52話 もっふもふとしたもふもふな日々 15「でかい猫と王の困惑」
そうして祭りの日が近づいてきた。
スライムロードやキング達を連れて龍達が各氏族の長を迎えに行く。
誰がその役目を負うかで大騒ぎがあったが、それは別の物語。
ちなみにドワーフロードだけは1ヶ月前から召集してある。
対価は夜のみ飲み放題、作るものはイネガル神の像を6体である。
材料費も食費も龍皇持ちという珍しい依頼である。
(宝石を売ったり、酒を買ったりに関してはリッチロードに任されたが)
青竜達やリヴァイアサン、そして教会に入れない魔物用である。
長兄としてどうしても送りたいと珍しく頭を下げて頼んでいた。
村自体は祭りが近いから浮かれてはいるが、いつもの用に平和な日々である。
そんな折に珍客が現れた。
「リッチロードさん、アレ何?」
と子供が容赦なくアレ呼ばわりで聞いてきた。
「?何かありましたか?」
とそこへ行くと、人だかりと大きな黒い物体が。
「うっとうしいにゃ、少し寝かせるにゃ」
と黒い物体から細いのがぴょこぴょこ動いている。
「おや、珍しい。ケットシーですね、あの大きさだと長でしょう。猫の妖精と思うといいでしょう、気ままでいつも寝ている。狩りが上手など、構われたい時は相手の都合に合わせないで構えと近づき、構われたくない時はあんな風です。むやみに人間を襲ったりはしないでしょう、ねずみやウサギが主なご飯ですから」
と説明し村人を散らしていくリッチロード。
「リッチロードかにゃ、助かったにゃ。おやすみ・・・にぁ~ぅ、にゃ」
最後に大きなあくびをして眠る。
「はい、おやすみなさい。どうして急に来たんですかね?・・・・・・あれ?前回の祭りのときにいましたっけ?」
と歩きながら考えるリッチロード。
夕方になり、
「ん~、にゃ~」
と猫の起きるポーズで起き出した。
「あれ?ケットシーの旦那、起きたのかぃ?」
と近くを通りがかった妖狐が訊く。
「ん~、まだ寝たりにゃいが、愛し子に会いたくてにゃ」
「あぁ、もう一眠りしたら明日だねぇ、会えるのは。着いてきなよ、案内してあげる」
「かたじけないにゃ」
「お父さん達~、来客だよ~」
とノックをしながら声をかける妖狐。
「はいはい、誰ですか?・・・ね・・・こ?」
とイリスが固まる。
「なんで疑問系にゃ、立派な猫の王様にゃ」
「まぁ、この大きさでこのおでぶさんを猫とは断じられないよねぇ」
とケラケラ笑う妖狐。
「これくらいの体の大きさが一番迫力が出るんだにゃ」
というケットシーの長。
身体は雄牛ほど。
頭もその分大きい。
二足歩行。
しゃべる。
尻尾はある。
肉球もある。
「はぁ、やっぱり猫さんで。目的は家のトールに会うことで良いのかしら?」
「そうだにゃ、前に祭りがあったと聞いたにゃ、誘われなかったにゃ!!だから「祝福と加護」と次の祭りのために来たにゃ」
「あらぁ、そうなの、でもごめんなさいね、小さくなれるかしら?扉に入れないわ、その大きさじゃ」
「小さくはなれないにゃぁ」
「そうすると今やっとトールが寝たところなのよ、明日散歩にでるからその時で良いかしら?」
「むぅ、分かったにゃ、じゃあここで寝てて良いにゃ?」
「もう少し家の側面側へ、そうそこなら大丈夫。家の扉付近はたまにフェンリルさん達が寝てるから」
「分かったにゃ、じゃあお休みにゃ~」
と途端に眠り出す、ケットシー。
猫の王様だからか、眠りにつくのも猫より早い。
「家のトールもこれくらい寝つきが良ければねぇ」
ともう常識から少しずれたお母さんだった。
次の日、
「にゃんこ!にゃんこ!にゃんこ!」
と今にも駆け出しそうに手足を前にばたばたするトール
「そうだねぇ、大きいにゃんこだねぇ」
と強く抱きしめながら止めているアーノルド
「ん~?うるさいにゃあ~ぁ、誰にゃ?」
とケットシーが起きる。
「やぁ、家の子の為に来てくれたんだって?ありがとう。家の子が触りたがっているんだけど、お腹の上とか乗せても良いかな?」
とアーノルド。
もうフェンリル達と扱いが同じになっている。
「愛し子か、ちょっと待つにゃ」
と起き上がってお腹の上を手?足?で払うと大の字になる
「良いにゃ、どんと来るが良いさにゃ!」
「じゃあ遠慮なく、はいトール」
「にゃんこ、大きいにゃんこ、にゃんこ!」とハイハイしながら毛並みを楽しむ。
短毛種だが、毛並みは満足のいく物だったらしい。
むふ~っとドヤ顔のトールである。
しかもお腹がふにふにである。
ぷよぷよである。
これはフェンリルや妖狐にはない強みである。
わざと大の字になってみて弾力も楽しんでいる。
「ケットシーの長か、本当に来ていたとはの。珍しい、お主なら愛し子よりも睡眠を取ると思ったわ」
とフェンリルがトールに注意しながら言う。
「迷ったけど来たって感じにゃ。寝て、歩いて、寝て。1年近くかかったにゃ。というか、何で迎えに来てくれなかったにゃ?他の長は迎えが来たって言ってたにゃ」
「それはお主が寝ていたのだろう。確かに我の眷属も我も大声で呼びながら長を集めていたぞ」
「あ、じゃあ仕方ないにゃ」
「仕方ないのか?」
とフェンリル
「寝るのが一番にゃ、それなら気づかなくても仕方ないにゃ」
「相変わらず、分からん思考回路よ。ほら「祝福と加護」もしに来たのだろう?ついでに今してしまえ」
と呆れるフェンリル。
「そうだにゃぁ、『神よ、この子に瞬発力を。危険から逃れ、幸運を掴み取れる力を与えたまえ』。よし、仕事は終わったにゃ、じゃあ寝るから後は任せたにゃ、愛し子はトールと言うのかにゃ?トールも我輩自慢の毛並みとお腹に満足したなら、遊んで大きくにゃるがよい。そして寝て育つのじゃぞ、あぁあと祭りがあると聞いたにゃ、その日までこの村にいるのでよろしくにぁ・・・・にゃも上手くいえないにぁ、お休みにぁ~」
とまたピンクの鼻をぴくぴくさせながら寝る。
「猫だからかなぁ。よく寝るねぇ」
と感心するアーノルド。
「1日の大半は寝て過ごすからの、まぁ他の童達に登られた時まで寝れていればある意味本物よな」
とフェンリル。
「「しかし」」
「降りる気配がないね」
「飽きる気配がない、トールにとって短毛種は珍しいからの」
「「持久戦」だな」
こうして村に珍客が一人増えた。
しばらくして、子供達の攻勢に耐え切れなくなり木の上で眠るようになる。
祭りの日は近づいてきている。
各国の王にも公爵から手紙が行っている。
それぞれの思惑が渦巻く会合になりそうだ。
ちなみにプレゼントのリクエストは、リッチロードを通して公爵から王様達にも教えられている。
無理ではない。決して無理ではなく、むしろ調達が楽な部類。楽すぎて王が贈るには微妙な品々。
どの王も微妙な顔をしていたという。
「「「「1才の誕生日だからといって、王がこれを贈る?・・・威厳が。いや、必要としているのは分かるが、庶民には手に入れにくいし、だが、王へのリクエストがこれで良いのか?」」」」
とはどの王も一度は口にしたという。




