54話 もっふもふとしたもふもふな日々 17「1年祭と語り合い」
演壇に村長が登場した
「え~、この村の長のエリクと申します。リッチロード殿の魔法のおかげで声が広く届くようになっているとのことですが、後ろのほうの方聞こえますか?」
聞こえるぞ~と公爵領の方にいた龍から返事がある。
こっちも聞こえるぞ~と第5の村の方にいた男が返事をする。
「おぉ、流石ですな。では、続けましょうぞ。この度はあの日から誰も村人が欠けることなく、1年経った今日にまた祭りが行えることを神に感謝いたします。また、本日は特別な客人を迎えることもでき、商人の皆さんや近隣の村の方を迎え、更に豪華な祭りになったことも嬉しいかぎりですじゃ。もちろん、また魔物の長の方々に会えたこともじゃ。さて、わしなんぞが長く話しても仕方ありますまい。最後に皆、節度を持って祭りを楽しみましょうぞ!」
「「「「「「「「「「「おぉ~!」」」」」」」」」」」
「では次に龍皇殿から挨拶をいただきましょうぞ」
流石に演壇にのぼることなく、元の姿のまま演壇の後ろに立ち龍皇が口を開く。
「うむ、昨年に比べると村長も特別な客人の前でも堂々とした良い挨拶であったな。さて、我からは人間の皆に感謝を。一度目は半ば強制的なものであった。しかし、此度は完全に村の者と領主、グレン王の同意があってのものである。我等魔物を受け入れてくれたその度量、隣人に対する情愛に感謝する。さて、我の後も挨拶があるので、我も短く済まそう。魔物の長どもよ、此度はオーガの酒を出すことはないと聞いておるでな、まさかとは思うが。もし酔っぱらって迷惑をかけそうな者がいたらまた湖まで投げるでな。覚えておけ。また、此度は前回より人間が多い、その分周りに注意せよ、我からは以上だ。次に領主であるガイル・フォン・オーベルタン殿からの挨拶をいただこう」
ガイルが壇上に立つ
「さて、挨拶にあずかったガイル・フォン・オーベルタンである。私のことを見たことのない村人は私が領主であることを覚えてくれれば幸いだ。あまり接点はないからすぐ忘れるかもしれないが。さて、私からは魔物の長の方々に感謝を。我が領地にてこの1年確かに魔物による被害と思われるものがなかった。愛し子のためであろうと、何のためであろうと、その義理堅さに敬意を表する。此度は私の方でも酒を出している、是非楽しんでいってもらいたい。さて、実は私は前座に過ぎない。本当の特別な方々を紹介しよう。なんと此度はこの近隣の人間の国王の皆様がお越しくださっている!皆様、壇上へ!」
え、全員!?
マジで?
オーガスタの王様だけじゃなくて?
なんで!?
皆落ち着けよ、どうせ礼儀なんか分からない俺等だ。とりあえずひれ伏せばいいのさ。
だな。
そうだな。
そうですね。
分かる?とりあえず皆の真似して
声を出さないんでしょ、去年やったもん
そうそう、賢いわね
人間の皆がとりあえずひれ伏す。
ガイルが人間が落ち着くのを待ち、壇上から降りる。
代わりに壇上に4人が立つ。
「さて、まずは皆の者、命令じゃ。さきほどまでの体勢に戻れ。それでは誰が王かも分からんだろう」
とグレン王が笑いながら言う。
言われて、皆が元の体勢に戻る。
そこには4人の男が少し豪華程度の服装でいた。
人混みに入れば、王都から来た人かな?程度である。
「改めて、わしがこのオーガスタ国の国王、グレン・オーガスタである。人間も魔物も、皆の者、1年振りである。息災のようでなによりじゃ。此度はわし達も祭りに参加させてもらう。なに、村長相手程度に敬意を払ってくれれば良い。ただ、一人の人間として楽しみに来ただけだからの。それはこの3人も了承しておる。王宮にいると窮屈でな」
群れにいると窮屈なものか
人間の王も大変なのだな
分かるわ~
うむ、皆の手本にならないといかんというのは肩が凝る
え、お主4足歩行であろう!?
?うむ、この辺とかの
そうか、後で揉んでやろうか
おぉ、助かる、是非頼もう
「魔物の長達には分かってもらえたようだの」
とグレン王が笑う。
「さて、皆もそろそろ待ちきれんだろう、この祭り・・・この祭り・・・そう言えばこの祭りの名前はなんじゃ?村長よ」
「!?え!?愛し子の生誕1年だから魔物の長達がまたいらっしゃるだろうと祭りにしてましたが、祭りの名前はなかったですな」
そういえば、無いな
ねぇな
生誕1年祭じゃないの?
そうか
それか?
じゃあ次は生誕2年祭か?
と人間の話に魔物も加わる。
待つが良い、確かに最初は愛し子のためであったし、今日も愛し子に会いに来たのも確かだが、お主等にも会いに来たというのもある
うむ、もはや愛し子のためだけではない
お主等人間との交わりは新鮮で楽しい、愛し子も大切だが、お主等も好きじゃぞ
我等も楽しかったしな
愛し子が学校とやらに行っている間にもやりたいしの
うむ、長同士が会う機会というのも中々ないしの
神がおいでになったことだし、イネガル祭とかは
感謝祭として既にあるぞ(人間の青年)
そうか
と議論に熱を帯びて来たところで
「仲良し祭りとかじゃ駄目なの?」
と子供の声が上がった。
ふむ、確かに
魔物が襲わなくなったのもあれが切っ掛けか
確かに仲良くなった気はする
「よし、仲良し祭りも悪くないが、もう少し格好良く友好祭と名づけよう!」
とグレン王が宣言する
「「「「「「「「「「「おぉ~!」」」」」」」」」」」
と人間からも魔物からも拍手が起こる。
「では、友好祭の開始の前に来てくれた3人の王に自己紹介をしてもらおう」
ちょっと太い壮年の男が前に出て笑いながら言う。
「ナルニス国の国王ナムダ・ナルニスである。ちょうどこの道をあっちに真っ直ぐ行ったところにある国の国王である。今日を楽しみにしておった、魔物の諸君も後で是非酒を酌み交わそうではないか!」
神経質そうな老年の男が前に出る
「ジョルジュ・シャマルである。ここから見れば北東、向こうの方角だな、に位置するシャマル国の国王である。私は近くで行われた会合のために領主の館に来た。祭りがあるのに挨拶もなしというのも礼に欠けるがために参加している。私は祭りには興味がある。だが・・・」
と言おうか迷ったようにして、
「だが、私は魔物が嫌いだ、目にも入れたくない位だ。よって魔物の長達よ、私には関わってくれるな、以上である」
広場がざわめく。
しかし、ざわめいたのは人間だけで、意外にも魔物の長は気にしていないようだ。
笑顔を貼り付けた幾分ジョルジュより若い老年の男が前に出る
「私はザイガ・サジウルス。サジウルス国の王だ。方角はあちらだな。なに、彼は気難しいところがあってね。気にしないでやってくれ。ただ、私も魔物が嫌いであるのは同様でね。同じように関わらないでくれるとありがたい」
更に広場がざわめく。
中には明らかに怒っている村人がいる。
ドワーフやオーガ、龍皇やフェンリルと近くにいた者ほどその傾向がある。
しかし、魔物の長は一向に気にしない。
「なんという、そのようなこと言うのであれば来なければ良かろうが、礼を欠かすなと言ったろうに。この二人には後でわしから言っておこう。この後はリッチロード殿から注意事項らしい、ほら下がるぞ、まったく」
片手で頭を抱えるグレン王。
「さぁ、ご紹介にあずかりました、私がリッチロードです。グレン王よ、お二人に特に我等のことで言う必要はありません、彼等は確かに礼を欠かしておりませんし、何よりそうやってはっきり言ってくれる方が我等にはありがたい、なぁ皆」
うむ
好く者がおれば嫌う者もおるのも道理
人間が我等を嫌うのが普通だったしの
きっぱり言うのは良い、分かりやすい。
うむ、分かりやすい。
「とのことです。さぁ、注意事項としては食べた後の骨や空の酒瓶はその辺のスライムへ。後は人間側も魔物に踏まれないよう、ぶつからないように注意してください。魔物は逆に踏まないよう、ぶつからないように注意してください。後は今回は商人が色んな物を売りに来ています、12才未満の人間の子供には村の共有財産からささやかなお小遣いをあげるので、後で私のところへ。そして魔物達にもお金を渡します、使い方なども教えるのでよく覚えるように。あの辺の粗末な家っぽいところの人々、ああいう建物を屋台、あそこでその金を集めるのが商人といいますが、そこから勝手に取ったりしないように。勝手に食べて良いのはこの広場内にある酒や肉です、あとはドライアドが作った果物とか。
さぁさぁ、そろそろ待ちきれないでしょう!愛し子には後でフェンリル殿たちが会わせに来てくれるので、勝手に行かないように!では、ここから友好祭を始めます!まずは子供達は私のところへ。その後魔物は私のところに、人間は先に始めててください!」
「「「「「「「「「「「おぉ~!」」」」」」」」」」」
と人間も魔物も怒号のように吼える
友好祭が始まる!
子供は我先にとリッチロードの所へ。
5枚ほど鉄貨をもらう。まだ赤ん坊がいる家にも渡していく。
後ろでは魔物が待っている、ドライアドと妖狐が皆に先に銀貨を渡していく。
そして始まるリッチロードのお金の使い方講座。
ドワーフやエルフは免除である、意外と町へ行くので知っている。
ゴブリンやオーガ、スライムロードなどは興味深く硬貨を眺めている。
今まで倒した冒険者が持っていたのはそういう意味の物だったのかと、あるいは知っていても初めて使うからだ。
リッチロードが一つの商店で買い物してみせて、ゴブリンロードが次にやってみせる。
「言い忘れていましたが、商人の皆さん!役人も混じっています!王がいるこの祭りでぼったくりしようものなら、分かっていますね?特に魔物に正しくお釣りを払わないのも罪ですから!」
商人が顔を覆って天を仰ぐ。
ぼったくり云々だけでなく、役人がいる=税を取られるからだ。
人間は先に肉の準備をしている。
王達も村人に話しかけては自分の分は自分で焼いている。
魔物の土産に塩・胡椒・砂糖がたくさん、本当にたくさん宝箱であったので、遠慮なく使う。
村人達だけでは使いきれない量だ、どうせふんだんに使っても後の魔物の分は残るに違いない。
王とガイル、その側近や大臣はその量とその価値を知っているので、村人が遠慮なく使うのに対し、逆に遠慮して当初使っていたが、段々とふっきれたようだ。
もちろん商店を見に行く人も多い。
そして魔物も肉の広場へと段々集まってきた。
講義は終了したようだ。
胡椒や塩、砂糖などは自分達でも舐めていたが肉と一緒に使ったことがない種族はその美味しさに感動していた。
祭りは盛り上がっていく。
やがて太陽が完全に落ち、月が出てきても、勢いは落ちない。
それどころか篝火に照らされ、乙なものだと勢いが増すばかり。
また、人間の歌やセイレーンの歌が流れる。
セイレーンは今回は大き目の桶を持参してきていた。
そして、事件が起きる。
ゴブリンロードがジョルジュの元へ
「少し失礼する」
オーガロードがザイガの元へ
「すまんが失礼するぞ」
と言うと抗議する暇を与えずお姫様抱っこして、
別の空いているテーブルに行き椅子へ無理やり座らせた。
「わしに関わらんでもらいたいと言ったのを忘れたのかの、ゴブリンロード。今の扱いも相当礼に欠けるものであると思うがな」
と今にも殺さんとばかりに殺気を放ち、言い放つジョルジュ
「私も同様なことを言った記憶がありますがね、オーガロード。少なくとも礼を失してはいないでしょう、こちらは。そちらは礼を失すると?」
と隣に座らせられた真顔のザイガ。こちらにも目に見えんばかりの殺気がある。
すると
ドン!!
と幾つかの酒瓶を置き、コップを彼等の前に置く。
そして両長も狭そうに座ると、
「ふむ、失礼すると言ってから特に返事もなかったので運んだから良いと思ったが、礼を失する行為だったのか。それは失礼したの。ただなぁ、壇上でのことよ、言いたいことを貴殿だけ言うのは不公平ではなかろうか」
「我等とて言いたいことがある、言い放つだけ言い放って背を向けるのも礼に欠けるのではないかの」
と両者は笑って言う。
ゴールデンウィークの移動中の楽しみにでもしていただけたらと思ったら、
この時間。
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