57話 もっふもふとしたもふもふな日々 20「主役と登場」
「しかし、あれですね、油が苦手だとあんなにはっきり言って良かったんですか?これからはゴブリンもオーガも持ち始めるかもしれませんよ?」
とリッチロードが酒瓶の中身をスライムロードに傾けながら言う。
(うむ、かたじけない。瓶も栄養になるが味はやはり液体だけの方が美味いからの。その瓶は残りをお主が飲んでからくれ。そして燃える水の件か?構わんよ。別にゴブリンやオーガを喰わねばならぬ理由もなし。木でも水でも栄養になるからの。・・・多少食事に味気がなくなるかもしれんが。まぁ、ダンジョンとやらに行けば良かろう)
「あぁ、ダンジョンがありましたね。まだ入ってないんですか?」
(イネガル神が我等のために造ってくれたことには感謝しておるが、我等スライムにはあまり必要性がなくての、まだよ。皆まったりとしておるわ)
「平和ですね」
とリッチロードが笑う。
「あのぅ」
と青年が声をかけてきた。
「?どうしました?」
とリッチロードが答えると、
「さっきのスライムに喰われた人がいないって話は本当ですか?」
とスライムロードに言う。
話を聞いていて怖くなったのだろう。
(うむ、何十年か前か、もっと前からか。人間は襲っておらぬ。というか口に入ってきたら吐き出しておる。その頃から燃える水を携帯し出す者が増えてな。人間には懲りたというのが正直なところよ。何でも栄養にできる我等だが味覚がある故な、どうもあの燃える水は嫌いでな。たぶん本能から来る警告のようなものだろうが、我慢すれば喰える。しかし、そんな物を我慢するくらいだったら味気ない岩の方がマシよ。)
「そうか、良かったぁ」
と安堵した青年に、
(しかし、例えばゴブリンなどが喰ろうて、服だなんだ持ち去った後の骨なら喰っておるだろうな。そういう意味では完全に0ではないのか?)
と悪気なくいうスライムロード。
「う、そう、ですよ、ね」
と顔色が悪くなる青年。
(うむ、別にこの辺りにゴブリンがまったく出現しないわけでもない。なるべく避けている、が正しいだろう。ただ、人間よりも楽な果実や狼を主に狩っているようだから、あまり目撃がないのだろう。我等もいるしの。追ってる獲物がここに来たときにそのまま来てしまうようだの。そして、群れからはぐれた人間を思わず見つけて食べると。もしかしたら意外に狼や熊以外にもお主等の死因につながっておるかもな、そこはもう分からんよ)
「ありがとう、ございます」
青年が頭を下げる。
「どうしました?」
とリッチロードが声をかける。
「いえ、私のところの曾祖母が、それこそ急にいなくなったという話を子供の頃から聞いていて、もしかしたらと」
と顔色が悪くなる青年。
「ふぅむ?」
ときょろきょろと周りを見回すリッチロード。
「やっぱり、そうですね」
「何がですか?」
と不可解な行動を眺めて青年が尋ねる。
「この村の付近には霊がいません。供養をされなかったり、未練を残した者は霊となり、悪霊となり、レイスとなり、リッチになり、リッチキングになり、ロードに至る。少なくともこの村で未練を残して霊となったものはおりません。満足ゆえか諦観からかはそれこそ分かりませんが、それで納得しておくのが良いでしょう。いずれにしても生きている年齢ではない、であれば、この場でできることは満足な生を送れたことを祈ることだけです、さぁ、あなたの先祖に」
と青年と自分に酒を注ぐ、リッチロード。
「「乾杯」」
とコップをあわし、二人で酒を飲み干す。
「うぇ、これ酒が強いですね」
と青年が苦笑いを浮かべる。
「自分に合う酒を探すのがこの祭りの楽しみでもありますよ、どうしようもないことは酒でも飲んで心から流してしまいなさいな」
「そう、ですね。ありがとうございます、じゃあ酒でも見繕ってきます」
と青年は笑いながら手を振って行った。
(本当に霊はいなかったのか?)
とスライムロードが尋ねる。
「いませんでしたよ、供養がされているか、心が強いのか、諦観したのかは分かりませんがね。そも霊がいるなら祭りだなんだの準備を手伝わせていますよ」
と笑う骸骨。
しばらく他の魔物も交えて歓談していたが、
「おや、あそこの席ももう話が終わったようですね」
とジョルジュ達の方を見る。
(うむ、人間とやらは複雑だの。自由に振舞いたければ強者になれば良いものを、自分の弱さを棚にあげ、好きだ嫌いだのと)
「それが人間の良いところでも、悪いところでもあるんですよ。逆に言えば強さ以外に価値を見出しているのが人間という生き物で、それが故に増えていたりもするのです。小麦を育てる、野菜を育てる、家畜を育てる。ね?魔物の弱肉強食という理から彼等は外れかかっているのです。まぁ、権力や財力と言った力があったりもしますがね」
(権力?財力?)
「それはまた教えますよ、ちょっと用事を済ませてきます」
と演壇へ向かうリッチロード
「皆さ~ん、聞こえていますか?というか起きていますか?子供の皆さんは?」
と拡声の魔法を使い聞く
「「「「「「起きてるよ~!」」」」」
「元気が良いですね、大人の方々は?」
飲んでるぞ~!
喰ってるぞ~!
起きてるわよ~!
リッチロードさん、骸骨よりそっちの方が素敵よ~!
大丈夫だ~!
「はい、バラバラの返事ありがとうございます、特にどこかのご婦人ありがとうございます。魔物の皆さんは起きてますよね」
「「「「「「そこは聞けよ」」」」」
「はい、起きてましたね、今回はオーガの酒もありませんし。前回二日酔いを体験している者は流石に控えているでしょうから。今からお土産紹介をします、魔物の長からは肉と武具、宝石、毛は前回と変わりませんね。塩、胡椒、砂糖を新たにお土産でいただきました!はい村人さん達拍手~」
「「「「「「ありがとう~」」」」」
長達は照れ照れしている!
「後で愛し子用とそうじゃない用など私がまた分けますね、続いて人間の王様達~、色々ありましたがどこにいますか~?」
「ここじゃあよぉ~」
と村人と同じ席で酒を片手にくわんくわんのグレン王
「ここにもおるぞ!」
とはっきりと魔物の長達に対面して地面に座っているナムダ王。
無言で手を挙げるジュルジュとザイガの王達。
ちなみにいるのは屋台エリア。
屋台のお兄さんびっくり。
「はい、ありがとうございます、王様達からは何と!子供のために絵本を20種類20冊ずついただきました!なんと筆記具も20セットもあります、皆さん盛大な拍手を!!」
「「「「「「「「「「おぉ~!ありがとうございます!!」」」」」」」」」」
と割れんばかりの歓声と拍手に村が包まれる。
「うむうむ」
とご機嫌なグレン王
「お~う!」
と手を振るナムダ王
「う、うむ」
と何故そんなに喜ばれているのが分からないジョルジュ王。
笑顔で手を振るのみのザイガ王。
活版印刷がない時代の本は大変貴重だ。
そんななか実用書でも学術書でもない絵本は更に貴重である。
もしかしたら、この日のために描かせたのかもしれない。
筆記具はろう板と言われるいわゆる個人用の黒板のようなものである。
ノート?そんな便利機能はない、書いて覚えろ。
確かに貴重であるし、高いが王としてはリクエストされるのが本というのは初めての経験だ。
大体は大きくなった時用にアクセサリーだとか宝石だとか豪奢な物が好まれる。
画家を派遣するのも一つの手だ。
まぁ、喜ぶのは親だが。
日頃から紙に埋もれているので、微妙な価値観の相違があるのだろう。
王からすれば胡椒の方がよっぽどプレゼントに相応しい気がしてならない。
しかし、この村では
宝石?売るほどあります。
アクセサリー?宝石で作ります。
豪奢な物?どこで使うんですか?
という有様である。
それよりも子供に話して聞かせる物語や、文字や物を教えられる本のほうがよほど嬉しい。
「はい、本は各一冊はアーノルド家へ、後は教会で保管していただきます。教会のイワン大司教、ヤヒト神父お願いしますね。」
「はい、かしこまりました」
とヤヒト神父が答える。
「最後に皆さんにご覧いただきたいものがあります、ここに龍皇、お願いします」
「うむ」
と幾分大きくなった龍皇が大事に一つの布に囲まれた物を持って演壇に設置する。
「これからご覧いただくのは教会にも設置してある、イネガル神の彫刻です。ドワーフの長が作り、龍皇とフェンリル殿がまさに神そのものと認めた彫刻です。では、ご覧ください」
と布を取る。
彫刻は赤子を抱き、慈愛の表情でその子を見つめる子供の姿である。
赤子の産まれてきたことを祝福し、赤子のこれからを祝福し、赤子の未来に憂いがないことを願う子供の姿だった。
それが月に照らされ、火に照らされ、淡く神秘的に見える。
魔物の皆も既に見たことがある村人達も王も言葉を失い、膝から折れるように跪く。
涙が溢れて止まらない。
魔物の長の多くは号泣しているものもいる。
唯一ザイガ王だけは見とれても跪きはしなかった。
しばらくの間、リッチロードはその彫刻を見つめると
「我が子らよ。君達と眷属達が健やかに、情愛深く暮らしていけることをいつまでも願っているよ、そう神は告げました。そう在り続けるためにも友好祭はこれからも開催していきたいですね。この像はこの村の広場なりに設置をしておきます。流石にドワーフの長に各種族毎に頼むのは材料的にも無理なので。眷属に見せたければ各種族のところに今は龍がいますよね、その龍にお願いして持って行ってください、必ず返すように」
各長は泣いて言葉が出ないのか頷くばかりだ。
「では、お土産ならびに彫刻の発表は以上となります。祭りは各自解散で。愛し子は今来れるようになったみたいなので魔物の長は待っていてください、父君達が連れてきます」
ふと思いついたように、
「昨年の今日から本日までに産まれた子がいたはずですね、待っている間に魔物の長はその子達にも「祝福と加護」でもお願いします、親御さんは望むなら赤子を連れて来てください」
そして、「祝福と加護」をかけ終えた魔物のところへフェンリルに乗ったトールとアーノルド夫妻が現れた。
アーノルドはリッチロードに拡声の魔法を頼んだ。
「あ~、今日からは家の子のためだけの祭りではなくなったので挨拶をしないでおこうかとも思いましたが、やはり魔物の長の方々には御礼を申し上げたく、リッチロードさんに魔法を頼みました。昨年は無礼な態度を取り、申し訳ありませんでした。皆様のおかげで家のトールはこんなにも元気になりました。本当にありがとうございます」
そして頭を下げる。
「特に龍皇さん、本当に無礼な態度だった。フェンリルさんも、リッチロードさんも。ドライアドさん、妖狐さんも、本当に申し訳なかった。そしていつも色々とありがとう。これからもどうかトールともどもよろしくお願いします」
「やめんか、藪から棒に。照れくさかろう、我等が勝手にやりたくて押しかけただけよ、感謝などせんで良い、そんな改まって言われると明日からどんな顔をすればよいか分からんではないか」
と照れる龍皇。
そしてトールなりの行脚が始まった。
(フェンリルの上だが)
「おぉ、可愛いのう。魔物を見ても動じんとは流石じゃ。我はゴブリンロードよ、ゴブリンロード」
「ゴブ?」
「おぉ、そうじゃ、ゴブじゃゴブじゃ」
「ゴブ!」
と目を輝かせてペシペシ叩く
「おぉ、こんなに元気に育ちおって」
お前だけずるいぞ~
早く代われ~
ゴブゴブ~
ゴブ~
とブーイングが飛び交う。
この後もトールが魅了していくだけの行脚が続いた。
お気に入りはハーピィの羽と、ベアーの毛皮、そしてスライムの触感らしい。
思念伝達を受けた時は驚きのあまり泣いていた。
ただ、目の前の者が発していると理解するとすぐに順応してみせた。
一つ分かったことは毛皮がないとペシペシで、毛皮があるともふもふする癖があるらしいということだ。
トールを疲れさせるには丁度良いイベントで行脚はトールが疲れるまで続いた。
なお、オーガは「オーだ」と呼ばれていたことを付す。
「なぁ、アーノルド?今までどこにいたんだ?」
と村人から問われると、
「いや、トールが飯時にぐずり出してな、そんなだから挨拶は無理にしなくても良いって村長にも言われたから、イリス達とであやしていたんだ。妖狐さんが肉とか酒は持ってきてくれたよ、こっからは俺等も参加するよ」
村長が挨拶しなくて良いと言ったのは、彼が王様の前で緊張のあまり失神したことがあるのを覚えていたからだという事実は知られることはなかった。
祭りはまだ続く。
屋台はそろそろ売るものがなくなってきている。
急げ!アーノルド!イリスへのプレゼントもなくなるぞ!!
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次の目標に121位、わんにゃんわんを目指したいと思います。
(その次は111位ですね!)
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もう、もっふもふ!!!




