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53話 もっふもふとしたもふもふな日々 16「王達と商魂」

そして祭りの当日になった。

昼くらいになると空に影が見えた。

村人も慣れたもので、リッチロードの案内に従って家の中で龍が降りてくるのを待つ。

各龍は背に乗せたスライムキングやスライムロードを降ろすと、邪魔にならない程度に広いところで待つ。

教会のために開拓した公爵家までの道が良い感じの広場になっている。

全ての長とお土産を吐き出すと、スライムキング達はぷよぷよその辺に散らばっていく。

愛し子見たさのために前回は来ただけであまり祭りに興味がないのかもしれない。

スライムロードはぷよぷよ教会の方へ向かっていく。

前に無かったので気になったのだろう。


そしてやって来る商人達、屋台を引いてくる者も多い。

魔物は危害を加えない、そして魔物の土産で昨年この村は莫大な富を得たという。

そんな噂があれば商人も来るというものだ。

実際に魔物の長の姿を間近で見ると怯えもあるが、確かに各長同士や長と村人が平和に語りあっている光景がある。

ならば、

ならば!

売らねば!!



公爵家には数日前から北西のサジウルス、北東のシャマル、南東のオーガスタ、南西のナルニスの王と財務大臣と軍務大臣が集まり、祭りまで会議を行っていた。

「と、今回はこんなところですかの。後は祭りで飲んで騒ぐだけですな。ここではうるさい者もおらんし、羽をのばせるというものよ」

と伸びをしながらグレン王が言う。


「しかし、あんな物で良いのかのぅ、こう王として罪悪感が」

とナルニスの王。


「まぁ、それがリクエストだからな、こちらが気にするのもおかしな話だろうよ。しかし、なんとも醜悪な光景よ」

とシャルマの王が吐き捨てるように言う。


「言わんとせんことは分かるが、確かに醜悪でそして平和な光景だ。だからこそ一層醜悪に見える。一昔前ならば考えられるものではなかったな、とてもとても」

と苦笑いでサジウルスの王。


「なんじゃ?お主等は参加せんのか?」

とグレン王。


「参加はする、他国の祭りの場に来ていて挨拶の一つもせんのは礼に欠けよう。しかし、お主のように羽をのばすなどと気軽な気持ちでは参加はできないだろう、いや参加できん」

とシャマルの王が言う。


「むしろ、グレン王は何故そんなに楽しみにできるのだ?最初の来襲時に村人を逃がせなかったのは分かるが、わざわざ2度目の祭りを許可せんでもよかろう。魔物なぞいつ気が変わるか分からんのに」

とはサジウルスの王。


「わしは意外と楽しみじゃぞ?こう少年に戻ったかのようだ」

とナルニスの王。


「?なんじゃ、この気温差は?まぁ良い。魔物にも敬意は払って対応さえしてくれればの。うちの財務大臣も思わず宝石に駆け寄ろうとしたら、愛し子の方向と重なっておってな。愛し子に危害をくわえようとしていると勘違いされ投げ飛ばされておったよ」

と笑うグレン王。


「っち」

と舌打ちするシャマルの王。

「ふん」

と鼻を鳴らすサジウルスの王。

「それでそろそろ出発かの?」

と我関せずのナルニスの王。


「どうじゃ?公爵」

とグレン王が傍に控えていたガイルに尋ねる。

「そうですね、あの集まり具合ならそろそろ頃合でしょう。しかし、商人達が来るのは誤算でした。近隣の村には予め伝えていたので数も分かったのですが、商人が来るとなると思ったより狭っ苦しいかもしれませんね」


「それが祭りじゃて!お忍びで昔に行ったのを思い出すわ!!」

ナルニスの王はむしろ喜んでいた。

機嫌が悪そうな北の2国の王もその言葉には異はないらしい。


「では行こうかの」

とグレン王達は馬車で村に向かう。



そして王達が見た光景は、

商人のたくましさだった。


「そこどいてどいて、店出すから。ここのでかい通りは屋台通りにすっから」


「うむ?この裏なら良いか?」


「良いよ良いよ、暇?暇ならこの丸太起こしてくれない?」


「こうか?」


「そうそう、良いね、お礼にこれあげるよ、あんたにゃおやつにもならんかもだがな」


「む?」


「うちの秘伝のタレにつけた肉だよ、一応言っとくが木の串は食いもんじゃねぇぞ」


「おぉ!美味いの!!初めて食ったわ、こんなに美味いの!小さいのが難点じゃな」


「初めてかい、じゃあもう一本やるよ。あとでここの店の肉は美味かったと宣伝してくれ」


「おう、頼まれたぞ」

商人と龍の会話である。


「前向いて前向いて歩いて!!危ないから、店壊れるぅ!」


「おぉ?すまん、小さくて」


「お前さんにしたら皆小さいよ!」


「確かに、そうかも」


「お前さんが小さければ指輪とか勧めるんだがねぇ、惜しい。金があるなら酒の屋台にでも行くが良いよ」


「酒か、前は危なかったから、今回はあまり」


「じゃあ、肉か菓子かな、どれだけ食えば満足するかねぇ」

商人とジャイアントロードの会話である



「あ、オーガの長さんだ!」


「む、あの時の童か、どうだちゃんと運動しているか?運動せんとせっかくの「祝福と加護」も意味ないぞ」


「ちゃんと村の仕事もしてるし、弓とかの練習もしてるよ!」


「うむうむ、しかし小さいままだの。早く大きくなるようにと願った方が良かったかの」


「背はこれからなの!」


「ふむ、まぁ今日も肉を持ってきておる。よく食べ、よく動き、よく眠るのだな」


「あ、肉!ありがとう!今日は人間の酒があるってさ、俺は飲めないけど」


「おぉ、前回はあまり人間の酒はなかったから楽しみだわぃ、オーガの酒はまだ作り中でなぁ」


「なんでぇ、オーガの酒は無ぇのか!」


「ドワーフロードか、すまんの。たぶんまだこの村にあげたのは残っていると思うが・・・」


「リッチロードがケチるんだよ」


「そうか、前回はあるだけ持って来たからの、次回の楽しみにしてくれ」


「次回はあるんか!?」


「たぶんできるだろうよ」


人間と魔物の見事な友好であった。



「村長よ、商人達に出店を許したんですか?」

とリッチロードが頭を抱えて尋ねる


「良いや、挨拶にすら来ちゃおらんな」

と村長が笑いながら答える。


「人間は良いとしても、魔物が金を持っているはずがないでしょうに。欲しくなったら奪われるとかは考えないんですかね」


「それだけ信頼されていると思いなされ」


「根拠の無い信頼は裏切りのもとですよ、まったく、これ、税とかはどうしましょうか」


「骸骨殿、お困りのようだな」

とガイルが近づいてきた。


「えぇ、あなた方の種族のおかげでね。どうします?うちの村で税を取って良いですか?」


「まだ稼ぐ気か、今回は公爵家が税をとる。後で役人を幾人か動員しよう。公爵家への道は公爵家の敷地内だからな、税で済むだけ感謝してもらいたいものだ。魔物は例外だがね、近隣の村人も来ると入りきらないと前から相談があったからな」


「じゃあ、ぼったくりとか取り締まってください」


「・・・・・・・なぁ、リッチロード。あの店全部買い占めないか?」


「はぁ?するわけないでしょう、どうしたんですか?そんなに仕事に行き詰っていました?」


「いや、店のを人間が買うだろう?魔物も欲しくならないか?」


「まぁ、なるでしょうね」


「魔物はどうする?」


「そこが悩みどころですよね、だから困っているんですよ、まったく一言あれば対策も思いつくのに」


「だから、全部買い占めて全員にふるまうんだ、良い案ではないか?」


「ではありません。無駄使いにも程があります。後で魔物にはお小遣いをあげます、それで買い物の仕方をレクチャーしますよ」


「そうか・・・。ただなぁ、覚えておいてくれ。この村だけが裕福になり過ぎているのは事実だ。妬む者も出てくるし、国や領地としてもあまり良い状態とは言えん。経済規模で言うならば国とは言わんでも町と言えるくらいには軽々とある。多少は国や近隣に還元するやり方を考えておいてくれ」


「確かにそうですが・・・。使い道がそんなにないんですよねぇ。考えておきますよ」


「おぉ、リッチロード殿、久しぶりですな。おかげで我が子はすくすくと育っておりますぞ、感謝感謝」

とグレン王が背中を叩く


「おぉ!?いきなりはやめてください、骨が外れたらどうするんですか!?」


「・・・どうなるんですかの?」


「真顔で問わないでください、はめるだけです。お久しぶりです、グレン王。お子様もお元気とかでなによりです」


「うむ、妻も子も連れてこようかと考えたが、まだ止めとくことにしたよ」


「あぁ、それが良いですね。まだまだ夜泣きとか酷いのでは?」


「まぁ、王宮だからの、乳母には困っておらんから妻もそこまで疲れてはおらんよ」


「それは重畳。そして、あそこで固まっている方々は?」


「おぉ、後で皆の前で挨拶もするが貴殿には先に紹介しよう」



「ほれ、ぼけっとしとらんで。皆に紹介したい者がおってな、リッチロード殿じゃ」


「挨拶するのは初めてですね、ご紹介にあずかりましたリッチロードと申します。貴族の作法に疎い者ばかりです。村人も長も魔物も、そして私も。どうか私達の言動に至らぬ点があっても祭りということで目を瞑ってください」


「ほぉ、やはり夢ではないんですなぁ。魔物が喋る。うん、素晴らしい!わしはナルニス国の王。ナムダ・ナルニス。お主の評判は良く聞いておるよ、なんでも王からも公爵からも右腕として欲しいと請われているとか?」


「お二人とも冗談がお好きなんですよ、私なぞ大した者ではありません」


「いや、わしは本気じゃ」


「王が仰らなければ、私も本気で貰い受けたいところですな」

とグレン王とガイル。


「まぁ、明日に魔物が帰った後の魔物の土産の売買などは主に彼とすることになりますな」


「この骸骨殿は手強いですぞ」

とグレン王とガイルは笑う。


「私はジョルジュ・シャマル。シャマル国の王である、以後覚えておけ」


「・・・他に言うことはないのか?あまり敬意も感じられんが」

と眉を顰めるグレン王


「挨拶はした、他に言うことなどない」

とシャマル。


「別に私は構いませんよ、えぇ、覚えておきましょう。ただ、龍皇やフェンリル殿、四聖獣殿達にはもう少し態度を柔らかくした方が良いでしょう、私やあなたが神の子孫なら、彼らは神の実の子です。たぶん礼儀という面で説教をくらうでしょうから」


「ふん、覚えておこう」

とシャマル王。


「私はザイガ・サジウルス。サジウルス国の王だ。気を悪くしないでやってくれ、私も彼の気持ちが分からんでもないからな、以後よろしく」

と笑顔のサジウルス王。


「えぇ、よろしくお願いします。あなたも相当に何かを溜め込んでいるようですね、笑顔が硬いですよ。幸い、今宵は祭り。濁った感情も洗い流すには良い日です、楽しんでいってください」


サジウルスの顔が真顔になり、次の瞬間には笑顔になっていた

「えぇ、楽しませてもらいますよ」



リッチロードは広場に急遽造られた演台を見ると、

「まだ太陽は上がってますが、そろそろ始まりますね」

と呟いた。


「リッチロードさ~ん、ケットシーさんが演台の下から動かないんだけど~、どうすれば良い~!?」

と村の青年が声を張り上げる

「あ、それはもうそのままで!」

リッチロードも声を張り上げる、もう「それ」扱いのケットシー。

でも猫は何かの下とか暗いとこが好きなのだ、仕方のないことである。

猫の王でもその誘惑には勝てないらしい。

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