58話 もっふもふとしたもふもふな日々 21「思念と言葉」
アーノルドがようやくイリスに髪飾りを買えた時には既に月が高く昇ってきていた。
トールの誕生日プレゼントはある意味祭りそのものだが、ちゃんとでんでん太鼓を買った。
その頃、イリスはアーノルドに靴を買っていた。
仲が良い夫婦である。
トールの行脚が終わった時にはトールはもうウトウトとしていたので、フェンリルに前回と同じように寝かしつけとお守りを頼み、デートすることにした。
もちろんフェンリルは断るどころか「仕方ない」と言いながらも尻尾をぶんぶんさせている。
独り占めできるのが嬉しいわんちゃんである。
村人も結構な数が家に帰り始めているかと思いきや、
前回と同じように地面で寝ている者も、
まだまだ酒を飲んでいる者も肉を食べている者も多い。
野菜も箸休めに良いらしく消費が激しい。
この日を逃すと酒を飲めんとばかりに飲む。
ガイルがリッチロードが買った酒に頼ることなく、自分からも出していたおかげで酒が尽きることはまだしばらくなさそうだ。
屋台ではそろそろ売る物が無くなってしまって店じまいをする所が増えてきている。
ちなみに一番最初に売切れてしまったのは、タレが自慢の肉屋だった。
龍がちゃんと皆に言ってくれたおかげで魔物の長の列ができたのだ。
最初に来た長が「この銀貨で買えるだけ」と言い出したところから、「一人10本まで」にしたうえ、肉が足りなくなったので広場の肉を分けてもらったりもした。
過去最大の1日売り上げだろうが、疲労も過去最大だったことだろう。
最後にはタレが無くなるという始末。
自分の店のを分けて持ってきていなければ、またタレを作り終えるまでは元の店が開けなかったことだろう。
同じように飲食関係のところは早い段階で店じまいになってしまっている。
魔物の長としては靴だなんだよりも珍しい食べ物が優先されるに決まっている。
そのところを考えて飲食関係の屋台を選んだ者は正しい。
正しいが、疲労は肉屋と同じようなものだろう。
祭りに参加して、肉を食べて食べて、酒を飲んだら顔から机にダイブする位に疲れていた。
そういう意味では、残りの屋台は飲食関係ではない、雑貨が多い。
魔物の長が多くなかなか見に行けなかった村人達がようやく見に行っている頃だった。
ただ、売れるスピードが早い。
珍しい物に飢えているのは魔物の長だけではない。
そういう意味では、アーノルド達が買えたのはやはり運が良かったのだろう。
値段が少し高めのものだったのも理由の一つとしてあるかもしれないが。
そして今回の祭りで一番はしゃいでいたのはなんとナムダ王だった。
「なんと!そんなに厄介とな、スライムは!??」
とナムダ王が驚いていた。
さっきの話を聞きかじったので、他の魔物に確認したのだろう。
「うむ、火を吐けたり、魔法を使える者には弱者だろうが、それを持たぬ者にはまこと強者よ、というか厄介だの」
とエイプの長が答えていた。
「我等にとって幸いなのは木の上に来ないことよ」
とナムダ王が注いだ酒を飲んでいた。
「そういえば、エイプの長にとっては失礼な質問かもしれませぬが」
「良い良い、何でも聞くが良い」
「エイプと猿の違いはなんでしょうか、また狼と魔狼の違いも」
と目を輝かせて尋ねるナムダ王。
「ふぅむ、我等も実は分からないというのが答えかのぅ。猿と人間の違いはなんだ?」
「おぉ、そう言われると難しいですな。群れをなす?いや猿も群れをなす。道具を使う?いや猿も使おう、二足で歩くのを常とする?ゴリラは二束で歩くの、手も使っているが。なるほど、わしも難しい質問をしたものじゃ」
とナムダ王が笑いながら手酌で飲む。
「まぁ、多分我等にとっては魔力を含むようになったかどうか、というところが分岐だろうと思っておるよ、魔狼もそうだろう」
「なるほど!魔力を含むから知性が高く戦い方もエイプの方が嫌らしく、体躯もエイプの方が大きいのですかな!?」
と顔を近づける。
「うむ、たぶんの、ほれ肉が焼けたぞ」
とエイプから肉を受け取るナムダ王。
「しかし、そんなことに興味を持つとは不思議な人間だ、お主も群れを率いているのだろう。その辺の話かと思えば、先ほどから我等のことばかりよの」
「かたじけない、いやぁ実は子供の頃の夢が冒険者、ちょっと大きくなったら魔物学者になるのが夢でしてな。ただ、人間の社会では弱肉強食ではないからの、王の子が王になると決まっておるんですじゃ。だから夢は夢のままだったのだが、今日は人間の言葉を話せる魔物の長が集うという!子供の頃の夢が叶っておるようじゃ!!」
と肉を頬張ると、一刻も惜しいとばかりにスライムロードに話しかける。
「スライムロード殿、恥ずかしながらスライムがそこまで凄い魔物とは知らなんだ!恐ろしいのじゃなぁ、見た目はこんなにかわいらしいというのに!!」
とばしばし叩く。ぶるんぶるん揺れる。
(まぁ、人間に手を出さない故にの、人間がそう思うのも仕方なかろうよ。しかし見目で褒められたのは初めてかもしれんなぁ)
と若干赤くなる半透明生物。
「なんと!まぁ、弱肉強食が当たり前の時代じゃったしの、そういう雑談をできることがあまりなかっただけだろう、人間世界ではその見目で子供らに人気じゃよ、あと動かないところがまったりとしていると老人からもな!」
と何がおかしいのか笑いながら酒を呷り、スライムロードにも直接傾ける
(そ、そうか、面白いものよな。狩る狩られるの関係から外れるとお主等はそういう見方をするのか、見目のぅ、あまり魔物では気にせんなぁ)
「確かに自分の種族の雌については気にするがの」
「あぁ、他種族は他種族だからなぁ」
とエイプの長とホーンラビットの長から返事がある。
「おぉ、貴殿はホーンラビットの長か、飲むか?」
と目をキラキラさせたナムダ王。
「ありがたい」
と口を開けるホーンラビットの長の口めがけて酒を傾ける。
「うむ、やはりこの水は美味いな」
とホーンラビットの長が笑う。
「そうそう、それじゃ、気になっていたんじゃがな!!」
とはしゃぐナムダ王。
「お主はなんでも気にしておるの」
とエイプの長が笑う。
「スライム殿の思念伝達は貴殿達でもできるのか!??」
「「うむ、できる」」
「人間でもできるかの!!」
「「知らん」」
「そうかぁ」
と明らかにしょんぼりするナムダ王に後ろから声がする。
「できるぞ、ただし条件がつくがな」
と長身で体躯の良い長髪の男が言う。髪には黒や赤や金が混じっていて、後ろで束ねられている。
目に宿る意思の強さはとても隠せるものではない。
「なに!?まことか!!」
と迫ってきたナムダ王のコップに酒を注ぎ、他の長にも注いでやる。
「ん?この匂いは調停者殿か??」
とホーンラビットが鼻をくんくんさせる。
「おう、小さくなる要領でな、変化を学んだのよ。それでナムダ王だったの、できる人間がおるというのが正しいか、テイマーよ。熟達してなければできなかろうが、逆にテイマーで長く真摯に魔物に向き合ってきたものなら身に着けよう。テイマー独自の技術の一つとしてな」
「なんと!!??なぜ、なぜわしは王なんかに!!」
と涙ながらに酒を飲み干し机に叩きつける。
「なんかと言うな、お主も、大切な役目だろうが」
と龍皇も苦笑い。
「しかし、しかし、わしも魔物の皆と意思疎通をしたい!」
と泣き出す王様。
「お主なぁ、できる者に翻訳させれば良かろう、長なのだから。できる者にさせんか、向き不向きで役目を与えんか。・・・この場合はお主の自己満足じゃから、微妙なところだが」
と諭す龍皇。
「そうか、そうか!その手があったな!うむ流石は龍皇殿!!知恵者じゃな」
と途端に笑顔になる。
「エイプの長よ、少し飲ませ過ぎではないか?」
と龍皇がナムダ王を無視してエイプの長に語りかける。
「そう思うよの普通は、しかし、それが飲む前からテンションが変わらんのよ。わしが他のところに行って戻ってきても変わらずよ。流石に泣き出したのは今のが初めてじゃが」
と呆れるエイプの長。
「うぅむ、なら構わんか?」
と困惑する龍皇。
「そうじゃ、言葉といえば貴殿達はどうやって言葉を学んだのじゃ?」
「長年生きておれば大体は覚える、後はリッチロードが細かいところを教えてくれたの。ちなみに思念伝達は我等が皆の始祖に伝えたものよ。人間はそれよりも言葉に重きを置いたのだろう。文字を持つのはお主等位じゃからの」
と龍皇。
(思念伝達は思いを伝え、受け取るものだから、特に何も)
とスライムロード。
「以前助けた赤ん坊をしばらく育てた後、人間世界に帰したのじゃが、また何故か我等のところに来てな。里帰りとかぬかしよって。そこで学んだ。そやつは意思伝達が使えるようになっていたから楽じゃったな」
とエイプの長。
「エイプの長と同じよ、口の構造が違うと言っても無理やりやらされた。結局できたのだから向こうが正解なのだろうが、痛かった」
と苦い顔のホーンラビットの長。
「ふんふん!子供を助けたのは何故!?」
と頷きまくり、尋ねるナムダ王。
「喰うところも少ないし、捨てられたにせよ、はぐれたにせよ、赤ん坊を喰らうのも、微妙に躊躇いがある。」
とエイプの長が言う。
「他種族が他種族の赤ん坊を育てる例は以外とあるぞ、魔力を持たぬ狼ですら人間の子を育てることがある。まぁ赤ん坊の武器はその可愛さだからの」
と龍皇。
「ふんふん!ありがたい、参考になった!他の魔物の長にも聞いてこよう!ではここはいったんこれにて!」
と真っ直ぐ早足で歩きだすナムダ王。
「「「台風か」」」
と呆れる各長。
スライムロードはかわいいと言われ、ナムダ王に対する好感度が10上がった!!
ちなみに聞き出した感じでは
「母が人間だったから」
「なんとなく助けた冒険者に教えさせた、思念伝達がないから最初は大変だった、ん?冒険者のその後?帰してやったよ、礼にの」
「赤ん坊を育てたら(以下略」
「冒険者に教えさせ(以下略」
「長年生きていれば(以下略」
「変化するのに必要だったから始祖が覚えた、それからは村で宿屋をやったりして今風の話言葉を覚えている」
と分かれた。
「ふむふむ、言葉使いがよく変わるのはしっかりとした教育があったわけではないからかの、しかし、思ったより赤ん坊を助けたパターンが多いの。龍皇殿の言うように赤ん坊の武器故かの。そうじゃ、群れの他の者は話せるのかを聞いておらん!こうしてはおられん!」
と朝まで質問をし続けるナムダ王。
ちなみに結論としては、
話せるようになるほどの知性があるものが群れの長になる条件の一つ。あるいは群れの長になるとそういう知性が芽生えるというものだった。
どの魔物よりも最後まで元気だったナムダ王。
流石王様というべきか、徹夜は慣れたものである。
グレン王もジョルジュ王もザイガ王ですら、最終的には酔いの程度さえあれ酔って公爵邸に戻っている。
しかし、彼は朝まで考えたり質問したりと元気であった。
ただ、魔物達も色々聞いていたのでお相子だろう。
主に人間の子が喜ぶものとかであったが。
トールとフェンリルは今日はイリス達のベッドを大きく使って寝ていた。
そろそろベビーベッドが狭いらしい。
明日のアーノルド家会議にかけられるのだろう。
ちなみに帰って来たアーノルド達は抱き合うようにして寝ている1人と1匹を見て笑っていた。
今日は自分達が寝るところはこの家にはないらしい。
宿屋は空いているだろうか。
活動報告にも書きましたが
勝手になろう小説ランキングをさっき見たら98位になってました!
122(わんにゃんにゃん も111(わんわんわん もすっ飛ばしですよ!?
(5/2の1:35に見たら111位をゲットしてました!これも凄ぇ)
皆様の応援の御力、マジパネェと興奮しきりのうなぎうなぎです、
後書き下のランキングをポチっと押してくれて本当にありがとうございました!
次に狙うは、、、22位?(にゃんにゃん?
、、、、、、ハードル激高っ?!!
皆様のおかげでもふもふ力も一段と高まりました!
いつかまた皆様に取らせていただけるように、
作品もより面白くなるよう頑張ります
(キャラが勝手に動いちゃうから、キャラがその方向で動くのを祈るだけですが、、
また、ブックマークも評価も増えてました!
ありがとうございます!!
皆大好き!もっふぅ~!
皆様にとって良いGWでありますように!




