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62話 そして始まる日々1「Who are you?」

「う~ん」とうなされている人がいる。

「う~ん」大変だ、誰か呼ばなきゃ。

「う~ん」あ、これ自分の声だ。


「うぅ?」と目を開けると、太陽の光が眩しい。

もうお昼位だろうか。

寝過ぎてしまった!

がばっと身を起こすと、


狼と目が合った。

ので、思わず抱きしめた。

「もふもふっ」 (おはよう)

狼が乗っていればうなされもするか。


「トール!目を覚ましたのか!?熱は大丈夫か?身体は?」

と狼が言う。


違和感が頭にズキリとくる。目の前にノイズが走る。

「大丈夫だよ、そうか熱だったんだ、もう平熱だと思う」

と笑顔で答える。


「あらあら、大丈夫?」

とお母さんが走り寄り、手で体温を測る。

「うん、平熱ね、1週間も、もう心配したんだから」

と抱きしめられる。


違和感が頭にズキリとくる。目の前にノイズが走る。

「ごめんね、心配させて。もう大丈夫だから」


「もう昼食の時間よ、お父さん達も帰ってくるから安心させてあげてね」


違和感が頭にズキリとくる。目の前にノイズが走る。

「うん、分かった」


狼がこちらを見ている。

ので、とりあえずまた抱きしめておいた。

「色々とどうした!?トールよ」

もう一度顔を見合わせてから、抱きしめておいた。

「トール?力がいつもより、トール!??」


「あらあら、昔みたいに甘えん坊になって・・・いや、あまり変わってないかしら?」

とお母さんが笑っている。


違和感が頭にズキリとくる。目の前にノイズが走る。


「「「ただいま」」」

「ほら、こんな風に、ただいま!」

「た、ただいま帰りました」


「お帰りなさい」

オレが言うと、皆が近寄ってきた。


「熱は!?」

と小さい龍が言う。


「もう大丈夫!?」

とお父さんが言う。


「だるさは?」

と狐が言う。


「もう平気なのですか?」

とお姉さんが言う。


「心配しましたよ」

と骸骨が言う。


「うん、もう大丈夫、皆、心配かけてごめんね」

と笑顔で返す。

酷い違和感で頭がズキズキとしている。目の前のノイズがうるさい。吐きそうだ。


「トールよ、嘘をついておるな」

と狼が言う。


「あぁ、熱はね、もう大丈夫だよ、ただ、頭が時折ズキズキするんだ。」

と苦笑いで答える。


「あぁ、たまにありますよね、寝すぎるとそういうの」

と骸骨が言う。


「うん?あるのか?今でも?」

と龍が言う。


「失礼、ありました。これで文句はないでしょう。そもそも!ぐ~たらな龍の長ならば寝すぎて、頭が痛くなるなどしょっちゅうなのでは!?」


「ふん、我を、龍皇を舐めるでないわ!数十年寝ていても、寝起きは快適よ!」


「龍皇よ、嘘の臭いがするぞ」


「・・・寝起きは悪いな。でも、だるさや痛みはないぞ!そういう意味で言ったのだ」


「なんだ、適当に言ったのに、本当に嘘だったのか」


「いや、嘘ではないぞ、言葉が足らなかっただけよ!」


と骸骨と龍と狼の掛け合いに皆が笑う。

思わずオレも笑う。


「では、昼食にしましょうか」

とお母さんが言う。


狐が変身して、可愛いお姉さんになった。

「ほら、皆で運ぶよ、トールは良いからね、お父さんはトールを支えながらこっち来て」


「「「「「は~い」」」」」


違和感がまだ頭にズキリとくる。目の前にノイズが走る。


龍も狼も人間に変身した。

驚くべきことのような、驚かない普通のことのような。

違和感がまだ頭にズキリとくる。目の前にノイズが走る。


皆で食事の挨拶をする。

普通のことのはずなのに違和感がする。


「トールはまだシチューだけよ?ろくにご飯を食べれてなかったんだから」

とお母さんがよそってくれた。


そのシチューの味にも違和感がする。

不味いような、でも普通に美味しいような。

ソースの問題か?


「それでトールよ」

と狼が変身した美しいお姉さんがこちらを見つめながら言う。

狼だったのに、食器の扱いに慣れているなぁ。

別のオレが考える。

・・・別の、自分?


「神がそなたに返したものとは何だったのだ?」


何が違和感の原因だったのか、目の前のノイズの正体が分かった。

あまりにも突然にスムーズに違和感もノイズも消えたものだから、

「ごふっ!?」

と盛大にむせた。

漫画であるくらいに盛大に飛び散った。

皆ごめんなさい。


「ごほごほっ、げほっ、ごふっ、ごほっごほっ」

と咳が止まらない、喉がひゅーひゅー言い出した。


「あらあら、変なところにでも入っちゃったかな?」

と優しく妖狐が顔を拭いてくれる。


龍皇があわてて、コップを持って出て行った。

キャーキャー女の子の声がする。

イケメンだし、仕方がない。

戻ってきた、早っ!?


「トール、これを飲め、無理にでもだ」

と無理やり流し込まれる。

それ余計にむせるやつ!っと思っていたら楽になった。

そうか、樽の血を混ぜたのか。

あれって毎年変えているのかな?消費期限は大丈夫だっただろうか。


「ありがとう、龍皇」

と息も絶え絶えにお礼を言う。


「す、すまなかった。まさかそんなになるとは」

とあわあわしていたフェンリル。


「いや、関係ないわけじゃないけど、タイミングの問題だったから。気にしないで、皆もごめんね」

とフェンリルと皆に声をかける。


「良いですよ、気にしないで。血を飲んだので大丈夫でしょうが、喋る前に息を整えて、そして、とりあえず冷める前に食べちゃいましょうか」

とリッチロードが他のところを拭きながら言ってくれた。


それからは腫れ物を扱うように、僕が食べ終わるまで皆が食べながら静かに待っていてくれた。


「ご馳走様でした」

と僕が言うと、皆がほっとした表情になる。

過保護過ぎるだろうと思うが、嬉しい自分がいる。


「あぁ、トール、お風呂に入りましょうか、その方がさっぱりするでしょう」


「うん、ありがとう」


と家を出ると、まるで収容所のような石造りの大きな箱がある。

これが我が家のお風呂だ。

お風呂屋さんに行くのが面倒だということで、何年か前にリッチロードが作ってくれた。

龍皇が石を集めて、リッチロードが魔法で固めた、簡単な造りだ。

湯船の水も温度もリッチロードの魔法による。

彼がいないと入れない風呂である。

・・・絶対に頼り過ぎている。


「ごめんね、いつも、ありがとうね」


「ん?今更ですよ、この位すぐにトールもできるようになります。周りの子もできるようになるかもしれませんね、いやできますか、この村の子は。あれだけ「祝福と加護」があれば」

とリッチロードが笑う。


・・・

・・・


お風呂から出ると、皆が各々くつろいでいた。


龍皇が髪を乾かしてくれる。

大分人の身体に慣れたらしい。


「ちょっと、森の中で涼んでくるね」

と覚悟を決めて言ったら、


予想通りに大反対をくらったが、

「森の方がお風呂から出た身体にはちょうど良いから」

と押し通す。


フェンリルが当然のように着いて来そうになったので、

「ごめん、ちょっと一人でふわふわ散歩したいんだ」

というと涙目になっていた。

とりあえず抱きしめる。

もう、もっふもふする。

もっふもふ、もっふもふ、もっふもふ、もふもふ。

妖狐にも手招き、向こうも察したのか元の姿にもどる。

もっふもふ、もっふもふ、もっふもふ、もふもふ。

もっふもふ、もっふもふ、もっふもふ、もふもふ。


ふぅ、散歩いかなくても良いかな!

っと思うが、やはり考えなくてはならない。


「まぁ、ずっと家にいたんですし、森にはスライムさんもいますし」

とドライアドから援護射撃をもらって家を出て、森を目指す。


道中、

「トール~、鬼ごっこしようぜ~」

と色んな子達から声をかけられたが、

「ごめん。病み上がりだから、今日はやめとく~」

と返す。

お前等、僕が昨日まで高熱だったの知ってるよね!?

でも、それが子供の体力か。

僕も思わず「うん!」と走り出しそうになったし。

「うん!」じゃねぇ。


森はすぐ傍にある。

道を渡ればすぐなのだからすぐ傍である。

しかし、道中が存在するのは、道のすぐ傍の木を根こそぎ伐採したかららしい。

産まれた時に村の家を建てるためにオーガロードやゴブリンロードがしてくれたらしい。

産まれた時だからよく分からないが、数年前から会っている彼等はなんていうか武士道の心があるような気がする。

・・・武士道を読んだことはないけど。

よって、少し広い広場になっていた。

そういえば道で遊ぶのは良くないか?しかし、滅多に急いでる馬もいないしなぁ、いても遠くで見えるし、音も聞こえる。大丈夫か?

いや、やっぱり止めさせよう、今度さり気なく鬼ごっこよりも村でできるものを提案しよう。


・・・

・・・


少し森の奥に入り、

「スライムロード~」

と大きめに声を出す。


待つことしばし、向こうからドスンドスンと音がする。


(呼んだか、愛し子)


「うん、ちょっと人に言えない考え事があってね、僕の周りをスライムで囲ってほしいんだ。僕の声が聞こえないくらいに」


(うむ、承った。帰る時は途中の眷属に声をかければ良いでな、しかし高熱とやらからは治ったのか?)


「うん、皆に心配をかけてしまったね、会う魔物がいれば伝えておいて」


(うむ、良きことよ、皆に伝えようぞ、ではしばしゆっくりするが良い。夜までには帰られよ、また熱?とやらになるといかん。夜は体力が戻るまでは寝るのに費やすが良い)

というとドスン、ぶるん、ドスン、ぶるんと帰っていった。


・・・

・・・


「あぁ、僕はトールだ」

「僕はトール」

「僕はトール」

「僕はトール」

「僕はトール」

「僕はトール」

「僕はトール」

「僕はトール」

「僕はトール」

「僕はトール」

「僕はトール」


「本当に自分はトールと言って良いのだろうか?」

と呟いてから、ガンと頭を木に叩きつける。

凄ぇ、痛くない。

思えば、痛さを感じたことはあまりない。

「祝福と加護」のおかげか。

ならば、やはり自分はトールなのだろう。


しかし、記憶が頭に渦巻く。

必死で吐き気を堪える。

フェンリルが昔教えてくれたことだ。

嫌われるかもしれないのに、あんなに真剣に怒ってくれたことだ。

守らねばならない。

ならば、やはり自分はトールなのだろう。


小学生時代を、

中学生時代を、

高校生時代を、

学生時代のことが頭に浮かぶ。

アーノルド父さん、イリス母さんではない両親を思い出す。

働いていたことも思い出す。

何で働いていたかは思い出せない。

幼稚園は・・・思い出せない。


記憶が人を人たらしめるのであれば、少なくてもこの身の3/4は松田透である。

では松田透だろうか?


僕はオレを愛してくれている人達を騙しているのではないだろうか。

少なくとも昼には騙してしまったと思う。

いや、オレには騙した罪悪感がある。

ならば、思うのではない、騙したのだ。


彼等は「トール」を愛しているのだ。「松田透」ではない。

怖かった、彼等を愛した「トール」を殺してしまったのではないか。

怖かった、彼等が愛した「トール」を殺してしまったのではないか。

自分は「松田透」ではないのか。

猛烈に、怖かった。

少なくとも寝起きは「トール」より「松田透」寄りだったのだろう。

だからこその違和感だったのだ、ノイズだったのだ。

怖い、彼等を傷つけることが。

怖い、自分が誰か分からない。

怖い、怖い、怖い!


「こんなことなら!いっそ、記憶なんて!」と口走ってから、

思い切り自分で自分を殴る。

今度は痛かった。

言ってはいけない、それだけは言ってはいけない。

自分が望み、神はあくまでも善意で叶えてくれたのだ。

あんなに図々しいことを。


「僕はトール」

「僕はトール」

「僕はトール」

「僕はトール」

「僕はトール」


オレは誰だ?」

誤字脱字報告、本当にありがとうございます~!

もうね、本当いつも皆様ありがとうね!!


この下をポチっと押すとポイントになる、「勝手になろうランキング」で60位以内に入ったり、

なろうの異世界のランキングで「日間ランキング」に入るようになってきたり、

本当に読者の皆様に支えられての『もっふもふ』です!

いつもありがとうございます!


おかげさまで、主人公がようやく主人公してるよ、やったね(白目


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