67話 頑張る日々 1「もふもふ天国とタクト王子」
我が家に帰って来た時に、自分の家が岩に覆われているのを見て、やっぱり斬新な鍵のかけ方だと思いました。
「スライムロード、お留守番ごめんね、退屈だったでしょう?」
(なに、気にせずとも良い、人間の家というのもなかなか興味深く、面白かったぞ。そもスライムだしの、何もしないでぼーっとするのはいつものことよ)
と笑っているのかぶるんぶるん震える。
抱きしめる。
「いつも、ありがとう、これからもよろしくね」
(照れるの・・・うん、顔色も良くなったようだ。さっきは幾分青かったからの、良き哉良き哉。何、いつでも頼みがあれば聞こうぞ。これから?我等こそよ、よろしく頼むぞ)
とスライムロードが幾分赤くなった気がする、そこで彼 (?)は帰っていった。
「じゃあ、簡単にご飯を作りますね」
と母さんが言う。
「あ、今日は私達の分はなくて良いから」
と妖狐ことスコールが言う。
「うむ、それよりもとっとと食べて寝るが良い。また、今日の夜にでも話の続きがあるのだろう?」
とフェンリルことハーティが言う。
「あら、じゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらうわね」
と料理しながら母さん。
「うむ、夕方前には起こそうぞ、その位で良いだろう?ヴィト」
と龍皇ことハーヴィが、骸骨ことヴィトに言う。
「えぇ、そうですね、お昼に見せると言いましたとっておきですが、寝不足で見ても意味がありません。そうしましょうか」
と頼れる骸骨ことヴィトが言う。
彼の言う、とっておきとは何だろうか。
気になる、とても気になる。
「じゃあ、一旦私達はこれで、トールさんの話をハーヴィさん達に聞いて追いつかなきゃ。もちろんお話するならさっきのところでしますから、大丈夫です、ご主人様♪」
と茶目っ気多目のドライアドことスロールさん。
ご主人様と言われると、27才とかだった身とすると、こう何かいけないことをさせている気が。
父さんを見ると、微妙な顔つきだ。
てっきり、男の夢的な呼称に反応を見せるかと思えば芳しくない反応だ、
と、はたと気づく。
この世界では、本当にご主人様呼ばわりされている人がたくさんいる。
領主のガイルも館ではそう言われていてもおかしくない。
・・・父と同居しているらしいから、坊ちゃんとか若様かもしれないが。
貴族が普通にいる世界なのだ。
奴隷が普通にいる世界なのだ。
父的には子爵とかどう?と言われた記憶を思い出しているのかもしれない。
それは・・・微妙な顔つきになるか。
どうして、母達という生物はすぐに出せる簡単な料理と言うと、本当にすぐに出せるのだろう。
前世でもあれは魔法と思った。
前世の時の一人暮らしの時の、簡単な料理・・・バナナ?りんご?10秒でチャージしてくれる?うん、素材か飲み物的なアレしかなかったな!
なんだろう、あれだけ大泣きしたのに泣けてくる。
イリス母さんの料理は美味しかったことを付しておく。
・・・と、食べたら途端に目の前がぼやけてきた。あれだけ喚いて、泣いて、話せば、とう、ぜんか。
どうにかベッドに辿りついた後の記憶がない。
かすかに、
「しかし、こうして見ていると本当に何も変わらないね」
と父の声が、
「えぇ、でも頭でっかちになりやすい子ということを忘れてはいけないわ、何かあったらちゃんと私達が支えましょう」
と母の声が、
そして、頭を撫でる優しい感触があった気がする。
頭でっかちか、本当にそうだ、きを、つけな、きゃ、な。
・・・
・・・
・・・
「・・・きよ、起きよ、トール!」
とふみふみ、ふにふにされる。肉球だ。
「?フェン?」
「久しぶりに聞いたの、我はハーティだろう」
「うぅん、そうだったねぇ、一緒に寝るのかい、おいで」
と目の前の小さな愛しい狼を抱きしめる。
「違う!起きよというのだ」
「?ぐぅ」
とどこかからいびきの音が聞こえた気がする。
また、ふみふみ、ふにふにされる。肉球か!
「主様ぁ、起きろぉ、起きろぉ」
「?ふぁ?」
と目の前に小さな愛しい狐がいた、狼を片手で、狐を片手で抱きしめる。
もふもふだ。
もっふもふだ。
もっふもふ天国だ。
良い匂いもする。
天国はここにありけり。
腕の中で暴れているのも愛しい。
「ぐぅ~」
といびきの音がどこかから聞こえる。
「ぐぅ~、ではないわ、寝ぼすけめ」
と声がすると同時に重力を変に感じた。
「うわっ!」
と目を覚ますと、服の後ろの襟を持たれて宙吊りにされていた。
両手には狼と狐が。
とりあえず、ぎゅっと抱きしめる。
「何をしておる、さっさと顔でも洗って来い」
とぽいっと投げ出された。
弾みで狼と狐が両手から投げ出されるが、華麗な着地を見せる。
華麗に着地できないのは僕だ。
ぐえっ。
「調停者よ、龍の長よ、ハーヴィよ、もう少し優しく起こしてくれないかい?」
と後ろの人間の姿をしたハーヴィに声をかける。
「その者どもが起こしておっただろう、それで起きないやつが悪い、主でもな」
その言葉に笑みがこぼれる。
「うん、ハーヴィ。ありがとう、悪いことはこれからも悪いと叱ってくれ」
「?どうした、まだ寝ておるのか?叱られて笑うとは」
「叱ってくれたのが嬉しいだけさ」
と顔を洗いに井戸へ。
(蛇口とか、色んな物がないのに不便を感じつつも、身体が動くのは今までのトールだけだった時の僕のおかげだな)
と朧に思う。
まだ、松田透の意識で考えることがある。
それすらも僕であると今なら言える。
でも、松田透がちらついて離れないのも確かなのだ。
「今は・・・もう、少し暗いな。太陽が大分傾いている」
と村の広場の辺りが騒がしい。
村人達が集まっているらしい。
ガイル様もいるようだ。
・・・ぶっ、グレン王もいる、おまっ、仕事はどうした。
僕と同い年くらいの子供もいる。王の近くにいて、見知らぬ子・・・。
とりあえず、その危ないゾーンから離れる。
触らぬなんとやらにはなんとやらだ。
元の形が残っていないのは気にしない。
「あ、トール君」
とガイル様から声をかけられる。
余計なことを!
どんな挨拶をしてた、僕は!?
とりあえず、彼等が兵もろくに連れていないということは祭りの時のように、フランクに接してもらいたいのだとは分かる。だから跪いたりはしない。
・・・今思うと、王に跪かないことが習慣化している村ってヤバイよね。
村人の意識としてというか、立場というか。諸々。
「こんにちは、グレン王様、ガイル様」
「「ん?」」
「何かございましたか?」
「ふむ、どこか変わったの、お主」
とグレン王がまじまじと見てくる。
「そうですね、前から利発な子供だけではない、子供ながらにただ者ではないと思っておりましたが、ついこの間見たよりも更に、どこか、変わったような」
とガイル。
ヤバイ、この人達の人を見る目は本物だ!
「いえ、自分では特に何も感じませんが?」
「いや、どこか落ち着いたような、肝が据わったような・・・」
とグレン王。
「けれど、落ち着いてないような・・・」
と首を傾げるガイル。
やめて、それ以上、暴かないで!ボロがでる。
「s」
とグレン王が口を開く前に尋ねる。
口を開いた後に遮れば無礼だが、そもそも音を発する前にならば会話が始まっている今ならば大丈夫だろう。
「そういえば、この集まりは何だか分かりますか?今さっき起きたばかりで、昨日は家族会議が長引いてしまい」
と笑ってみせる。
「おや?君のところの骸骨殿から招待を受けたんだよ、僕等も。何でも一生に一度位しか見れない貴重な物を見せるとか、聞いてないのかい?」
「えぇ、とっておきを見せてくれるとは言っていましたが、皆にとは。他の王様や大臣様方もおいでになられているのですか?」
「大臣は来ておるよ、その辺にまぎれておろう。お主のところでは何が見られるか分からんからな、何かの問題の打開策になることもあるかもしれんしの」
「他の王様はナムダ王はいらしてましたね、ただ、ジョルジュ王達は・・・あ、いました。今日は魔物がいないから上機嫌に酒を飲んでいますね、ザイガ様も」
「父さん」
と近くにいた子がグレン王の服を引っ張る。
「おぉ、悪いな、タクト、紹介がまだじゃった。トールよ、我が息子、タクト・オーガスタよ。この村には初めて連れて来たことになるの、やっぱりある程度成長するまでは外に連れ出すのは怖くての」
やっぱり、王子様だったぁ!!
そして、育児に関することはどうか他の人へ。
いや、分かるけど。日本でも7才・5才・3才が節目だったし。
「ご紹介に与りました、トールと申します。恐れながら、タクト様、タクト様はこの村ではどのようにお過ごしになりたいなど、何かございますか?」
「え?」
とタクト。
うん、分かってるよ、君に向かって言ってるけど対象は違う人だから。
だって、自己紹介した次の瞬間に、別の人に話しかけるって何か駄目じゃない?!
どうなの!?
「あぁ、普通の村の子の様に接してくれ、それがタクトにとっては一番の宝になろう。お主は幸いだの、タクト。友達をたくさん作るが良い」
とグレン王。
「え、でも父さん。友達はよく考えて作りなさいって言ってましたよね?先生にも言われましたよ?」
「うむ、王宮から出るのも禁止しておるし、出る時は付き人がたくさんおる。王都では友達などできようはずもない。よって、お主は本来、学校におる大半の貴族か一部の例外の平民、貴族の社交界でしか友は作れん。が、そこは獣の巣と同じでな、お主と友になりたいと心から思う者より、お主を友ということにして言うことを聞かせようとしたり、利用したりしようとする者がいる。よって、我等はそう言ってきた。しかし、この村では別よ。そも父さんなど呼ばせたことはなかったろう?」
「はい、ちゃんとグレン王と呼べと普段は」
「しかし、ここでは父さんと呼んで良いと言ったな」
「はい」
「ここの村はな、ある意味我等の息抜きの場になっておるのだよ、ここでは皆が王に跪かん、そんなことされると王宮にいるのと変わらんでな、止めさせた。村長位に扱ってくれと頼んでおる」
「そん、な、父さんを村長・・・」
と驚愕のあまり目を見開くタクト。
「タクトよ、そもそも王様扱いをさせることなどできないのだよ、何故か分かるか?」
「え・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・学校に行ってないんですね!貴族ではないから!そしてこの者達は、本来は王様に会う機会がないからですね!だからどうすれば王に対して相応しい行動になるかが分からない!」
お、この子、凄いな、7才だろ。
確か半年差のはず。
松田透が7才の時なんて、猿同然だったのに。
この差は何か?
やはり周りの環境の差か?
本人の差とは思いたくない。
・・・あ、昔に「祝福と加護」を授けたって龍皇ことハーヴィが教えてくれたことがあったな。
そうだよね!とその差だよね!と自分を慰める。
そうだよ、一般家庭では王様に会わないんだよ。
「ということでな、タクト。そんな堅苦しい言葉などしなくてもこの村では良い。何か子供らしいことをしたいというのなら、するが良い。怪我だけには気をつければ文句は言わん。妻もそうしておるし、他の大臣も他の国の王もそうしておる」
「そういえば、母さんは」
とタクトが見渡すと、ナルガ王妃はおばさん達と話していた。
「あまり、勉強詰めというのも見ていてかわいそうで、王子だからと分かるんですが」
「そうですねぇ、やっぱり子供は身体を動かさないと元気に育ちませんよ」
「そうですよねぇ、剣術とかはさせているのですが・・・」
「楽しそうですか?」
「いえ、訓練ですので、やっぱり、真剣に取り組んではいますが・・・」
「やっぱり子供の内は楽しく元気に遊ばせるのが一番だと思いますねぇ」
と子育て会議をしていた。
あなた相談役他にもいるでしょう、貴族でとか。
あぁ、でも貴族の他の子もそういう生活なのかな?
「ということでな、トールよ、タクトを他の子と同じように接してくれ、言葉遣いも気にせんで良い」
とグレン王。
「かしこまりました、では失礼して。タクト、おいで、何かを見せてくれるみたいだから前の方へ行こう」
「・・・・」
こんな言葉遣いをされたことはないんだろうなぁ。
何か異形の物を見た顔をしている。
しかし、そんな顔でも美形は得だな。
「タ~ク~ト~!」
「は、はい!」
「はい?違う違う、友達なんだから、うんとかで良いよ」
「友・・・達?」
「村の子供=友達だからね、喧嘩もするけど。」
「はい、はい!」
と笑顔のタクト。
「はい?」
「あっ、えっと、うん」
「そうそう、そんな感じ」
「はい!・・・慣れるまで待ってくれると嬉しいです」
笑ってしまった。
「まぁ、無理にしろとは言わないけどね、楽にしなよ。では王様、ガイル様、私達は前の方に向かいますので、これで失礼させていただきます」
「父さん、行ってきます」
と笑顔でタクトが手を振る。
「うむ、転ばぬようにの」
とグレン王も笑顔で答える。
・・・
・・・
「タクトを連れて来れて良かったわい、もう既に楽しそうじゃ」
「えぇ、微笑ましくなりますね」
とガイル。
「しかし、やはりトールは変わったの、もう少し大人しい性質な気がしたが、タクトを上手に扱っておったわ、タクトを他の子と扱えと昨年言っておっても、敬語で接するかと思ったが。こちらが願った通りの行動と言動をしおった」
「やはり「祝福と加護」の力ですかね、とてつもない数を受けたそうですから。成長も早いのでは?伸び盛りの時を迎えたのかもしれませんし、もしかしたら背伸びをしてたのかもしれません。あの年は大人振りたい年でもありますから」
とガイルが苦笑する。
「どうかの、お主の背伸びの姿が微笑ましかったのは覚えておるがの。お、始まるようじゃな」
と広場に現れた骸骨を見て言う。
村では篝火が周りを明るくしている。
さぁ、何を見せてくれるのだろう?
作者の悲鳴
活動報告では身体が動かないと書きましたが、動きました。
だってこれ、土曜の朝9時には書き終わっていた話なんですよ。
なんで!投稿!されて!ないの!!
以前にもあったけど、たまにある試練なの!?
そしてタクト君!
君のおかげで話が1話におさまらなかったからね!
ネタ段階ではいなかったからね!
王様達も!
骸骨、勝手に人を呼ばないで、文字数増えちゃう、話進まなくなっちゃう
これじゃ、土日何も活動してない人じゃん!?
1話は書いていたの、本当に!
バックアップ機能殿に敬礼!
これをつけたこのサイトの人、神かよ(崇拝




