とガントレットの間へと剣を振るう、男が合わせるように地面に平行になるように剣を横にする。男が剣を横にしたのを見て、女は剣の軌道を同じく水平へと変えて、首に狙いを変えて男の首筋まであと20cmというところで止める。
「この時の極意は、見せかけの攻撃にも集中して途中まで打ち込むことです。己を騙す位でなければ相手を騙せません。まだ皆さんには言葉の意味も分からないかもしれません。ただ、覚えていてください。そしてそれを目指してください。」
ふと、気づけば、またお互いに正眼に構えたまま、男と女は互いの間合いにいる。
「あとは武器破壊ですが、狙うのは相手の武器の薄い箇所。例えば、今私が持っている剣は薄いため切れ味がありますが、薄いため横からの衝撃に弱いです。このように」
といつの間にか鉄の剣だろう剣を我等が骸骨殿は持っていた、それの平たい方を殴る、と剣はポキリと折れた。
「ということで、剣にも種類がありますが相手の武器を受けるならば基本は刃の部分で受けるようにしましょう」
と剣をぽいっと捨てる。
剣が消えた!
どうも暗いから分からなかっただけで、スライムがいるらしい。
タクトは消えたことに驚いていた。
もしかすると初スライムに驚いていたのかもしれない。
「武器破壊を意図的に狙うのはあまりおすすめはしません。まず、相手の武器の質次第では壊せないこともあるでしょう、今の彼等の武器とか、まぁ、滅多に遭遇しないでしょうが。何より武器がなくても人間には拳があります。それの達人は相手を投げ飛ばすなど相手が武器を持っていても平気でやります」
見ると、女は長剣を地面に刺している。
男が剣をゆっくりと真っ直ぐに振り下ろすと、女はゆっくり男の横に回り込み、彼の手を掴んで一本背負いのように地面に叩きつけた。もちろん彼の武器にかすることもない。
「正直、人間同士だと最後はこのパターンですかね。彼等のような軽装備の者は戦場では少ないです。そうするとお互い重装備、剣のような武器は効かない。刺すことを重視されている物か、鈍器か。しかし、そういうのを持っていない時には、中身にダメージを与えられるようなこういう技にもつれこむことが多いです・・・まぁ、正直、鎧を持ち出して人間同士が戦うことなんて、昔から今までほとんどなかったですが、貴族くらいですかね、そんな武具を持っていて、決闘なんてやれるのは。後は、魔物退治ですか、ゴブリンやオーガなど人型の魔物にはこういう投げ技も効きます。でも、皆さんに覚えていて欲しいのは、武器破壊はするのではなく、されないようにすることです。常に切っ先は相手と、相手の武器に。熊が相手でもそうです、剣の薄いところで防御すると折れたりしますよ」
相変わらず、骸骨ことヴィトの解説を聞いてから、広場の彼等を見ると、互いの間合で正眼に構えている。
いつの間に動いているのか。
でも、安心した。
こんな安全に配慮されたものならば大丈夫だろう。
緊張していた筋肉が弛緩していく。
「では、前提はこれ位にして剣での打ち込みについて」
「まずは真っ直ぐ振り下ろす」
女が剣を分かりやすいように掲げて、ゆっくりと真っ直ぐ振り下ろす。
男は剣を地面と水平にし、刃の部分で受ける。
「次に斜めに切り込む」
女が男の首筋目掛けて、わざと剣を掲げて、ゆっくり斜めに振り下ろす。
男は対になるように剣を斜めに振り下ろし受け止める。
漫画の膠着状態だ。
その後は、水平に切り込む、斜め下から切り込む、足元を狙う、腕を狙う、相手の剣を受け流す、相手の剣を受け流す要領で自分の流れに引き込んでから絡めとって剣を弾き飛ばす、といった基礎からその先までを見せてくれる。
その際に同じ攻撃でもフェイントを入れた場合、足捌きで剣をかわしたり、相手が剣を振るえない位置へ移動してからの攻撃といったものも見せてくれた。
相変わらずヴィトは解説が上手だし、龍皇ことハーヴィ達も見せるためにオーバーに動いてくれるので分かりやすい。また、基礎を見せてから、少しずつフェイントを入れた場合、フェイントありの足捌きで相手の剣の間合いを制圧しつつの切り込みなど段階を踏んでくれるのも分かりやすい。
彼等が僕のためにどれくらい見せ方や教え方を練ってくれたのかがうかがえて、とても嬉しい。
でも、僕はまだ油断していた。
彼等と僕の認識の差を理解していなかった。
この日、初めて、子供らしい理不尽な怒りに身を任せることになる。




